サステナブルで顧客の心をつかむ「商品開発」「物流」「事業戦略」を米国のDtoCブランドに学ぶ
近年、サステナブルな取り組みに力を入れる企業やブランドを支持する消費者が増えています。2025年までにプラスチック不使用を目標に掲げているナチュラル志向の日用品ブランド「grove collaborative(グローブ・コラボラティブ)」もその1つです。運営するグローブ社にCO2排出量の削減につながる施策や商品開発、サステナブル配送の手法を詳しく聞きました。
- 複数の商品を1つの箱にまとめることで、輸送時のCO2排出量を削減
- 梱包作業員のトレーニングに投資。梱包作業員は発送用の箱の中で、複数の商品をパズルのように組み立てて詰め込み、箱のスペースに無駄のない発送をしている
- TargetやAmazonなど他の小売店への商品展開にも積極的に取り組んでいる
グローブ社によるサステナブルな発送・梱包とは?
グローブ社のEコマース事業「グローブ・コラボラティブ」では、サステナブルの観点から、商品を発送する際の梱包を極力少なくするようにしています。
「グローブ・コラボラティブ」を利用する消費者は、たとえば固形石けんを1つ注文したとき、箱の空きスペースに大きなプラスチックの梱包材が詰められているような荷物を受け取ることは絶対にありません。
各サイズの商品の注文を適切な箱に収めるために、「グローブ・コラボラティブ」は4種類のサイズの箱と、2種類のサイズの封筒(サイズが小さな商品を入れるための封筒)を用意しています。
「グローブ・コラボラティブ」の注文1件あたりの平均受注点数は8~10点。「それよりも商品点数が少ない注文は、倉庫の作業員が『テトリス』と呼ばれるパズルのような作業で、すべての商品が入るようにフルフィルメントボックスを組み立てています」とランデスバーグ氏は説明します。
高いスキルを求められるグローブ社の梱包
グローブ社の倉庫の梱包作業員は、初心者では務まりません。梱包業務にはさまざまなトレーニング、能力に応じた昇進を用意しています。梱包作業員は1週間の実地研修の後、1か月間指導を受けながら、梱包方法、業務に課される指標などを学びます。
グローブ社のトレーニングプロセスは、多くのEコマース事業者の梱包作業員のトレーニングプログラムよりも長いです。その理由は、私たちの商品と梱包に求められる性質が、従来の梱包業務では求められなかったレベルの高いスキルを必要とするからです。
私たちのチームメンバーは、CO2の排出量を増やさないような方法で商品の発送と梱包材を最適化することの重要性を理解しています。(ランデスバーグ氏)
ランデスバーグ氏は、この梱包作業を "プレッシャー職 "と表現しています。梱包作業員には、1時間あたりの目標個数が決まっていますので、注文された商品と適切な大きさの箱を受け取ると、商品をすべて素早く箱に収めていきます。
商品の品質と安全性に加えて、グローブ社の梱包作業員は、職務経験やスキルに基づいて個々に割り振られた目標があります。梱包された商品は、安全かつ良好な状態でお客さまに到着することを保証することに重点を置いています。(ランデスバーグ氏)
一方、ロボットを使ってこの梱包作業を行う企業もあります。グローブ社では、フルフィルメントプロセスにおける梱包作業を正しく行い、サステナブルの観点で優れた企業になるために、多少高いコストを投じてでも、人手で行って構わないと考えています。
グローブ社は毎週、顧客満足度と顧客からのフィードバックを、梱包作業員の成功指標として分析。ランデスバーグ氏は、この梱包作業について「ロボットが人間と同じように作業しているところを見たことがない」と指摘しています。
サステナブルな方向性にリブランド
グローブ社は定期的な家庭用品の配送サービスを販売する「ePantry」として2012年にスタートし、2016年に「グローブ・コラボラティブ」にリブランド。サステナビリティをコアミッションとするEコマース専業ブランドとなりました。
グローブ社が販売している商品のうち、約13%が自社ブランドで、残りの87%は「Mrs.Meyer's」「Method」「Rooted Beauty」など他社ブランドの商品です。
現在、グローブ社は株式を公開し、B Corp認証(B Corporation。環境や社会に配慮した公益性の高い企業に与えられる国際的な認証制度)の認定を受けており、自社ブランド商品の一部を、米国のスーパーマーケットチェーンであるWalmart、ディスカウントチェーンのTarget、Amazonで販売。グローブ社は2022年に3億2150万ドルの売上高を計上しましたが、「前年比16%減の減収で、赤字経営である」と報告しています。
グローブ社は販売したプラスチック1ポンドにつき同量のプラスチックを回収、rePurpose Global社(廃棄物の削減、生活の再生、自然のバランスの回復に取り組む、世界をリードするプラスチックに関するアクションプラットフォーム運営会社)のサービスを通じてリサイクルしています。
プラスチックニュートラル(使用した分と同じ量のプラスチックをリサイクルに回すことで、プラスチック排出量の実質ゼロをめざす考え方)を実現するためで、グローブ社は2025年までにプラスチックフリーの実現をめざしています。そのために、商品や梱包で投資などを重ねています。
CO2削減のため、商品の仕様は“軽量・小型・少量”に変更
商品の梱包においてCO2の排出量を最も抑えるためには、「低重量、小型化、箱の削減が重要」だとランデスバーグ氏は言います。
グローブ社は、より小さなサイズの商品を販売すること、あるいはこのミッションに合うように商品の仕様やサイズを変更することに重点を置いています。
たとえば、輸送時にかさばる大きなモップを販売する代わりに、柄が折りたたみ式のホウキにして、モップよりもはるかに小さな箱に収まるように商品を変更しました。ランデスバーグ氏は、よりサステナブルなビジネスをめざす企業へのアドバイスとして、次のようなことをあげました。それは、複数のサイズの箱を用意することです。
サステナブルなビジネスを実現するために最善の解決策は、よくトレーニングされた梱包作業員がいることと、商品を適切に梱包できる箱を用意することです。(ランデスバーグ氏)
一時期、グローブ社では商品に合わせた30種類の箱のサイズを用意していました。商品の変更や改良により、現在は4つのボックスと2つの封筒ですべての注文に適切に対応できるようになりました。
箱の数は最低限に。複数商品をまとめて発送
ランデスバーグ氏が「絶対にやらない」と主張するもう1つの発送方法は、8~10個の商品注文の発送を、商品点数に合わせた8~10回の発送に分割することです。
少し大きめの箱に数個の商品をまとめて入れずに、商品ごとに別の箱に入れてそれぞれ発送した場合、CO2の排出量ははるかに大きくなります。(ランデスバーグ氏)
商品が複数の箱で届くことは、注文した商品点数が多い場合に起こりますが、ランデスバーグ氏によると、グローブ社における分割出荷は注文全体の5%未満だそうです。これは業界標準を下回っており、フルフィルメントベンダーのNarvarが2021年10月から12月にかけて収集したデータによると、オンライン小売事業者の注文の21%が複数の箱で出荷しています。
グローブ社は垂直統合型(製品の研究開発から、製造・販売までのサプライチェーン上の全工程を自社グループ内で行うビジネスモデル)のオンライン専業ブランドとしてスタートしました。このため、ランデスバーグ氏は「商品は店頭ではなく、消費者に直接届くように意図的にデザインした」と話しています。
たとえば、洗濯用洗剤は、店頭で販売されている大きなボトルとは異なり、消費者が自宅で水と混ぜることができる30ミリリットルの濃縮版をガラスびんで販売しています。
キャンドルは、店頭で販売されている自立式の厚いガラスのキャンドルとは異なり、薄いガラスを使用。箱に入れて販売しています。
このような商品パッケージの変更により、グローブ社は、より軽量で場所を取らず、箱の中の内装材を少なくした方法で消費者に商品を発送することができています。
商品が箱にぴったりと収まった後、緩衝材には再生紙を使用します。2019年5月にグローブ社はサプライチェーンを精査し、使い捨てのプラスチックを廃止。紙の素材に切り替えました。
有料会員の半数近くが会員プログラムを継続
これらの取り組みは、持続可能なライフスタイルをめざしている消費者に響いています。グローブ社の売り上げの約半分は定期購入顧客ではない、単品購入の顧客によるものです。単品購入の場合は、定期購入よりも5~20%高い商品価格に設定しています。
残り半分は、商品の自動補充を受けるために登録した顧客、または19.99ドルを支払って年間のVIPプログラム会員になった顧客からの売り上げです。
会員になると、年に7回の無料プレゼント、限定販売、新商品の早期購入、無料サンプルなどを享受できます。ランデスバーグ氏は、「数十万人」の顧客が有料会員であると説明していますが、正確な数の公表はしていません。また、有料会員の50%近くが毎年メンバーシップを更新しているそうです。
ランデスバーグ氏は、この会員維持率に満足していると言います。その理由として、会員プログラムの価値、ブランド力、顧客による熱心なコミュニティが形成できていることなどをあげています。
たとえば、会員は非公開のFacebookグループに参加することができ、「信じられないほど多くの人が参加している」(ランデスバーグ氏)そうです。
一般の買い物客と、優良会員や定期購入者を比べた平均注文額はほぼ同じとのことですが、ランデスバーグ氏はその数字の詳細は明らかにしませんでした。
購入頻度は、会員や定期購買者の方がはるかに高く、年間6回から12回です。一般の買い物客が年間4回程度であるのと比べると、その差は歴然としています。
リテール展開を拡大
グローブ社は、自社サイトでのエンゲージメント率がこれほど高い一方で、多くの消費者にまだ自社のブランドが認知されていないことを自覚しています。
そのため、2021年以降、TargetやAmazonを含む全国規模の量販店で、自社商品の一部を卸売りしてきました。2022年には、米国の大手薬局チェーンのCVS、スーパーマーケットを営むHarris Teeter Supermarkets、H-E-B Grocery Company、Meijer、Giant Eagleでも商品の販売をスタート。現在、同社の商品は、量販店のWalmartをはじめ、数千の小売店で販売しています。
ビジネスの成長のために、大多数の人が買っているチャネルで勝負する必要があります。(ランデスバーグ氏)
一方で、ランデスバーグ氏は、「Targetでグローブ社の商品を紹介し、当社のオンラインサイトで商品を買ってもらうことが目的ではない」と話します。
またお店に来てもらって、我々の商品を買ってもらうことが目標です。収益的にはもちろん、お客さまにグローブ社の商品をいつも選んで購入いただくほうが、私たちの利益になります。(ランデスバーグ氏)
彼は、大多数の消費者が、家庭用掃除用品やパーソナルケア用品を企業のWebサイトから直接購入しないことを理解しています。多くの人は、量販店から購入するのです。
グローブ社は、同社の売り上げの何パーセントが直販サイトで、他の販売店からは何パーセントなのか、その内訳は公表していません。
売り場+認知拡大で売上アップ
Eコマースのコンサルティング事業を手がけるOSF Digitalのキャシー・キンプル氏(デジタル戦略担当エグゼクティブディレクター)は、サブスクリプション型企業が小売業に進出するのは興味深いことだと言います。
小売店では、消費者はEコマースと違って送料を支払う必要がなく、すぐに商品を手に入れることができます。また、サブスクリプション型企業のブランドは、小売店に進出することでより多くの認知拡大の機会を得ることができます。
商品を購入できる場所が増えれば、消費者にとって、Eコマースで定期購入する必要性は低くなるでしょう。
企業の目的にもよりますが、小売店がグローブ社の商品をより多く取り扱うようになれば、定期購入者の減少による売り上げへの打撃は、ブランドの認知度向上による増収で相殺されるかもしれません。(OSF Digital キンプル氏)