「サイト内検索」を改善してCVRアップを実現!NTTドコモが語るAI活用の重要性
ネット通販でのスマホシフトが進み、ECサイトの売上アップにおけるサイト内検索の重要度が増している。例えば、キーワード検索を経由して希望する商品にたどり着いたユーザーは、他の流入よりも約10倍、購買に結び付きやすいという調査データもある。AI(人工知能)を搭載したサイト内検索で、ECサイトの売上増加やコンバージョン率の向上、顧客の離脱防止を支援しているNTTレゾナント(現在はNTTドコモ)が、サイト内検索の重要性から未来の検索技術などを解説する。
「商品が見つからない」をなくすだけで売り上げは伸びる
NTTレゾナントの調査によると、ECサイトを訪れたユーザーの8割がまずキーワード検索を実施する。ただ、検索の結果「欲しい商品が見つからなかったことがある」と回答したユーザーは56%にのぼる。
欲しい商品が見つからなかったユーザーは、「他のサイトに行く」が56%、「実店舗に行く」が29%。商品が見つからなかったユーザーの85%がECサイトから離脱する。
一方キーワード検索をして商品にたどり着いたユーザーの購買率は、圧倒的に高い。他の流入よりも約10倍、購買に結び付きやすいのだ。
実際にECサイトの多くは検索ボックスを搭載しているが、ユーザーが希望する商品を見つけることができないのは、①ユーザーの検索ワードが悪い②検索結果が表示されているが、後ろの方に表示されているので見ない③キーワードに当てるだけの検索で、ユーザーが求める商品が出せていない――などが主な理由となっている。
Googleの調査によると、約10件に1件はスペルミスがあるという結果が出ており、それだけユーザーは入力ミスをしている。そしてGoogle同様、ECサイトでもユーザーは検索結果の2ページ目以降はあまり見ないため、目的の商品がユーザーの目に付く1ページ目の上部に表示していないと認識されず「商品があるのに買ってもらえない」という大きな機会損失になってしまう。
検索は、一度チューニングをして終わりではない。どんなに良いツールをECサイトに導入しても、しっかり運用をしないと宝の持ち腐れになってしまう。(北岡氏)
「表記ゆれ」によって異なる検索結果が表示されてしまう
そもそも検索とは、ユーザーが探している商品をしっかり表示して、初めて機能する。だがユーザーの入力するキーワードは人によってさまざまで、検索結果が上手く表示できない問題が発生する。
例えば「ゴミ箱」を探しているユーザーにおいては、「ごみばこ」「くずかご」「ダストボックス」のほか、「ゴミ函」などの誤入力など、ユーザーによって入力テキストが異なってきてしまう。
こういった事象が「表記ゆれ」だ。「表記ゆれ」にはさまざまな種類があり、バリエーションが豊かな日本語の場合「表記ゆれ」は以下のように発生する。
「売れ筋順=ユーザーの求めている並び順」ではない
検索によってユーザーが求めている商品を表示するためには、表記ゆれの対応だけでは不十分だ。表記ゆれを吸収したあとは、ユーザーの求めている順番に並べる必要がある。
ユーザーが求めている順番とは、売れ筋順と思われがちだが、ただ売れ筋順に並べてしまうとユーザーが求める順番とは異なる結果が表示されてしまうケースがある。例えば、「Tシャツ」というキーワードで検索したとき、「Tシャツに似合うスニーカー」と紹介している商品があると、売れ筋のスニーカーが最初に表示されてしまうことがある。
商品検索結果をどのような順番で出すべきなのかは、とても難しい。チューニングをするにしてもスタッフ個人の考えだけで並び順を決めてしまうと、実際はユーザーの意図とズレていることもあるし、その運用をするにも膨大な時間がかかり、継続した運用は難しい。
一方で、ユーザーの行動データをベースにした最適化というのは、AI(人工知能)が得意な部分。こういったことの解決策をAIに見いだすことができる。(北岡氏)
AIを活用した検索サービス「goo Search Solution」
NTTレゾナントもAIを活用した検索に取り組んでいる。それが「goo Search Solution」というサービスだ。「goo Search Solution」の特徴は「表記ゆれ」に強いこと、ユーザーの行動ログを活用できること、さらに運用の手間がかからないことがあげられる。
ユーザーの行動ログとは、ユーザーがECサイトを訪れたときにそのサイトでどんな行動をしたかの履歴を表すものだ。この行動ログはどんなECサイトにも残っている、ECサイトにとって宝のような存在となる。ユーザーがサイトで何をしていたのか、なぜ離脱したのか、といった理由が行動ログを見れば判断できるからだ。
その行動ログを解析していくことが重要で、NTTレゾナントのAIはユーザーの行動ログを活用して検索の最適化を図っている。
具体的にはそのサイトを訪れたユーザーが、どのような検索をしたときに、検索結果からどの商品を選んで、カートに入れ、購買に至ったかなどを見ている。AIなので、検索結果の改善・運用は自動。検索結果に何を出すべきかはその時々で変化するものだが、最適化は一度行って終わりではなく毎日実施されるため、日々の運用シーンや季節変動などに合わせて最適化することができる。(北岡氏)
「goo」独自の手法で「表記ゆれ」をカバーすることも行っている。ポータルサイト「goo」の運用で蓄積した辞書を活用しているほか、行動ログから解析したクライアントのECサイトに蓄積されたログからもAIが辞書を自動生成している。
「goo」で所持している赤の辞書は、ポータルサイトのため一般用語が多くなっている。一方、クライアントのログから作る青の辞書では、サイト独自のワードや独特の傾向を反映できる。この2つの辞書を活用することで、サイトで発生する表記ゆれを幅広く吸収することができる。この辞書もAIが毎日自動で生成しているため、継続すればするほど辞書は優秀になる。
ダイレクト検索やパーソナライズ検索など、これからの検索手法
現状の検索方法以外に、今後の活用が見込まれている新しい検索の活用方法が多数登場している。
CVRが高い特集ページに移動する「ダイレクト検索」
まず取り上げるのは「ダイレクト検索」だ。これは「トイザらス」で活用されているものだが、検索ワードを入力すると特集ページに移動する仕組みになっている。
例えば、ブラックフライデーの時期に「ブラックフライデー」と検索すると、ブラックフライデーの特集ページに移動する。特集ページに移動した方がコンバージョン率が高い場合、商品そのものを探しているのではなくキーワードに関連した情報を探している場合などに有効な機能だ。
一般的な商品を検索させる以外にも、こういった方法で検索を活用することができる。例えば、送料や返品方法など、特集ページではなくFAQを探しているような場合、この機能を活用することでユーザーがサイト内で迷子になることがなくなり、カスタマーサポートへの問い合わせも大幅に減らすことができると考えている。
他にも特集ページのバナーを表示することもできるため、直接遷移させずとも特集ページを露出することができる。(北岡氏)
AIの活用で精度を高めるパーソナライズ検索
最近需要が高まっているのがパーソナライズ検索だ。パーソナライズ検索というと通常、個人に合わせたものが表示されるとイメージするが、AIを活用して学習データが多ければ多いほど精度を高めることができる。
例えばホームセンターで冬に「スコップ」というキーワードを検索したとき、北海道の人と沖縄の人では求めているものが違うケースがある。北海道の人は雪かきのスコップを探すと思うが、沖縄の人は雪かきのスコップを探すことはないだろう。北海道と沖縄で検索結果を出し分けてあげることで、よりユーザーにとってマッチ度の高い商品を出すことができる。(北岡氏)
法人と個人、業種による結果の出し分けも可能
さらに、法人と個人、あるいは業種によって検索結果を出し分けることも可能となる。「砂糖」を検索したときに、個人が10キロのものを買うことはないと思うが、逆に業務用で1キロの砂糖を買うことも少ない。こういったこともユーザーの行動ログのなかには反映されており、どういう属性の人が、どのような商品を選んでいるのかといったところをベースにパーソナライズした検索結果を出すこともできる。
お菓子の素材を販売している「cotta」も「goo Search Solution」を導入している。パーソナライズ機能も利用いただいているが、個人ユーザーと法人12カテゴリでそれぞれ検索結果の出し分けをした結果、大幅にコンバージョン率がアップした。(北岡氏)
ユーザーメリットが高い音声検索
最後に紹介するのは音声検索だ。日本語による音声検索はまだ過渡期という印象だが、海外では現在、音声を使った検索が非常に伸びている。日本語は複雑なため、「送料無料で1500円以下の新品の腕時計がほしい」と検索したとき、そこから判別するのは難しい。
「モバオク」の事例だが、「送料無料で1500円以内の新品の腕時計」と音声検索された時に、いきなり検索結果を出すのではなく、「こういう条件で検索しませんか」といった絞り込みの条件、検索条件を最初にユーザーに提示する方法を採用している。
人の情報は視覚から入る量が圧倒的に多いので、まず検索条件を指定して出してあげるのは、非常にユーザビリティが高いUIになっている。(北岡氏)
音声検索の仕組みは、「カシオの人気の腕時計がほしい」という検索があった場合、まず品詞で言葉を分解。そして必要な言葉を抽出して解析する。この場合、カシオの腕時計というのが検索対象で、絞り込みや並び順、人気などで判別して、最後に必要な条件で検索する。
音声検索は非常に多くの利点がある。ユーザーのメリットとしてはまず、入力スピードが速い。それからハンズフリー、アイズフリーで「ながら検索」が可能になる。
スタンフォード大学の調査によると、英語ではテキスト入力に比べて音声入力の方が入力エラー率は数%下がり、入力スピードに関しては約3分の1まで下がっているという結果が出ている。(北岡氏)
接客面でチャット検索も今後進む
音声検索を活用すると、チャットを利用した検索も可能になる。接客という意味ではチャットを利用したショッピングといったところも今後進んでいきそうだ。
チャット利用の大きな利点は、単純な検索だけではなく、ユーザーの情報をヒアリングしながら買い物を楽しんでもらうことができるので、ユーザーにマッチした商品を提案することができる。
例えば、ユーザー情報として男性で30代、会社員という情報が取れていれば、後はどういうものを探したいのかをヒアリングしながら、チャットで会話をしながら買い物ができるので、通常のキーワード検索よりユーザーにマッチした商品を提示することができる。(北岡氏)
AI活用による全体最適化で効果が現れる
検索がもたらす効果は、さまざまなECサイトで数字となって表れている。「ナノ・ユニバース」の場合、コンバージョン率は85%アップ、売り上げは2倍超、PVは1.5倍となっているほか、「トイザらス」ではCVRが400%アップ、0件ヒットが改善したりしている。
検索の導入効果はコンバージョンが上がるだけではない。ユーザーからのクレームが減ったり、離脱率が変わり検索結果の表示件数が増えたりすることでSEO効果につながるといったケースもある。見た目ではあまり変わらないといって検索の部分をないがしろにせず、ぜひ注目してほしい。(北岡氏)
AI活用でロングテール部分も最適化
検索効果をABテストしたケースを紹介する。NTTレゾナントはECサイト「NTT-X Store」を運営しており、サイト検索を改善するためにABテストを実施した。
導入時点ではあまり変化は見られなかったが、学習期間が2週間経過したころから、ログを学習することで徐々に効果が表れている。最終的には導入から1か月で購入数が15%アップするという結果が出ている。
すぐに効果は出ないが、AIを活用して継続的にログからの学習を続けていくことで、しっかり効果を出せるということがわかった。
AIを導入しないと効果が出ないのかというと必ずしもそうではなく、人の手によるチューニングでも効果を出すことは可能だ。
ロングテールの考え方では、実際は80%の部分がマイナーだが売り上げの大半を占めている部分になる。しかし人の手で対応できるのは、青枠で囲った上位20%と書いているが、実際には0.1%未満のわずかな部分になる。
AIを活用することのメリットは、テール部分の赤で囲っている部分まで最適化できること。AIは人手では叶わない、目の届かない全体もケアすることができる。検索に課題を感じている方は「今目に見える部分」だけではなく、サイト全体の最適化を視野に入れた検索の改善を検討してほしい。(北岡氏)