あなたのECサイト、お客さまが見えていますか? 売上アップに役立つペルソナ作成講座【実践編】
“本気”のCVR実践講座 第3弾は、ユーザーを本気で知るための「ペルソナ」作成(実践編)です。前回は「ペルソナ」「カスタマージャーニーマップ」「ユーザーテスト」という、ユーザーを知るための3つの方法をお伝えしましたが、中でも基本となり、最もオススメしたいのが「ペルソナ」の作成です。「ペルソナ作成は意味がない」なんて言われることもありますが、ECサイト運営には欠かせないユーザー理解の方法です。ベルソナ作成がなぜ必要なのか、どう使えばCVRアップにつながるのかを解説します。 キャラクターデザイン◎材井千鶴 イラスト◎宮川綾子
「ペルソナ」とは、企業が提供する商品やサービスにとって最も重要な、象徴的なユーザー像のことです。自社のユーザーとはどんな人物なのか、「40代 主婦 関東在住 購入はPC・スマホ両方利用」といった属性だけの「ターゲット」ではなく、趣味や嗜好、行動パターンまで詳しく設定していきます。
なぜペルソナを作るの?
なぜ、ペルソナ作成が必要なのか。それは、「施策のコンセプトがはっきりする」からです。漠然としたターゲットに向けたサービスを考えるのではなく、たった1人のペルソナに向けた「究極のサービス」を考えることで、より具体的で適したサービスを創出できます。
ペルソナはサービスの方向性だけではなく、サイトのデザイン、課題の発見、解決方法、顧客対応など、ありとあらゆる施策の指針となります。
どうでしょうか? こうしたユーザーの情報があると、その人の外見や話し方までイメージできませんか?
例えば、ターゲットが「40代 主婦 関東在住 購入はPC・スマホ両方利用」という情報のみであれば、メルマガを送るのは、お昼の12時か、週末の22時頃……というように、一般的とされる主婦の行動パターンを予測しがちです。実際には開封率のデータのみで判断することが多いでしょう。
しかし、ペルソナの宮河さんの場合、メルマガをチェックするのは朝の電車の中で、自分に関係がありそうなタイトルや店舗のみを開封している。であれば、朝にふさわしいメルマガを通勤の時間帯に送ることを検討しても良いでしょう。
このように、どんな広告の文言が刺さるのか、いつメルマガを配信するのか、サイトのUIはどう設計したら最適なのか……それらのことが、ペルソナを作ることで見えてくるのです。
ペルソナを作成するメリットは次の通りです。
- ターゲットを思い切り絞り込むことができる
- 担当者の主観ではなく、ユーザー視点で考えられる
- チーム内のコミュニケーションツールとなる
まれに「ペルソナを作成しても意味がない」という声を聞きますが、それは半分嘘で、半分本当です。調査なしで簡単に作成したペルソナでは意味がないからです。調査を経て作成したペルソナは必ず役に立ちます。
ペルソナで設定する項目は?
次に、具体的なペルソナの作成方法をご紹介します。設定するのは以下のような項目があげられます。
基本情報
- 年齢
- 性別
- 職業
- 勤務先(役職や仕事の概要)
- 仕事上のポリシー
- 年収
- 家族構成
- 結婚歴
- 居住地域
人となり
- 性格
- 価値観(好きなこと/嫌いなことなどの信念)
- 口癖
- 悩み
- 学歴
ライフスタイル
- 趣味、はまっていること
- 行動パターン(平日/休日)
- 消費行動
- 購読している新聞
- よく見るテレビ番組
- 愛読書
- よく見る雑誌
- よく見るWebサイト
- 情報収集行動
- デバイス
上記の基礎情報に加え、ペルソナが自社の商品やサービスとどのように関わるのか、ストーリー化できるように興味関心を記載します。
- 商品やサービスとの関わり
- 商品やサービスが属するカテゴリーへの興味関心について
- 自社が提供する商品やサービスとはどのように出会い、どのように利用するのか
- 競合の商品やサービスについての関心
ペルソナ作成に必要な5つの材料
ペルソナを作成するときに注意したいのは、担当者の思い込み。担当者が1人であれやこれやと「空想」で作成したとしても、それなりのものができてしまいます。しかし、それはあくまで思い込みの産物で、仮説にとどめておくのが良いでしょう。
ペルソナ作成には、以下の方法で集めた情報を材料として活用します。
- Googleアナリティクスの解析
- ユーザー像ヒアリング
- アンケート
- ユーザーインタビュー
- グループワーク
現在、店舗やサービスを利用しているメイン層はどんな人なのか、そして将来、長期的なファンとなりそうな人はどんな人なのか。現在と未来を見渡して調査をします。
さまざまなデータやユーザーに直接行うアンケートやインタビュー、お客さまと直接触れ合っている従業員やカスタマーサポートなどへのヒアリングなどなど……材料となるデータは多ければ多いほど、ペルソナが具体的で鮮明なものになります。
本格的にペルソナ作成を行う場合、上記の5つを順番に、約半年ほどかけて行います。しかし、そんなに時間が取れないという場合の方が多いでしょう。1から3までは取り掛かりやすいので、最短で1か月〜2か月で調査が可能です。
1.Googleアナリティクスでの解析
Googleアナリティクスの「ユーザーカテゴリレポート」から性別や年代、居住地などのユーザー属性を知ることができます。Googleアナリティクスのみではペルソナ作成に不十分ですが、情報として有用性が高い上に、実施が比較的容易なので、材料としておすすめします。
2.ユーザー像ヒアリング
社内の営業部やカスタマーサポート、実店舗の担当者などへ、普段接しているお客さまについてヒアリングします。お客さまと接しているスタッフの情報はとても貴重です。どんなお客さまが多いのか、特徴や要望だけでなく、口癖や服装などについても聞いてみましょう。
数が集まるとパターンが見えてきます。複数のパターンから商品やサービスの優良なファンとなりうる層を見抜いていきます。
3.ユーザーへのアンケート
商品やサービス、サイトなどについて、ユーザーにアンケートをお願いするのもユーザーを知るための良い材料となります。
アンケートはGoogleフォームであれば無料で作成できるので、メルマガやキャンペーンなどで募集してはいかがでしょうか。クーポンなどのインセンティブがあれば回収率が高まります(当社では、インセンティブとして、500円~1,000円のクーポン付与をおすすめしています)。
アンケートでは設問の質によっても得られる情報が異なります。例えば、チェックボックスのみの解答よりも、記述式の方が質の高い情報を得られます。文章の雰囲気や使用する単語からユーザーの性格や、心理を読み取ることができるからです。
設問の多さや解答のしやすさなどをチェックするために、アンケートを実施する前には周囲の数人にお試しで記入してもらい、フィードバックを得るようにしましょう。
4.ユーザーインタビュー
商品やサービスを利用しているときの状況や心理の状態を、ユーザーに直接インタビューする方法です。インタビューに答えてくれる方の募集や、インタビューする側の「聞く」スキルなど、実施には難易度が高い方法ですが、「なぜ」「どうやって」消費やサービス利用にたどり着いたのか生の声を聞くことは、ペルソナの作成だけでなく、カスタマージャーニーマップの作成にも役立ちます。
実施の際に、インタビュー担当者にお薦めしているのがこの本です。付録のテンプレートは初めての方でもすぐに使える優れものです。
- 「マーケティング/商品企画のための ユーザーインタビューの教科書」
刊:マイナビ出版(2016年)
著:奥泉 直子、山崎 真湖人、三澤 直加、古田 一義、伊藤 英明
5.グループワーク
アンケートやインタビューで集まったデータから、実際にペルソナを形作る作業を行うのが「グループワーク」です。 社内のプロジェクト関係者やクライアントも交えて複数人で行います。複数人で行うことで多角的な意見が飛び交い、「思い込み」からの脱却が可能となります。グループワークは下記の手順で行います。
1. データから読み取れる「ユーザーの特徴」をできるだけ多くあげ、付せん紙に記入していく
この「特徴」の数がペルソナの深みに直結します。なるべく多くの気付きが出るよう、アイスブレイクをしっかり行いましょう。また、気付きを引き出す「問いかけ」も重要です。「問いかけ」にはスキルを要しますが、まずは、誘導し過ぎないことに気をつけて、実践してみましょう。
2. 付せん紙をグルーピングし、表札(タイトル)を付けていく
表札を付ける際には、単語の見出しにせず、文章にするのがコツです。たとえば「ファッション」ではなく「きれいめファッションを好む」というように、より人物像がわかるように文章化しましょう。
3. 表札から「ユーザーはこんな人である」というパターンを文章化していく
「きれいめファッションを好む」「ご近所づきあいを大切にしている」「季節の贈り物は欠かさない」という表札があれば、「礼儀やマナー、TPOを大切にし、節度を持った行動を好む人である」という人物像を描くことができます。
4. パターンを元にペルソナを記述する
人物像がありありと浮かぶように記述していきます。パターンの背景や、ネガティブ面にも注目してみましょう。「礼儀やマナー、TPOを大切にし、節度を持った行動を好む人」であれば、「ルーズさを嫌う」なども記入します。また、参加者全員でペルソナに名前を付けると愛着がわきます。
グループワークには準備や実施に多くの時間がかかりますし、スキルも必要で難易度が高めですが、有意性は抜群と言えます。当社がペルソナを作成する際は、グループワークにリソースも時間も多くかけて実施します。
しかし、重要なのは「ペルソナを作成する」ことではなく「ペルソナを活用する」ことです。
ペルソナをどう活用するの?
でき上がったペルソナは、シートにまとめて関係者全員で共有します。ペルソナを共通の認識とすることで、プロジェクト内のコミュニケーションもスムーズになります。例えば、プロジェクトの会議などで、
「ペルソナ(名前を付けて名前で呼ぶようにしましょう)さんには、この広告が刺さるだろうか?」
「ペルソナさんは、このキャンペーンを好意的に受け取るだろうか?」
「ペルソナさんは、このコンテンツをどう思うだろうか?」
「どんな、メルマガを送ったらペルソナさんは読んでくれるかな?」
というように、ペルソナを共有したメンバーに問いかけができるようになると、効果が明確で、施策を判断する上で大いに役立ちます。また、ペルソナを作成することで、施策のコンセプトがはっきりするので、商品やサービスの提供者側の都合によらず、ユーザーの視点に立った「刺さる」施策を立てることができます。
実例をご紹介します。ある高級な食材を提供する企業でサイトのリニューアルをする際、デザインの担当者は、
トレンドを意識したシンプルなデザインに、品の良いパーツで構成する。お買い物をするときに“良質な食材を買っている”という満足感を、ビジュアル面でも十分に体験できるサイトデザインを行う。
と、ビジュアル面の改善に注力していました。しかし、ペルソナを作成する中で対象ユーザーにインタビューをしたところ、サイトのデザインに対してこんな意見を多くいただきました。
トレンド感はある程度重要ですが、企業に対する信頼性のほうが重要です。どんなに美しいサイトでも、情報に疑わしさや不明確な部分があれば、良質な企業とは思いません。
1人だけではなく、複数のユーザーが同じように答え、また、企業のカスタマー担当からも、ユーザーが求めているものとして「情報の確かさ」があがりました。
その食品企業のユーザーは、ビジュアル的な美しさよりも「正しい情報を得ることができ、間違いのない商品を購入できるサイトであること」の方が優先順位が高いということを認識し、ペルソナ作成やサイトデザインにも反映しました。
商品やサービスによって、さまざまなユーザーの心理があり、何を優先するのかも異なります。ユーザー視点に立てば、課題の解決方法の発見の道筋が得られ、CVR率改善のポイントもより的確になるでしょう。
ペルソナを作成していないのであれば、ぜひ、作成してみてください。活用できていないのであれば、ペルソナの材料集めからの見直しをおすすめします。
今回は「ユーザーを本気で知る」の実践編、ペルソナ作成についてお話しました。次回はサイトに“本気で”ユーザーを誘導する方法についてお話します。