UI・UXの向上をめざすユナイテッドアローズのECサイト改善施策とは
ファッションやセレクトショップ業界をリードするユナイテッドアローズは2022年3月、ECと実店舗の売り場を統合するために自社ECサイトをリニューアルオープンした。検索機能の改善、レビュー投稿によるUGCの導入など、UI(ユーザーインターフェイス)・UX(ユーザーエクスペリエンス)の向上に取り組んでいる。オンラインとオフラインのシームレスな購買体験をめざすユナイテッドアローズのEC戦略、顧客体験向上の取り組みなどを取材した。
情勢の変化、消費者ニーズの変化を捉えた商品領域の拡大
紳士服や婦人服のファッションブランドとして成長し続けてきたユナイテッドアローズ。コロナ禍では「UNITED ARROWS」「BEAUTY&YOUTH UNITED ARROWS」といった主力ブランドに加えて、スポーツウエアやウェルネスブランドを徐々に拡大。コロナ禍の生活様式、消費者ニーズへの変化対応に努めてきた。
ユナイテッドアローズの顧客は30〜40代が中心だが、近年はそのほかの年代にも裾野が広がっている。SNSの浸透や若年層向け商品企画、各種施策などで、ここ最近は20代やこれまではリーチしにくかった10代の顧客にも提案できるようになったという。
ウェルネス領域に取扱商品を広げてターゲット層を拡大する構想はコロナ禍前から進めていたため、近年の消費行動、生活様式の変化にも対応できたという。
スポーツ商材のなかでは、特にゴルフにフォーカスした。コロナ禍の消費者需要として、ゴルフは抜群に相性が良かったと感じている。「ユナイテッドアローズ ゴルフ」では、素材やシルエットにこだわり、スポーツウエアならではの機能性を追求している。ユナイテッドアローズの強みを生かして、社交の場にふさわしい品質、デザイン性を持つオリジナルウエアの提案を行う。(ユナイテッドアローズ 木下氏)
EC刷新でオンラインとオフラインの売り場を論理的に統合
ユナイテッドアローズの直近の大きな動きは、2022年3月の自社ECおよびアプリのリニューアルだ。ECのリプレイスは2018年の秋冬あたりから構想を始めていたという。
オンラインとオフラインの売り場をシームレスにつないでいくことを目的に、構想に先駆けて2017年4月までにオンラインとオフラインの顧客基盤、ブランド別に展開していたオウンドメディアサイトを1つに統合し、さらにオンラインとオフラインで在庫の統合も進めた結果、2018年秋の構想から約4年の期間を経てリプレイスを果たした。顧客がどの販売チャネルで商品を検討し、購入しても、在庫があるかぎり供給していくための土台を整えた。
ただ、お客さまからみて当社のオフラインチャネルとオンラインチャネルは現在もまだシームレスとはいえないといい、木下氏は「商品在庫、接客、ナレッジが1つの販売チャネルに滞ってしまうことの課題解決を進めはじめた」と話す。
ECサイト刷新前は他社に運営を委託してきたが、ユナイテッドアローズはこれを自社主導での体制に移行してリニューアルした。
購買体験の向上に向け、加速するデジタルコンテンツ化
ユナイテッドアローズがめざすのは、オンライン・オフラインを含めたすべてのコマースチャネルで1人ひとりのお客さまの購買体験から受け取る価値を高めていくこと。
そのなかで店舗スタッフがもつ現在販売している商品の魅力についての知識や、お客さまとの接客を通じ磨き続けてきたファッションユーザにとっての課題解決の知見などを、1つひとつの店舗に閉じずOPEN化していくことで、オンラインだけにとどまらず、オフラインチャネルでの購買体験を豊かにすることをめざす取り組みだ。
スタッフの能力や経験を店舗にきたお客さまにだけ届けるのではなく、場所にとらわれず必要なお客さまに提供していくという観点では、デジタルコンテンツ化は有利だ。たとえば、ある店舗に来店されたお客さまのお迷いや期待をもっともふさわしいスタッフがサポートできれば、そのお客さまの課題は解消に進みやすくなるのではないか。場所の制約の多くはコロナ禍を経てますますなくなってきた時代だからこそ、デジタルの力も活用し、距離は離れた場所にいるお客さまの課題解決を社全体で進めていく。そのような観点をコンテンツ作りにも生かし取り組んでいる。(ユナイテッドアローズ 木下氏)
木下氏は、スタッフのスタイリング提案もブログ記事もどちらも「スタッフの生み出すコンテンツ」ではあるが、ブログは接客がうまいからといってかならずしも上手に書けるわけではなく、その逆もしかりだと話す。
スタッフの役割を専門的に分解して、新しい業務に必要な能力をリスキリングする機会を設けたり、得意な人が得意なコトにフォーカスしていけるよう、整備を進めているという。
ツール導入時はユーザー目線の課題解決力を重要視
リプレイスではさまざまな機能をECサイトに掲載したが、その1つであるサイト内検索機能は目的の商品を見つけやすく、すぐにたどり着けるよう検索機能とサイト内の導線を改善した。検索時の入力を補助する予測変換、検索条件の保存などさまざまな検索アシスト機能を充実させている。
店舗では取りそろえきれないほどの在庫を保管できるというデジタルの強みをうまく活用し、商品を拡充してもすぐにほしい商品にたどり着くことができれば、消費者の体験価値を高めることが可能となるため、品ぞろえと検索性の両面をさらに強化していくという方針を掲げる。
お客さまの購入チャネルがどこであっても、商品がほしいと思い、最初に手を上げてくれたチャネルできちんと供給できるようにしていく。(ユナイテッドアローズ 木下氏)
ZETAが提供するEC商品検索・サイト内検索エンジン「ZETA SEARCH」の導入により、スムーズな購買プロセスを実現している。
木下氏は「ファッションははやりすたりも早いし、ましてアイテムやスタイリング、触感など多くの点で辞書を調べれば手軽に出てくるようなキーワードばかりではない。そのようなジャンルだからこそお客さまが『ほしい』と思った商品をうまく言語化できなかったとしても適切な商品提案をできるようにするなど、ZETAが提供するサービスの活用で利便性向上につなげることができた」と言う。
オンラインチャネルとオフラインチャネルの連動、デジタル化を推進するには、サイト内検索のように専用ツールの導入が欠かせない。ユナイテッドアローズはツールを採用する際に、どのようなポイントを意識しているのだろうか。
- 1つ目……ユーザーにとって価値があるか。どの顧客群に、どのシーンで、どの課題が解決できるのかを具体的にイメージできるかどうかを重視
- 2つ目……パートナー企業としてともに何年間も歩み続けることで、顧客に対して継続的に価値を高めていけるパートナー企業になりえるかどうか
- 3つ目……既存システムに悪影響を与えてしまわないかどうかを注視。たとえば、読み込み速度の低下などが該当する。ECサイトのパフォーマンス上、悪影響がないかどうかを気に掛けている
ユナイテッドアローズの木下氏はZETAについて、「我々ではなく我々の先にいるお客さまの課題にフォーカスし、その課題解決にむけサービスを拡張したり、投資している企業だと感じている」と説明。パートナー企業として厚い信頼を寄せているという。
ZETAは良いパートナー企業であり続けることを意識している。クライアント企業の「こんなことをやりたい」という要望に応えるだけではなく、それを踏まえて「もっとこうしたほうがユーザーにとって使い勝手が良いのでないか」といったエンドユーザーの目線にも立ちつつ、クライアント企業の動きを加速することを心がけている。(ZETA 出張氏)
サイト内検索の精度改善によるCX向上
ここからは、ECサイト刷新の際に行ったサイト内検索の改善、レビュー強化の取り組みについて深掘りしていきたい。
ユナイテッドアローズは「ZETA SEARCH」の導入前、商品が既存のカテゴリーに分類しきれなかったり、商品数の増加で消費者が求める商品が埋もれてしまうという課題を抱えていた。
もっとも課題としていたのは商品検索の精度。導入前のサイト内検索は商品名や商品説明、商品カテゴリーなどの一般的な商品マスタ項目でしか商品を検索できず、精度がいまひとつだった。導入後は、取り扱いブランドやお客さまが探しやすいキーワードを商品マスタに付加し、その項目も検索対象に含めることで、検索精度が向上してきた。(ユナイテッドアローズ 橋本氏)
タイムセールの商品を検索・閲覧できないときがあるといった課題もあった。タイムセールの対象時間になっても商品がECサイトの画面上に出てこない現象などがあったものの、この事象も「ZETA SEARCH」の導入によって解決した。
また、言語化しにくいあいまいな検索にも対応できるようになり、たとえば季節のキーワードで商品がヒットするなど、「ZETA SEARCH」の導入によって商品の探しやすさに磨きがかかっている。
一口に検索ツールといっても、どれだけ重要なキーワードをもらさずに対応できるか、あいまいな検索でもレスポンスできるか、顧客の需要にアジャストした検索結果を表示できるかという精度はツールごとに異なる。その点、「ZETA SEARCH」の高い精度、長年の実績に基づいて研さんされてきたアルゴリズムは、ユナイテッドアローズが抱えていた課題を解決できるツールだと確信して導入を決めたという。
フリーワード検索の顧客行動に改善の兆し
さらに「ZETA SEARCH」の導入によって、ユナイテッドアローズは顧客の検索行動に改善を感じ始めているという。
「ZETA SEARCH」導入後、フリーワード検索経由のコンバージョンはやや改善傾向にあり、キーワード検索を利用するお客さまはコンバージョン率が高いという結果になっている。(ユナイテッドアローズ 星氏)
木下氏は「運用はまだまだ、山登りでいうと1合目、 2合目の感覚。逆に言うとポテンシャルを感じている」と話す。
たとえば、冬シーズンはクリスマスなど特殊なキーワードも増えてくる。ZETAは、シーズンごとのキーワードもどんどん取り込んでいけるような提案を行っていきたい。検索キーワードが上昇しているワードの定性評価も月ごとに行っている。(ZETA 木又氏)
「共感の時代」において消費者レビューが購買に影響を与える
ECサイトのリニューアルでは、消費者による商品レビューの投稿機能を追加した。消費者が商品を購入するかどうか迷ったとき、その商品を買ったユーザーの率直な感想を確認することで適正な購買行動や購買の後押しになるといったサポート機能としての役割を期待している。
この商品レビューの投稿機能もZETAが提供するレビュー・口コミ・Q&Aエンジン「ZETA VOICE」で実現した。このソリューションではサイト内にレビューコンテンツを実装でき、商品着用時の感想など消費者の生の声をレビュー掲載することで購買を後押しすることができる。
プロダクト側の情報発信には関心を示さない人でも、自分と同じようなモノを買った人が商品の使い勝手を発信したレビューには共感し、購買行動につながるケースが増えている……という時代の流れがある。こうした消費行動は今後さらに進むだろう。(ユナイテッドアローズ 木下氏)
消費者の声が購買を後押しする昨今の傾向について、ZETAの出張氏も「共感の時代になっているのかもしれない」という。それを踏まえユナイテッドアローズの木下氏は、「レビューにより現在のお客さまが未来のお客さまの迷いや間違いたくない心理をサポートできないかと考え、そのためにUGCコンテンツの量も増やし、多くのお客さまにコンテンツに触れていただく機会を拡大していきたい」と話す。
こうしたUGCを増やしていく方針のユナイテッドアローズに対して、ZETAの市川氏は「『ZETA VOICE』は現状のサービス内容にとどまらず、今後レビューを増やしていくための施策を提案していきたい」と言う。
たとえば、「ZETA VOICE」を利用して集めたレビューを、商品開発にも生かすといった取り組みもある。そのためユナイテッドアローズとZETAは、まずはレビュー数そのものを増やすことに力を入れていく方針だ。
「ZETA VOICE」導入の背景には、「ZETA SEARCH」を採用していることも影響している。ソリューションの導入・運用では、それぞれ異なる企業のサービスを導入するよりも、1つの企業が提供しているサービスを複数導入したほうが合理的だ。パートナー企業としてワンストップで集中させ、各ソリューションを育成するために「ZETA SEARCH」「ZETA VOICE」両方の導入に踏み切った。
課題解決により更なる価値提供へ
企業のリソースは常に限られている。ユナイテッドアローズの木下氏は、「新たなツールの導入は、いかにツール運用の学習コストを小さくできるかも重要」だと考えている。
その点について、ユナイテッドアローズの橋本氏は、「『ZETA VOICE』は導入がスムーズだった」と振り返る。
ZETAは導入後も改善ポイントのフィードバック、UGC施策についてより付加価値の高い提案など、手厚いサポートを継続している。ツールの導入後、クライアント企業のキーワードのチューニングや管理画面の操作はZETAが一手に引き受けるといったサポートも、ZETAが多くの企業から支持されている理由の1つであり、導入企業は本業の“売る”業務に集中できるためだ。
「ZETA SEARCH」「ZETA VOICE」の導入によって、お客さまが抱えていた課題が解消に向かっていると感じている。サイト内検索やUGCは買う判断までたどり着くための潤滑油。商品にひもづく情報の価値はこれからますます重要になるだろう。ECサイト運営とユーザーのために、ZETAの総力を借りてともに発展していきたい。(ユナイテッドアローズ 木下氏)
ZETAの出張氏は「ECはユーザー側が探しに行かないと商品に出会えない。多くのユーザーは商品の一覧性を好むので、キーワード検索を使う傾向があり、ZETAはキーワード検索を重視してきた」と説明する。ZETAの木又氏は「レコメンドでももちろん、新しい商品と出会うことができるが、サイト内検索でもある程度柔軟に対応できる。たとえば、関心を持ってもらえそうな商品をランダムに表示する方法などだ。ZETAは消費者が多くの商品と出会えるように、運用のさらなる改善に努めていく」と話す。
エンドユーザーにとって、ユナイテッドアローズにしかできない検索体験をサポートしたい。それをZETAがどう実現できるかが本当の意味でのパートナーシップになる。ユナイテッドアローズがめざす課題解決や価値向上の理解を深めていきたい。(ZETA 市川氏)