スタッフがきちんと評価される文化を作る――“ネクスト”オンライン接客「スタッフコマース」を実現するために必要なこととは?
コロナ禍でデジタルシフトが一気に加速し、SNS、動画、コーディネート投稿などのオンライン接客に注力するファッション・アパレル企業が増加。こうした状況も追い風となり、バニッシュ・スタンダードが提供するサービス「STAFF START」導入ブランド数は1700を突破した。「オンライン接客はスタッフコマースに進化するべき」と語る小野里寧晃氏(CEO/代表取締役)に現在のオンライン接客や今後の展望について聞いた。
オンライン接客はスタッフを中心とした「スタッフコマース」への進化が必要
――現在のオンライン接客はどのような状況でしょうか?
バニッシュ・スタンダード CEO/代表取締役 小野里寧晃氏(以下、小野里氏):オンライン接客自体は約5~6年くらい前から始まりました。当時は、「なぜ店舗スタッフをECサイトに出さなければいけないのか」と考える企業が多く、理由を聞くと「非ブランディング行為だ」「スタッフが出ることで、ブランドの価値が下がらないか心配」という意見があった。だから、オンライン接客はものすごくハードルが高かったんです。
そういう考えに凄く憤りや悔しさを感じました。なぜ自分が雇用しているスタッフを外に出すことが非ブランディングになるのか、スタッフをどう思っているんだろうと感じていました。
しかし、お客さまがブランドを求めているのは間違いないけど、そのなかでも個人の力に対するニーズがとても高いという状況になってきた。
そうしたなか「スタッフ1人ひとりがお客さま1人ひとりのニーズを叶える、細かくて丁寧な接客・ホスピタリティをECサイト上でも出すべき」という先進的な考えを持つ企業が出てきて、それを「STAFF START」で実施したら高い効果が出た。実績も出始めたので「『STAFF START』を積極的に導入しよう」という文化が生まれました。
小野里氏:5年間くらいかけて、いわゆる「EC接客・店頭接客」に関しては取り組まれるようになったと思います。今後、「EC接客」は「スタッフコマース」に進化しないといけないと考えています。
「EC接客」は店頭での接客をECサイト上で具現化するために、スタッフが撮影した写真、動画、レビュー、ブログなどを活用して接客すること。しかし、これからはスタッフを中心としたコマース「スタッフコマース」に変わっていかないといけない。
たとえば、お客さまがECサイトをながら見していた時、あるスタッフのコーディネートや動画を見て商品を購入したとします。この場合、スタッフ自体にニーズがあるのではなく、コーディネートなどのコンテンツにニーズがある状態なんです。
ここからめざすべきなのは、お客さまが「このスタッフから購入したい」と思ってもらえる世界。そのためには「スタッフコマース」をもっと加速させる必要がある。
そのためにまずは「EC接客」をしないといけない。そこから「スタッフコマース」に進化するために重要なのがSNSなんです。
「指名買い」のフックとして重要なSNS
小野里氏:接客・コーディネートのセンスだけでなく、スタッフのライフスタイル、人柄がわかるのがSNSだと考えています。
先ほどのお客さまが別の機会に「良いな」と思ったコーディネートから商品を購入したら、前回と同じスタッフの投稿経由だったとします。「同じ人から2回買ったし、SNSもあるならフォローしてみようかな」となり、スタッフのSNSを見たら「コーディネートだけじゃなく、ライフスタイルも素敵」と思ってもらえるようになる。スタッフ本人に興味を持ってもらう必要があります。
人のファンになる理由は接客がプロフェッショナルなだけではなく、人柄、背景などが魅力的だなと感じるところもある。SNSの発信はそこがとても大事で、人間力が重要。そういうものが合わさり、お客さまがようやくスタッフのファンになって「スタッフコマース」の世界になる。
LINE上でも接客できる「LINE STAFF START」を提供していますが、これこそ指名買いですよね。
「スタッフの貢献度によって売れました」という世界を作っていかないと、ブランドとしてもスタッフの価値が正しく理解できないのではないでしょうか。「ECの集客力があったから売れた」と思われていたら、スタッフが評価されにくいと思うんです。
「スタッフコマース」への移行が必要な理由は、「お客さまの細かいニーズに応えられない」と言うことだけでなく、「スタッフがきちんと頑張って報われる世界を作る」ことが重要だと考えているからです。
オンラインを通じてスタッフのファンになったお客さまが「スタッフに会ってみたい」と思っていただけたら、次は店頭接客につながる。
オムニチャネルがよく話題にあがりますが、興味のないスタッフやブランドに「店頭に来て下さい」と言われても響かないですが、好きな人だったら「行きます」となるし、お客さまの方から来店してくれる。そのくらい熱量のあるファンを獲得しないといけない。
スタッフがきちんと評価される文化作りをしなければならない
――評価の話がありましたが、コロナ禍以前より評価制度を整備している企業は増えましたか?
小野里氏:とても有難いことに、評価制度の見直しをする企業が増えたと感じています。ただ、未だに経営者側が納得していないのではないか、と感じる企業も多い印象です。
これから、スタッフがきちんと評価される文化を作っていかないといけない。その達成に向けたバニッシュ・スタンダードの課題は、スタッフにより良い給料を払うことによって売り上げと利益が出ていることを明確に数字として表せるようにすること。そうしないと経営者がお金を払う意味を感じないんだろうなと。
あとはより高い給与を提示している企業に人材が流出してしまう可能性があることを提示して、経営者層に届けていかないといけないと思っています。
「自分の仕事が好きだ」と思っているスタッフが退職してしまうなんて悲しいじゃないですか。少子化が問題視されている時代に、「有名ブランドなので働きたい人はたくさんいる。辞めても人が入ってくる」という姿勢が通用すると思いますか?
そういった考えをいち早く打破している企業がこれからは残っていくと考えています。「この企業でずっと働きたい」と思わせない経営者に責任があると思うし、今は職業選択の自由があり、個人で生きる力がたくさんある時代になっているからこそ、革新的に変えていかなきゃいけないと思っています。
もちろん、給与だけではありませんが、そのなかでわかりやすさの基準の1つが給与ではないでしょうか。経営者が真剣に考えないとアパレルというのは破綻していくんじゃないか、バニッシュ・スタンダードはそれを気付かせる役割があると思っています。
評価・インセンティブ管理をシンプルにする機能で貢献
――評価制度に関連して、店舗スタッフの評価・インセンティブ管理を簡単に行える機能「YELL POINT(エールポイント)」を2022年3月に実装しています。実装した経緯を教えて下さい。
小野里氏:一番の目的は、きちんとスタッフにお金を支払う文化を明確に作っていくこと。企業がきちんとスタッフを評価してそれに見合った給与を支払うことを覚悟を持って行って欲しいので、数字を可視化できるようにこの機能を実装しました。
「YELL POINT」では企業ごとに「何ポイントをスタッフに支払うか」を設定できるようにしたことで、企業がきちんと支払わないといけないようにしています。
実装から1か月で「STAFF START」導入企業の25%が「YELL POINT」を活用しています。つまり、25%の企業は「スタッフコマース」を推進して店頭送客につなげようとしていると取れます。報酬を3%上げたらコーディネートの投稿率が63%上がったという事例や、コーディネート経由の売り上げが35%上がったという事例も出てきています。
「好きなことを諦めない」世界を作っていく
――オンライン接客が得意・不得意なスタッフの差が出てしまうこともあると思います。企業への支援としてどのような取り組みを行っていますか?
小野里氏:勉強会を行っています。講師はアパレル企業でSNS施策の責任者を務めていた弊社のスタッフです。
「店頭接客しか得意じゃない」というスタッフに対して、どうしたらオンライン接客が上手くなるか、Instagramの運用方法、上手な写真の撮り方といった基本的なことからお伝えしています。
勉強会の内容は、事前に収録した動画を参加スタッフが見る方法、実際に授業を受ける形式もあります。
僕たちは「STAFF START」を通じて、教育を受けたスタッフが実際にどのくらい売れるようになったかのデータを持っている。ここが一番アプローチできるところで、どのスタッフがどの商品と相性が良いのか、そういったことまで紐付けられるので、成績が上がったかどうかがきちんと明確になるのが、バニッシュ・スタンダードの強みだと思います。
――機能の提供から教育まで包括的に事業に取り組まれているんですね。
小野里氏:「STAFF START」はツールではありますが、一番重要なのは「STAFF START」を通じた文化作りです。スタッフがツールを上手く活用できるようになることが目的ではありません。
EコマースやSNSにいたお客さまが、スタッフの貢献でどれだけ来店に結びついたかを可視化していくことが僕たちの役割であり使命だと考えています。それは、アパレルだけでなくコスメ、家電などさまざまな業界で広げていく。
一生懸命頑張っているスタッフたちが「何となく好きだから働いている」だけでなく、きちんと報われないと続けていけないと思うんです。スタッフの貢献度を評価し、給与などに反映する設計を意識して作っています。