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熾烈な価格競争で、販売する商品の価格は平均で3.9%下がっています。小売事業者やブランドは、テクノロジーを駆使してトレンドを観察すれば、ひどい価格戦争を回避。ビジネスの機会を捉えて、さまざまなアクションを取ることができるようになります。

Amazon(アマゾン)をはじめとするオンライン事業者が小売業界を大きく変えたことは疑いようがありません。消費者の興味・関心を集め、リピートしてもらうために、多くの事業者が最低価格を維持する努力をしています。競争力の高い価格が提供されるのは、消費者にとってはメリットでしょう。

競合他社を価格で出し抜き、より多くのビジネスを引き入れるために、事業者の多くは値付けの自動システムを採用しています。理論上は、そうすることでマーケットはより効果的になりますが、実際は利益が減るという結果になるのです。

どうしてこういう事態になってしまったのでしょう? ブランドや小売事業者が価格戦争を避け、利益に悪影響を与えない方法はあるのでしょうか? まずは、どうしてこのような価格戦争が始まったのか、その背景を理解することが大切です。

どうして価格戦争を気にする必要があるのか

小売事業者たちは多くの場合、自動化によってお互いの価格を常にチェックしているため、小売業界の価格戦争は、基本的には最低価格を確保する競争になっています。

多くの企業がこの状況に寄与してきましたが、一番大きな影響を与えたのはアマゾンでしょう。アマゾンのフライホイール哲学(編注:発生したエネルギーをフライホイールに溜め込み、その慣性で次の爆発に到達して回転を維持していく理論を意味する)は文書化され、継続的な成長のためには「低価格構造」「低価格」が重要な要素であると述べられています。

もちろん、アマゾンのような小売事業者にとっては簡単なことでしょう。アマゾンには、無数の商品と、最安値と、便利で迅速な配送サービスがあるからです。

新しい技術によって、消費者の購買行動が変わったと同時に、小売業界の価格戦争にも影響がありました。スマートフォンの台頭で価格の透明化が進み、実際の店舗にいながらすぐに価格を比較できる「ショールーミング」が一般的になったのです。

米国インタラクティブ広告協会(IAB)の調査によると、成人の半数は実店舗で購入前に価格比較をする。ほとんどは検索後に実店舗で購入するが、次に多いのは他店のWebサイトで購入する場合(編注、編集部がIABの資料をキャプチャし追加)。 https://www.iab.com/wp-content/uploads/2015/11/IAB-Digital-Shopping-Report1.pdf

価格戦争は当初、電化製品、玩具、スポーツグッツなど、価格比較がされやすい、すでに成熟した商品カテゴリから始まりました。ショールーミングが一般的な買い物方法になる前から、消費者はテレビやパソコンを買う際、価格比較のためにいくつものお店をチェックしていました。

しかしながら、以前はアマゾンなどのオンラインショッピング利用者には無関係だと考えられていた多くのカテゴリも、今では価格戦争に巻き込まれています。自動車部品や包装品が一例で、包装品に関しては、昨年のアマゾンのホールフーズ買収でより影響を受けると考えられます。

過当競争によって価格が下がり、小売業界全体で利益を圧迫しているのです。この状況はホリデーシーズンのギフト需要やスーパーボール前のテレビが売れる時など、プロモーションの時期に過熱します。

さらに、価格戦争の影響で、アマゾンやWalmart(ウォルマート)、Costco(コストコ)のような巨大な小売事業者は、自社の販売網を利用して、製造業者にコスト削減を依頼し、卸価格を大きく下げるように要求しています。言うことを聞かなければ、もうお店に商品を置いてもらえない危険性があるのです。このような状況がさらに小売業界の価格戦争を加速させています。

消費者へのメリットが、ビジネスにとってデメリットになる可能性も

低価格は消費者にとってはありがたいことですが、ビジネスにとって良くないのはどうしてでしょう? 商品の価格が、適正な市場価格に近づいていくことを意味するのではないでしょうか?

その答えは、「たぶん」です。確かなことは、小売事業者もブランドも、マージンが当たり前ではなくなり、消費者のためにより低いマージンで売る一方、自分たちは限界利益にさらに注力しなくてはいけなくなることです。

さらに、「市場価格」とは、商品原価に少額の管理費を加えるだけのシンプルなものではないのです。

このような状況が初期の段階で発覚すれば、介入も可能でしょう。対策を何も取られなければ、商品の価格はまったく利益がでないところまで下がっていきます。価格戦争が始まって以来、収益で平均3.9%の減少がみられます。しかしながら、介入が間に合えば、収益を減らさなくても済むのです。

競争介入前後の価格変動グラフ
競争への介入前後の価格変動イメージ(青:自社価格の動き、紫:競合価格の動き)

無意味な価格戦争を避けるには

どの業界でもテクノロジーが大きな役割を果たしていますが、小売業界でも同じです。意味のない価格戦争を避けるためには、自動価格調整システムを導入することです。市場について少し知識があればできることです。

たとえば、特定の商品に関して、誰が価格変更の鍵を握っているのか特定することができれば、市場をコントロールすることができます。テクノロジーを使って価格変動を観察し、どの販売事業者が価格を設定していて、誰がそれに追随しているかを確認することができます。

Dick'S Sporting Goods(編注:スポーツ用品などの小売事業者)という会社が特定の商品の価格を下げたとしましょう。それにアマゾンが追従したとします。これが引き金になって価格戦争が始まり、競合他社に合わせて見境なく価格を変えていく必要があるのかどうか、その指標が生成されます。価格戦争の指標が高い場合は、競合他社に追従されやすいことを意味します。

この事例の場合、アマゾンが盲目的に価格を自動で変更していることがわかれば、その特定の商品に関してDick' Sporting Goodsが価格をコントロールするリーダーになり、市場価格の引き上げができるようになるのです。価格戦争の指標は、市場価格を下げて利益が縮小していくのを防ぐために利用できるのです。

小売事業者への影響

消費者の購買行動の影響もあり、小売事業者にとって、価格戦争は「早く成長していくか、ゆっくり死んでいくか」という状況を招きました。消費者は完全な価格の透明性を手に入れ、どの小売事業者が最安値で商品を販売しているかをすばやく確認できます。

さらに、オンライン通販事業者が増え、スマートフォンが普及し、価格変更が容易にできるようになったため、状況は激化しています。実店舗で展開する小売事業者にとっては、価格を変更するには物理的にタグや店内案内を変える必要があるため、時間も人手も必要です。

アマゾンは、フライホイール哲学を見てもわかるように、明らかに「早く成長する」ことに軸足を置いています。一方、RadioShackやトイザラスなどは運悪く、「ゆっくり死ぬ」側に落ちてしまいました※1。その中間にいるのが、実店舗を閉鎖している他の多くのビジネスで、その多くは完全に消えてしまうまでに、大切な決断をする必要があります。

※1 編注:RadioShackは米家電量販店、2017年に2度目の破産を申請。米トイザラスは2018年3月に全店舗の閉鎖を発表、日本トイザらスには影響なく継続。

結局、消費者のカスタマージャーニーが始まるオンライン上で競争力を保てない小売事業者は、数年以内には淘汰される可能性が高いのです。スタッフや伝統的な価格調整やエクセルシートが必要な、昔ながらの「実店舗のやり方」では競争できないのです。

価格戦争のなかで生き残るために、小売事業者は以下の3つに注力しましょう。

1. テクノロジーを駆使する

競争を生き抜き、消費者の購買ペースに合わせてスケールアップするには、テクノロジーを駆使する必要があります。テクノロジーは実際のビジネスの目標をサポートするものでなくてはいけません。だからといって、小売事業者はオンラインでのみ販売しなくてはいけない、というわけではありません。

百貨店のNordstrom(ノードストーム)を例に取ってみましょう。ECが始まる前から、ノードストームは同社のビジネス戦略の1つである、卓越したお客様サービスで有名でした。今では店舗でのカスタマーエクスペリエンスをECと融合させ、オンラインで存在感を増しています。

たとえば、ノードストームの店舗で300ドルの靴をレジに持って行ったとしましょう。すると、オンラインの価格が実店舗にも適用されるため、価格は250ドルになると店員に告げられます。好待遇を受けたあなたは、笑顔でお店を後にするのです。

ホームセンターのLowe'sも良い例です。同社の利用者の60%はオンラインで注文し、店舗で受け取りをするそうです。そのうち40%は、店舗で平均80ドルの追加の買い物をします。

Lowe'sにとってもテクノロジーが重要な役割を果たしています。どの商品がオンライン注文と店舗受け取りに向いているのかを分析することによって、配送コストを削減するとともに、消費者が店舗で追加の買い物をする機会を増やしています。消費者は、店舗にいる時は価格よりも利便性に注目するようになり、知識豊富なLowe'sスタッフのサービスに影響されてさらに店舗で購入します。

2. 売上原価と配送変動費

現在の価格戦争の中で自分たちがどこに位置するのかを分析する時、小売事業者は商品の価格以外のことも考えなければいけません。小売事業者にとっては、売上原価がさらに重要度を増しています。当たり前ですが、さまざまなブランドや企業と価格交渉ができれば、値下げが利益に影響を与えることが少なくなります。

配送に関しては、消費者に店舗での受け取りを促すことによって、限界利益を引き上げることができるでしょう。

たとえばウォルマートは、店舗受け取りをする消費者には割引を提供することで、配送コストを削減しています。そうすることで、利用者にポジティブな印象を与えることができます。また同時に、Lowe'sの例のように、店舗に来た際に買い物をしてもらえる機会が増えるのです。

3. プライベートブランドと限定商品

プライベートブランドの商品を販売する小売事業者は、製造コストのみを気にすればいいため、価格戦争の影響を最小限にとどめることができます。

有名なプライベートブランドには、ターゲットのArcher FarmsやMarket Pantry、コストコのKirkland Signature、メイシーズのAlfani、Epic Threads、American Ragなどがあります。

小売事業者も、第三者の限定ブランドを販売することで、同じような状況が作れるでしょう。Behrのペンキがホームデポでしか購入できないとしたら、消費者は喜んで割高のペンキを購入するはずです。

ブランドへの悪影響を最小限にする6つのポイント

小売の価格戦争は、事業者のみならずブランドにも影響を与えます。悪影響を最小限にとどめるためにブランドができるのは以下のことです。

1. ハイブリッドな販売戦略

アマゾンのような小売サイトで販売するブランドにとって、多様な販売戦略を持つことは不可欠です。可能であれば、第一者(2日以内無料配送が含まれるアマゾンプライムを有効に活用するため)、第三者(自社倉庫から商品を配送する)と自社販売(自社サイトで販売し、配送まで行う)の選択肢を持つべきです。

ハイブリッド戦略があれば、よりフレキシブルに誠実に対応できます。たとえば、第三者への販売であれば、ブランド側で価格を設定することができますし、自社販売であれば、他のどこでも提供されていない限定割引を行うこともできるのです。

2. 小売事業者と組んで限定商品を販売

限定商品が小売事業者にとって利益をもたらすことは前述しましたが、ブランドにもメリットがあります。他では手に入らない商品であれば、消費者は高いお金を払います。つまり、ブランドは健全なマージンを乗せて商品を小売事業者に販売できるのです。

3. オンラインに最適化したパッケージ

消費者のことを考えてパッケージを最適化するのは、オンラインで売り上げを伸ばすための方法の1つです。スーパーでは10本入りで販売されているグラノーラバーが、Sam' Clubやコストコでは24本か48本入りの巨大サイズで販売されているとしたら、配送に便利な4本入りで販売することを検討するのもいいでしょう。

4. ピンポイントマーケティング

テレビコーマシャルのような大規模な広告や、従来のマーケティングにお金を費やすのではなく、よりピンポイントでリターンの高い投資をするべきです。アマゾンマーケティングサービスなどのデジタル広告ツールを使って、より利益率の高い商品の認知度とコンバージョンを高めましょう。

5. 合わせ買い

単品での限界利益を理解し、リアルタイムのマーケティングインサイトを通じて、商品同士の親和性を特定できれば、利益の低い商品と高い商品を合わせて購入できるよう、合わせ買いを提供できます。

6. メーカー小売希望価格と管理体制

小売希望価格に関する厳しい方針を打ち出し、小売・卸売り契約に盛り込んだうえで、違反がないかどうかを積極的に監視する必要があります。このような話題はうまく仕切る必要がありますが、ブランド側はリアルタイムの監視機能とデータを準備して、交渉を有利に進め、違反している小売事業者に態度を改めてもらうようにしましょう。

消費者への影響

小売の価格戦争は、「購入者自身が注意する」という戦略に落ち着くでしょう。オンライン上の価格は頻繁に変わるため、消費者は最低価格で最良の商品を手に入れるため、常にいくつものお店をチェックしなければいけません。

ここでもショールーミングが大きな鍵を握ります。ほとんどの人が、実店舗内で商品の購入を検討している際、最終決断の前にスマートフォンを取り出して、価格を確認したことがあると思います。

そのような購買行動がすぐに変わることはないでしょう。消費者は、欲しいものをできる限り低価格で手に入れるために、色々な方法を今後も見つけるでしょう。

だからといって、小売事業者が常に競争のプレッシャーにさらされるわけではありません。価格競争をすれば、短期的に売り上げが上がるかもしれませんが、長期的には、利益率が下がり、小売事業者、ブランド、ひいては業界全体にとって好ましくない状況になるのです。

消費者がテクノロジーを利用して低価格を探すように、小売事業者やブランドもテクノロジーを駆使してトレンドを注視し、機会を見つけたらアクションを起こして、価格戦争が始まる前に手を打つようにしましょう。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア「Internet RETAILER」の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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