Digital Commerce 360 2021/1/28 9:00

現在のダイバーシティと平等に対する企業の取り組みを見ると、口先ばかりで行動が伴っていないと言わざるを得ません。それは大変な作業でしょう。ダイバーシティに関して数年にわたり十分に予算をかけるなど、主体的な努力が必要だからです。企業が「ダイバーシティと平等性の促進」を行動に移す必要性や、現状について紹介します。

2020年に発生した2つの象徴的な出来事

人種平等とダイバーシティにおける議論が加速

現在のダイバーシティと平等に対する企業の取り組みを見ると、口先ばかりで行動が伴っていないと言えます。これは、さまざまな業界やセクターにおける従業員と役員のダイバーシティと平等に関して、幅広いデータを新しく取りまとめた際に出した本稿の筆者による結論です。

私の研究は、2020年に発生した2つの出来事をきっかけに前進しました。1つ目は、米国で女性の選挙権が100周年を迎えたこと(英国ではアメリカより2年早い、1918年に多くの女性が選挙権獲得)。2つ目はミネソタ州で黒人男性のジョージ・フロイド氏が警察に殺害された悲劇です。

いずれの出来事も、社会や企業における女性の平等、そしてあらゆる人種の平等とダイバーシティについて、長年世界中で行われてきた議論を加速させました。企業はこれらの議論に積極的に参加し、抗議活動や「Black Lives Matter運動」への連帯を表明し、女性の権利を求める運動を支持するというメッセージを公言しました。

NIKEによる抗議メッセージ動画

あらゆるブランドがいち早くこれらの運動への支持を表明し、慎重に作られたブランド価値やブランドの目的を雄弁に表現しました。しかし、公言している価値観や目的を守っている企業がどの程度いるでしょうか? 自社内で、従業員ランキングを始めとする人種差別や不平等を解決するためのアクションにどのくらい予算を割いているでしょうか? 単なるリップサービスの企業はいないでしょうか? もっと端的に言えば、取り組みは洗脳の一環によるものないでしょうか?

業界別、平等性とダイバーシティーへの取り組み状況

こうした事象を探る1つの方法は、さまざまな業界における平等性とダイバーシティの現在のレベルを確認することです。

多様で包括的な人材を採用しているか? 女性や有色人種の従業員に平等な機会とキャリア支援を提供しているか? 女性や有色人種の従業員が、経営陣や役員会のメンバーになっているか? これらの質問を確認することで、差別の規模や企業が取るべき措置を明らかにすることができます。

私が調査した企業は、フォーチュン500社(米フォーチュン誌が年1回編集・発行するリストの1つ。全米上位500社がその総収入に基づきランキングされる)と、S&P500社(ニューヨーク証券取引所やナスダックに上場する米国の主要産業を代表する500社)で、一般に公開されているデータが容易に入手できる国際的な組織ばかりです。監査法人のデロイト、フォーチュン誌、4つの指導的組織から構成する「Alliance for Board Diversity」、CEOなどの経営幹部をサポートする「Crist Kolder Associates」に加え、米国と英国のさまざまな政府のデータも含めて調査しました。

米国企業におけるマイノリティの割合は?

下のグラフは、フォーチュン500社とS&P500社のさまざまな業種におけるマイノリティの割合を示すと同時に、米国におけるマイノリティのCEO、CFO、取締役会の議席、およびマイノリティ人材の割合を示しています(最後の項目は地域によって数字が大きく異なります)。

マイノリティは米国の労働人口の約37%を占めていますが、CEO、CFO、取締役会の議席に占める割合は10%未満です。金融サービスなど一部の業界では、全体の平均よりもはるかに低い結果となっています。

また金融サービスのCEOのうち、マイノリティの割合は4%以下にとどまっています。この原稿を執筆している時点で、フォーチュン500社の中に黒人のCEOは4人しかおらず、その数は近年減少しています。

従業員、及び経営層における米国企業のダイバーシティにおけるフォーチュン500社とS&P500社の業界ごとの統計
従業員、及び経営層における米国企業のダイバーシティにおけるフォーチュン500社とS&P500社の業界ごとの統計(出典:米国労働省、Deloitte、フォーチュン誌、Alliance for Board Diversity、Kolder Associates。画像は「The shocking reality of corporate diversity and equality is a brand crisis」より編集部が作成)

英国のデータでも同様の結果が出ています。FTSE(ロンドン証券取引所に上場する銘柄のうち時価総額上位100銘柄で構成される、時価総額加重平均型株価指数企業)の中で、マイノリティのCEOを擁しているのは約6%。37%は取締役会にマイノリティがいません。

業種・役割別の女性の割合は?

以下は、さまざまな業種や役割における女性の割合について、同様の分析を行ったものです。米国の労働人口の約47%が女性ですが、フォーチュン500社とS&P500社のCEOのうち女性は約6%、CFOもわずか13%です。取締役会の議席は、約23%を女性が占めています。

繰り返しになりますが、業界によってかなりのばらつきがあります。ライフサイエンスとヘルスケアは最も割合が低く、消費財の方がはるかに高い割合です。

米国の従業員、及び経営層における女性の代表性におけるフォーチュン500社とS&P500社の業界ごとの統計
米国の従業員、及び経営層における女性の代表性におけるフォーチュン500社とS&P500社の業界ごとの統計(出典:米国労働省、Deloitte、フォーチュン誌、Alliance for Board Diversity、Kolder Associates。画像は「The shocking reality of corporate diversity and equality is a brand crisis」より編集部が作成

英フィナンシャル・タイムズ証券取引所(FTSE)に上場している企業では、CEOの約5%と、最高財務責任者(CFO)の20%弱が女性です。取締役会の議席は、約3分の1を女性が占めています。

データが語る「ブランドの危機」

このデータに対する合理的な反応は、失望か怒りのどちらかでしょう。多様性と平等の実現が企業にとって最優先事項ではないのか、あるいは克服が困難な問題が発生しているのか。もしくはその両方が重なっていることは明らかです。

人種差別や男女差別には、複雑で根深い原因が数多く存在していることは間違いありません。一方、平等と多様性の推進を公言しているブランドは、自分たちが何者で、どのように変化を促進していくのかを正直に評価しなければならないことも事実です。このような意志と意図がなければ、もしくは、真摯な意図があったとしても、ブランドの約束は空虚なものになってしまうかもしれません。

これらの重要な問題について、ブランドが語ることと実際の行動の間には大きなギャップがあり、それには誰もが気づいているでしょう。それがブランドの信頼を蝕んでいるのです。

エデルマンが長年にわたって実施している信頼度バロメーター調査のデータが、このことを裏付けています。

ブランドへの信頼度は、過去最低レベルにまで低下しています。ブランドはこれらの問題についてより多くのことを語るのではなく、より多くの行動を起こす必要があります。これは大変な作業です。問題を解決するためには、単にチーフダイバーシティオフィサーとインターンを雇うだけではなく、数年にわたって、十分な予算確保と主体的な努力が必要です。

そしてそれを達成するには、ブランドの明確な目的と、その目的を達成するための具体的な活動へのコミットメントが必要です。まずは社内と向き合い、組織の行動に責任を持たせることから始めましょう。

「進歩のために行動を起こす」という意図を目に見える形で表現し、ブランドを活性化させるのです。経営陣のサポートがあって初めて、ブランドはこの仕事を全うできます。ブランドのリーダーは、組織が現在どのような状況にあるのか、問題を解決するためにどのようなステップを踏むべきかを率直に語り、最初の一歩を踏み出す必要があります。

◇   ◇   ◇

ブランドは、志を同じくする他の組織と協力して強力なネットワークを形成し、システム的な社会問題に取り組み、変革のためのムーブメントを生み出すことができます。ロイヤルカスタマーとやる気のある従業員達が、自分たちの価値観を認めてくれる組織に報いてくれるでしょう。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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