購買意欲を高めるロイヤルティプログラムとは? 購買回数の増加を実現した米国事業者の成功事例
顧客が気持ち良く買い物をするためには、ロイヤルティプログラムは重要な顧客サービスです。ただ、ロイヤルティプログラムの条件設定は、企業によって独自の考え方があります。自社にとってどのようなプログラムが適しているのか、顧客の動向を顧みながら考えていく必要があります。
- The Michaels Companies Inc.は3段階に分けたロイヤルティプログラムを提供している
- どの階層にいるかに応じて、利用額の一定割合をクーポン券で還元する
- ロイヤルティプログラムは小売事業者が顧客データを収集し、特定の行動を促すための手段として有効
米国・工芸用品事業者のロイヤルティプログラム成功事例
工芸用品の販売・卸売を手がける米The Michaels Companies Inc.は2022年、会員向けのロイヤルティプログラムを大幅に刷新しました。
ロイヤルティプログラムの刷新について、ヘザー・ベネット氏(マーケティングおよびEコマース担当エグゼクティブ・バイス・プレジデント)は「この変更は、より柔軟性が高く、シンプルな会員向け制度を求める消費者の声に応えたもの」だと言います。
ターゲティングの精度向上
The Michaels Companies Inc.が刷新したロイヤルティプログラム「Michaels Rewards」は、すべての会員がすべての買い物で3%のポイント還元を受けられるようにしました。入会は無料。年間300ドル以上の買い物をした顧客は、店舗で使用できるクーポンを6%分還元されます。
顧客にとっての利便性とパーソナライゼーションは、会員制プログラムにおいて最も重要な要素です。ロイヤルティプログラムは、画一的なアプローチで開発されるべきではありません。ですから我々は3段階に分けているのです。(ベネット氏)
ベネット氏によると、段階的な還元システムによりリピーターなどの優良顧客に最もお得なサービスを提供することができるようになったそうです。ロイヤルティプログラムの最新アップデートでクレジットカード決済を追加、クレジットカード決済の利用者に9%の還元を可能にしました。
クレジットカードを持たない会員の還元率は最大6%。この、クレジットカードを起点として高還元率を付与するアイデアは、顧客からのフィードバックがきっかけだそうです。
この9%の特典は、手芸用品をひんぱんに買いだめする顧客や、手芸用品を必要とするクリエイティブなビジネスを営んでいるクライアントにとって、実に有意義です。(ベネット氏)
会員数アップに効果。顧客の半数以上が会員登録
ベネット氏によると、ロイヤルティプログラムの会員数は数千万人。2023年の会員数は前年比で9.75%増。購入客の50%以上が会員登録しているそうです。
ロイヤルティプログラムに加入している顧客は、当社独自のポイント制度「リワードポイント」をためることができるため、加入していない顧客よりも多くの商品をカゴに入れたり、買い物の頻度が高い傾向があります。(ベネット氏)
たとえば、6%の還元率を得られる会員ステージに達した顧客は、還元率3%の会員よりも平均で2.8倍多く買い物をします。また、9%還元のクレジットカード保有者は、クレジットカードを持たない顧客よりも平均4倍多く利用するそうです。
小売チェーンによるロイヤルティプログラムの効果的な活用方法
調査会社Global Dataのニール・サンダース氏(マネージングディレクター)は「小売チェーンは、ロイヤルティプログラムを効果的に活用している小売企業の好例」だと言います。
The Michaels Companies Inc.が採用しているような段階的プログラムは、必ずしも必要ではないものの、非常に理にかなっているとサンダース氏は考えています。
小売企業は、ロイヤルティの高い顧客を確保するために、より多くの買い物をした人に最高の特典を付与したいと考えています。また、顧客により多くの消費を促すため、高い会員ランクに移行すればより良い特典や特典を得られるように会員のランク分けを実施しているのです。(サンダース氏)
デメリットとなり得るのは、下位層の消費者が会員ならではのロイヤルティを感じにくくなる可能性があることです。「しかし、顧客の誕生日にプレゼントを贈るといったパーソナライズされた特典を用いれば、消費者の関心を維持することができる」とサンダース氏は言います。
北米上位1000社の導入状況
ロイヤルティプログラムを導入している小売企業は北米EC事業 トップ1000社のうち、3分の1以下。『Digital Commerce 360』のデータによると、ロイヤルティプログラムの導入は2022年に最も増加し、それ以降はほぼ横ばいで推移しています。
ロイヤルティプログラムは必須ではないとしつつも、「顧客に関する情報を収集し、特定の行動を促すことができるため、小売事業者にとって非常に有用」だとサンダース氏は指摘。小売企業がロイヤルティプログラムを運用する場合は、明確な狙いを定めておく必要があると指摘します。
ロイヤルティを高めるためなのか、買い物を促進させるフックとなって顧客の消費を増やすためなのか、顧客データを収集するためなのか、価格認識を改善するためなのか――など、狙いを定めることで、それに向けた正確なコストを算出することができます。(サンダース氏)
小売チェーンは他の業態に比べ、ロイヤルティプログラムを導入している割合が圧倒的に高くなっており、小売チェーンのうち48.1%が登録無料のロイヤルティプログラムを導入しています。
これは、次にランクインしているメーカー(卸売業)の26.5%に比べてはるかに高い数字です。ロイヤルティプログラムを導入している売上トップ1000社入りの小売チェーンは2022年、1644億7000万ドルのオンライン売り上げを創出しました。これは小売チェーンの売上全体の46.8%を占めています。
小売チェーンがロイヤルティプログラムを導入する割合が他のビジネスよりも高いのは、それによる利益創出を狙っているというよりは、効果的なプログラムを導入するためのリソースや資金を持っているからかもしれない――とサンダース氏は考えています。
チェーン店は非常に多くの顧客を抱えているため、顧客データを収集し、インセンティブを利用して購買意欲を高めやすいという点で、ロイヤルティプログラムを運用することは理にかなっています。多くの小売チェーンがロイヤルティプログラムの制度を設けているため、消費者にとっても受け入れやすく、加入率も高まりやすいと言えます。(サンダース氏)