鳥栖 剛[執筆] 7:30

ファーストリテイリングは顧客と事業成長とサステナビリティが連動した新たなビジネスモデル「LifeWear = 新しい産業」の実現に向けた取り組みを進めている。顧客の声を収集・分析し、ニーズやライフスタイルの変化に応じて必要とされる商品だけを製造、必要なタイミングで販売することで無駄を排除したビジネスを実現するというもので、このほどその進捗を明らかにした。

ファーストリテイリングは顧客と事業成長とサステナビリティが連動した新たなビジネスモデル「LifeWear = 新しい産業」の実現に向けた取り組みを進めている
「LifeWear」の概念図(画像はIR資料から編集部がキャプチャ)​​​​

顧客の声を起点とした商品開発・商品構成

2024年8月期には全世界で顧客の声(VOC)を3140万件収集。カスタマーセンターに寄せられた意見、オンラインストアの商品レビュー、店舗スタッフを通じた声を分析し、商品開発や改良に活用した。経営に関するさまざまなデータを一元的に確認できる全社プラットフォーム「経営コックピット」(2023年に導入)を通じて、VOCをグローバルでリアルタイムに可視化し、迅速に商売へ反映することを可能にしたという。

VOCデータを生かし、独自の新素材「スフレヤーンニット」を開発したほか、ブラトップの改良、ウォッシャブルニットリブパンツ、パフテックなど顧客のライフスタイルの変化を捉えた商品を開発。こうした商品開発を進め、2024年8月期の春夏・秋冬商品のレビュー点数は、5点満点中で平均4.5点以上と高い水準となった。

グローバルで事業の柱として販売する商品の品番数は、2024年8月期で50品番以上と、有明プロジェクトを開始した2017年8月期から3倍以上に拡大。不要な品番数を減らして、顧客ニーズの高い商品を中心とした商売が実現できつつあるという。夏の長期化や暖冬により変化するニーズに対応し、年間定番商品を拡充。従来の春夏・秋冬というシーズンでの分け方から、ニーズが高い商品を年間通して提供する商品構成を強化した。

ファーストリテイリングは顧客と事業成長とサステナビリティが連動した新たなビジネスモデル「LifeWear = 新しい産業」の実現に向けた取り組みを進めている
VOCを起点に商品開発を進める(画像はIR資料から編集部がキャプチャ)

生産・物流体制の構築

独自のアルゴリズムを活用した需要予測で販売計画の精度を向上。生産計画とも連動させ、週次の生産調整を可能にしたという。工場との間で生産計画や生産進捗を共有し、効率的な素材の備蓄、生産キャパシティを確保し生産リードタイムを短縮した。

物流では輸送パートナーと協業し、出荷・着荷作業時間を短縮、オペレーション効率化で輸送リードタイムの短縮につなげた。また、倉庫自動化の推進で必要な商品を必要なだけ店舗に配送するオペレーションを実現、店舗在庫の最適化と業務の効率化につなげたという。

サステナブル主要目標の進捗

店舗、主要オフィスにおける温室効果ガス排出量は2023年8月期に2019年度比で69.4%の削減を達成。2030年度8月期までに90%削減という目標に対して順調に進捗したとしている。再生可能エネルギーの調達比率は、2030年度100%の目標に対して、2023年8月期で67.6%に上昇した。

ファーストリテイリングは顧客と事業成長とサステナビリティが連動した新たなビジネスモデル「LifeWear = 新しい産業」の実現に向けた取り組みを進めている
自社領域のサステナブル主要目標は順調に推移​​​​​(画像はIR資料から編集部がキャプチャ)

サプライチェーン領域の温室効果ガス排出量は、2023年8月期までに10%削減。工場の設備入れ替え、低環境負荷素材の採用拡大などにより、今後は削減が加速する見込み。リサイクル素材など温室効果ガス排出量が少ない素材の使用割合は、2024年商品全体で18.2%と、2023年の8.5%から大きく伸長。ポリエステルは、リサイクル素材比率が47.4%に上昇した。

ファーストリテイリングは顧客と事業成長とサステナビリティが連動した新たなビジネスモデル「LifeWear = 新しい産業」の実現に向けた取り組みを進めている
サプライチェーン領域の温室効果ガス排出量削減も今後加速へ(画像はIR資料から編集部がキャプチャ)

商品・サービス領域の進捗

2022年にスタートした服のリペア・リメイクサービスを提供する「RE.UNIQLO STUDIO」を2024年10月までに22の国・地域で51店舗に拡大。2024年12月末までに60店舗に拡大する予定だ。2023年10月から古着販売のトライアルを開始し、現在は3店舗で継続的に展開中。またスウェーデンオリンピック・パラリンピック委員会に提供する公式ウェアの一部で、ユニクロ店舗で回収したポリエステルの服からリサイクルした素材を初めて採用。服から服へのリサイクルの研究開発を進めている。

サプライチェーン領域の主な進捗

自社で定める「サステナブル素材」を再定義し、商品への採用拡大を後押した。温室効果ガス排出量、水使用量、生物多様性、人権、動物愛護を配慮すべき項目として定め、素材ごとにその定性的・定量的基準を明確化する新たな枠組みの整備に2024年8月期から着手している。綿素材で2025年9月期に基準の策定を終え、2026年8月期から生産に適用予定。先行して新たに環境再生型(リジェネラティブ)コットンを「サステナブル素材」に追加した。

トレーサビリティの継続的な強化として、先行して進めていた綿に加えカシミヤやウールなど他素材にも拡大。紡績工場など上流の工程で工場と長期的なパートナーシップを構築していく取り組みも推進。カシミヤでは、2024年秋冬シーズンから、カシミヤ100%商品の洗毛工場と紡績工場への定期トレーサビリティ監査を導入。ウールでも同様の枠組み作りを推進中だ。

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