自社EC売上23%増に貢献、アダストリアが推進する「オンライン接客」とは?
「グローバルワーク」や「ローリーズファーム」といった人気アパレルブランドを展開するアダストリア。2021年2月期におけるEC売上高は前期比23.4%増の538億円で、EC化率は同10.1ポイント増の30.6%と伸長している。コロナ禍でリアル店舗が苦境に立たされる中、EC販売を後押ししたのが店舗スタッフによるオンライン接客や、スタッフ個人のスタイリングを投稿する「STAFF BOARD(スタッフボード)」の強化だ。アダストリアのデジタル戦略における概要や、店舗スタッフと顧客のつながりを作るサービスについて、アダストリアの田中順一氏(執行役員 マーケティング本部長)が解説した。
公式WEBストア「.st」の概要とデジタル化を進めるためのポイント
アダストリアが展開する公式WEBストア「.st(ドットエスティ)」の、2013年時点の会員数は100万人程だったが、2021年には延べ1170万人以上と大きく成長。「.st」は、アダストリアのオムニチャネル推進における、重要な顧客接点と位置づけられている。
企業のデジタル化において、デジタル利用を目的とするのではなく、「デジタルはあくまで“手段”と捉えることが大事」と話すのは、2011年のアダストリア入社以来、EC事業を中心にキャリアを積んできた田中順一氏(執行役員 マーケティング本部長)だ。
デジタル化を進める上で、田中氏は次のことを意識しているという。
1つ目は、「目先の売り上げではなく、つながりやストックを重視する」こと。
ECの場合、タイムセールやクーポンなどの施策を打つことで売り上げのトップラインを立てやすい。一方で、データ分析のためにはある程度会員数のストックが必要になる。「.st」では、短期的な売り上げより、メルマガの会員数やアプリのダウンロード数、各種SNSのフォロワー数などのストックに重点を置いている。(田中氏)
2つ目は、「改善を前提にトライアルを積み重ねる」こと。
デジタル系の施策は、やってみてすぐに成果が出るものではない。中長期的な目線が必要で、リリースして各種の数字を見ながら改善することを意識している。この発想はデジタルを“手段”として捉える際の前提にもなる。(田中氏)
こうした考えを基に、アダストリアではブランド・モノ、チャネル、従業員、パーソナライズといったそれぞれの顧客接点のアップデートに注力しているという。
「顧客の声」を反映する仕組みとは?
そのアップデートの取り組みに欠かせないのが、「顧客の声」だ。アダストリアでは3つのアプローチで「顧客の声」の収集に努めている。
たとえば、「.st」上では商品購入後に自由記述でコメントを送れるようになっており、毎日300件ほどの回答が寄せられる。店舗も同様に日々顧客の声を拾いあげている。
そのほかにも年2回、NPS(ネット・プロモーター・スコア)を用いて顧客満足度を可視化。上位顧客のNPSスコアの変化や、スタイリングの質やサイトの使いやすさなどを定量化している。デジタル周りでもECデータに加え、こうした顧客の生の声や意見に耳を傾けて改善に反映させている。(田中氏)
店舗スタッフの働き方をアップデート
2000人以上が参加する「STAFF BOARD」
デジタル時代の顧客の在り方にあわせ、店舗スタッフの働き方もアップデートしている。スタッフ個人がモデルとなりスタイリングやおススメアイテムを投稿する「STAFF BOARD」もその1つ。顧客にとっては身長や体形などが近しい等身大のスタイリングを見つけられるメリットがある。現在、店舗スタッフ約3000名が「STAFF BOARD」に投稿しているという。
「STAFF BOARD」には、店頭スタッフのEC売上貢献度合いを可視化するソリューション「STAFF START」が採用されており、スタイリング経由の売り上げを個人売上に紐付けられるようになっている。一部スタッフは、個人のInstagram(インスタグラム)とも連携できる仕組みだという。
「.st」アプリには、お気に入りスタッフをフォローする機能も搭載している。この取り組みは、スタッフをフォローしているユーザー属性を可視化する狙いもある。
今後、店舗スタッフとお客さまとのつながりが増えることを見越して、マッチング傾向の分析を進めている。どのようなお客さまに好かれる傾向があるか把握できれば、店舗スタッフはその内容に沿ったアピールもできるようになる。(田中氏)
店舗業務のオンライン化も加速
Instagramを通じたオンライン接客の事例
もう1つコロナ禍で加速したのが、Instagramを活用したオンライン接客だ。2020年6月には、4夜連続でインスタライブを実施。21ブランドが、リレー形式でSALEアイテムを紹介する番組を配信した。
同時期にアダストリアでは、「.st CHANNEL(ドットエスティ・チャンネル)」を立ち上げInstagramで配信したコンテンツの事後視聴ができるよう整備している。
アダストリアでは、必ず店舗スタッフが介在する形でオンライン接客を行っている。
リアルタイムかアーカイブか、顧客1人向けかN(不特定多数に)向けかといった切り口でオンライン接客の要素を分解し、トライアルを重ねている。(田中氏)
たとえば、上位顧客が存在する高単価のブランドでは、実店舗と顧客1人ひとりをつなぐ個別のLIVE接客を実施している。一方、不特定多数に向けては、Instagramや「.st」上でのライブ配信を強化。ソーシャルディスタンスを保って実店舗での買い物ができるよう、あらかじめオンラインで来店予約をした上で、店頭での対面接客が受けられるサービスも行っている。
オンラインでは着用感やサイズがわかりにくいという声を受け、EC上の動画コンテンツの拡充も行った。ECの商品詳細ページに着用時の動画や、全身のコーディネート動画をアップし、お客さまに確認いただけるようにした。(田中氏)
身長155cm未満の女性に向けたライブ配信を企画
パーソナライズ・個別化の事例
データを活用し、「サイト」「配信」「プロモーション」といった3つのセグメントにおけるパーソナライズの取り組みも進めている。
その取り組みの一例となるのが、身長155cm未満の女性を対象としたライブ配信。配信担当として155cm未満の店舗スタッフをアサインし、よりお客さまに合ったスタイリング情報を伝えるようにした。(田中氏)
顧客のニーズに合わせる取り組みによって、数値にも変化が表れているという。
一斉配信ではなく、お客さまのニーズにあったコンテンツを届けることで、CTRやコンバージョンも変わっていく。地道な取り組みだが改善を重ね、お客さまの要望に応えるサービスを提供していきたい。(田中氏)
さらに、チャネルのアップデートに関してもコロナ禍で気づきがあったと田中氏は続ける。
従来、オムニチャネルの取り組みはECと実店舗といった場所で定義されることが多かった。しかし、コロナ禍で在宅勤務やオンライン会議など働き方の多様化が進み、その様子を見た時に、改めて中心にあるのはヒトで、私たちが状況や利便性に応じてチャネルを使い分けているのだと気づかされた。
これからチャネル融合を進める際は、必ずヒトを中心に置いて、そのヒトがチャネルを使い分ける時にどういった動きをするのか、カスタマージャーニーを意識して体験のアップデートを進めたい。(田中氏)
アダストリアでは今後もマーケティング本部を中心としたモノ・ブランドのアップデートに加え、デジタル部門によるデータに基づいた店舗スタッフの働き方やチャネルのアップデート、さらにパーソナライズ化に取り組む方針で、顧客接点の向上を図っていくという。