通販新聞[転載元] 2022/11/16 7:00

厚生労働省は2022年10月、「いわゆる健康食品」を対象にした健康被害情報の公表を見送る方針を決めた。

特別な管理を必要とする4成分に被害報告義務を課す「指定成分等含有食品制度」を参考に検討されていたもの。これを「いわゆる健康食品」全般に広げる案が浮上していた。

公表範囲の拡大は関係団体の反発を受け、厚労省の空騒ぎはひとまず収束したかにみえる。ただ、今後も議論は継続するとしており、火種はくすぶっている。

機能性表示食品の届出等に関するガイドラインに基づく運用

従来の報告義務は4成分のみ、対象範囲拡大は突如浮上

「いわゆる健康食品」はこれまで、食品衛生法に基づく「指定成分等含有食品制度」において、同省が特に指定する4成分(コレウス・フォルスコリー、ドオウレン、プレアリア・ミリフィカ、ブラックコホシュ)のみ、事業者に健康被害情報の報告を義務づけていた。4成分で年間190件ほどの報告が寄せられている。

対象範囲の拡大は2021年、「指定成分等含有食品制度」の充実を検討する目的で設置した薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会傘下のワーキンググループ(WG)の設置要綱を変更する形で突如浮上した。

検討範囲を健康食品全般に広げ、厚労省が把握する健食の健康被害情報14例(2020年6月~2021年12月分)も審議対象に加えた。性別や年齢、症状に加え、製品名や成分名を含む公表を想定していた。

関係団体は範囲の拡大に“慎重な検討”喚起

ただ、詳細の分析・評価を経ない公表に、関係団体から「成分と症状の因果関係を追記すべき」、「風評被害を起こす可能性があり、消費者に誤解を与える懸念がある」など慎重な検討を求める声が上がっていた。原因が成分や製品の品質ではなく、「製造工程の調査が優先される」などの指摘もあった。

これを受け、厚労省は、10月24日開催のWGで、公表フォーマットにおいて製品名や成分名を伏せる方針案を発表。当初想定の内容から大きくトーンダウンした。14例については、注意喚起など緊急の対応が必要な状況になく、因果関係の分析にさらなる情報収集が必要とした。

事業者は任意報告にとどまる

健康食品の健康被害情報の報告は、海外のダイエット食品の健康被害問題を受け、2002年に発出した「健康食品・無承認無許可医薬品健康被害防止対応要領について」(以下、対応要領)がベース。ただ、行政の対応、医師の報告義務を示すもので、事業者は任意に報告など対応の要否を判断する体制にとどまる

2017年には、健康食品素材「プエラリア・ミリフィカ」の健康被害問題を受け、「指定成分含有食品制度」を導入。4成分のみ、GMP(製造管理基準)の順守や、被害情報の報告を義務化した。必要に応じて、食衛法に基づき注意喚起や改善指導、販売禁止措置をとる。ただ、これまで対応例はない。

厚労省は、WGの設置要綱の変更など、これを健食全般に広げる検討を行った経緯について、「指定成分以外の健食でも報告例を把握しており問題意識があった。一度専門家に評価してもらおうと考えた」(新開発食品保健対策室)とする。

対応措置も明文化されておらず、「どのような場合に、販売禁止などの措置を行うか対応プロセスが決まっていなかった」とする。

被害情報の適切な把握は期待できず

内容はトーンダウンしたものの、公表する方針は崩しておらず、「指定成分等含有食品制度」の円滑な運用に向け、対応要領の改正を視野に引き続き議論する。

成分・製品名を公表しないため「製品1」「製品2」などと記載することを想定

11月14日には、WG上部の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会新開発食品調査部会新開発食品評価調査会において、改めて健食全般の取扱いについて議論した。

健康食品には、医薬品や化粧品の被害対応などを行う医薬品医療機器総合機構(PMDA)のような組織はなく、事業者からも任意の報告にとどまる点は課題もある。ただ、WGの検討を受けて厚労省が示した公表フォーマットは、被害情報の適切な把握にはほど遠い

成分・製品名を公表しない方針のため、同一製品ごとに「製品1」「製品2」などと記載することを想定している。また、因果関係の評価は、「強く疑われる」「否定できない」「おそらくない」「情報不足で判断不可」の4段階を例示する。

制度化は風評被害招くおそれも

制度化されれば、成分や製品名は不明ながら、ある年代・性別の消費者が、なんらかの健康食品で「肝機能障害」などの被害にあったという情報が、なんのスクリーニングもなく延々と公表されていくことになる。健康食品全般への不安を煽り、風評被害を招く懸念もある

健康被害情報の取扱いは慎重を要する。2006年、厚労省はアガリクスによる「発がん促進効果」を公表したが、2009年に一転、安全宣言を行っている。風評被害を招き市場は激減したが、後の祭りだった。

他省庁の例だが、2019年には、消費者庁がe.Cycle(後にTOLUTOに社名変更)が販売する「ケトジェンヌ」という健康食品を対象に、因果関係が不明な段階で消費者安全法に基づく注意喚起を行っている。

因果関係が不明な段階で消費者向けに注意喚起されたTOLUTOの「ケトジェンヌ」(画像は編集部が消費者庁資料からキャプチャ)

下痢などの被害急増を理由としたものだが、原因特定を依頼された厚労省は、「因果関係は否定できない」「被害の発生程度は、一般の健食の摂取による下痢症状が認められる頻度を下回る」との専門家の意見を受け、食品衛生法違反による措置を行わないと結論づけた。

TOLUTOは当時、「商品販売数に対する発生件数は1000分の1」と反論しており、結論はこれを一定程度肯定するものだった。

企業に寄せられる被害報告にはさまざまな理由がある。「解約の理由に身体に合わないことをあげる方も多い」(業界関係者)。また、TOLUTOが5か月に89件という報告数が問題にされたように、「因果関係不明」など質の低い情報まで広く網をかけることになれば、競合企業の製品を意図的に報告するステルスマーケティングも可能になるなど雑な評価は危うさをはらむ。

対応要領の改正に向けた議論へ

厚労省は今後、対応要領の改正に向け継続的に議論する。保健所からの報告フォーマットの見直しを検討。「指定成分等含有食品制度」がめざすのは次の通り。

  1. 因果関係が疑われる成分に対する注意喚起、新たな指定の要否の判断に向けた事業者調査
  2. 指定成分への指定
  3. 注意喚起、改善指導、販売禁止などの各措置の実施プロセスの判断基準を明確にすること

検討においては、根拠法令が異なる対応要領(医師の報告義務)と「指定成分等含有制度」(事業者の報告義務)を切り分けた議論が必要だろう。

また、厚労省における「いわゆる健康食品」の定義は、2015年末、食品安全委員会が発出した「健康食品に関するメッセージ」に依拠する。同通知は、「いわゆる健康食品」に機能性表示食品やトクホなど保健機能食品を含む。

すでにこれら表示制度は、独自の報告制度を整備しており、重複を避ける必要がある

WGの議論も「関係団体等に不利益が及ぶ可能性があるため」(新開発食品保健対策室)として、非公開の議事で運営されている。事業者への影響の大きさを踏まえ、おおやけの場の議論も求められる。

健康食品を取扱う事業者への影響も懸念される(画像はイメージ)

日健栄協「話す必要ない」、賛否明示せず

被害情報収集を「いわゆる健康食品」全般に広げる検討は2022年6月、日本健康・栄養食品協会(=日健栄協)で行われた厚生労働省と複数の業界団体の会合の席で発表された。非公開の関係団体に対する意見聴取では、公表への賛否が割れている。主要団体に方針案に対する意見を聞いた。

日健栄協は、厚労省からの意見聴取を受けたとするものの、通販新聞は「お宅に話す必要はない」(青山充常務理事)とコメントを断られた。

提言を行ったかを尋ねる趣旨だったが、「個別に業界の人とは意見交換して厚労省には意見を伝えている」とするのみ。広く事業者を対象にメディアを通じた発信は「必要ない」として賛否は明らかにしなかった。協会の理事長ポストは、厚労官僚の就任が続いており、同省の意向との間で難しい判断もあるもよう。

JADMA「風評被害や困惑招く」

日本通信販売協会(=JADMA)は、「指定成分の時も、成分の指定などは慎重に業界と調整を進めることで合意した。今回の公表案は唐突なもので、このような内容で公表されても業界として何も手が打てないことを伝えた」(万場徹専務理事)とする。

特に「因果関係が全く不明なものを含め公表するのは風評被害や困惑を広げ、事業者にも消費者にもメリットがない」とした。今後の検討には、「動向を注視する。審議が非公開で外からうかがい知れないため、審議過程を透明化してほしい」としている。

健康食品業界の主要団体で組織する健康食品産業協議会、日本医師会にもコメントを依頼したが、回答期日の関係で、掲載までにコメントは得られなかった。

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