中川 昌俊 2014/12/24 10:00

主に食品ECサイトの運営代行を手がけるネットショップ総研の長山衛社長を招き、北国からの贈り物の加藤敏明社長と“売れる食品ECサイトのページ作り”などについて対談。長山社長が独自の理論で作り上げたJ-POPの音楽構成に沿ったページ作りなど、さまざまなノウハウが披露された。

現役の有名ネットショップの運営者達が講師となり、ネットショップ運営者向けに通信講座を実施しているEコマース戦略研究所の代表パートナー3人が、それぞれ話を聞きたいネットショップ運営者に会い、現在のEC市場などについて対談する企画「あの人から聞きたい~大橋、加藤、洞本のEC対談~」の第2回。

J-POPの音楽構成に沿ったページ作りでおせちを販売

加藤ネットショップ総研では、楽天市場などのモールで食品ECサイトの運営代行をよく行っています。数ある商材のなかで食品をメインで行っているのはどうしてなのですか。

長山格好良くいえば、数ある商材のなかで最も難易度が高いと考えたからです。食品は競合となるショップが多く、それでいて粗利はそれほど高くない。賞味期限や配送にも気を付ける必要があるなど、他の商材に比べ、難易度が高いと考えています。だからこそ、ここをクリアできればほかの商材を取り扱うのは比較的簡単だと思い、食品から始めました。

加藤長山さんが監修するサイトのページデザインで、気を付けている点はどういった点ですか。

長山私が監修しているのは、食品のなかでも季節性のある食品を販売しているECサイトが多いです。通年販売する商品であれば、とりあえずページを作り、改善を加えていくことができます。一方、販売季節が限られている商品の場合、最初に作ったページでその年は勝負することが多くあります。たとえばおせちの場合、1個当たりの単価が高いため、転換率を少し上げるだけで、大きな売り上げアップにつながります。そのため、商品開発から参加し、ページを作る前にしっかりとイメージを持って撮影し、ページをデザインするようにしています

加藤通常、おせちのような単価の高い商品は転換率が3~5%ほどですが、長山さんはどのくらいの数字を目標にしているのでしょうか。

長山8%以上ですね。逆を言うと、8%以上の転換率がなければ、回収できないほど広告費をかけているとも言えますが、これくらいの数値はページデザインを工夫することで達成可能です。

加藤具体的に転換率を高める方法は。

長山完全に私の独自理論なのですが、ページデザインは音楽の構成をページデザインにも応用しています。欧米の曲は主に「イントロ→Aメロ→Bメロ→サビ」と続きますが、J-POPの場合、たとえば、B`zや小室サウンドにしても、最初にサビを持ってくるケースが多いです。構成は「サビ→Aメロ→Bメロ→サビ→Bメロ→サビ」となっており、1曲に3回以上のサビがある曲が多いですよ。J-POPが独自の構成になっているのは、日本人の感性受容に適合するからで、盛り上がる場面=サビを効果的に使うことが大事なのではないかと考えました。

これをページ構成に当てはめ、最もインパクトのある画像をサビと見立てると、最初にインパクトのある画像を持ってきて、その後、相対的にテンションが低めの商品説明やストーリーを紹介し、再び価格などでインパクトのある画像を用意するといったように当てはめています。楽曲制作において「ダイナミクス」というのですが、音圧波形のピークとミニマムの差分のことを指し、「ダイナミクス」が大きくて頻度が多いとインパクトを与えることができます。実際、この理論を応用して作ったページは転換率が高くなっています。また、他のサイトは、こうした考えのもとに作っていることはないと思いますが、結果的に似た作りになっているおせちの販売ページが多くあります

加藤J-POPの構成を基にしたページデザインは、他の商材でも利用できるのでしょうか。

長山おせちは日本の伝統的な商材だからこそ、J-POPと相性がいいのだと思います。たとえば、安売り商品であれば構成展開が早くて短いパンクロックの構成のほうが相性がいいと思いますし、他にも商材ごとにあった構成があるでしょう。

長山衛社長
ネットショップ総研

撮影に挑む日は空腹状態にして感情を研ぎ澄ます

加藤ページを作るうえで、大事な要素に写真があります。競合サイトの立場から、長山さんが運営しているサイトを見てみると、写真のクオリティが高いことに驚きます。写真を撮る際に気を付けていることは。

長山食品ECサイトにおいて、写真のデキが7割から8割を占めると考えているので、写真にはかなりこだわっています。これは精神論になってしまいますが、私の場合、前日の夜から絶食をして、空腹状態で撮影するようにしています。空腹状態で自分の「おいしそうだな」「食べたいな」というポイントで写真を撮ると、美味しそうな写真が撮れると考えています。科学的根拠は無いのですが、少なくとも満腹時に撮影する写真と異なり、自分のなかでの感情の沸点が低くなり、感性が研ぎ澄まされやすくなるのだと思います。

加藤それだけこだわっているということでしょうね。他に見せ方としての工夫は。

長山照明ひとつで印象がかなり変わりますので、照明はかなりこだわっています。おせちなどの場合、高級感を印象付けたいので黒背景にするなどの基本的なことは学んできました。デジタルカメラでは、シャッターを押すだけでいい写真が撮影でき、失敗しても何枚でも撮れます。とりあえず撮影していい写真を採用するショップ店長も多いですが、やはり基本的な知識は身に着けておくべきでしょう。

また、撮影をする前にどんな写真が必要かをイメージしておくことが重要です。イメージせずに撮影をして、ページを作る段階で「こんな写真を撮っておけばよかった」と思ったことは、多くの店舗であることでしょう。それを避けるためには、最初からどんな写真を用意しなければならないかをイメージしておくことが重要です。

加藤確かにページを作る前にイメージしておくことは難しいです。しかし、できるようになればいい写真が用意できそうですね。

加藤敏明社長
北国からの贈り物

日本の食品ECはグローバルでも戦える有利な立場だと思う

加藤食品ECも競合が激しくなっています。今後、食品EC市場で勝ち抜いていくためには、どのようなことが重要だと思いますか。

長山今後、ECのグローバル化が進んでくると、ローコストでオペレーションできる国には勝てなくなることは必定です。そのなかで、日本のEC会社に求められることは、やはり商品のバリューでしょう。そのため、価格競争に陥らない商品、市場競合優位性のある商品をいかに開発するかが、カギになってきます。食品というのは価格よりも、質や安全性が重要視されるジャンルですので、将来的に見ても有望なジャンルだと考えています。ただ、国内だけで勝負することは難しくなってくるので、海外に進出していくことが必要になってくるでしょう。

加藤将来的には日本の商品は国内で販売するよりも、海外で販売した方が高い値段で売れるようになることは間違いないこと。ただ、すぐに海外で売れるようになることはなく、たとえば10年後のECとなると、ウエアラブルなど新たなデバイスが出てくることも確実ですので、今のノウハウはほとんど役に立たなくなる。そのため、常に最新の売り方を学んでおく必要があり、そのためにも国内で厳しい競合の中でも、ECを続けていくことが必要になることでしょう。

長山その通りですね。将来的にはこうなるからと言って、将来のことだけを考えてもうまくいかない。ただ、今だけを見て将来への準備をしていかないのもどちらも失敗するだろうと思います。

加藤長山さんが新規でコンサルティングを行う際、どのように商材、ページデザイン、運営方法などを決めていくのですか。

長山会社としてEC事業をどのようなポジションとして展開していきたいのかを聞くようにしています。そのための窓口は代表者です。ポジションの延長線上に目標とする着地点があるかどうかを見るようにします。着地点を設定していって、会社としてのEC事業のポジショニングについてさまざまなことを話すようにしています。

持ち込まれる案件のほとんどは、1度は自社でECをやってみたけれどもうまくいかなかったため、運営をアウトソーシングしたいという会社です。その多くが、トップダウンでECを始めたが、担当者は既存の仕事もしながら片手間で行うケース。とりあえずサイトは作ったが、更新できていないということが多いですね。そのため、会社としてECをどのように考えているか。また、どれだけの売り上げを計上できるようにしたいかを考えてもらうようにしています。

よく指摘するのが、「まずはたくさんECサイトで商品を買ってください」ということ。買いたいと思った理由が必ずあるはずで、その理由を考えてもらったり、そのショップがどのような対応をしているか、どんなキャッチコピーを展開しているかを肌感覚で感じてもらうようにしています。

加藤長山さんもネットでたくさん買い物をするのですか。

長山年間でいうと数百万円分くらいネットで購入しているので、奥さんから怒られてばかりです(笑)。おせちなんて、調査のために毎年10個は買っているので、「誰がこれを食べるのか」とすごく怒られますよ。

加藤自分で買う際にどんなところをチェックしているのですか。

長山おせちを例にあげると、重箱の素材、冷凍技術、購入してからどのような対応が行われるかなど細かく見ています。やはり、買ってみないとわからないことが多いので、ネットショップの経営者には、ネットでの購入を勧めています。ただ、ネットショップの経営者に「ネットで何か買っていますか」と聞くと、よく本を買っているという話になります。ただ、本はどこで買っても同じようなページ作りで、企業ごとに対応もさほど変わない。そんな店よりも中小だけど人気のあるサイトや、競合サイトなどから買わなければならないと思います。

加藤長山さんは「おせち販売」の職人なのですね。職人だからこそ、他社商品の細かい部分も気になったりするのでしょう。今のECサイトに求められるのはこうした職人です。自分たちの扱っている商品に関して、他社の動向を含めてだれよりも知っているから、消費者に一番お勧めできる自社の商品を販売できる。だからこそ消費者はそこで買おうと思うし、満足度も高くなる。

食品EC企業は、取り扱っている商品がほとんど自社オリジナル商品のため、どうしても「自社の商品が一番だ」という考えに陥りやすい。だから、売れないとなると、価格のせいにして安売りしてしまうケースが多い。だけど、実際のところ、問題は価格ではなく別のところにあるのかもしれない。他社と比べたことがないので、そこに気付かないということはよくあること。やはり、ライバル会社からだけでも商品を購入して、客観的に見てみないとダメだと話を聞いて、私も改めて考えさせられました。

長山本当にその通りですよね。EC事業者に今、一番欠けているのは自分の会社を客観的に見るために、ライバル会社の商品を購入するといったことなのかもしれません

加藤ちなみに、いくつか商品を買ってみて、今年のおせちECで気になっていることはありますか。

長山キャラクター商品が増えたことが気がかりですね。昔から、サンリオやディズニーなどキャラクターが付いているおせちはありましたが、今年は特に増えた。キャラクターを付けると、キャラクター使用料を支払わなければならなくなるので、同じ値段でも食材にかけられる費用は減ってしまいます。「ネットで買ったおせちってこんなものか」と思う人が増えてしまうのではないかと懸念しています。

加藤食品は最も原価と満足度が直結しやすい商材だと思う。少しでも悪い食材を使うと、購入者の満足度が下がり、リピートが目に見えて少なくなる。そのため、キャラクターの付いた商品で満足度を高めるというのは両立しにくいですよね。

お互い食品を中心に取り扱うだけに、食品ECの未来について熱心に意見を交換した

簡単な動画でもまずは用意して掲載してみることが大事

長山EC周りのシステムで今、加藤さんが注目しているのは何ですか。

加藤楽天市場でメールの配信が完全有料化になりますが、改めてメールマーケティングについて注目しています。今までのメルマガではなく、新しい「売れるメルマガ」を作ろうと考え、スタッフと議論しています。そんななかで改めてメルマガの原点を見直すことを考えています。つまり、ワンツーワンでお客さまに自社が伝えたいことを提供するとともに、“このメルマガは必要だ”“面白い”と思ってもらえることが重要だと考えています。

もう1つは動画です。しずる感を表現できるなどグルメジャンルと相性がいいので、動画にはメルマガにはない機能があります。長山さんは、動画についてどう考えていますか。

長山私もグルメジャンルと動画は相性がいいと考えています。調理している状況を「魅せる」という点でも効果的ですし、作り方などを「説明する」上でも効果があります。プロモーションの観点でも、SNSで共有されやすい。今後、動画は重要になってくると考えています。グルメジャンルではありませんが、「オートウェイ」(タイヤなどカー用品のECサイト)で昨年作った動画が話題になりました。中小のECサイトでも工夫次第で注目を集めることが可能です。そういう意味では、もっとECサイトは動画に力を入れていくべきでしょう。

本格的な動画でなくても、スマートフォンで撮って、アプリで少し加工する程度で構わないので、まずは動画を使ってみることが必要ですよね。

加藤最後に、これから長山さんがやってみたいことを聞かせてください。

長山やりたいことがいろいろとありすぎて、1つに絞り切れていないというのが現状です。1つあげるとすると、農業に力を入れていきたい。すでに、生産法人を作って小松菜や大根などを作っています。なぜ農業を始めたかというと、今後TPP(環太平洋経済連携協定)の動向によっては、日本の第一次産業は今まで守られてきた産業だけに大きなダメージを受ける可能性があります。一方で、日本の農業や水産技術は世界でトップクラス。むしろ海外でも勝負できると思っています。農業に限ったことではないですが「良いものを作れば誰かが見つけてくれる」という時代ではない。日本の農家さんに最も欠けている部分はプロモーション能力です。そこを補完できるのが僕らなので、ECを活用することで一次生産者の底上げにつながればと考えています。

対談後の記念撮影

このコーナーで紹介した対談の動画が見られる通信講座「Eコマース通信講座」。

動画以外にもセミナーや勉強会も開催している。

詳しくは http://www.ecsi.jp/course/

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