【2024年の予測】ECシステム刷新に関する最新トレンド&ECテクノロジーに関する4つの動向
Eコマースに関わるデジタルテクノロジーは発展し続けています。常に新しいテクノロジーや考え方が登場し、オンライン小売事業者やブランドは最新のテクノロジーに関する投資を余儀なくされています。米国の調査会社フォレスターリサーチは、Eコマース業界に関するテクノロジーへの今後の投資について予測しています。
- フォレスターリサーチは、小売事業者やブランドは複雑なプラットフォームへの再構築に向けた投資を避け、代わりに特定のEコマーステクノロジーのニーズを満たすポイントソリューションに注力すると予測
- 多くの場合、既存のベンダーは新しいEコマース機能を取得または開発しており、小売りのクライアント企業の新たなニーズに対応できている
- フォレスターリサーチは、消費者が自分のデータ管理の強化を求めて新たな規制が課されるなか、生成AIの恩恵を受けるオンラインビジネスは全体の4分の1にとどまると予想
事業者が求める適切なROIを実現するテクノロジーとは?
フォレスターリサーチが発表したレポート「デジタルコマース:2024年の予測」によると、「多くの小売事業者が、Eコマースの基幹システムについて複数のテクノロジーを組み合わせてアップデートすることが想像以上に複雑だと感じている」と指摘。今後長きにわたり、より多くの企業が特定の問題に対処し、適切なROI(投資利益率)を実現できるテクノロジーへの取り組みに投資することになると見ています。
今後1年間、多くの小売事業者やブランドが既存の戦略から脱却する一方、急なニーズに対応しながら適切なROIを実現できるテクノロジーを追加することに注力するだろうと指摘しています。
Eコマーステクノロジーに関するECシステムでは現在、マーチャンダイジング、サイト検索、チェックアウトなどを、オンライン通販のさまざまな機能・業務に対応するレゴブロックのようなモジュールで置き換えることがトレンドとなっています。
しかし、そのアプローチ(「ヘッドレスコマース」(※1)や、「コンポーザブルコマース」(※2)、「MACH(マーク)」(※3)といった用語で呼ばれることが多い)は、困難を伴う可能性があります。
※1……ECサイトのフロントエンドとバックエンドを切り分けることで、フロントエンド開発の柔軟・効率化を実現できる構造
※2……ECに関連するさまざまなテクノロジーのなかから最も良いテクノロジーを選定して組み合わせることで、ビジネスニーズに合わせたECプラットフォームを構築するテクノロジー
※3……分散処理型のオペレーティングシステム
小売企業は、顧客との取り引きやビジネスの内部構造に影響する既存のEコマースシステムが新しいニーズに対応できない場合、それに代わる新たなソリューションを模索するようになるでしょう。(ファイファー氏)
たとえば、多くの小売企業やブランドは、サプライヤーから配送センター、顧客までの商品を追跡するのに適した在庫管理システムを備えています。しかし、オンラインショッピングの利用者に対しては、在庫状況をリアルタイムで提供できる設計ではありません。これは昨今のニーズを考えると不十分と言えます。
プラットフォームの再構築から「ポイントソリューション」に移行
こうした在庫システムやEコマース業務のオペレーションを、「全て入れ替えるには非常に高いコストがかかります」とファイファー氏は言います。
むしろ、これらのECシステムを現状のままにしておき、現在直面している差し迫ったニーズに対応するアドオンテクノロジーを求める企業が増えていると指摘します。
中小企業がアドオンテクノロジーを求めるのは、まっとうな考え方です。市場で勝ち残るためには、ビジネス上でどのような課題があり、それを解決するためにどのような能力が必要で、その能力をどのような技術・機能が与えてくれるのか、把握して追加する必要があります。このような動きは、来年ますます加速するでしょう。(ファイファー氏)
信頼できるベンダーとのポイントソリューションを勧奨
2022年に発表したレポートでフォレスターリサーチは、古いインフラを機能別のテクノロジーを組み合わせて大幅に入れ替える“ソフトウエア会社ごっこ”をしようとした組織の3分の1が、そのアプローチを後悔するだろうと予測。現在、それが的中したと感じています。
また、フォレスターリサーチは、Eコマーステクノロジーのインフラを刷新するための大規模な取り組みを試みる企業は減少すると予測。「大規模な改修プロジェクトの半分は、小規模で的を絞ったアプローチに取って代わるだろう」と見ています。
多くの場合、このような小規模な刷新は、小売事業者やブランドが「ポイントソリューション」、つまり特定の問題に対処するテクノロジーを探すことによって実現されます。
その結果、新たなベンダーと結び付きを深める可能性もあります。ベンダーが現在どのような技術を提供しているかを判断する機会になるのは良いことです。Eコマースの技術プロバイダーは、常に専門的な知識を持つ企業を買収し、技術革新に取り組んでいるからです。まずは信頼できるベンダーから手を組み、次にポイントソリューションを検討しましょう。大規模な改修は最後の手段です。(ファイファー氏)
2024年のEコマーステクノロジーに関する4つの予測
フォレスターリサーチのレポートでは、より的を絞った技術投資へのシフトを予測するほか、2024年に向けて4つの予測を発表しています。
1.デジタルテクノロジーへの出資の4分の1は、レガシーシステムの保守から移行
EC事業者は顧客ニーズに対して柔軟な対応が求められています。それを踏まえると、企業は意義の低い課題にお金をかけることは避けるようになるでしょう。
レガシーシステムの保守、それをサポートするパートナーへの支出は減っていくと考えられます。保守を維持するためにお金を払うのではなく、時代遅れの技術を排除する動きがようやく出てきているからです。
技術投資に割く予算が厳しいなか、フォレスターリサーチは企業が「機械的に小切手を切って既存のシステムを維持するのではなく、自社の事業を前進させるようなことに資金を投入することを望んでいる」と言います。
2.顧客情報への意識の高まりで小売事業者が制約を受ける
生成AIを活用しようとする小売事業者は少なくないものの、その一方で、個人情報の管理強化を求める消費者や、AI関連の新たな規制によって、小売事業者は制約を受けることになるだろう――とフォレスターリサーチは予測しています。
信頼がすべてです。どのようなデータがどのように使用されているのかを明確にし、消費者が使用されないことを望むのであれば、顧客が自らコントロールできるようにしましょう(ファイファー氏)
3.ソーシャルメディア大手は、小売事業者との連携が進む
FacebookとInstagramを運営するMeta(メタ)は、米国版の「100円ショップ」を営む小売事業者DollarTree(ダラーツリー)と、Pinterestは英国大手小売事業者Tesco(テスコ)と提携しました。
こうした動きを踏まえフォレスターリサーチは、ソーシャルネットワーク上での購買をより促進するために、提携を通じて顧客データをさらに活用するだろうと言います。
ソーシャルコマースは米国の消費者全体にはまだ浸透していませんが、フォレスターリサーチが2022年に実施した調査によると、25歳以下の米国のオンライン成人の61%がソーシャルネットワーク上で購入した経験があることが判明しています。
4.企業の6%がコンピュータービジョンとARによって生産性アップ
たとえば、店舗従業員、倉庫作業員、BtoB営業担当者などが、モバイルデバイスのカメラを使ってデータを取得し、スタッフが採るべき最適な行動を把握できるようになります。
すでに小売・卸売業の従業員の4%が「ARや同様のツールを毎週業務で使用している」と回答。フォレスターリサーチは今後1年間で少なくとも50%増加し、6%以上の企業に影響を与えるようになると予測しています。
「オンラインビジネスでは、ツールを試験的に導入し、その後、意図した結果や目標への影響を注意深く監視する必要があります」と、フォレスターリサーチのレポートはまとめています。