サービス重視の時代にEC企業に求められるマーケティングとは
スマホの台頭で、商品購入に至るまでの消費者行動が大きく変わり始めている。消費者は商品そのものよりもサービスを重視するようになり、あらゆる事業者が商品を売るだけではなくサービスを提供する必要に迫られている。こうしたデジタルマーケティングの変化にEC事業者はどのように対応していくべきか。そのヒントを富士通の講演から考察したい。
音楽、ファッション、機械産業でサービスに転換している事例を紹介
「商品(モノ)の提供からサービス(コト)提供への変革~総サービス事業化時代に向けてデジタルマーケティングの一歩を踏み出すためのヒント~」をテーマに講演した富士通の西本伸一氏。商品を売る事業からサービス提供へ転換した事例として、ミュージック、ファッション、機械産業の3事例をあげた。
- ミュージック
従来はCDを販売する事業だったが…… → 「LINEミュージック」や「AWAミュージック」などのように、定額のストリーミングサービスが本格化。コミュニケーションツールとしてミュージックのデータ送信が可能に。 - ファッション
なる商品販売だけだったが…… → 「エアークローゼット」や「Laxus」などコーディネートを含めて衣類などを貸し出すサービスが台頭 - 機械産業
飛行機エンジンでは、ロールスロイスがエンジンが使われた分だけを課金するサービスを開始。その料金の中にはエンジンの保守や修理代金も含まれているといった事業モデル
商品提供から“サービス提供”に事業を転換する事例が増えてきているのは、世の中の全般においてデジタル化が急速に進んでいるからであり、デジタルマーケティングとは、このデジタライゼーションの大きな波の一部でしかなく、今後更に形を変えて進化していくだろうと西本氏は言う。
デジタルマーケはWebマーケを包含し、リアルの領域に拡大
それでは、ここで改めてデジタルマーケティングとはどういった概念なのか、触れてみたい。
「デジタルマーケティング」の定義について西本氏は、「『リアル』と『ネット』が別々だった時代に、ネットを対象とした『Webマーケティング』が発展したもので、ネットを中心とした『Webマーケティング』を包含した概念」と説明する。
そして、スマートデバイスの普及により「リアル」と「ネット」の境界線が薄れてきていることから、「『Webマーケティング』はテクノロジーの進化と社会生活の変化と共にリアル領域へ拡大し、企業におけるマーケティング活動そのものになりつつある」と話した。
OtoOやオムニチャネルという言葉を耳にしたことがある人は多いでしょう。Webマーケティングとリアルマーケティングの橋渡しをするのがOtoOやオムニチャネルと考えると、デジタルマーケティングが拡大している現状がわかりやすい。
視点を変えて見ると、従来の新聞広告やテレビCMなどに代表されるマスマーケティングが主流だったが、近年はワンツーワンマーケティングの概念が台頭。「広く大衆に」から「1人ひとりに最適な形に」とターゲットそのものが変化している。西本氏は、これらを支えているICTテクノロジー(ツール)として、デジタルマーケティングが認識されているケースもあると指摘する。
こうした、デジタルマーケティングの領域の拡大は、広告代理店やITベンダーにも大きな影響を与えてきているという。例えば広告費として捉えてみると、従来はマスマーケティングに広告費の8~9割が費やされ、Webマーケティングは残りの1~2割の広告費しかない。そんな小さな市場を、ベンチャーなど多くの企業が奪い合う状況だった。
しかし、ICTテクノロジーが欠かせないデジタルマーケティング領域の拡大により、ITベンダーやアプリケーションベンダー、これらの領域に関わる様々な会社が入り混じる状況に変わってきたという。
まずは顧客データの蓄積、統合、活用できる形に
デジタルマーケティングのめざすところは、非常に広範囲であるが、かいつまんで言うと「データを徹底的に有効活用することで、顧客体験価値を最大化する」ことにある。
顧客体験価値の高い企業として、スターバックスや東京ディズニーランド、ユニバーサルスタジオジャパンなどがよくあげられる。こうした企業はモノを販売する以上にサービスそのものを売りとしていることが多い。
たとえば、スターバックスは単にコーヒーを売るのではなく、リラックスできる雰囲気、音楽、照明など空間と時間を価値として提供することに注力。こうしたことが顧客満足につながっているという。
また、アメリカのリテール銀行の調査では、利率などデジタルに判断できる価値で満足した顧客の流出率は、不満足だった顧客よりも流出してしまう比率が高いという。一方、店員の接客態度やブランドそのものに価値を感じている顧客は流出率が低いといった事例を、西本氏は紹介した。
つまり、モノが溢れているこの時代、単にスペックの高い商品を提供するだけではなく、消費者にとって価値のあるサービスとして提供していくことが重要であることがわかるだろう。
企業が今後考えなければならないのはどんなことか。西本氏は次のように指摘する。
新しい技術が生まれてきたため、その技術を使ってどのような製品を開発できるかということよりも、その技術によって顧客がどう変化し、顧客の満足度を高められるか、どのようなサービスを行うべきかということが重要です。
とはいえ、何から手を付けていいのかわからないという会社が多いのが現状だ。講演後に聴講者から「では、実際にどうすればいいのですか」と聞かれることも多いという。こうしたことを踏まえ西本氏は、「まずは顧客を知ることから始めるべきだ」と話す。
デジタルマーケティングの守備範囲は広範囲であり、様々なツールが各社から提供されているが、究極的にはお客さまを知ることに尽きる。何から手を付けていいかわからないという人は、まずお客さまデータを蓄積、統合し、活用できる状態にすることが重要です。
例えば、これまで顧客データを直接得ることができなかったメーカーが、直販のECサイトで直接顧客と接点を持つことができるようになった。ツールを使えば顧客データを取得できる環境が整っていることを踏まえ、「ぜひ顧客統合データベースの基盤整備をするべきだ」と講演を締めくくった。
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