オリックス、業績悪化のDHC買収の背景とは|会長退任で今後どうなる?
オリックスがディーエイチシー(=DHC)を買収する。創業者で大株主の吉田嘉明会長兼社長から株式の過半を取得する見込み。「通販」の黎明期からその可能性に着目し、独自の牙城を築いた企業の買収は、「通販」という業界の潮目の変化を象徴する。オリックスは、業界でも特異な存在であったDHCのどこに価値を見出し、いかに取り込むのか。
取得価格は1000億円超
オリックスは、23年3月期中に、吉田会長から過半の株式を取得する予定。取得価格は、現段階で1000億円以上を見込む。一部に3000億円規模との報道もある。
取得期間を広く取る背景には、未上場のまま、一代で1000億円企業に育てた企業の買収が容易でないことを窺わせる。「株は散逸している可能性がある」(業界関係者)との声も聞かれる。「全株式を取得する予定」(オリックス)とするが、現時点の公表は、吉田会長個人との株式譲渡契約のみだ。DHCの株主数や、吉田会長の保有比率については「非公表」。「保有状況は把握しており、粛々と取得を進める」とする。
法人営業のネットワーク活用検討
DHCの評価については、広範な販売チャネル、国内外の高い知名度、幅広い年齢の顧客の支持を得ているとする。オリックスは、医療機器のイノメディックス、製薬関連の同仁医薬化工への出資を通じてヘルスケア領域に参入。また、国内外に法人営業のネットワークを持つ。これを活用し、メーカーとの協業や卸先の開拓を進めていくようだ。
一方、近年では、吉田会長による在日韓国人に対する声明が差別的であるとして広く批判を招き、ブランド力にマイナス影響もあった。これには「人種などによるあらゆる差別を容認しないことを人権ポリシーとして定めている。DHCが新経営体制のもと社会と協調し、持続可能な会社となるよう株主として支援していく」としており、「DHC」のブランドも維持する方針。
投資事業に注力する中で培った企業価値向上のノウハウを活かし、コンプライアンス体制やコーポレートガバナンスを強化する。具体的課題は、「株主ではない現時点で答えられない」とするが、吉田会長は株式の譲渡後、退任を予定する。
低価格を追求営業利益率悪化
通販業界は、個性の強い創業者、経営者らが築いた独自の企業文化の集合体として発展してきた。DHCが創業50周年の節目に買収されるニュースは、業界の少なくない企業が抱える「事業承継」という課題を浮き彫りにする。
DHCは、通販の黎明期、新たなディスカウンターとして市場に登場した。
同じく通販大手のファンケル(横浜市中区)が、高価格が主流だった健康食品の「価格破壊」を打ち出すとこれに追随。低価格戦略でしのぎを削った。
ただ、近年はファンケルなど競合他社が研究開発力を強みに付加価値戦略に舵を切る中、依然として「低価格・配合量」にこだわり展開していた。
18年には、健食全アイテムと化粧品の一部商品で、利益を度外視した25%の割引率を適用する「ぶっとび定期便」を開始。ただ、これも裏目に出たようだ。売上高は、1087億円をピークに下降線に。かつて10%を超えていた営業利益率は20年に4%台にまで落ち込んだ。
22年7月期の売上高は、前年比0.5%増の905億3100万円。営業利益は、同52.5%増の166億7600万円、経常利益は同53.8%増の176億2400万円、純利益は同76.7%増の96億1500万円。コロナの影響に加え、売却を念頭にコストがかさむ店舗の急速な整理で固定費や人件費を削減し、収益改善を進めたとみられる。20年1月に約200あった直営店は、現在107店と半減している。
通販大手の代表経験者を招へい
DHCは、主力の通販事業のほか、水やビール、リゾートなどさまざまな事業を展開する。オリックスには、新規株式公開を通じた資金回収、事業切り離しによる再売却、株式の長期保有で事業育成を図り、グループに取り込むなどの選択肢がある。「現時点で出資期間は想定していない。中長期で発展を目指す」(同社)とする。
今後、同社は、DHCの舵取りを行う専門人材として、化粧品通販大手の代表経験者を招へいするとみられる。「分かりかねる」(同)としているが、DHCはここ1年ほど、これに限らず業界周辺で積極的な採用活動を進めていた形跡がある。
業界を代表する一社の買収に同業他社は、「事業承継は多くの企業が抱える課題。今後も同様の動きが加速するのでは」、「典型的なオーナー経営でいずれ事業承継が課題になることは明らかだった。織り込み済みで驚きはない」と冷静な受け止めも聞かれる。
今後については、「流通販路の開拓はすでに一巡している。保険などオリックスが持つ経営資源とどのようなシナジーを想定しているのか、要否を判断して切り売りすることもあり得る」、「個人経営の会社からガバナンスの効いた会社に変化していくイメージはある」などの声が聞かれた。
売却か育成か、オリックスの動向は、事業承継が課題として浮上する業界がどう産業に取り込まれていくか試金石になる。業界再編の呼び水になる可能性もある。
「事業承継」の課題浮彫り、強い個性と情熱が築いた業界
強い個性と情熱を持つ創業者が築き上げてきた通販業界にあって、DHCを創業した吉田嘉明会長もその1人だった。「通販」の可能性を業界内外に知らしめた。
「一つの時代が終わったと感じる」。ある業界関係者は、そう感想を語る。買収は業界の現状を象徴する。
通販の黎明期、多くの個性あるプレイヤーは新たなディスカウンターとして市場に参入した。低価格下着で市場に参入したセシール、シムリー(後のイマージュ)、「テレショップ」のモデルを確立した二光、総通、日本文化センターなどがある。「思い切った値付け、海外調達を含めたサプライチェーンの構築などダイナミズムは、オーナー社長の存在感が大きかった」。
だが、イマージュは業績低迷を受けて上場廃止後、セシールが衣料品事業を買収。そのセシールもディノスを経て20年、ノジマ傘下のニフティが株式を取得した。二光は西友グループのもとで通販から撤退(08年)、総通は12年に経営破綻し、「日本直販」事業をトランスコスモスが取得した(今年5月に売却)。ECの台頭を受けたニッセン、千趣会などカタログ通販の低迷もしかりだ。
化粧品・健康食品では、「不の解消」を掲げ、「健康食品の価格破壊」「無添加化粧品」で、市場を切り拓いたファンケルの池森賢二氏がいる。一方で対照的な存在として台頭してきたのが、吉田会長率いるDHCだった。
「少し待ってくれ」。吉田会長を知る人は面談の機会を得た際、自ら難解なプログラミング用語が書かれた紙を見つめ、その分析に没頭する姿を目にしたという。「固執するような、執念のようなものを感じた。通販のシステムに精通し、自ら分析していたのだろう」と、印象を語る。低価格戦略では、ファンケルの向こうを張って覇を競った。スラップ訴訟やヘイト声明などトラブルも多かったが、業界を象徴するカリスマの一人であったことは間違いない。
「シアーズに学べ」。かつて日本の流通大手がこぞってその店作り、オペレーションを学んだ米シアーズは、通販の草分けとしても知られる。18年に破たんした。
「地球上でもっとも安いサプライヤー」。創業当時のカタログには、そう印字されている。だが、時代の変化に応じて金融など事業を多角化する中で、本業である店舗への投資を削り、疎かにしたことで競争力を失っていった。同じく「最安値」を追求するアマゾンなどECに顧客を奪われた。
他業態を見ても、百貨店は業界再編を経た後も苦戦を強いられ、GMSもセブン、イオンの寡占状態にある。小売の延長でこれ以上の成長は見出しにくく、金融や保険など各種サービスで商圏の拡大を目指している。
DHCもデジタル技術の革新、購買行動が変化する中で消費者ニーズとのかい離が生じていたのかもしれない。
過去に買収を経た多くの企業の再浮上が叶っていない背景には、業界が独自の企業文化を築いたオーナー経営の集合体で構成されてきたことがある。オリックスは、通販に精通する専門人材を投入するとみられるが、DHCがどう変わるのか注目される。
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