「買えるAbemaTV社」が手がけるD2Cモデル。新しい顧客体験を支えるカスタマーエンゲージメントプラットフォームとは?
サイバーエージェントでEC事業を展開する「買えるAbemaTV社」は、Amebaブランドならではの発想で、消費者の生活に寄り添う新たなD2Cビジネスを開始した。サイバーエージェント メディア統括本部 Ameba事業部 新規事業準備室 室長の大江隆允氏がビジョンとEC戦略を解説した。
また、買えるAbemaTV社が採用したカスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Braze」の魅力を、Braze ソリューションコンサルタントの伴田有香氏が説明する。
変化する世の中とマーケット・トレンドを生き抜くために重要な3つのこと
買えるAbemaTV社では、もともと芸能人がバイヤーとして買い付けた商品を販売する番組をAbemaTVで展開していたが、途中から自社で商品を企画して製造、販売していく形に変更。現在はD2Cサービスとして複数のプロダクトを手掛けている。
D2C事業の第1弾商品として「BORDER FREE」というブランドの美容クリームを2021年10月25日に発売した。
買えるAbemaTV社とAmebaの融合で生み出せている特徴は、商品の発売前にAmebaユーザー1,000名以上にアンケートを実施し、どういった商品が求められるか、新しく作った商品の良い点悪い点を確認した上で、世の中に出しているところ。(大江氏)
「BORDER FREE」で実現したい対話重視のD2C戦略とは?
同社が「BORDER FREE」で実現しようとしているのが、対話重視のD2C戦略であり、そのために大切にしているポイントが次の3点である。
- ユーザーとさまざまな形で対話を行いより深く理解すること
- 対話を行うだけではなく、ユーザーの悩みや課題の解決に向き合うこと
- ユーザーが納得いく解決方法を一緒に作り出していくこと
具体的には、Amebaがユーザーの1番の理解者になり、ユーザーが持っている悩みや課題を解決するために、架け橋となっていこうと考えている。
例えば、アンケートやインタビューでユーザーと直接対話することで、ユーザーの課題を聞き理解を深めていく。
次に、必要に応じ専門家に話を聞いてユーザーの課題を整理し、解決策を見つけ、そこで得た有益な情報をAmebaユーザー届ける。情報だけでは実際の問題解決につながらない場合は、メーカーと商品に必要な機能性や要素を含めた商品開発を一緒に行うなどを考えている(大江氏)。
現在、Amebaのスマートフォンの月間来訪者数は約2,000万。そのうち8割弱が女性で、年代層は30代から50代が9割弱と多く、約1,300万人に利用されている。
実際にユーザーがどのような使い方をしているのかは、同社が実施した「Amebaを使うきっかけ」についてのリサーチ結果に現れている。
Amebaブログを使っているきっかけは、基本的に自分と似た境遇にある人の生の情報、ありのままの姿が現れた情報を得るためということがわかった。
アメブロでよく読まれている記事のジャンルは上記の通り。日常で抱えうる問題や悩みに対し、アメブロがそれらをきれいにカバーしている状況が見て取れる。
もう一歩踏み込んでユーザーの悩みを聞き出し、一緒に解決策を探る
Ameba自体がこうした特徴を持っていることから、運営側として今までアメブロユーザーと関係性を築いていく中で、サービスをより良くするためのブロガー向け勉強会や、サービスの使い勝手などをヒアリングするユーザー座談会などを実施してきた。
D2C事業ではこれをさらにもう1歩踏み込んで、Amebaユーザーの日常生活の悩みや課題を聞き出して解決できる部分がないかを一緒に探していきたいと考えている。こういった取り組みを実施して行く上で、同社が大切にしている考えが次の3点だ。
先述の通り等身大の情報が求められていることを踏まえ、1点目が「ユーザーに真摯に向き合うこと」。ネガティブな部分も含めて、包み隠さずユーザーに開示していく。2点目は運営者も1人の生活者としてユーザーの課題に寄り添い「当事者目線を持った向き合い方をしていく」必要があるということ。
3点目は、ユーザーと一緒に解決策を模索し、解決策が具体的に見えてきた際、それが情報の場合ならわかりやすく伝えること。商品の場合なら手に取りやすい価格で提供する。こうした「ユーザーの心が動く価値を届けること」を意識して取り組んでいる。
ユーザーごとの興味や価値観、行動特性、その深度まで理解する
同社ではユーザーと対話をする中で、ユーザーごとの興味や悩みの状態を深く理解することを大切にしている。ユーザーの興味の対象や興味の深さもそれぞれ異なり、持っている知識量の違いもあるので、それらがどれくらいなのかも考慮すべきだと考えている。
ユーザーへの理解を進めた上で、コミュニケーションをさらに取りたい。関係構築のための時に大切にしていることは、ストレスのないコミュニケーションとなること。特に、ユーザーごとに合わせた内容や伝え方など接点の持ち方を取っていこうとしている。(大江氏)
ユーザー1人ひとりとストレスのないコミュニケーションを実現するには?
その際に重要なのが、これらのポイント。
私たちはいろいろなタイミングでいろいろな情報を取得している。朝に情報収集する人もいれば、夜の人もいる。人によって情報の取り方もタイミングも違う。そうした部分をきちんと捉えて、その人が情報を手に入れやすい形で届けることが必要。(大江氏)
次に、興味の対象がどこにあるのかと、その人がどこまで理解しているのか、自分が欲しい情報の粒度や種類はどういうものなのかを捉えていく必要があるという。
そのためには、ユーザーを興味ごとにセグメントしたり、知識量に応じた情報を届けたりするためのシナリオ配信も必要かもしれない。同じ情報でも伝え方によって伝わり方も異なるので、どちらが届きやすいのか、わかりやすいのかを考え、より適切な形にするためのABテストも必要になってくる。
最終的に問題の解決策がある程度固まり、ユーザーがソリューションを選ぶフェーズになった際には、興味または理解深度に合わせた接客が必要となる。その時に重要なのがユーザーの属性と「今どの深度までいっているか」という行動ステータスを把握して、タイムリーに対応していくこと。
このように、ユーザーの理解と接点の持ち方をトータルで実現することがユーザーに提供できる価値であり、サイバーエージェントとしてこれからさらにD2C事業に力を入れていく際の方針となっている。
オンラインオフラインを含めてユーザーの声をしっかり聞き、聞いた内容を反映して、ユーザーごとに必要なことをきちんと届ける。ユーザーを理解して寄り添うことで、日常に落とし込んだソリューションを一緒に作っていくことを実現したい。(大江氏)
理想のコミュニケーションを実現するためのソリューションとは
これらを実現する手段の1つとして、同社はカスタマーエンゲージメントプラットフォームの「Braze(ブレイズ)」を採用している。今年10周年を迎えたBrazeは、フォレスター社からクロスチャネルキャンペーン管理、およびモバイルエンゲージメントオートメーション領域においてリーダーの評価を、forbes社からはクラウドベスト100の急成長企業として評価されている。日本法人も設立1周年を迎え、Eコマース領域では買えるAbemaTV社をはじめ、導入企業が続々と増えている。
「業種業態を問わず、いかにお客さまの態度変容をリアルタイムにつかむか、そしてそのモメントをもとにパーソナライズされた体験を提供するか、という点を大事にされている企業様にご利用いただいている」と話すのはBrazeでソリューションコンサルタントを務めている伴田氏。
コロナで進んだデジタル化と、モノよりもコトが重視される購買行動
上の2つの数字は、ここ1、2年で急速にデジタル化が進んだことを表している。伴田氏は「消費者の購買行動の傾向として、モノよりもコト、体験を重視するようになってきている」と続ける。
例えば、コーヒー1つにしても、コーヒーだけではなく、店の雰囲気、空間、接客、椅子の座り心地などそこで得られる満足感といったトータルな体験にフォーカスしている。つまり私たちはコトありきで物を買うようになってきている。(伴田氏)
先ほどのサイバーエージェントの話にもあったように、D2Cにおいては消費者の意見や価値観がダイレクトに反映されていて「体験を越えていかに世界観、価値に共感するか」といったところもより強くなっている。
そのようなブランドや企業が持つ付加価値や、世界観をきちんと届けて顧客と心理的につながることが必要になってきているという。
Brazeは創業当初から一貫して「human connection 人と人との心ふれあうつながり」というコンセプトのもと、企業とお客さまとのエンゲージメントを高めていくことを重要視している。
人間的なつながりというと、テクノロジーと少し相反するような気もするが、Brazeは限りなく人間的なコミュニケーションに近いデジタルコミュニケーションを実現する。(伴田氏)
それを可能にしているのは、お客さまの情報をリアルタイムにアップデートし、常に最新の情報から、お客さまそれぞれに合ったジャーニーを柔軟に描くことができるリアルタイムなパーソナライゼーションである。
最新の情報、最適なジャーニーにはマーケティング部門だけではなく、IT部門によるシステム連携に工数や時間がかかってしまうのが課題だとよく聞くが、Brazeはそういったブロックなしにマーケティング活動が行える柔軟性を備えている。(伴田氏)
心地よい体験をリアルタイムに、クロスチャネルで行うことが必要不可欠に
それぞれのお客さまの“今”に合ったメッセージング、タイミング、チャネルでリアルタイムのエンゲージメントを実施し、それに対するお客さまの反応分析、つまり大江氏の話にもあった「声に耳を傾ける」ことができる。そして素早くPDCAを回していくことで顧客体験の向上やつながりを深めていけるのがBrazeの役割だと伴田氏は語る。
例えば、ECでよくあるカゴ落ちのリマインドで、「カゴやお気に入りに入れて放置していた商品のリマインドが来たので、購入しようとしたら、すでに在庫がなかった」ということはままあるが、こうした残念な結果になるとせっかくのメッセージングでエンゲージメントが下がってしまう。企業側でも、システム連携などに手間や時間がかかるため、リアルタイムな施策に取り組めていないことはよくある。
Brazeはメッセージを送る瞬間にAPI連携を行い、その瞬間にシステムへアクセスし、最新の在庫状況やそれに紐付くおすすめ商品を差し込んでお知らせすることができる。つまり、最新の情報でパーソナライズメッセージを届けることができるのだ。
また、メッセージを送る瞬間に購入ステータスなどのセグメントもできるので、「すでに購入したことのある人にはクーポンを送らない」「在庫がなくなっていたら送らない」というような対応も可能だという。
さらに同じブランドからメールやプッシュ、LINEと複数チャネルでメッセージを受け取ることがあるが、Brazeはお客さまが最も好むチャネルのみで送ることができ、開封されていなければ別のチャネルで送るといったクロスチャネルでのアプローチも可能だ。
このように、獲得した新規顧客のリテンションを高めるために心地よい体験をリアルタイムに、そしてクロスチャネルで行っていくことが必要不可欠だと言う。
クロスチャネルで行うとどれくらいエンゲージメントが高まるのか、同社調べによるとプッシュ、メール、アプリ内メッセージはそれぞれ上図の通り開封率が上がる。
そして購入するお客さま、単価、再購入率にもこれだけの影響があり、LTVが高まる。
また、コンテンツの内容がパーソナライズされていることにより、プッシュ、メールクリック率に効果が現れ、お客さまの行動に基づいて最適なタイミングで送付することでアプリの使用率や購入率が向上する。Brazeではお客さまがよく開いている時間に送り分けることもできるので、さらに効果を高めることが可能と強調する。
クロスチャネルでもお客さまにとって心地よいコミュニケーションであるために、適切なタイミングや頻度、チャネルである必要がある。Brazeはこの真のリアルタイム性を実現するためのストリーミング処理で、お客さまの今の状況を適切に捉えてコミュニケーションを取ることができる。(伴田氏)
ユーザーの声を聞き、対話し、良い体験を提供していくことが鍵
リアルタイム性を担保しながらブラックフライデーやサイバーマンデーなど大量のパーソナライズメッセージを捌ききる高いスケーラビリティを持っているという。そして、すべてのチャネルを1つのプラットフォームで提供することで、お客さまにとって最適なチャネルでコミュニケーションが可能となる。
Brazeはマーケターが実施した施策を負荷なく実現し、ブランドが持っているメッセージをきちんと届け、良い体験を提供することで、お客さまの信頼を得てエンゲージメントを高めていくことを支援している。
サイバーエージェントの大江氏もBrazeを活用している理由に、こうした体験を届けるためと話す。
1人ひとりと直接One to One、Face to Faceでコミュニケーションを取るには、物理的な制約があるが、Brazeを使うことでコミュニケーションを促進できる。最終的に実現したいのは、ユーザーとの関係構築でいかに信頼を高めていけるか、そしてユーザーの方々の今後の人生に寄り添えるプラットフォームになることで、みんなにとってWin-Winな状況を作りたい。(大江氏)