オムニチャネルをやる目的は? マルチチャネルとの違いは? 成功するためのポイントは?
あなたの会社が展開しているのはマルチチャネルですか? それともオムニチャネルですか? それとも、わからない? もしわからない場合は、そのどちらでもないと言えるでしょう。
マーケティング担当者はこの2つの用語を同じ意味でよく使います。しかし、マルチチャネルとオムニチャネルは同じ意味ではありません。オムニチャネルとマルチチャネルの両方とも潜在顧客にアプローチするために複数チャネルを使用しますが、それぞれゴールは異なります。
マルチチャネルとオムニチャネル、違いは何?
マルチチャネルのマーケティング担当者は、SNS、メール、Webといったさまざまなプラットフォームを使用して消費者を自社のビジネスに巻き込みます。マルチチャネルの場合、できる限り多くの人にアプローチできるよう、多くのチャネルでブランドを露出することが目標となります。
ただ、マルチチャネルは消費者がすべてのチャネルを利用できるようになりますが、一方で顧客体験に一貫性がありません。実際、多くの企業では、それぞれのチャネルを別々に管理しています。それぞれ異なるレポートシステム、収益目標、プロセスになっているのです。
マルチチャネルのアプローチは、消費者にはそれぞれ好みのブランドとの関わり方があるという考え方が前提になっています。たとえば、ケイティは店舗での買い物を好み、ベンはオンラインショッピングを利用する、といった内容です。
一方、対照的なのがオムニチャネルマーケティングです。使用するプラットフォームに関係なく、カスタマーエクスペリエンスの全体像を把握することを重視します。このアプローチは、大多数の消費者は商品を購入する前に複数チャネルを回遊、買い物に関する多くの選択肢を持っているという理解が前提になっています。
この場合、シームレスなカスタマーエクスペリエンスを提供するには、チャネルやデバイスに関係なく、一貫性のあるブランディングとメッセージなどが必要となります。
なぜオムニチャネルのアプローチが重要なのか?
現在、マルチチャネルによるアプローチはすでに時代遅れです。マーケティング担当者はさまざまなプラットフォームにコンテンツを簡単に載せることができるようになりましたが、チャネルごとに統一されたブランドイメージとメッセージを維持しながら、プラットフォームごとにコンテンツを調整しなければなりません。
すでに複数チャネルで消費者にアプローチしている場合は、オムニチャネルに近しいと言えるでしょう。ただ、Forrester Research Inc.(フォレスターリサーチ)が2017年2月に発行したレポート「Transition from Multichannel to Omnichannel Digital Media Buying(マルチチャネルからオムニチャネルへ:デジタル・メディア・バイイング)」で指摘したように、オムニチャネルを極めるには時間がかかります。
小売事業者がマルチチャネルからオムニチャネルのマーケティングにうまく移行するための3ポイントをまとめました。
1. データ統合から始める
カスタマーエクスペリエンスを統一するためには、チャネル間でのデータ統合が必要です。さまざまなプラットフォームの人口統計データと消費者の興味・関心に沿ったデータに、場所、時間、アクティビティ(ランニング、ウォーキング、ドライビングなど)といった内容を組み合わせ、リアルタイムで消費者を把握できるようにしましょう。
そうすることで、消費者を深く理解することができると同時に、よりタイムリーで関連性の高いメッセージを配信できます。
また、豊富なデータを使用すれば、消費者の次の動きを予測し、広告出稿とメッセージを戦略的に決定できます。データ、統計アルゴリズム、機械学習を統合して、消費者行動の予測モデルを作っていきます。
こうすることで、フォレスターリサーチ社のレポートで提案されている「消費者のライフサイクルに沿った、関連性の高い広告を出す」ことができるようになるのです。
この方法は、自動車や旅行業界など、購入頻度が低い業界で特に役立ちます。
90日以内にどの消費者が商品を購入するのかを見極めたいカーディーラーを例に説明してみましょう。予測モデルは、データ(販売数、修理の回数、閲覧行動など)を分析し、それが過去の購入者の行動とどれくらい相関があるかによって、見込み客にポイントをつけます。最高得点の見込み客は、90日以内に車を購入する可能性が最も高く、キャンペーンの対象になるわけです。
2. データをカスタマーエクスペリエンスにつなげる
企業は最近、最新の技術とイノベーションに注目しています。新しい技術とイノベーションはビジネスの重要な要素。ただ、消費者中心主義という新しい考え方ではないものの、顧客のニーズは無視できません。
消費者中心主義の戦略では、消費者の声を聞くことと、パーソナライゼーションが重要です。それらを活用し、すべてのコミュニケーションチャネルにおいて、タイムリーで関連性が高く、一貫性のあるメッセージを提供しましょう。
たとえば、ファッションブランドのVince Camuto社が発売したトレンチコートは大ヒットしましたが、購入者のベルト紛失が多発するという問題がありました。この問題に対応するため、マーケティングチームはメール、SNS、Web、店頭といった全チャネルでキャンペーンを開始。
「私のトレンチルック」コンテスト、アクセサリーを使ったスタイリング提案、3人のファッションブロガーによるコンテンツを展開しました。 Camuto社は消費者の声に耳を傾け、ベルト紛失という課題をビジネスチャンスに変えたのです。
消費者中心の戦略では、消費者の好みや興味に関するデータを使用して、パーソナライズすることも必要です。
Impact社(インパクト社)の調査データによると、「パーソナライゼーションが購買意思決定において大きな役割を果たす」と消費者の86%が回答。また、自分の興味・関心や、購買行動に沿ってカスタマーエクスペリエンスがパーソナライズされている時は、より多くの商品を買うと答えた人は48%でした。
ヘルスケア製品を販売するJohnson&Johnson社(ジョンソン・エンド・ジョンソン)のルーク・キーゲル氏はフォレスターリサーチ社に、次のように話しています。
5年前は取るに足らないと思われていたデータが、いまはマーケティングの重要なデータになります。そのデータを迅速に分析して使用することが、成功の鍵を握るのです。
3. 一貫したカスタマーエクスペリエンスを提供する
消費者はパーソナルな経験を期待しています。それはオプションではなく、「あればなお良い」ものでもありません。絶対に必要なものなのです。
Astound Commerce社のe-tailingグループが行った調査「MyBuys」によると、消費者の53%は買い物に使用するすべてのチャネルとデバイスで同じ人物として認識されることが重要だと回答。フォレスターリサーチ社はレポートのなかで、それぞれの消費者を認識し、デジタルのタッチポイントと結び付けるため、消費者識別にリソースを集中させるよう強く訴えています。
一貫したカスタマーエクスペリエンスを提供するブランドの1つがスターバックスでしょう。
さまざまなサービスが統合されているスターバックスのモバイルアプリには、消費者が購入時にいつでも使用できる無料の特典カードが搭載されています。従来のロイヤルティプログラムとは異なり、電話やWebサイト、アプリや店頭のどこでも、カードを確認してアップデートすることができます。
また、カード変更はリアルタイムですべてのチャネルで更新されます。スターバックスでは、ポイントを簡単かつシンプルに集めることができるので、消費者のロイヤリティが高いのです。
カスタマーエクスペリエンスの溝を埋める
マルチチャネルは、消費者が複数のデバイスやプラットフォームを利用し始めた時の対応として、適切なアプローチでした。しかし、今ではほとんどのマーケティング担当者が複数のチャネルでブランドの存在をアピールしています。
次の課題は、個別チャネルごとのコンテンツを統合して、消費者とより良い関係を構築できるようにすることです。データ活用、消費者中心主義、一貫性に注目しましょう。
こうしたオムニチャネルのアプローチを採用することで、マーケティング担当者は、消費者とより良い関係を築くことができるのです。