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アマゾンの「1-Click注文」の特許が2017年に失効し、競合企業には新しい機会が生まれました。モバイルでのカート離脱率の減少が一番大きなメリットになるでしょう。

1990年代中盤からAmazon(アマゾン)の成長に大きく寄与してきた革新的な「1-Click注文」の特許は、2017年9月に失効しました。「1-Click注文」の特許だけがアマゾンの成長に寄与してきた理由ではありませんが、数あるマーケットプレイスのなかでエッジを立たせ、早い段階から継続的な成長を遂げる一因になっていました。

特許が失効した今、多くの人が「アマゾンや他のEC事業者は、次に何を仕掛けてくるのだろう?」という疑問を持っていることでしょう。

「1-Click注文」が重要だった理由

初期のECビジネスにおいて、アマゾンの「1-Click注文」は非常に便利で、利用者の信頼を集めていました。アーリーアダプターたちがオンラインショッピングの利便性と期待値を向上させるための方策を探っている段階で、住所や支払い情報を保存しておくことがオンラインでの買い物に便利であり、所用時間も短くなるという事実を彼らに提示したのです。

「1-Click注文」のおかげでアマゾンへの信頼感、ひいてはEC企業全般への信頼感が生まれました。消費者がプライバシーに関わる情報を第三者と共有し、小売事業者がそれらを保存して、購入のたびにその情報を呼び出すことを可能にしたのです。

アマゾンでは「1-Click注文」が当たり前になっていますが、消費者が「1-Click注文」を利用したことで、他のEC企業にも革命的な大変化をもたらしました。

1997年に提供開始された「1-Click注文」。今後、さまざまなプラットフォームで同様の仕組みが実装される可能性がある(編集部が画像を追加)。

アマゾンがさらに進化するための考え得る戦略

もちろんアマゾンは、さまざまなプラットフォーム上で引き続き「1-Click注文」ボタンを使用することができます。「1-Click注文」機能を今まで通り利用することは可能ですが、その技術をコントロールできなくなると同時に、アップル社など他社へのライセンシングフィーから得られた収益もコントロールできなくなります。

アマゾンの成功要因の1つは、買い物を簡単にして、利用者の負担を減らす戦略に一貫して注力していることです。事実、アマゾンは革新的な「1-Click注文」を開発してから、購入プロセスの簡素化のための技術をいくつも生み出しています。

Amazon Dash(アマゾンダッシュ)のボタンは、「1-Click注文」を物理的な生活空間に置けるようにしたもので、スマートフォンやPCにアクセスすることなく特定の商品を注文することが可能です。Amazon Echo(アマゾンエコー)は、アマゾンダッシュよりもより広くECの可能性を広げ、音声アシスタントのAlexa(アレクサ)を使ってさまざまな商品が買えるようになっています。

このような展開を見れば、アマゾンが買い物を魅力的で、シンプルかつ簡単にするソリューションを見出そうとしていることがわかるでしょう。アマゾンが今後も、消費者の使いやすさを考えたプラットフォームを開発し、業界を揺るがす新しいイノベーションを起こし続けることを考えると、「1-Click注文」の特許失効はまったくと言っていいほどアマゾンには影響がないのです。

特許失効で得をする競合他社

アマゾンの「1-Click特許」失効により、会社の規模に関係なく、多くの企業が新たなメリットを得ることができるようになります。最も大きなメリットは、カート離脱率が高いモバイルの世界で実感できるでしょう。モバイルコマースでは、フォームや支払い情報記入に時間がかかるため、カート離脱率が90%から95%になることもあります。

ショッピングカートでのカート離脱率に関する世界平均値(Barilliance調査)
カート離脱率(カゴ落ち率)の世界平均値やデバイスごとの平均値。モバイルでの世界的なカート離脱率の平均値は77.8%(画像は編集部が調査会社Barillianceの『Black Friday 2017 Cart Abandonment Stats』の資料から追加)。

モバイル利用が増加しているにもかかわらず、多くの消費者はいまだにデスクトップやラップトップのPCを利用して買い物をするのです。ECソフトフェアのデベロッパーたちが効果的にモバイル向けの「1-Click注文」をプラットフォームに追加すれば、現在の状況を大きく変えることができるはずです。モバイルデバイスからの買い物がもっと簡単になれば、カート離脱率は改善されるでしょう。

Instagram(インスタグラム)やFacebook(フェイスブック)といったソーシャルメディア企業や、それらの企業と提携している小売事業者たちも、特許失効によって大きな利益を得ることができるでしょう。SNSのサイトから、小売事業者のホームページに見込み客を誘導する際に必要ないくつものステップも、「1-Click注文」を使えば省略することができます。フェイスブックもインスタグラムも、すでにマーケティング用のプラットフォームとして広く利用されていますが、「1-Click注文」を使えば、商品購入が大きく増えるようになります。

デメリットとしては、ソーシャルメディア企業がこれらの機能を持つことによって、小売事業者が人質に取られてしまう可能性があることです。ソーシャルメディア企業は広告費を釣り上げ、大きな売上マージンを要求するかもしれません。アマゾンの特許失効により、最初に大きなインパクトを感じるのはソーシャルメディアになるでしょう。

Snapchat(スナップチャット)はすでに、Shoppable Augmented Reality(編注:ARカメラから購入サイトに誘導できる広告主向けの新機能)で「1-Click注文」を実装し、利用者がアプリから直接購入できるようにしています。小売企業はソーシャルメディア企業と提携し、フォトフィルター広告を出せば、消費者に自社サイトに訪問してもらったり、アプリを変えてもらったりすることなく関連商品を購入してもらうことが可能です。

このようにコンテンツにひも付いたサービスを提供することにより、プラットフォーム、小売事業者、消費者の間にある種の絆を生み出すことができ、いつも利用しているアプリを使って購入に至らせるきっかけになります。このスナップチャットのアプローチを真似る企業がすぐに出てくるでしょう。

小売事業者にとってのハードルは、複数の事業者が同じようなデータを入手できるようになるため、購入データのエッジが鈍くなってしまうことでしょう。たとえば、さまざまな百貨店が同じ顧客データを保有することになる、ということです。Macy's(メイシーズ)が保有している特定の顧客データは、KOHL'S(コールズ)が持つ同顧客のデータと違う部分もあるかもしれませんが、重複部分が出てきます。そうなると、細分化して商品をオススメしにくくなるのです。他社と差別化するためには、目的をはっきりさせ、使える機能とワークフローを精査して、競合他社のなかで目立つ必要があります。

「1-Click注文」の独占終了がもたらす新たな可能性

特許失効によって、「1-Click注文」が広く採用にされるようになり、市場もそれに対応せざるを得なくなります。これは、アマゾンのような巨大EC企業に対抗できるよう、ソーシャルネットワークを再構築する機会なのです。

Google(グーグル)は、クロームから直接購入できるような検索機能を開発できるかもしれません。理論的には、消費者がクロームの検索バーに打ち込み、アレクサに頼むときのようにグーグル検索が商品をオーダーすることが可能です。「購入」という言葉と一緒に商品名を打ち込めば、クロームに保存された支払いデータを使って、アレクサに頼む時と同じように、スムーズで簡単な支払いプロセスを実現することができます。

グーグル、フェイスブック、インスタグラムなどの先進的な企業は、イノベーションを起こし、小売事業者が消費者により簡単にリーチできるような方法論を見つけることができるでしょう。

「1-Click注文」の特許失効で、アマゾンの独占は終わりましたが、同時にアマゾンや他の小売事業者がこの技術を利用して、新しい可能性を切り開いていく新たな時代が来たとも言えるのです。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア「Internet RETAILER」の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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