健食・化粧品通販は大打撃を受けるかも。特商法改正でアウトバウンドは規制強化?
「アウトバウンド」の規制が強化される。消費者委員会は今年3月、消費者庁の諮問を受けて特定商取引法の改正を巡る検討を開始。8月にも報告をまとめる。アウトバウンド規制は「商品単位」で規制する現行法維持から、最も厳しい「全面禁止」を含め、検討される。だが、通販企業にとってアウトバウンドは新規客の引き上げや休眠客の掘り起しなど、欠かせない事業活動の一つ。大きく制限されることになれば、特に健康食品や化粧品を扱う通販企業、アウトバウンドを事業の核とするコールセンター運営企業に大打撃となること必至だ。
特商法改正議論「詳しく知らない」
「なんとなくは聞いているが、詳しく知らない」――。消費者委で進むアウトバウンド規制を巡り複数の企業に意見を求める中、こうした企業の反応は意外に多い。自らの事業活動に甚大な影響を及ぼす可能性がある規制に対し、強い関心を持つ企業とそうでない企業でばらつきがある。
背景には、特商法の複雑な法体系が影響しているだろう。
特商法では、「通販」と、アウトバウンドを含む「電話勧誘―」を別の業態として分類、規制をかけている。「電話勧誘―」は、勧誘の目的を告知したり、クーリングオフが導入されているなど訪販に近い形で規制が設計されている。
法律上、「電話勧誘―」にあたる行為に、「1年以内に2回以上の購入がない顧客に電話を使った営業活動」を行うことも含まれる。サンプル購入や資料請求した顧客に対する新規客向けアウトバウンドや、休眠顧客の掘り起こしに向けたアウトバウンド、既存客向けクロスセルやフォローコールも場合によっては「電話勧誘―」に分類される。ましてや、市場の競争が激化する昨今、新規獲得の効率悪化から顧客コミュニケーションの一つ手段としてのアウトバウンドの重要性は増している。サンプルを入口に本商品購入につなげる「2ステップ型通販」は増えており、通販企業の多くが、「電話勧誘―」に直面する場面は増えている。だが、中小であるほど「電話勧誘―」の規制に対する意識は薄い。
5月には、消費者庁が通販を行うLFコーポレーションを電話勧誘販売事業者として処分(3カ月の業務停止命令)した例もあった。サンプル購入者に「飲む前に(商品の)説明を行います」などと販売目的を明かさず商品購入を勧めていた行為が特商法違反と判断されたケースだ。
規制強化、5つの方向性示される
3月からこれまでの議論を振り返る。
まず、現行の規制。「商品(契約)単位」で勧誘を受けたくない意思表示をした顧客への再勧誘が禁止されている。例えば、「化粧水」の勧誘を拒否された場合、同じ商品の勧誘を行ってはいけないというものだ。「美容液」や「サプリメント」なら再度勧誘してもよい。
これに対し、消費者庁が示す規制強化の方向性は4つ。最も軽いのは、「事業者単位」の規制になる。顧客から「化粧水」の勧誘を拒否された場合、その他の商品を含め、同じ顧客に対する同一の事業者による一切の勧誘行為が禁止されるものだ。
ほかに、「電話を受けたくない意思表示や事前登録」をした顧客に対し、すべての事業者がアウトバウンドできなくするもの、積極的に「電話を受けたい意思表示や事前登録」をした顧客に対してのみアウトバウンドできるようにするものなどがある。これに「現状維持」を加えた5つ(=表)の選択肢の中から規制レベルが決まることになる。
規制強化で一網打尽に
検討会には、通信販売協会(JADMA)をはじめとする業界団体など複数の事業者サイドの委員も参加する。ただ、「電話勧誘―」の苦情件数がここ数年、高止まりしていることは事実。消費者サイドの要請も強く、規制強化は避けられそうもない。
6月10日の前回会合では、消費者庁が「ドア前の規制のあり方を検討している。事業者がピンポンした時に違法性を確定し、速やかに執行できるようにしたい」(山田正人取引対策課長)と発言。訪販を例にしたものだが、「事業者単位」よりさらに強い規制を行い、悪質業者を一網打尽にしようとの狙いが透けて見える。
同会合では、仕組みに多少の違いがあるものの、電話を拒絶する顧客をリスト化して管理する米国をはじめ6カ国の制度を説明する詳細な資料も提示。制度構築のコストがかかるものの、その本気度が窺える。
攻め手欠くJADMA
検討会と前後して、JADMAは会員企業10社からなるワーキンググループを発足。改正議論に対応している。苦情件数の大半はアダルト系や詐欺サイトが占め、実際の苦情件数はごくわずかで分析が必要なこと、悪質業者との区別、消費者教育の重要性を訴えているが、攻め手を欠く印象だ。
消費者委から次回会合の資料提示を受けるのも会合直前。グループメンバーによる十分な意見調整もままならず、防戦を強いられている。「過去1回でも購入実績のある顧客へのアウトバウンドを可能にする」と、規制緩和も訴えるが、現状維持さえ望むべくもない状況だ。
悪質業者とないまぜの議論
ただ、アウトバウンド規制を巡る改正議論の問題点は、悪質業者と通販事業者をないまぜにした議論にある。“事業実態”の把握に努め、議論を進めるべきだ。
改正議論を受け、本紙では、通販企業やコールセンター運営企業を対象に、アンケートを実施。聞こえてきたのは、“自主ルール”を厳格に運用する企業の声だ。
ある通販企業の場合、個人情報の利用範囲についてプライバシーポリシーに「電話による商品紹介」と明記。同意を得た顧客にのみアウトバウンドを行う。別の通販企業は、アウトバウンドを「受けたくない」と申し出た顧客に対する勧誘の一切を行っていないという。
「『個人情報保護法』でも利用目的に対する本人同意までは求めていないこととのバランスを考慮すべき」「電話勧誘は単品通販におけるビジネスモデルとして確立している。経済活動が抑制され、破綻に追いやられる企業の増加も想像される」「現行法(再勧誘の禁止)を守らない企業の取り締まりを優先すべき」といった声がある。
現状の規制の方向性で進めても、法の網の目を潜り抜け、また、確信犯的な悪質業者の取締りの実効性を確保できるか分からない。消費者保護のみ追求する過度な規制は、健全な事業活動に甚大な影響を残すだけの規制になりかねない。
規制強化で実効性あがるか?制度構築・運用の負担に懸念も
アウトバウンド規制の一つの境界は、「事業者単位」の規制か、電話を拒む消費者の事前登録を含む規制まで踏み込むかだ。事前登録を必要とするオプトアウト規制の場合、制度構築や運用で行政コストは増すことになる。消費者庁は6月の会合で、アウトバウンドを受けたくない消費者をリスト化し、リストに載っている消費者へのアウトバウンドを禁止する制度について示した。運営主体となる機関が消費者の申し出を受けて、リストを作成。事業者が保有する顧客リストと照合し、登録のない顧客リストにのみアウトバウンドができる仕組みだ。
海外ですでに導入されており、半数以上の消費者が、「アウトバウンドが減った」と感じているなど一定の効果が出ているようだ。だが、日本で同様の効果が得られるかは不透明だ。
過去に、日本通信販売協会(JADMA)などの業界団体で、カタログやDM、アウトバウンドを不要とした顧客をリスト化して事業者に提供する「メール・プレファランス・サービス(MPS)制度」を導入。リストに登録された消費者への販促を休止するもので、今回、消費者庁が提案する制度に近い。現在では個人情報保護法の施行に伴って、廃止されている。
当時は、悪質事業者を排除し消費者利益の保護につながるとして期待されていた。不要な顧客への販促を休止することで業務を効率化できる点からも支持する事業者が多かったようだ。
だが、実際の運用にはいくつかの課題があったようだ。JADMAは制度を導入した1980年代後半から廃止する05年までに、1万5000件のリストを保有。また、コールセンター協会は03年から06年までに4500件の登録があった。ただ、登録件数を見ても多くの消費者が利用しているとは言えず、周知のコストやリストの管理が大きな負担になった。
また、リスト活用の問い合わせが多く発生し、対応の判断に迷うケースもあったようだ。事業者からは「リストに登録された消費者の直近の購入履歴があった場合もアウトバウンドはできないのか」といった問い合わせや、消費者からの「カタログやDMは基本的にいらないが、○○社のものは止めたくない」という問い合わせがあった。消費者が制度を正しく理解して選択できると言い難く、すべてのアウトバウンドが規制されれば、消費者は希望するサービスまでも受けられなくなってしまう懸念がある。
消費者庁の調査によると、事前にアウトバウンドを拒否する意思を登録できるルールができた場合に73.3%が「登録したい」もしくは「面倒でなければ登録したい」と回答。「事業者ごとにアウトバウンドの可否を選択できれば登録したい」と回答したのは9.7%だった。しかし、「法律を守らない悪質事業者は、アウトバウンドを不要とする消費者のリストを利用しない。その結果、強引な勧誘などの“迷惑”電話は減らないだろう」と指摘する声もある。
市場の健全な発展のためには、アウトバウンドで強引な勧誘を行う“悪質”な事業者を排除する対策は不可欠。だが業界主導で取り組んだ先例を見る限り、アウトバウンドを受けたくない消費者をリスト化して事業者に提供する制度の導入が、市場の浄化に貢献するとは言い難い。制度が適切かどうか慎重な検討が求められそうだ。
「通販新聞」掲載のオリジナル版はこちら:
特商法改正の行方 アウトバウンドに規制か、健食・化粧品通販に大打撃(2015/06/18)
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