自社ECサイトが音声ショッピングに対応する方法は?「取材記事」+「メガネスーパー、ecbeing、Amazon Payの鼎談」で徹底解説
日本でネット通販が本格化したのが1996年。それから22年。ついに、自社ECサイトでも音声で買い物ができる時代がやってきた。音声による注文から決済までを一連の体験として提供するeコマース「音声ショッピング」の実現を、決済面からサポートするのがAmazonの決済サービス「Amazon Pay」。今回の記事では、前半で「Amazon Pay」に対応したAlexaスキルで可能になる「音声ショッピング」の概要を解説。後半はメガネスーパー、ecbeing、Amazon Payという座組で、このほどスタートした音声ショッピングがもたらす価値などを鼎談形式で紹介する。 写真◎渡 徳博(wit)
EC事業者が音声ショッピングを実現する方法は?
2018年10月、出前館、JTB、京橋ワインといった大手ECサイトが「音声ショッピングに対応します」といった取り組みを相次いで開始した。各社の共通点は、Amazonのクラウドベースの音声サービス「Amazon Alexa」が搭載されたスマートスピーカー「Amazon Echoシリーズ」に話しかけ、会話を通じて商品を選択しながら決済までできるというもの。この音声ショッピングを可能にするのが、「Amazon Pay」が組み込まれた「Alexaスキル」の存在だ。
たとえば「京橋ワイン」。Alexaスキル「京橋ワイン」をAlexaアプリ上やWeb版の「alexa.amazon.co.jp」で有効にしたうえで、Echoシリーズのデバイスに「アレクサ、京橋ワインを開いて」と話しかけると、音声による注文がスタート。シーズンごとのお薦めワインや、セット内容の詳細確認などが行える。年齢確認をすれば、最終的に音声で注文し、決済まで完了できる。決済には認証コードが設定可能なので、セキュリティ対策も万全と言える。
スクリーン付きスマートスピーカー「Echo Spot」や、10.1インチのHDタッチスクリーン搭載のスマートスピーカー「Echo Show」であれば、音声で選択している商品の詳細をスクリーンで確認できるのでさらに便利だ。
Alexaスキル「出前館」では、Alexaアプリ上やWeb版の「alexa.amazon.co.jp」でスキルを有効にしたうえで、「Echo Spot」や「Echo Show」に「アレクサ、出前館をひらいて」と話しかけると、それぞれのスクリーンサイズにカスタマイズされた出前館の注文画面をスクリーンに表示。画面を見ながら音声で出前注文し、決済まで完了できるようにしている。決済はもちろん、「Amazon Pay」を通じた支払いとなる。
このような音声ショッピングに対応するには、事業者はまずAlexaスキル(クラウド内で実行されるアプリ)を開発しなければならない。そして、顧客がAmazonアカウントの情報を使って簡単に決済できるようにするため、Alexaスキルに「Amazon Pay」を導入する必要がある。
「Amazon Pay」とは、Amazonアカウントに登録されたクレジットカード情報やユーザー情報を使い、Amazon以外のECサイトでログインや決済を行えるサービスで、この「Amazon Pay」をAlexaスキルに組み込む仕組みは「Alexaスキル向けAmazon Pay」と呼ばれる。
ECサイトを運営する各事業者は、Alexaスキル開発者や、自社のECサイトに導入しているEC構築パッケージの開発会社などと連携して、「Amazon Pay」に対応したAlexaスキルの開発を進めたという。
たとえば、京橋ワインは開発会社のSBWorksと協業して「Alexaスキル」を開発し、SALVATORE CUOMOのピザを音声でデリバリーできるようにしたワイズテーブルコーポレーションはAlexaスキル開発パートナーのエキサイトと協業して「Alexaスキル」を開発している。
「Amazon Pay」に対応したAlexaスキルを提供している事業者は以下の通り(12月17日時点)。また、12月に「Alexaスキル向けAmazon Pay」を、日本の販売事業者および開発者に一般公開。これらの開発情報が広く利用できるようになった。
Alexaスキル向けAmazon Pay
- ワインのECサイト「京橋ワイン」)(運営:ワインキュレーション)
- 声で出前が行える「出前館」(運営:夢の街創造委員会)
- オリジナルギフトブランドを販売する「リンベルショップ」(運営:RINGBELL Co.,Ltd)
- ピザを音声でデリバリーできる「PIZZA SALVATORE CUOMO」(運営:Y's table corporation)
- 日本全国約2,000施設のレジャーチケットを音声で購入「JTBおでかけチケット」(運営:JTB)
- 音声でコンタクトレンズを簡単に再注文「メガネスーパー」(運営:メガネスーパー)
- 音声で寄附も簡単便利に「日本赤十字社」(運営:日本赤十字社)
- 寄付先自治体と返礼品を選んでふるさと納税ができる「ふるさとチョイス」(運営:トラストバンク)
この中で取り上げたメガネスーパーは、ecbeingのECサイト構築パッケージを通じて、「Alexaスキル向けAmazon Pay」に対応した。事業者、ECサイト構築パッケージ、Amazonの3者で始まった「音声ショッピング」による新たな価値の可能性に触れた鼎談を見てみよう。
【音声ショッピングの対応事例】
メガネスーパーが音声ショッピングに対応した理由と狙い、顧客にもたらす価値とは
~メガネスーパー川添氏、ecbeing林社長、アマゾンジャパン井野川氏が鼎談~
「Alexaスキル向けAmazon Pay」を導入する企業にはどんな狙いがあり、どんな効果を求めているのか。「Amazon Pay」に対応したAlexaスキルの開発の裏側で苦労したことはどんなことか。そして、音声ショッピングを顧客へ提供する価値とは何なのか。
そこで、「Alexaスキル向けAmazon Pay」を導入した1社メガネスーパーの親会社であるビジョナリーホールディングス 執行役員 デジタルエクスペリエンス事業本部 本部長の川添隆氏に加え、同社の「Amazon Pay」対応やAlexaスキルの開発を手がけたecbeing代表取締役社長の林雅也氏、そして事業者の決済をサポートするアマゾンジャパンAmazon Pay事業本部 本部長の井野川拓也氏による鼎談を実施。「Alexaスキル向けAmazon Pay」を使った音声ショッピングのスタートにあたり、それぞれの立場から語ってもらった。
音声が切り開く新しいネット通販の可能性
メガネスーパー 川添氏(以下、川添):メガネスーパーが音声ショッピングを開始したのは、時代の流れに合わせて、お客さまに簡単かつ手軽に商品購入できる仕組みを増やしていくためです。今回開始した音声ショッピングで提供するのはコンタクトレンズのリピート購入。前回と同じ度数のコンタクトレンズを欲しいときに声で注文し、届けてくれるのは便利ですよね。前々から音声ショッピングを始めたいと考えていたところ、ecbeingさん、Amazonさんからいいタイミングでお声がけいただきました。
ecbeing林雅也社長(以下、林):Alexaが搭載されたスマートスピーカーの「Echo」に話しかけるだけでニュースや音楽が聞けるのは、スマホやリモコンを取り出して操作をするよりも初動がすごく楽。こうした技術開発をサポートするうえで、引き続き改善を重ねなければならない部分もありますが、音声を通じた購買体験の提供は、今後浸透していきそうですよね。
アマゾンジャパン 井野川拓也氏(以下、井野川):会話形式で商品を検索したり、ショッピングができるようになれば、どなたにとっても便利な購買方法になるのではないかと私は思っています。
川添:林さんがおっしゃるように、音声がきっかけとなる“体験”のお客さまメリットは「初動が早い」ですよね。何か瞬間的に思ったこと、行動しないといけないと思ったことを、発話によってすぐにスタートできる。僕は以前から考えていたことがあります。それは、小売事業者は“瞬間、瞬間”を捉えなければいけないということです。
デバイスの進化、時代の変化によってその“瞬間、瞬間”がどんどん短くなってきています。今の時代、お客さまが何かをしたいと思い、検索したり購買行動を起こしたりするとき、事業者側がその”瞬間”に応えることができないと、次のチャンスはなかなか巡ってこない。なぜなら、お客さまはその“瞬間、瞬間”で思ったことを実現できないと、代替手段を採るか、本質的に必需品じゃない限りは行動をやめてしまうからです。すなわち、事業者にとって失客してしまうということです。“瞬間、瞬間”を捉えるには、お客さまが発した言葉や想いにできるかぎり早期に対応できるようにすることが重要になりますよね。
林:アイケアサービスに注力されているメガネスーパーさんとしては、音声はかなり重要な分野ですよね。スマホをずっと見ているより、Echoに話しかけた方が目に良さそうですし、サポートもしやすそう。音声でのやり取りで分からないとなったときに、動画閲覧の案内など、スマホだけのコミュニケーションとは異なった商品説明ができるようになるのではないでしょうか。対話式のサポートの中から画像や動画が出てくると、商品の理解度はぐっと高まりそうですよね。
川添:ファッションのECサイトでは返品OKといったサービスが増えてきました。先日聞いた話では、あるECサイトを愛用するお客さまの中には、年間購買額では上位であるものの、注文した商品の70%を返品する人がいるようなのです。そのお客さまのインサイトを聞いていくと、周りのママ友を自宅に呼んで試着会をやっているとのこと。こういった例を聞くと、今後の音声ショッピングにおいても友だち同士、もしくは家族でカタログを見ながら「何番を注文しておいて」といったショッピング形態も普及していきそうですよね。
林:割り込み機能のようなものがあれば、「そのメガネが良さそうだから、私も購入したい」という何気ない会話の流れから、複数人が音声ショッピングできる可能性も出てきそうですね。
川添:嗜好性が高い商品を、複数の人でワイワイお話ししながら吟味して購入する。それはとても楽しい買い物体験ですよね。ECサイトにおける購入デバイスがモバイルに移行しても、買い物の最後の瞬間は1人で完結されるケースが多いと想定されます。一方、実店舗でのショッピングは、友達や家族と一緒に盛り上がりながら買い物を楽しむ人が多いような印象があります。こうした買い物シーンの実現がオフラインでも音声によってできるようになるかもしれない。すごい時代ですよね。
音声ショッピングは新しい価値を消費者に提供できる
――メガネスーパーはEC事業者、Amazonは「Alexaスキル向けAmazon Pay」の開発情報を提供し、ecbeingはAlexaスキルの開発を担われたということですが、それぞれの立場から、「Alexaスキル向けAmazon Pay」についてお話ください。
林:音声ショッピングは今後、どんどん発展していくと思うのですが、今は黎明期。相応数のお客さまが音声でショッピングを始めるようになると、大きく広がる時期がやってくるのではないかと期待しています。今では買い物でPCやスマホを当たり前のように使うのと同じように、声を通じてより簡単にショッピングしたいというニーズが高まる時がきっとやってくるはずです。
それを踏まえ、開発会社の立場から2つのことを考えています。1つ目はEC事業者の皆さまが音声ショッピングにより簡便に対応できる環境を提供しなければいけないと思っています。ecbeingはECパッケージの開発・販売を手がけていますので、まずは弊社のサービスを利用されている導入企業が取り組みやすい環境を整えていきたいですね。
2つ目は、事業者のイノベーションのお手伝いをしていくことです。スマホの普及に伴って、電話、ネットショッピング、バーコードスキャンなど、さまざまな用途でスマホが活用されています。恐らく、Alexaスキルも今後、当初は想定されていなかったような使われ方をされていく可能性があるのではないかなと思っています。
Amazon Payを組み込んだAlexaスキルの開発が始まったように、EC事業者はAlexaスキルを活用することでビジネスの幅を大きく広げる可能性があると感じています。新しいイノベーションを起こしていかなければ成長は難しい時代になっている今だからこそ、ecbeingはこれからの可能性に期待が高まる“音声ショッピング”に対応するための開発を通じて、EC事業者の皆様のイノベーションのお手伝いをしてきたいです。
井野川:Amazonは、「地球上で最もお客さまを大切にする企業であること」という企業理念のもと、さまざまなお客さまのニーズにお応えしていきたいと常に考えています。PCやスマホで買い物をしたいときもあれば、音声を通じてもっと手軽に買い物をしたいというケースも今後、増えてくるでしょう。お客さまがいろいろな方法で買い物できる選択肢を増やせるよう、決済という観点から多くのことに取り組んでいきたいですね。1人ひとりのお客さまのニーズや生活スタイルに合わせて、より便利で快適にお買い物や決済ができるオプションを広げていきたいと思っています。
川添:小売事業者として、お客さまに対して“違和感がない”“ストレスがない”買い物環境を提供したいと常々考えてきました。今の小売りはどうしても価格を重視してしまいがちで、当社も過去にはその傾向にありました。しかし、これからの小売り事業者は適正な価格だけでなく、お客さまに手軽さ、安心、信頼といった付加価値を提供していかなければいけません。
Amazonがアメリカで運営するレジのない店舗「Amazon Go」に行った人たちに話を聞くと、利用者は最初、商品の値段を確認するけれども、2~3回目には値段を気にせずに買い物をしていると聞きます。それは、買いやすさや、安心、手軽さといった価格以上の価値が生まれてくるからだと思います。私の仮説にはなりますが、お客さまが感じる“価値”が、価格などの商品情報を上回れば、購買決断に至るということです。メガネスーパーもそうしたお客さまが感じる価値を生み出していくことに力を注いでいます。
コンタクトレンズはリピート性が高い商品であるものの、「買わなきゃいけないモノを買うという行為」自体は楽しいことではなく、むしろ面倒と感じる人が多いでしょう。だからこそ「簡単にコンタクトレンズを注文したい」というお客さまのニーズに対応するために、今回、音声ショッピングを開始しました。新たな注文方法や受取方法、決済手段の導入で、コンタクトレンズ販売におけるさらなる利便性の向上を図ります。
「Alexaスキル向けAmazon Pay」を使った音声ショッピングの開発話、「PC、スマホと全く異なる購買フロー」
――「Alexaスキル向けAmazon Pay」の開発にあたってわかったこと、感じたことなどを教えてください。
林:今までECサイトで当たり前だった買い物ステップが、音声ショッピングではまったく異なるのですから、開発は大変でしたね。ECサイトでは、商品詳細ページで買い物カゴに入れて、確認画面を見て、決済といった購入フローが一般的ですが、音声ショッピングではこの流れが異なります。たとえば、ECサイトでは確認画面をPCやスマホの画面に表示させていましたが、音声ショッピングでは買い物内容を読み上げて、確認を取るといったことが必要になります。メガネスーパーの場合、「ecbeing」を導入されているので、「ecbeing」と連動するAlexaスキルとして、開発しました。
個人的に開発を通じて感じたことですが、Alexaスキルを活用した精度の高い対話型音声ショッピングは十分実現できそうだなと思いました。会話のデータに基づいて商品を音声やスクリーンでお薦めするといった方法など、これまでのECサイトとは違った買い物体験を提供できるような気がしています。
川添:「Alexaスキル向けAmazon Pay」の導入で感じたのは、EC事業者はインターフェースに注意しないといけないということですね。発話によるインプットに対して、Alexa搭載の「Echo」がアウトプットするわけですが、今、始まったばかりの音声ショッピングなので、当然ながら思うように対話が進まないケースが出てきます。
具体的には、手順が複雑になったり、Echo側のアウトプットが長すぎてしまうと煩わしさにつながるでしょう。ですので、EC事業者側ではスキルを提供するうえで、インプット、それに対応するアウトプットの精度を上げる、つまり接客スキルを磨くといったことが求められそうです。
井野川:Amazonとしては「Alexaスキル向けAmazon Pay」を通じて、パソコン、スマホに加え、近い将来、Amazon Payが組み込まれたAlexaスキルを通じた音声が買い物方法の新しい選択肢になっていくことで、お客さまとEC事業者の皆さまの接点がどんどん増えていけばいいなと思っています。お客さまと事業者やAmazonとの接点がさらに増えていく中で、スムーズな決済というテクノロジーの提供を通じて皆さまの利便性向上に貢献したいと考えています。