Amazonのジェフ・ベゾスCEOから学ぶ、利益を出すために「自らを破壊する方法」
先日終了したAmazonのプライムデーは、破壊的な競争相手がいかにして挑戦を挑んでくるかを示す歴史的な事例と言えるでしょう。他のオンライン小売事業者は、破壊されないための方法だけでなく、その勢いを利用し、自らの利益のために「自らを破壊する方法」を考え出なくてはいけません。
若きベソスが予測したとおりの未来
競合他社が攻撃を仕掛けてきたとき、CEOはまず会社を守るため、本能的に一連の防衛策を追求しながら、会社の周りを土嚢で囲むような動きをするでしょう。
しかし、本当の混乱に直面した場合、このアプローチは失敗するかもしれません。真に破壊的なビジネスモデルの影響に耐えられるほど、強力な防護壁は存在しない可能性が高いのです。それが「破壊的」である所以です。
破壊の可能性に満ちた環境では、重量だけが信頼できる防御ではありません。実際、規模の大きさが不利になる可能性があります。我々の調査が指摘しているように、規模が大きく、素早く対応できない昔ながらの企業は、より弱く、より脆弱であることが多いのです。
この発言は、古き良き王権の時代には奇妙に聞こえたかもしれませんが、Amazonの創設者、ジェフ・ベゾスの戦略を最初に退けた多くの小売事業者が学んだ教訓そのものなのです。
1999年にWiredが発行した「ベゾスの内側」というタイトルの記事の中で、主に書籍を販売していた若干35歳のベゾスが、2020年の小売業界がどのようになっているかと聞かれた時、「消費者は店舗で購入する商品の大半をオンラインで注文するようになるだろう」と予測していました。「実店舗型の小売業が生き残る唯一の方法は、“娯楽”と“便利さ”を提供することだ」とも語っています。
当時、彼の予測を重視した小売事業者はほとんどいませんでしたが、それも無理はありません。1999年、eコマースの売上は米国の小売売上全体のわずか0.64%でした。それが今では10%以上になっているのです。
Amazonに始まった小売業界の混乱状態は、おそらく他のどの業界よりも激しく、長く続いています。ベゾスはさておき、小売業界のリーダーたちは自らを改革し、ビジネスモデルを変え、消費者に対するアプローチを変えなければいけませんでした。
過去4年間、私たちは小売業者を含む一流の伝統的な企業のCEOの研究を通じて、崩壊の時代をリードすることに関する彼らの意見を聞いてきました。ヒアリングから得られた結論の1つは、攻撃的なアプローチをとり、新たな競合他社の勢いをとらえ、その勢いを競合他社に向けることで、競争に打ち勝つ可能性が生まれたということでした。
我々はこのアプローチを「破壊的柔術」と呼び、それを「破壊されないCEOの5つの特徴」の1つにあげています。
パターンを見つけ、分解し、自らの利益に変える
紀元前5世紀の軍事専門書『兵法』の中で、孫子は「彼を知り己を知れば百戦あやうからず(相手を知り自分を知る者は、百回の戦争でも滅びることはない)」と書いています。
破壊的な柔術を成功させるためには、CEOは敵を知るべきです。リーダーは、創発的な市場概念、特に明らかに破壊的な潜在力を持つものを積極的に探し出すことによって、奇襲の要素を減らし、同じように影響力のある方法で脅威に対抗する準備をすることができます。
CEOは環境を精査し、顧客に役立つ新しい価値創造のユニークで興味深いパターンを特定し、その新しい価値の根底にある源泉に常に関心を持たなければいけません。
「アイデアから何か学ぶべきことはあるだろうか?」「アイデアを理解し、内在化し、より良いものにすることができるだろうか ?」「“Xの場合、最終的にY?”という論理的な結論まで、潜在的な破壊的シナリオを展開することができるだろうか」──これらの質問はすべて、CEOが初期段階の破壊を認識し、それを自分たちの利益に変えるための戦略を考案するのに役立ちます。
従来の実店舗型の小売事業者の多くは、ベゾスが予測した、そして大部分は彼によって創出された新しい競争の現実に適応しつつあります。それはeコマースの特定の要素を分解し、それらを自社のビジネスモデルに統合するために自ら行動を起こすことによって可能になります。
たとえば、百貨店チェーンのNordstromは2018年、ロサンゼルスに「ノードストロム・ローカル」を導入しました。小さな店舗で在庫もなく、高級衣料品や靴が展示されているだけのスペースですが、ファッションのヒントを提供するパーソナルスタイリストや、洋服の仕立てサービス、購入できるワインやマニキュアを配置しました。
「ノードストロム・ローカル」の目的は、Nordstrom.comで商品を購入するよう、消費者を誘導するユニークなカスタマーエクスペリエンスを提供することです。同社はその後、即日配達サービスの提供を開始しました。
実店舗へのデジタルの導入
こうした戦略はハイエンドの小売事業者特有のものではありません。Best Buyのような家電量販店は、厳選されたeコマース機能を、実店舗がもたらす潜在的な利点に結びつけることに必死に取り組んできました。
最近、Best Buyの会長に就任したヒューバート・ジョリー氏がCEOだった時、オンラインで競合他社から商品を買う前にその商品を調べるために店を訪れる「ショールーミング」消費者と戦うのではなく、プライス・マッチング戦略を取ることで、その利点を生かすことを決めました。
Best BuyはApple、Samsung、Amazon、Googleなどの企業が自社製品を展示するためのブランドフロアも提供しています。そのような13のブランドを管理下に置くことで、彼はBest Buy独自のビジネスモデルを拡大し、実際により多くの潜在顧客「ショールマー」を惹きつけ、店舗での購入の満足度を高めました。
従来型の小売事業者とオンライン小売事業者が、継続的に破壊的な柔術を互いに用いているため、小売業のカスタマーエクスペリエンスにおいて、興味深い革新の流れが絶え間なく続くことが期待できるでしょう。
小売業の自己破壊は困難。でも、外部破壊には勝ります。破壊的な柔術を実践している小売業のCEOは、自分たちのビジネスモデルの非永続性に立ち向かうために、不屈の精神を必要とするでしょう。また、他の誰かによって破壊される前に、自己破壊に必要な洞察を見つけためには、初心を持ち続けることも大切です。
このプロセスは苦痛を伴い、リスクに満ちているかもしれませんが、代替案はもっと悪い結果になる可能性があります。『Forbes』は自己破壊に関する記事で、「もしタクシー業界が、Uberが参入してほとんど役に立たなくなる前に、消費者へのサービスを改善する方法を自省していたとしたらどうなったでしょうか」と推測しています。
小売業を再構築するという勢力の中に、市場での成功への潜在的な道筋があります。破壊的な柔術を駆使し、勢力を自分たちの利益に変えられるCEOが、成功できるのCEOなのです。