たった11個の荷物から始まった「宅急便」。テレビ通販も誕生した1970年代
1970年代に入ると、近年の通販業界を代表する企業が次々と創業した。民放各局がテレビショッピングを開始したほか、ヤマト運輸が宅急便を開始するなど、通販の媒体やインフラの多様化が進んだ。
1970年(昭和45年) ニッセンが通販開始
反物の染色を手掛けていた日本捺染は1970年、子会社の日本染芸(現ニッセンホールディングス)を通じて呉服のカタログ通販を開始した。当時、呉服の販売手法は顧客との対面販売が一般的だったが、ムトウ(現スクロール)が呉服のカタログ通販で成功したことを知り、通販への進出を決断したという。
日本染芸が通販を開始した当初は、美容院に配布したカタログからの注文が好調だった。
1970年代はニッセンのほか、近年の通販業界を代表する企業が次々と創業した。
1971年にディノス(現ディノス・セシール)、1974年には東洋物産(後にセシールに商号変更、現ディノス・セシール)、1976年には日本ヘルスメーカー(現カタログハウス)が通販を開始している。
1971年(昭和46年) テレビ通販誕生
1970年代の通販で大きな出来事の1つがテレビショッピングの登場だ。
カラーテレビの受信契約数が1971年に1,000万台を突破。テレビが普及すると、テレビショッピングが急速に広がっていった。
国内初のテレビショッピングは、フジテレビが1971年に放送した『東京ホームジョッキー』の商品紹介コーナーだったとされる。
『テレビショッピング』については第1回は渋谷の西武デパート内にあったキュリオという店のマジョリカ焼。これはめちゃくちゃに売れた。その後ダイヤモンドやかつら、家具などをとりあげた。『冠水した』というふれこみでカーペットを安く売ったこともあった。もちろん本当に冠水していたわけではないのだが…。
企画として忘れられないのは、東京ホームジョッキー1周年記念と銘打って行った武道館の大バーゲン。九段の武道館から地下鉄竹橋駅まで行列ができた。周囲は大混乱で大騒ぎになった。そこへ鹿内社長が運悪く視察に見えた。第一声が『お客さんの扱いを研究せよ』とのお叱りだったが、すぐ相好を崩して『よくやったね』とねぎらわれた。
出典:境 政郎 著『テレビショッピング事始め』(扶桑社刊、2008年)より。引用部分は『東京ホームジョッキー』初代プロデューサー 小野光氏の談話。
この1周年記念大バーゲンののち、株式会社ディノスが設立され、番組は『リビング4』『リビング11』と名前を変え、1982年まで続いた。
また同時に産経新聞よりフリーペーパー『フジサンケイリビングニュース』(現リビング新聞)が創刊され、それまでにはなかったテレビと新聞の連動が行われた。
このほか、民放各局もテレビショッピングに参入し、1976年にはテレビショッピングを主体とした日本文化センターが創業している。
1976年(昭和51年) ルームランナー登場
通販の拡大に伴いヒット商品が次々と生まれた。日本ヘルスメーカーの家庭用ランニングマシン「ルームランナー」をはじめ、ぶら下がり健康器こと「サンパワー」、トレーニング器具の「ブルーワーカー」など、健康機器関連でヒット商品が目立つ。
セシールのパンティストッキングや再春館製薬所の基礎化粧品「ドモホルンリンクル」といったロングセラー商品も誕生した。
海外の通販会社による販売も活発化し、リーダースダイジェストの地球儀、リンガフォンやワールドファミリーの語学学習教材などがヒットした。
1976年(昭和51年) ヤマト宅急便がスタート
大和運輸(現ヤマトホールディングス)は1976年、小口宅配の「宅急便」を開始した。当初は関東でスタートした宅急便は、1980年3月までに全国の74.8%を、1997年11月に100%カバーした。
郵便小包よりも送料が安く、全国に1日〜2日で配送する宅急便の登場は、通販の発展に大きく貢献した。
初日の“宅急便”の取扱い個数はわずか十一個。一月二十三日から二月二十五日までの月間合計でも八千五百九十一個に過ぎなかった。
高杉良 著『小説ヤマト運輸』(新潮文庫)
11個から始まったヤマト運輸の小口配送サービスは、スキー宅急便(1983年)、ゴルフ宅急便(1984年)、クール宅急便(1987年)クロネコメール便(1997年)など、数々の革新的なサービスを生み出し、人々の生活になくてはならないものへと成長した。
現在、1か月に約2億8千万個以上もの荷物が、誰かのもとに届けられている。
1979年(昭和54年) 通販市場4,300億円
民間調査会社である工場市場研究所の調査によると、1979年時点で通販の市場規模は4,300億円だった。1970年の514億円から10年で8倍以上に拡大したという。
しかし、通販の利用者が拡大する中、消費者の不慣れに付け入る悪質業者なども現れ、消費者トラブルも問題化した。
通商産業省(現、経済産業省)の産業構造審議会は消費者トラブルが多発していた訪問販売や通信販売などに対する規制の答申を1974年に発表。1976年に「訪問販売等に関する法律(現、特定商取引法)」を制定し、通販広告などへ規制をかけた。
参考文献
『通販業界・セシールひとり勝ちの魔術』(著:鈴木麻由美 刊:エール出版、1993年)
『通信販売業界の軌跡』(編集・発行:日本通信販売協会、1990年)
INDEX
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