売上約80億円、EC化率55%のオーディオ専門店が好調な理由とは? 成長のカギは「情報発信」「コストコントロール」
イヤホン・ヘッドホン専門店「e☆イヤホン」を運営するタイムマシンの業績が好調だ。円安や物価高による消費減退といった逆風を受けながらも、2024年3月期売上高は前期比約10%増の77億円となる見通し。楽天市場店が「楽天ショップ・オブ・ザ・イヤー2023」の「TV・オーディオ・カメラ部門」でジャンル賞を獲得するなど、EC事業が業績をけん引している。
コロナ禍で獲得した顧客の定着に成功
Web会議やゲーム関連の需要拡大
同社は2007年にイヤホン・ヘッドホン専門店を大阪市内に開設、現在は東京・秋葉原を旗艦店として5店舗を展開する。ECには2008年から取り組んでおり、高単価なイヤホン・ヘッドホンをオーディオマニア向けに販売してきた。
特に、遮音性の高い米Shure(シュア)のイヤホンは創業当時からの売れ筋商品となっている。スマートフォンの普及で無線イヤホンの人気が高まっているが、同社の場合は、音質向上のためにケーブルが交換できたり、ポータブルアンプが活用できたりする、有線イヤホンの需要が根強い。
従前は、店舗販売とECの売上比率は半々だったが、コロナ禍でECが急拡大。テレワークにおけるウェブ会議の需要や、自宅でゲームを楽しむ際に使うゲーミングヘッドセットの需要を取り込んだことで、一時はEC比率が80%に達していたものの、現在は店舗販売も復調し、ECの売上構成比は約55%となっている。コロナ禍で獲得した新規顧客が定着しているのがEC好調の要因だ。
多様な情報発信で優位性を確保
同社で売れ筋のイヤホン・ヘッドホンは海外製が多いこともあり、急激な円安の影響を受けている。特に最近は、海外製商品の日本代理店への入荷数が減少傾向にある点もマイナス要因だ。加えて、アマゾンや家電量販店などとの価格競争も激化する一方。同社は何を強みとして売り上げを伸ばしているのか。
同社の岡田卓也社長は「一つの製品を売るためにめちゃくちゃコストをかけていることが大きい。特に情報発信に関しては、家電量販店では考えられないくらいの手間をかけている」と競合への優位性を強調する。
試聴が購入の後押しとなることが多いイヤホン・ヘッドホン。特に同社の実店舗は多様な製品の試聴ができることが売りとなっているわけだが、ECでは試すことができない。そこで「一つのイヤホンに対して、ユーチューブ用の動画を撮る・紹介のブログを書く・スタッフがレビューを書く・顧客のレビューを集めるなどといったように、さまざまな立場の人の意見がページに載っている状態を作ることを意識している」(岡田社長)
岡田社長によれば、同社ECにおけるイヤホン・ヘッドホンの平均単価は1万3000~4000円で、家電量販店の7000~8000円を大きく上回る。リピート率やメールマガジン開封率も高く、2回目購入時の単価が1回目の倍になっていることも珍しくないという。
スタッフ全員が顧客目線のレビューを投稿
こうした指標の下支えとなっているのがスタッフレビューだ。イヤホン・ヘッドホンは個人の好みが反映されやすい商品。それだけに、消費者がレビューを参考する際の基準もまちまちだ。
「顧客が『誰かに書かされている』と思ってしまうレビューは良くない。スタッフが顧客と同じ目線に立ち、自らの基準で感じたことを素直に表現することが大事」。レビューには、視聴環境やどんな楽曲を聞いたかといった情報も盛り込み、判断材料にしてもらう。
同社の店舗・ECスタッフは、ほぼ全員がレビューを担当する。こうしたスタッフレビューに、顧客のレビューも加わる。「一つの商品にいろいろな意見が集まることで、客観性が生まれる」
YouTubeの位置付けは“商品選びのための辞書”
また、動画も積極的に活用している。同社ユーチューブチャンネルの歴史は長く、運営開始から13年ほどになる。チャンネル登録者数は約13万人で、累計再生数は約6500万回。一番人気の動画は約188万回再生されている。
ただ、岡田社長は「再生数はそこまで重視していない」とした上で、「商品選びに迷う消費者にどう役立ててもらうかという目線で、目立つための企画などはせず、かたくなにイヤホンとヘッドホンのレビュー動画を上げ続けている。イヤホン・ヘッドホンの辞書としても非常に価値があるのではないか」と運営方針を説明する。
愚直な動画配信が宣伝効果につながる
イヤホン・ヘッドホンは1週間に30ほどの新製品が発売されることもあるという。その全てにレビュー動画を制作するのは難しいが、できるだけカバーしていく方針だ。
動画なら消費者の理解もより深まる。愚直にレビュー動画を上げ続けてきたことで、岡田社長が「イヤホン王子」としてメディアに出演したり、名物スタッフが誕生したりといった、副次的な宣伝効果も生まれているという。
コストコントロールに注力
ユーチューブなどでの情報発信にコストをかけることで、「視聴できない」という弱点をカバーしている、タイムマシンが運営する「e☆イヤホン」のEC事業。しかし、経費をかけすぎることで損益分岐点を下回っては元も子もない。
岡田卓也社長は「顧客に喜んでもらえる部分や、役に立つ部分に関しては徹底的にコストをかけているが、顧客から見えない部分でのコストコントロールには力を入れている。店長やマネージャーレベルまでコスト管理の意識をしっかりと持たせている」と話す。
固定費はシビアに調整
固定費については、マネジメント層が毎月確認できるようにすることで「お金の使い方」を逐次チェック。また、通常は月2万5000個、繁忙期は月3万5000個ほどを出荷するため、物流関連費用がかさむ。配送会社と値上げ交渉を行ったり、繁忙期には外注の物流スタッフや外部倉庫を活用したりすることで、コストの調整を図っている。
当社は“人”で売る会社。顧客と同じ目線で、イヤホン・ヘッドホンを楽しむというスタンスを全面的に押し出しているので、情報発信や人件費にはコストをかけている。しかし、固定費のコントロールについてはシビアにみている。(岡田社長)
価格競争を意識
もう一つ、利益を下げる要因となるのが競合との価格競争。アマゾンや家電量販店など、大手企業との競争を強いられているだけに「単純に価格だけを追っていくと苦しい。『どこまで下げられるか』については、日々バイヤーと営業がやりとりしながら調整している」。
メーカーと二人三脚でプロモーション活動
また、メーカーと協力した形でのプロモーションを積極的に行うことによる効果もある。岡田社長は「単純に『仕切りを下げてほしい』とお願いするのではなく、メーカーと密な関係を築き、『もっと数を売るために動画を活用しましょう』と呼びかけるなど、メーカーと一緒に売り上げを伸ばしていけるのが当社の強みだ」とうなずく。
ECと店舗のつなぎこみを強化
仮想モールの店舗では、モールによるポイント施策などの効果もあり新規顧客の流入が続いているが、自社サイトはやや不振だ。「仮想モールの店舗はイヤホン・ヘッドホンを知ってもらうために重要だが、一方で自社サイトにしかない情報やコンテンツもある」
まず、会員戦略を強化。「e☆イヤホン」の会員だからこそ得られるメリットやサポート体制などを打ち出していく。たとえば、メーカーと協力した会員向けモニターなどを模索する。
さらに、O2O戦略も進める。「店舗の会員情報を使い、店とWebをどうつなげていくか、という設計を進めている。イヤホン・ヘッドホンが好きな人達が、もっと制約なく『e☆イヤホン』を使っていけるようにしていきたい」。
その鍵となるのが、店舗とのポイント共通化だ。「自社サイトでポイントを持っているユーザーに店に来てもらう、逆に店のポイントを持っている人に自社サイトで買ってもらうには、ポイントのつなぎこみが必要になってくる」。
宅配買い取りは利便性アップ
自社サイトにおける宅配買い取りの強化も図る。顧客情報を毎回提示する必要があるが、オンライン上で本人確認する仕組みであるeKYCを導入することで簡易化。岡田社長は「買い取った全商品を店舗とECで中古販売できるため、買い取り価格はどこよりも高い自負がある。しっかりとアピールしていきたい」とする。
現在、自社サイトで問題となっているのがクレジットカード決済時のエラー。ユーザーが買い物カゴから決済画面に遷移する際に、ブラウザーごと落ちてしまうエラーが一部で出ているのだという。「アマゾンペイ」の導入で対処しているが、原因を突き止めて改善を図る。
ECけん引で全社売上高100億円を目標
また、熱心なオーディオファンの多い同社顧客のさらなる「ファン化」を推進することで囲い込んでいく。
岡田社長は「ポイントもそうだが、『この顧客には先に情報を出す』など、ユーザー個々にあわせて『その人が欲しい情報』を知ってもらえるようにしていきたい」と構想を語る。
また、レコメンドの仕組みも強化する。「オーディオの『沼』を、楽しみながらぐるぐると回っていけるような仕組みを、ECでも実現していきたい」。
「e☆イヤホン」ファンを拡大することで、早期に全社売上高100億円をめざす。実店舗出店は計画していないことから、ECを中心に売り上げを伸ばす考えだ。岡田社長は「イヤホン・ヘッドホン専門店という芯はぶらさず、単に規模を大きくするだけではなく、着実にファンとともに成長したい」と意欲を示す。
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