米国向け越境ECで成功する方法とは? Amazon活用の可能性とEC最新トレンド
越境ECを始めたいときどこの国・地域をターゲットにすればいいのか? 近年、中国EC市場の盛り上がりが話題になるが、中国向けECは法律、言語、商品ニーズなどからハードルが高いと考えるEC事業者は少なくない。
一方、越境ECが話題になる以前から海外向けECを手がけるEC事業者がターゲットとしているのが英語圏、それも米国市場だ。物流や言語の壁など越境ECのハードルは、「中国よりは低い」と話すEC事業者は多い。
米国EC市場に詳しい、いつも.の高木修氏(コンサルティング事業部長)が、米国EC市場の最新動向や米国市場に参入する方法などを解説した。 写真◎Lab
米国向けEC市場は2016年で6156億円、2020年は1兆円超と予測
経済産業省が2017年に発表した「電子商取引に関する市場調査」によると、2016年における米国向けの越境EC規模は前年比14.4%増の6156億円。日本から中国への越境EC規模は、同30.3%の1兆366億円。米国と中国の合計は同23.9%増の1兆6522億円。
米国向けと中国向けの越境EC市場規模は、2020年に合計2兆9761億円となる見通し。市場規模は2016年比で約1.8倍の水準となる。中国向けが2016年比83.8%増の1兆9053億円、米国向けは同72.5%増の1兆618億円に増える。
中国、米国の越境EC消費額を2016年と2020年で比較すると、米国は約1.72倍、中国は約1.84倍。中国と米国のEC消費額の伸びが日本からの越境ECの規模拡大をけん引する。
規模を見ると中国向けが米国向けを上回るものの、米国向けには大きな利点がある。それは言語だ。米国向けで使用するのはもちろん英語。世界共通言語である英語で記載されたECサイトであれば、英語圏や英語を利用するグローバルユーザーからの流入が期待できる。
米国の消費者は海外の商品を求める傾向について、日本貿易振興機構(JETRO)では次のようにまとめている。
ECサイトを利用して海外店舗から買い物を行った消費者の利用率は、2016年の43%から2017年には47%へ上昇(デジタル市場分析会社コムスコアの調査[2017年第1四半期、米国オンラインユーザー5,000名対象])。消費者が越境ECを利用する主な理由として、「比較的安い価格で商品を購入できるため」(43%)、「国内にはないユニークな商品が欲しいため」(36%)、「好きなブランドや商品が国内で購入できないため」(34%)
なぜ、Amazonで米国向け越境ECを始めた方がいいのか?
米国EC市場でAmazonは圧倒的な販売力を持つ。それは決算の数値から一目瞭然だ。
米国向け越境ECで多くの日本企業が活用しているのがAmazonとeBay。米Amazonの2017年における連結売上高は前期比30.8%増の1778億6600万ドルで、仕入れ商品などによる製品売上(デジタルメディアコンテンツなど含む)は1083億5400万ドル(前期比18.5%増)。
eBayの2017年度通期決算は、売上高が同7%増の96億ドル、取扱高(GMV)は同6%増加の884億ドルとなった。なお、AmazonはGMVを公表していないものの、eBayの取扱高を大きく上回る。
日本貿易振興機構(JETRO)が7月31日に公表した「ジェトロ世界貿易投資報告」2017年版によると、Amazonの米国EC市場でのシェアは3割を超える。
『ネットショップ担当者フォーラム』が連携している米国のEC専門誌『InternetRetailer』では、2016年の米国におけるオンライン購買の43%は、アマゾンが運営するECサイト内で行われたと推測している。
こうした状況を踏まえ、いつも.の高木氏は米国向け越境ECについてこう指摘する。
アメリカではAmazonが圧倒的なNo.1企業。アメリカ進出ならAmazonを活用した方がいい。モールを活用せずに米国市場を開拓するのであれば、Amazonにはない何かを作る必要がある。(高木氏)
高木氏によると、右肩上がりの成長を続ける米国EC市場で、市場成長率の6割をAmazonが占めるという。
そのAmazonの成長率を支えているのがプライム会員だ。2017年9月に9000万人を突破したと高木氏は説明。「米国の世帯の7割くらいがAmazonプライムに加入していると考えられる」(高木氏)。
「プライム会員は何がすごいのか?」。こう問いかけた高木氏はAmazonの驚異的な転換率(コンバージョン率)をあげた。
Amazonは9000万人という豊富な会員を抱え、その会員ユーザーのコンバージョン率は74%。多くの米国ユーザーは迷わずにAmazonで買い物をしている。(高木氏)
高木氏はAmazonで爆発的に伸びている製品として、「Amazon Echo」(Amazonのスマートスピーカー)、「Fire」(Amazonのタブレット端末)、「Fire TV」(簡単に映画やビデオを楽しめるデバイス)をあげ、「家の中では24時間、Amazonに囲まれた状態になりつつある」(高木氏)と言う。
調査会社comScoreの調査結果(2017年1月時点)によると、「Amazon.com」の月間ユニークビジターは1億8412万人。プライム会員を含めた多くのユーザーを集客し、米国EC市場の4割を超えるというシェアを獲得している。
Amazonは現在、世界11か国で出品サービスを展開。いわゆる「マーケットプレイス」(第三者販売のサービス)を通じて、さまざまな国の事業者がさまざまな国・地域に商品を販売している。
米国ECの最新トレンド
米国EC市場では、ECの注文に音声認識機能を活用する動きが急速に広がっている。Amazonが販売しているAI搭載の音声認識スピーカー「Amazon Echo」をはじめ、音声でオンラインショッピングを行うユーザーが増えているという。
高木氏は、「Amazon Echo」の販売台数が推計1880万台に達していることや、デバイス所持者の約50%が音声で買い物をしたことがあるとする調査結果に言及。さらに、音声注文を利用したユーザーは、継続的に音声で買い物を行う傾向があるとする調査結果も紹介し、「ECの注文方法は、キーボードやタッチパネルから音声へと移行し始めている」(高木氏)と、ECのトレンドの変化を指摘した。
「商品を選ばせない」ECサイトも台頭
米国では従来の常識を超えた新しいビジネスモデルのネットショップが台頭している。たとえば、「服を選ぶ必要がないECサイト」が急成長している。(高木氏)
高木氏はこう話し、アパレルECのSTICH FIXが運営する子供服のECサイト「kidbox」に言及した。「kidbox」は、ECサイト上に次々と表示されるアンケートに回答していくと最適な商品にたどり着く仕組みを採用しているECサイトという。
子供の年齢、性別、サイズ、服を着るシチュエーション、子供の興味関心などに関するアンケート結果を基に、STICH FIX側が最適な商品を選定し、1回の注文で数点の商品を送る。顧客は届いた商品の中から気に入った商品のみを購入し、残りは返品する仕組み。
従来のアパレルECは、洋服のセンスが比較的高く、服の買い物に慣れたユーザーが主に利用していた。しかし、EC市場が拡大するにつれ、ファッションリテラシーがそれほど高くない消費者もECサイトを利用するようになっていることから、こうしたECサイトが成長している。(高木氏)
1SKUのECサイトが人気の理由
高木氏はマットレスのECサイト「saatva」も紹介。同サイトの取扱商品数は1SKU、しかも100日間は返品無料という。
販売数を1点に絞っている理由は、商品を選べない消費者をターゲットにしているためだ。(高木氏)
従来のECサイトの常識では、取扱商品数を増やすことでロングテールの売り上げを伸ばすことが有効だとされてきた。しかし、ECサイトが乱立し、「どの商品を買えば良いかわからない」という消費者が増えていることから、あえて商品を1点に限定して販売するECサイトが、米国で成長しているという。
商品を選べない消費者が増えている理由について高木氏は、ECが普及した結果、「ネット通販に慣れていない消費者がEC市場に流入している」ことをあげた。
イノベーター理論のベルカーブにおける、保守的な消費者である「ラガード層」がECを利用するようになってきたため、ラガード層に合わせた戦略を取ることが、有効な成長戦略になってきている。(高木氏)
米国EC市場のトレンドを解説した高木氏は、今後、同様のトレンドが日本でも表面化する可能性があると指摘。「市場が成熟するにつれ、新たに獲得できる客層が変わってくる。そのことを踏まえた販売戦略が必要になる」と強調した。