Anker子会社が語るAmazon攻略法。「Prime Day」後のキャンペーン、キーワード対策など事例に学ぶ
韓国の美容ブランド「Donginbi」は米国Amazonマーケットプレイスに出店し、2021年の売上高は前年比60%増、同年の「Prime Day」では、販売者売上トップ50に入りました。Amazon最大の販売事業者であるAnkerの子会社Oceanwingは、2022年の「Prime Day」を勝ち抜く戦略について、EC事業者やブランドのためにインサイトを共有しています。
韓国ブランドの米Amazon進出を成功させたAnker子会社
Amazonでは、検索ボックスに「スキンケア」と入力すると、3万件以上の結果が表示されます。韓国の「K-beauty」スキンケアブランドとしてアジアで成功を収めたDonginbiは、米国市場への進出を考えていました。「Amazonと直接的なつながりがあり、かつアジアの文化を理解しているマーケティング会社を探していた」。Donginbiのグローバルディレクターであるヒョン・ジオン氏はこう振り返ります。
そこで、Donginbiがアプローチしたのが、Amazon最大の販売者である家電ブランドAnkerの子会社であるOceanwingでした。Donginbiは『Digital Commerce 360』の質問に書面で次のように回答しています。
Oceanwingは中国企業として、アジアの文化を理解しています。我々の商品を正しく理解すると同時に、米国市場に関する専門知識を生かしてくれます。
Donginbiは2020年9月にAmazonストアを開設。2021年6月のAmazon「Prime Day」で、スキンケアキット「エッセンシャルセット」がベストセラーTOP50に入りましたが、これは簡単なことではないとジオン氏は言います。
「米国の消費者に販売するには、地域ごとの広告戦略が必要だった」とジオン氏は説明。そこで、Oceanwingに市場調査を依頼しました。
Oceanwingは、私たちのターゲットである米国の消費者をより深く理解するために、包括的な調査を行いました。詳しい調査は、越境ECを成功させるために不可欠です。
「Prime Day」のためのソーシャルメディア戦略
数千にも及ぶAmazon内のスキンケアブランドのなかで目立つにはどうすればよいのでしょうか。Donginbiは、2週間かけて段階的に準備することが大切と説明します。
OceanwingはDonginbiに対し、広告キャンペーンを「ウォームアップ期間」「プロモーション期間」「プライムデー後」のアウトリーチ期間にわけるようアドバイスしました。
「ウォームアップ期間」では、Donginbiの商品サンプルを1つ1ドルで試すことができる1ドル購入キャンペーンを実施しました。このキャンペーンは、DonginbiのInstagramアカウントで宣伝しました。ジオン氏は言います。
「2時間足らずで、すべてのサンプルが完売し、Amazonでのエンゲージメント率が56.9%上昇しました」。ですが、これは簡単なことではなかったそうです。
海外のブランドにとって、米国でソーシャルメディアキャンペーンを成功させることは非常に難しいことです。韓国のブランドとして、米国の消費者のニーズを理解し、彼らの文化に適応する必要がありました。(ジオン氏)
また、異なる販売タイミングで、異なるソーシャルチャネルを使用することは、Donginbiにとって不慣れなことでした。ジオン氏はこう言います。「これは、我々にとって新しいコンセプトでした」
Oceanwingと協業して以来、Facebook広告は「プライムデー後」にあたる「Prime Day」以降に展開すると、ターゲットオーディエンスをAmazonに流入させることに役立つことがわかったそうです。
Oceanwingはまた、TikTokよりもInstagramとYouTubeに注力するようDonginbiに助言しました。インフルエンサーマーケティングやロイヤルティクラブなどのキャンペーンを通じて、DonginbiはInstagramで5万人以上のフォロワーを獲得。YouTubeではインフルエンサーによる商品レビューの視聴回数が数千回に達しています。
Instagramは、Donginbiのeコマース戦略全体において重要な役割を担っており、大きく売り上げに貢献しています。(ジオン氏)
Oceanwingはまた、プラットフォーム上で顧客ロイヤルティを構築するもう1つの方法として、AmazonのSubscribe&SaveDealsプログラム(定期購入便)のユーザーをターゲットにしました(2022年4月の時点で、DonginbiのAmazonでのフォロワー数は約1800人)。
OceanwingはDonginbiと協力し、「Prime Day」、Cyber 5(感謝祭の週末、ブラックフライデー、サイバーマンデーを含む5日間のホリデーショッピング期間)、割引キャンペーン、新商品発表に焦点を当てたインフルエンサーとのコラボレーションを展開。期間中、Donginbiは広告予算の約60%をYouTubeインフルエンサーに費やしました。
ジオン氏は、Instagramと比較してYouTubeの方が顧客の定着率が長いという結果を得ることができました。インフルエンサーが商品を評価するYouTubeの動画は1本10分から15分程度。コンバージョン率は、Instagramに比べYouTube広告の方が高くなったのです。
ジオン氏は金額については明らかにしませんでしたが、インフルエンサーを使ったキャンペーンが成功した際、売り上げの20%がYouTube経由だと話しました。
Donginbiは一方、アジアでは韓国のテレビドラマとコラボして消費者にアピール。中国の消費者はライブストリーミングイベントに反応しました。Donginbiは2021年、「口紅王」と呼ばれるストリーミング・インフルエンサーのトップランナーであるオースティン・リー氏と連携しました。彼は12時間のライブストリーミングマラソンで過去最高となる19億円の売り上げを達成しました。ジオン氏は、ライブストリーミングは米国でも人気が高まると考えています。
TikTokを利用する若者が増えているため、米国はこの(ライブストリーミングの)トレンドに追いついてきています。(ジオン氏)
独自の情報収集機能で信頼性の高い予測
Ankerは、Amazonのプラットフォームを利用してビジネスを成長、マーケティング子会社であるOceanwingなど他のビジネスチャネルにも進出し、10年間で数十億円規模のブランドを構築しました。
Oceanwingの責任者であるスティーブン・フィッシュ氏によると、今もOceanwingは成長を続けており、クリエイティブ、ディストリビューター、マーケティングサービス、広報、インフルエンサーなど、サービスを拡大しています。フィッシュ氏は言います。
次のステップは、Amazonでできるだけ多くの販売者が潜在能力を最大限に発揮できるよう支援することです。
その戦略の一環として、2022年にOceanwingはフィッシュ氏を迎え入れました。フィッシュ氏は20年にわたり、BtoCビジネスの直販戦略に携わってきた人物です。家電のD2Cヘッドホンブランド「Beats by Dre」など、Amazonでブランドを立ち上げた経験もあります。また、Cloroxのような大手小売事業者とも仕事をし、小売業界の流通側で働いたこともあります。
Oceanwingは、人工知能技術を使って販売在庫を予測し、ブランドのサプライチェーンとロジスティクス管理を支援しています。ブランドと契約すると、機密保持契約を結び、Amazonのアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)からリアルタイムの情報を取得。そして、次のようにフィッシュ氏は話します。
その情報をもとに戦略を立てると、ほとんどうまくいくのです。私たちは、信頼性の高い予測を提供し、ラストマイルまで正確に課題を予測し、ナビゲートすることができます。大企業も中小企業も、自分たちではどうすればいいのかわからないような物流の問題にぶつかっています。彼らは、Oceanwingが時価総額80億ドルの親会社に支えられていて、幅広いネットワークを利用できることを知っているのです。
有料メディアやオーガニックキャンペーンは、しばしば非効率的であるとフィッシュ氏は言います。Oceanwingは、Amazon DSP(広告主がAmazon内外でディスプレイ広告、動画広告、音声広告をプログラマティックに購入できるデマンドサイドプラットフォーム)を販売者に提供し、販売者がAmazon内外の新規および既存の顧客にリーチするための広告をプログラムによって購入できるようにしています。
販売者は多額の資金を費やしていますが、ROIや広告費に対するリターンは高くありません。(フィッシュ氏)
フィッシュ氏によると、Oceanwingは独自開発した情報収集機能を持っているほか、他の広告代理店が使っているツールへのアクセスも可能だと言います。
我々はいくつかの異なるモジュールからツールを集約しています。私たち独自のAIソフトウェアもあります。売り手のビジネスのあらゆる側面について、本当に深いインサイトを得ることができるのです。私の20年の代理店勤務の中で、Oceanwingがクライアントに提供するようなインサイトを得たことはありません。AnkerはAmazonの中で成長してきました。Ankerの傘下にある我々は、Ankerが持つインサイト、ビジネスを成長させるために戦略方法を、他のブランドにも活用できるのです。
最近契約したブランドの名前をあげることは避けましたが、フィッシュ氏によると、Oceanwingは大手コングロマリットが所有する複数のブランドと提携。2022年7月と2022年第4四半期の「Prime Day」に向けて、販売強化するAmazonアカウントは、Oceanwingが管理しているそうです。あるブランドは食品・飲料分野のトップ10リーダーであり、別のブランドはサステナブルな食器のカテゴリーだそうです。
Amazonのキーワードがすべてを左右する
Amazonで販売する場合、キーワードは戦略の大きな部分を占めます。フィッシュ氏は、1クリックあたりの価値を最大化するための戦略があると言います。
一般的にブランドは、コンバージョンが低く、クリック単価の高いキーワードに入札しますが、これは正しい行動ではありません。
たとえば美容のカテゴリーでは、1クリックあたり4ドルに達し、「これは非常に高い」とフィッシュ氏は言います。
「美容」「マスカラ」といったキーワードに入札するのは、非常にコストがかかり、リターンもありません。そこで、私たちは、コンバージョン率が高く、コストの低いフレーズを探します。「スキンケア」ではなく、「乾燥が気になる顔のスキンケア」といった具合です。
その他、当たり前と思われるかもしれませんが、「不鮮明で解像度の低い商品画像や、わかりづらい商品説明文は使わないようにしましょう」とフィッシュ氏は言います。
ブランドは、商品の特定の機能を説明するインフォグラフィックやその他の画像を用意しないでしょう。あるいは、スポンサーやブランドの動画が登録されていないこともあります。Amazonは何らかのビデオを要求していますが、一部のブランドはこのことに気づいていないのです。
販売事業者は細部にまで注意を払わない場合、損をすることになるでしょう。「販売者の質(特に小売業)は向上していると思います。なぜなら、劣悪なリスティングをしていれば、人々がネガティブなレビューを書き、それが彼らのビジネスにダメージを与えることを理解しているからです」
フィッシュ氏は、ソーシャルメディアを利用した会話型ショッピングは、Donginbiと同様、消費者へのアピールになると言います。また、Amazonで出品者にメッセージを送ることができるのもメリットだと考えています。
コストはクライアントによって異なるとフィッシュ氏は説明。Oceanwingの利用料金は公表していませんが、「200人規模のチームが関わることになれば、別のクライアントとよりもコストが高くなる可能性がある」と指摘しています。
Amazonの「Prime Day」2022年には戦略プランBを用意しよう
Amazonが2022年に実施する「Prime Day」は7月。より多くの顧客を獲得し、年間を通じて経常的な収益を伸ばそうとする小売事業者に対して、Oceanwingは直前のポイントをいくつか提示しています。
「Prime Dayの前には、常にプランBを用意しましょう」とOceanwingのジェネラルマネージャーであるジョー・ウー氏は言います。
Amazonが取引の承認を取り消すリスクがあるため、「Prime Day」のキャンペーンにはプランBを用意する必要があります。「Prime Day」のトラフィックは巨大です。ブランドページは、1年のどの時期よりも多くの消費者を呼び込むことができます。消費者にアピールするために、ページの更新や最適化を行うことが不可欠です。(ウー氏)
またウー氏は、「Prime Day」の期間中、競合の活動をモニターするようアドバイスしています。「『Prime Day』は競合他社から何か新しいことを学ぶ良い機会であり、同時に自社の戦略を調整することができる機会です」
Prime Day前は、販売者が競合の割引プランについてあまり情報を持っていない可能性があります。
しかし、競争が始まったら、競合企業のパフォーマンスをチェックしてください。特定の商品で大幅な値引きを行っているブランドがあった場合、それが優れた販売実績につながることがわかったらそこから戦略を調整しましょう。
品切れのお知らせも同様です。「喜ばしいニュースです!売上目標を達成するために使う予算が少なくてすむということですから」とウー氏は言います。
またウー氏は、「Prime Day」の早朝にすべての販売指標とリストを監視するようブランドにアドバイスしています。
何か異常なことが起こったときに、潜在的な火種を素早く消すことができます。同時に、いくつかのテストを実行し、販売パフォーマンスを最適化しましょう。
潜在的な火種とは、何かがすぐに売り切れた場合などです。プランBの一例として、FBA商品以外の追加在庫を用意することをあげています。Oceanwingでは、クライアントと協力してFBM(Fulfillment by Merchantt)商品を用意しています。Amazonが最近、FBAの制限をすべてのカテゴリーに拡大し、変更が難しくなっているため、FBM商品は特に有効だそうです。
Oceanwingは、クライアントが信頼できるFBMプランBを確立するためのツールとして、フルサイクルのサプライチェーンとロジスティクスサービスをあげています。
2020年の「Prime Day」期間中、Oceanwingはあるクライアントのためにスプリットテストを実施し、2つの異なる割引を比較しました。よりパフォーマンスの高い割引をクライアントの商品全体に設定し、その日の残りの時間帯を過ごしました。結果、クライアントは売上目標を達成することができたと言います。
「Prime Day」が終わっても、チャンスはまだ残っています。
After 「Prime Day」キャンペーンを実施しましょう。Amazonや他のディスカウントサイトへのトラフィックは、「Prime Day」の週全体を通して非常に高いのが一般的です。After 「Prime Day」を行えば、あなたのブランドにより多くの消費者を惹きつけることができます。