売上3倍成長のD2C企業、その秘訣は「割引販売なし」「直販のみ」「共感を得るブランドストーリー」
カナダのボクサーブリーフブランド「Manmade」は2024年8月に約4万枚の注文を受け、11~12月はその2.5倍から3倍の販売を見込んでいます。今後の売上成長は3年間で300%が目標。「Manmade」の商品は1種類のみで、カラー展開は2色だけ。着心地の良さ、ブランドストーリー、思い切った商品ラインアップによる低価格での販売を実現していることが、消費者からの支持を集めています。
カナダ発のボクサーブリーフDtoCブランド、成功の軌跡
4人の金融マンが創業
カナダを拠点とする男性向け下着のDtoCブランド「Manmade」を手がけるManmadeは、多くの男性が感じたことがある“着心地が不快な下着”の解決に取り組んでいます。
共同創業者の1人であるアンソニー・チアヴィレラ氏は、米国のEC専門誌『Digital Commerce 360』の取材に対し、次のように説明します。
自分と、3人の共同創業者であるフィリップ・サンタガタ氏、ロバート・マージン氏、ロベルト・レベロ氏は全員、金融業界で働く「金融マン」でしたが、いずれも起業を志していました。蒸し暑い夏の日に散歩をしていた4人は、自分たちが身に付けている下着の品質が十分でなく、不満があることに気付いたのです。(チアヴィレラ氏)
チアヴィレラ氏は以前から、「ECで販売するブランドを立ち上げたい」とは考えていましたが、何を売りたいのかは漠然としていました。
着心地が良く、低価格で販売できる商品開発に奮闘
“着心地が不快な下着”の解決という共通の考えを実現するために、4人はまず下着の素材を検討しました。
綿は伸びてしまう、ポリエステルはプラスチック由来であるため「日常的な着用は健康的でない」という理由で使わないことに決めました。(チアヴィレラ氏)
その時点で、採用する素材は2種類に絞られました。1つは竹から、もう1つはブナの木から作られたものです。彼らは「モダール」と呼ばれる素材を活用して、ブナの木由来の素材の綿を採用することにしました。優れた吸湿性、シルクのような光沢、柔らかな着心地に特徴があります。
「Manmade」が販売するボクサーブリーフは1種類のみ。色は黒と青の2種類です。販売するアイテムは1種類、カラーリングは2種類のみなのです。
SKUの多様な展開にコストを割く必要はありません。キャンペーンなどで割引をする必要もないので、クーポンもありません。(チアヴィレラ氏)
その代わり、ブリーフは1組22ドルで販売。「同じ生地で作られた他社のボクサーブリーフよりも、1枚あたりで少なくとも10ドルは安いと言えます」(チアヴィレラ氏)。つまり、他社よりも大幅に低い価格を設定しているのです。標準価格を下げる努力を続けており、大量注文に対してはさらなる割引価格を設定しています。
機能性を保ちながら可能な限り標準価格を下げました。お客さまが値下げを希望する場合は、7枚購入してもらいます。7枚買うと、1枚につき2ドル安くなります。必要なときにいつでも在庫があるので、在庫切れのトラブルはありません。(チアヴィレラ氏)
ボクサーブリーフの開発以降、「Manmade」は靴下、Tシャツ、帽子の販売も始めました。将来的には、パンツや水着も販売する予定だとチアヴィレラ氏は説明しています。
低価格販売を実現するための取り組み
国産にこだわらず海外の製造パートナーを活用
「Manmade」は最初の商品であるボクサーブリーフを開発するのに1年もの歳月を費やし、2021年8月に正式ローンチしました。会社を設立した際、チアヴィレラ氏と他の共同創業者達は、商品の調達方法、マーケティング方法、そして安定的に成長するための十分な売り上げを上げる方法を模索しました。
「Manmade」をカナダで生産する場合、たとえサプライヤーからもっとも安い価格で供給を受けたとしても、ボクサーブリーフ1枚あたり数十ドルは高い値付けをしなければいけないでしょう。
それではまったく別のビジネスになってしまう。ボクサーブリーフを1枚60ドルで売る市場には、参入したくありません。そこで、カナダでの生産ではなく、スリランカとベトナムで製造パートナーを探すという策を選びました。(チアヴィレラ氏)
さらに、「Manmade」はカンボジアと台湾のサプライヤーとも提携しています。
ECサイトのUIは海外向けにも対応
Manmadeは早くから、独自のECサイトと顧客管理(CRM)ツールを構築、独自で構築したテキストメッセージプラットフォームから注文できる環境も備えています。
現在は、EコマースプラットフォームプロバイダーのShopifyに移行。カナダのページを英語またはフランス語で、米国のページを英語またはスペイン語で表示するオプションを備えました。
なお、北米ではオンライン通販事業者トップ1000社のうち117社が、「Shopify」をEコマースプラットフォームとして利用しています。
卸売よりも直接販売を重視
Manmadeではほかの事業者から、卸売りの打診を何度も受けてきました。しかし、さまざまな理由からその打診を断り、消費者に直接販売しています。「直接販売にこだわる理由の1つは、顧客体験をコントロールできるからです」(チアヴィレラ氏)
卸売りをすると、会社の利益やマージンの50%を第三者と共有することになるのも理由です。卸売先となる小売店には通常、各ブランドがあり、それぞれの店舗があり、来店者がいます。なぜ自分のパーソナライズブランドを扱うお店を開かないのか疑問です。(チアヴィレラ氏)
そのため、チアヴィレラ氏によると、Manmadeは小売店に商品を卸すのではなく、2025年までに自社の店舗をオープンすることを検討しています。
Manmadeは消費者に直接販売することで、売り上げは前年比300%の成長を遂げています。Manmadeは2024年8月、約4万枚の商品を販売。11~12月には、その2.5倍から3倍の売り上げを見込んでおり、今後3年間で300%の成長を目標としています。(チアヴィレラ氏)
Manmadeは「まずはカナダ市場における存在感、売上シェアを固める」ことに取り組んでいますが、同時に世界売上の30%を占める米国での販売にも力を入れています。
メディア掲出を機に受注拡大
Manmadeは、カナダ同様のマーケティング施策は米国ではまだ行っていません。「しかし、自社ブランドにとって何が効果的で、何が効果的でないかについては、すでにいくつかのデータを得られています」(チアヴィレラ氏)
たとえば、「Manmade」の初期の広告では、共同創業者が商品を身に付けて、モデルとして登場しました。その後、彼らは男性の注目を集めるために、女性モデルに「Manmade」のボクサーブリーフをはかせるアイデアを思いつきました。実施したその施策についてチアヴィレラ氏は「あれは完全な失敗で、全くうまく行きませんでした」と振り返ります。
ブレイクのきっかけは、カナダのモントリオール・ガゼット紙の1面で取り上げられたこと。その記事のおかげで、初めて1000枚を受注することができたのです。「決して忘れられないことです」とチアヴィレラ氏は振り返ります。
初めて大型受注を受けて、我々は48時間連続で働きました。本当に大変で、正気の沙汰ではありませんでした。会議室で、ピッキングや梱包を行い、在庫をすべて保管していました。(チアヴィレラ氏)
ブランドストーリーを打ち出すビジネスモデルを確立
チアヴィレラ氏は、チームと一緒にすべての注文を梱包した後、購入したすべての顧客に電話をかけ、「Manmade」の何が顧客の心に響いたのかを尋ねました。
その結果、ほとんどの場合、ブランドのストーリーに共感したからだということがわかりました。ブランドの背景を知った多くの顧客が「Manmade」のボクサーブリーフを試してみようと興味を抱いたのです。
それを受けて、共同創業者たちは自分たちの顔とブランドストーリーを前面に押し出したブランドを構築する必要があると判断しました。
これらのことはすべて短期間の出来事でしたが、そこに到達するまでには多くの努力と試行錯誤がありました。こうした紆余曲折のなかで、我々の力になってくれる適切な人に出会うことによって、現在のビジネスモデルがやっと実現しました。(チアヴィレラ氏)