実践から組織と人材をつくる! Eコマースの「戦略づくり」「業務づくり」のポイント
コロナ禍において、物販を営む多くの企業が、ECに本腰を入れようと考え始められていると思います。今回はEC事業を始める前の「戦略づくり」と、事業を成長させるための「業務づくり」について、前編・後編に分けて解説します。
これから紹介していくポイントは以下の5つです。
今回
① EC事業をスタートするときに考えたい、自社の「ポジショニング」
② EC事業の成長は「立ち位置を決め、見つけて、育てて、広げる」の4ステップで
③ まずはバッターボックスに立とう(既存事業がある中でのEC運用のコツ)
次回
④ EC事業の集客は「3+1」。自社でどの集客手段にフォーカスするかを考える
⑤「売れているものを“少しだけ良くして”売る」商品企画の鉄則と実践方法
① EC事業をスタートするときに考えたい、自社の「ポジショニング」
EC事業に取り組むための体制を作り、「いざEコマース市場に参入!」というとき、まず知っておきたいのが「ポジショニング」の考え方です。ページ制作やSNS活用など、ECというとノウハウや手段が注目されがちですが、ポジショニングの方が重要です。
ポジショニングとはいわば市場性です。自社がEコマース市場に参入する際、商材の市場ニーズがどれくらいあるか、市場に対しての競合がどれくらいいるのかなどは、Eコマース事業の成長に大きく関わってきます。
「ブルーオーシャン」や「レッドオーシャン」といった言葉をご存じかと思いますが、EC市場に足を踏み入れた時点で事業の成長性がある程度決まってしまうものです。本コラムが対象にしている中小EC事業者のみなさんの多くは、母体となる既存事業があり、その上で新しい販売チャネルとしてEC事業に取り組むため、ある程度、既存事業の商材を引き継ぐことになると思いますが、ポジショニングについては必ず理解をしておきましょう。
ポジショニングを理解する上でイメージしたいのが「釣り場」です。釣り場のどの位置に釣り竿を垂らすかで、その釣果が大きく変わっていきます。もちろん需要と供給の観点から考えれば、魚の数に比べて漁師の数が少ない市場が理想的なのですが、ECは市場の全体像が見えづらいため「どれくらいの市場性があるのか」「どれくらいの競合がいるのか」がわかりづらい部分があります。
ここはある程度、EC事業を回しながら見定めていくしかないのですが、スタート時点では以下の2つに注意をしましょう。
注意点1:
圧倒的に大きなプレーヤーがいないか
1つは自社の商材カテゴリ、同商材を取り扱う競合として、EC市場に圧倒的なプレーヤーがいないか、ということです。たとえ市場(=需要)が大きく、魚の数が多かったとしても、圧倒的な強者がいた場合、後発で小資本の企業が戦うのは難しいでしょう。
この場合に考えたいのは、圧倒的な強者の手の届かない専門性に自社のECのポジショニングを寄せることです。たとえば、「帽子」という商材で圧倒的なプレーヤーがいたとすれば、「キャスケットだけの専門店はどうか」「シニア向けのキャスケットのオリジナル商品はどうか」というように、大きな市場の中で差別化ポイントをつくっていくのです。
注意点2:
後から参入するプレーヤーに可能性があるか
需要と供給のバランスを考えるとき、「いま需要と供給のバランスがどうなっているか」が当然ポジショニングに大きく関わってくるわけですが、同時に「これからの需要と供給のバランスがどうなっていくか」を考えることも重要です。特に、昨今のトレンドであるD2Cの流れで様々な商材カテゴリで自社オリジナル商品の開発が盛んになっています。
ただ、この点についてはこれまで母体となる既存事業をやられてきた中小EC事業者のみなさんは、既存事業での商品開発力や生産体制で競合他社に対して有利なポジショニングを取ることができます。ECのポジショニングを考えるとき、これまでの既存事業として「自社が何を持っているか」を見つめ直すと、ECの市場で勝てる理由が見つかります。
② EC事業の成長は「立ち位置を決め、見つけて、育てて、広げる」の4ステップで
ECの市場と競合を確認し、ポジショニングとしての自社のスタート位置を決めたらEC運営がスタートします。EC事業の成長は 「立ち位置(=ポジショニング)を決め、見つけて、育てて、広げる」の4つのステップで考えましょう。ポジショニングについては上で解説しましたので、ここではそれ以外について解説します。
市場で勝てそうな商品(または商材カテゴリ)を「見つける」
EC事業をスタートしてまず取り組みたいのが市場で勝てる商品を見つけるための運営です。先にも書いたとおり、EC市場というものはあくまでインターネット上にあり、商圏のない世界なので、その全体像がわかりづらいのが現実です。
「競合ネットショップはどこか?」と考えても、明確に答えが出なかったり、そもそも自分たちが競合の存在を知らなかったりする可能性もあります。そのため、まずは行動をして、その行動の結果としてのデータから、自社の勝ち筋を探していく必要があるのです。
そのために、行いたいのがEC事業で取り扱う商品数を増やすことです。健康食品や化粧品などの単品通販の場合におけるECの場合は「提案数を増やす」と考えてみてください。この提案数とはセット売りのパターンや、通常購入と定期購入、サンプルの種類や数、ペルソナの設定バリエーションなどと考えてください。
商品数や提案数を展開した結果から、市場で「勝てそうなポイント」を探していきます。このデータの評価はあくまで自社の商品(もしくは商品カテゴリ)内の比較で構いません。他社との比較を正しくおこなうのは難しく、あまり意味を成しません。
ヒット商品の芽をヒット商品に「育てる」
次のステップは自社ネットショップ内のEC市場で勝てそうな商品を育てることです。②の比較した時点ではその商品は「ヒット商品の芽」でしかありません。この「芽」にさまざまな手をほどこし、より売上と集客に貢献するヒット商品に育てていくのです。「育てる」方法は大きく分けて2つです。
1つは商品ページを作り込むことです。商品の画像を変えたり商品の画像を増やしたり、商品説明文を変えたり。また、お客様の声やブランドの紹介、商品企画のストーリーのコンテンツを加えるという方法もあります。参考になる他社の魅力的な商品ページを参考にしながら、競合との差別性を図っていくと良いでしょう。
もう1つは自社のECサイト内での位置付けを変えることです。サイトのヘッダー、サイドナビ、フッター、メールマガジンなど、ありとあらゆる導線で「ヒット商品の芽」を経由するように仕掛けます。自社のネットショップにアクセスしたお客様が、必ずその商品を目にするよう、サイトを設計するのです。すべてのお客様に「ヒット商品の芽」を見てもらうことを目標にしましょう。
外部から集客をかけて「広げる」
上記2つのステップを踏んだら、外部からの集客をかけてアクセスと売上を広げていきます。当然、EC事業開始当初からインターネット広告やSNSを活用するケースもあると思います、しかし、大事なセオリーとして「立ち位置を決め、見つけて、育てて、広げる」の4つがあることを覚えておいてください。
EC事業の序盤で集客に戦略が偏ると、アクセスはあるのに商品の売れないネットショップができあがってしまいます。いわゆるザルに水を流し込んでいるような状態です。このときに困るのが、「商品が悪かったのか」「提案が悪かったのか」「集客の質が悪かったのか」、売れない理由がわからなくなってしまうことです。
「立ち位置を決め、見つけて、育てて、広げる」の順番を踏んでいれば、結果が上手く出なかった場合に、1つ前のステップに戻って状況を冷静に見返すことができます。
③ まずはバッターボックスに立とう
ここまで紹介した理論を理解するだけでなく、日々実践してPDCAを回していくことがEC事業の成長につながるわけですが、母体となる既存事業を運営しながらEC事業に取り組む中小EC事業者のみなさんが困っているのは、まさにこの部分だと思います。EC事業に対してやる気はあるし必要性も感じている、ただ、日々の運用業務が回らない。ここでつまずいてしまっている事業者の方は多いのではないでしょうか。
母体となる既存事業があり、新しい事業の柱としてECに着手する企業の多くは、ネットショップのメンテナンスや運用業務、ネットショップへの集客戦略など、マーケティングの業務がそれぞれ一応は行われているものの、どれも「点」のマーケティングであり、「線」のマーケティングになっていない傾向があります。ネットショップの商品登録やページ改善、SNSの運用、インターネット広告の活用がそれぞれバラバラに動いているのです。
大切なのはバッターボックスに立って「線」の運用を経験すること。そのために重要なのはスケジューリングです。ECの場合、基点になるのは「新商品の発売日」もしくは「販促企画の開始日」のどちらかです。まずはECチームで基点になる日を設定しましょう。そしてこの日から逆算して、
- 新商品の撮影
- 新商品の入荷
- 販促企画ページの作成
- 企画会議の設定
などのスケジュールを立てていくのです。ただ、スケジューリングはこれだけでは終わりません。次に立てるのは逆算のスケジュールではなく、発売日や開始日以降のスケジュールです。たとえば、
- メールマガジンでの告知
- インターネット広告の活用
- SNSでの情報発信
- 売り切れ前や企画終了前の煽りのページ更新
- など、提案力や集客力をアップさせるための施策が入ってきます。
これらの施策についてもスケジュールをきちんと設定することで、ECの運用業務が点から線に変わっていきます。ぜひ一度、バッターボックスに立ち、現状のECチームでできうる商品と提案の準備、集客と提案の改善をおこなってみてください。
結果が出ないケースもあると思いますが、それは市場での実力がまだまだ足りなかったということ。バットを思いっきり振ることで、ECを新しい事業の柱にするために何が足りないのかが明確になるはずです。
ECマーケティング人財育成は「EC事業の内製化」を支援するコンサルティング会社です。ECMJコンサルタントが社内のECチームに伴走し、EC事業を進めながらEC運営ノウハウをインプットしていきます。詳しくはECMJのホームページをご覧ください。
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