カリモク家具に学ぶ消費者に支持される秘訣。「商品力」「ブランド作り」「EC活用」「UGCマーケ」にあり
創業は1940年、一貫して“木”の仕事を手がけてきた国内有数の家具メーカーであるカリモク家具。時代とともに変化する消費者ニーズに寄り添いながら生産・販売してきた高品質の家具は、多くの消費者の心を引きつけている。
デジタル化推進の一環として、2020年に自社ECサイト「【公式】カリモク家具オンラインショップ」を開設。ECのコンセプト「便利な買い物体験」を強化するため、現在はInstagramやYouTubeを活用したUGCマーケティングに力を入れている。メーカーとしてECにどう取り組んでいるのか、そしてUGCがもたらした効果とは――。
多くのファンに長く愛され続けるカリモク家具のブランド戦略とその取り組みを、営業推進部統括常務取締役の山田郁二氏と新市場営業部主任の鈴木里紗氏に取材した。
支持される圧倒的な理由は、品質。「カリモク家具は長持ちする」
「カリモクの家具は長持ちする」。カリモク家具が消費者から支持される家具ブランドへと成長した最大の要因は高い品質力にある。
世界中を見ても、家具メーカーのほとんどが「板材は材木屋」「それを切って加工するのがメーカー」という分業体制を敷くが、カリモク家具では木材の乾燥から家具製造までを一気通貫で手がける。これが、「カリモクの家具は長持ちする」と好評を得られる高い品質の秘訣(ひけつ)だ。
「板という漢字は“木”が“反る”と書くように、木表と木裏の水分量が間違うと反ってしまうほど、木は乾燥技術を要する材料」(山田氏)。木の水分量を徹底して管理し、品質の高い家具を製造するカリモク家具の物作りのこだわりの一端を見てみよう。
丸太から製材したときの水分量は約60%と言われる木を、8か月間ほどかけて約20%にまで乾燥させる。カリモク家具の家具に使う木材は、そこからさらに4~5か月かけて人工乾燥炉でゆっくりと8%になるまで乾燥。高度な乾燥技術を持つ熟練の職人がその工程に携わる。
手間をかけても材料作りから手がけていることがカリモク家具の最大のこだわりであり、そのこだわりに引きつけられた“カリモクファン”を生んでいる。
「長持ちする」を裏付ける要因にはもう1つある。パーツ交換や修理メンテナンスに対応する体制を整えていることだ。全国の営業所に修理スタッフを配置しているほか、工場でも修理に対応。ホームページでも修理代金の無料見積もりを案内しており、顧客からメールで送られてきた画像をもとにおおよその予算を返答し、納得の上で修理に対応している。
先代の社員たちが1980年代に作った社史「カリモクグループのあゆみ」のなかに、「家具作りという大変な仕事をしてしまった」と嘆いた創業者・加藤正平の言葉が記されている。家具は車や家と同じく、耐久性のある消費財なので修理をしなければならないし、そうしなければお客さまに迷惑をかけてしまう。だから、商品を売ったことが、本当の意味で商品をお客さまに売り渡したことにならない――と。
しかし、買っていただいたお客さまに、しっかりと修理メンテナンスを提供できる体制を整えていることが、今では「丈夫で長く使えるね」というお喜びの声につながっている。
コロナ禍に入った2020年以降、修理のニーズは以前よりも増したという。家具の修理は手間がかかるため、新品を買った方が安く済むケースが少なくない。それでも修理を望む顧客は、「祖父母が使っていたから残したい」「初任給で買ったから大事に使いたい」など、家具に特別な思い出や気持ちを抱いている。
家具の修理は「安いからうれしい」ではなく、「よみがえってうれしい」と思われることが大切であり、それが感謝の声としてカリモク家具に多く寄せられているという。
大量生産から“多品種少量生産”にシフト。消費者ニーズに合わせた家具作りとは?
時代の流れとともに家具業界を取り巻く環境は変化しているが、「一番大きいのは、消費者が家具に求めることが変わったこと」(山田氏)。たとえば、婚礼家具もその1つ。昔は結婚の際に、新婦がタンスや鏡台などの家具一式を持って嫁ぐ風習があったが、今は女性の社会進出が進み環境は一変。独身時代から1人暮らしを始めるなど、結婚前からすでに家具を揃えられており、婚礼調度としての購入はなくなった。
また、クローゼットや吊り棚など、家具があらかじめ備え付けられている住宅が増えたことで、家具業界では、タンスやロッカーなど収納家具を指す「箱物家具」の生産が急激に縮小。一方、和風住宅の床座から洋風住宅の椅子座に変わったことで、椅子やテーブルといった「脚物家具」が人々の暮らしに浸透し、需要のある家具の種類も変化した。
バブル崩壊後は家具店が減少したほか、1990年代頃からはグローバル化が加速するなかで、家具店が海外メーカーから家具を仕入れる動きが進んだ。国内の家具メーカーも、生き残った家具店からの取引高が制限されるようになり、大きな打撃を受けることとなった。
家具店に商品を置いてもらえなくなると、消費者に商品を見てもらえる機会がなくなってしまう――。カリモク家具はこの状況を打開するため、90年代中盤以降、ショールーム開設へ資金を投じるようになった。同時に、住宅メーカーや地場工務店など、従来の家具店や百貨店以外の営業ルートも開拓し、「実物の家具はショールームに行けば見られる」という形で商品を紹介してもらう場面を増やしてきた。
営業だけでなく、製品の作り方までも見直したカリモク家具。理由は、消費者が既製品では満足しなくなってきたからだという。
海外に出かける消費者が増え、さまざまな場所で家具を見た消費者の目が肥えてきていた。そうすると、インテリアコーディネートやライフスタイルといった視点も重視されるようになり、「ただ座れればいいわけではない。自分の好きなカラーの椅子やソファを探したい」というニーズが高まった。
そこで、当社はカスタムオーダーの仕組みを取り入れることにした。海外メーカーや、製造から小売まで手がけるSPA(製造小売)に対抗するには、もっとお客さまの近くで細やかなおもてなしができるメーカーでなければいけない。ショールームもカスタムオーダーも、すべてはお客さまに喜んでいただくための取り組みだった。また、それらが流通にもご支持されるはず。(山田氏)
カリモク家具の従来の家具作りは大量生産が中心。だが、樹種、塗装の色、張地の素材・色、サイズなどを選べるカスタムオーダーを取り入れたことで、多品種少量生産に切り替えた。
1人の顧客に対してオリジナルの家具を1つ作るこのモデルが、90年代後半から現在まで続いている。その結果、約40万品番もの製品が作れる、世界的にもまれな「邸別生産型」の体制を生んだ。
「邸別生産型」とは、お客さまからご注文を頂き、その仕様で1点1点、生産する方法。いわゆるオーダー生産だ。だが、邸別生産はコストがかかり、価格も高くなってしまう。そこで量産で生産する工程と、個別で生産する工程を組み合わせ、最適化を図るなど、現在も日々改善を重ねているという。
バブル崩壊前の1980年代は、団塊世代による住宅の一次取得時期であり、加えて大家族から核家族化へシフトしていたため、新築の住宅件数は年間170万戸もあったと言われる。家を新築すれば家具を購入される機会も増える上、ベッドは1人1台、ソファは各家庭に1台とすると、世帯数が増えるほど家具の需要も増えることになる。そうした状況下では、ある程度サイズや価格帯を意識していれば需要が見つかり、細かなターゲティングをせずとも、メーカー側からのプロダクトアウトで事業が成立しやすかった。
しかし、現在は年間の新築件数が85万戸程度にまで減少。さらに、人々のこだわりがファッションから食事、次いで家具・インテリアへと、衣食住の全般に広がったことから、家具業界も細かなニーズに応える姿勢が求められるようになったという。
デジタル化がメーカーの認知拡大施策を後押し
カリモク家具はITへの投資が早い段階から行われており、1990年代から営業担当に1人1台端末を貸与するなど、社内のデジタルインフラの整備を進めていた。それでも、メーカーの立場として、対消費者の顧客接点や接客などに与えるデジタル化のインパクトは大きかったようだ。
商品購入に至るまでは、消費者がどこかで認知し、興味関心を持ち、比較検討をして、購入――というプロセスがあるが、アナログの時代はリアルの接触機会に投資しなければ、最初の認知にすらたどり着けなかった。デジタル化が進み、スマホやSNSの拡大も拍車をかけ、アナログやリアルでの接点がなかった消費者にも認知されるチャンスが一気に広がった。ただし、「デジタルの時代であっても、購入いただいたお客さまのフォローアップがさらなる認知のためには不可欠」(山田氏)と言う。
2022年に当社がショールームに訪れたお客さまを対象に行ったアンケート調査によると、「家具について何で調べているか」は1位が検索エンジンだった。しかし、「カリモク家具を何で知ったか」では口コミが1位だった。
アンケートに回答いただいたのが“ショールームに来訪いただいたユーザー”ということを差し引いても、友人や親がカリモク家具を使っているなど、WOM(Word of Mouth。口コミのこと)がやはり重要だと再認識した。
これまでに買ってくださったお客さまが、次の新しいお客さまにちゃんと情報を届けて認知につなげていただいていることがわかっているので、お客さまのフォローアップを徹底することが大事だ。(山田氏)
デジタル化以前であれば、認知・興味関心の部分は家具店が役割を担い、比較検討の部分は価格やアフターサービスなど、メーカーが役割を担っていた。デジタル化が進んだ現在は、認知の段階からメーカーも活動できるようになったことが大きな変化となっている。
自社ECサイト開設、狙いはコロナ禍の苦境の打開
2020年、コロナ禍の影響によって取引先店舗や自社ショールームが閉館や休業をせざるを得なくなった。カリモク家具はユーザー接点を保つため、自社ECサイトの開設に踏み切り、顧客とのリレーションを試みた。
ただ、ECサイトの開設には社内から半信半疑の声は少なくなかったという。リアルとECの対立が課題となっていることが多いように、カリモク家具にとっても既存の営業ルートから見るとECの販路は競合になると考えられたためだ。
自社ECサイト開設の責任者として白羽の矢が立ったのが山田氏。カリモク家具は2018年にAmazonとベンダー契約し、Amazonでの商品販売を開始しているが、そのときに陣頭で指揮を執ったのが山田氏だったからだ。
当時も「Amazon=値引き販売」というイメージが持たれており、既存営業ルートから反対の声があがったが、Amazon側から「価値販売で家具のトップメーカーの商品をそろえたい」という意向を受けていたため、社内の説得に成功し、Amazonでの販売を始めることができた。
Amazonでの販売に至った背景には、認知拡大の意味合いが大きかった。以前は家具店がお客さまをお店に呼び込む力が強く、カリモク家具の認知活動もしていただけていたが、大手以外の家具店は、昔に比べるとどうしてもその力が弱まってしまっている。私は当初、認知力の弱まりをずっと危惧していた。
2002年に立ち上げたブランド「カリモク60(ロクマル)」(1960年代から作り続けている製品と、当時生産されていた商品を復刻し再編集したブランド)も認知に課題を抱えており、社内から合意を得て販売したところ、すぐに良い結果につながった。
Amazonでの取り組みが認知活動となったのか、数値で測ることは難しいが、その年から「カリモク60」の業績は右肩上がりで推移している。(山田氏)
全国26か所のショールームでは、購入後の消費者をしっかりとサポートする体制も整えているため、「消費者に認知さえしてもらえればあとは強い」という自負がある。Amazonとの取引開始以降の結果を見ても、デジタルの活用が認知と興味関心の可能性を広げると見込まれるため、コロナ禍の苦境も自社ECサイトが打開策になると期待したようだ。
わずか3か月で「【公式】カリモク家具オンラインショップ」をオープン
国内が本格的なコロナ禍に突入してからの2か月間、カリモク家具では対面を必要とする既存営業活動が制限された。そんななか、2020年4月に自社ECサイトの開設を命ぜられた山田氏は、半年後のオープンをめざそうとしたが、会社側の要求はもっと早い時期でのオープンだった。
Amazonで販売しているとは言え、自ら販売するセラーではなく、Amazonに商品を預けて販売してもらうベンダー契約のため、ECサイト運営の経験はない。山田氏は当時を「まるで出口の見えないトンネルのなかに入ったようだった」と振り返る。山田氏はとにかく関係各所に協力を呼びかけたという。
幸いにも、Amazonと取引をしてきた2年間で作成した商品情報や画像データが豊富にあった。それらを活用し、わずか3か月後の2020年7月に、「便利な買い物体験」をコンセプトとした「【公式】カリモク家具オンラインショップ」を開設した。まずは急務で開設したECサイトのため、その後も肉付けや手直しを継続的に行っている。
ECで価格を担保。家具業界全体の価格保持に貢献
かつての高度経済成長期とは異なり、現在の家具業界は、薄利多売では事業継続のための適正な利益は得られない。ECだけでなく実店舗も同様という。値引きをすると経営が厳しくなるのは取引先の家具店も同じだ。カリモク家具のECは、自社ECサイトとAmazonの双方とも定価売価で販売し、価格信頼性を担保している。
自社ECとAmazonで定価販売していれば、家具店はその定価売価を顧客に提示できる。たとえば、従来は2割引で販売していた家具店が、1割引や5%引程度の割引率でとどめることができるようになる――といったように、うまくカリモク家具の自社ECサイトを利用する家具店も現れている。ECが取引先の家具店の競合になるのではなく、価格信頼性を内外に広く告知する役目を果たしているようだ。
また、自社ECサイトを開設したことにより、消費者のなかには、メーカーによるサポートが受けられることを優先に考えて「定価でもメーカーから直接購入したい」という層が一定数いることがわかったという。
事業者側はマーケティング戦略の指針として「製品(Product」)「価格(Price)」「流通(Place)」「販促(Promotion)」の“4P”を見るが、これに対して顧客側は「顧客価値(Customer Value)」「経費(Cost)」「顧客利便性(Convenience)」「コミュニケーション(Communication)」の“4C”を重視する。Priceではなく、「定価でもいいから、買って失敗したくない」というCostを重視する顧客のニーズにメーカーの公式ECサイトがマッチしているという。
カリモク家具は、そのニーズに細やかに対応していくことがメーカーの責務だと捉えている。
Amazonと自社ECにおけるニーズの違いとは?
自社ECサイトを運営するうちに、同じ定価売価であっても、Amazonと自社ECでは顧客のニーズが異なることに気づいたという。自社ECはカスタムオーダーに対応するため、注文から商品配達まで最短1か月、通常では1か月半ほどを要するが、顧客もそれに納得した上で注文している。一方のAmazonは即納のニーズが高く、倉庫に在庫を持ってすぐ届けることが重視される傾向が高い。
カスタムオーダーという長所を裏返せば、「ベッドが壊れたので寝られない。すぐに欲しい」といった即納希望の顧客への対応が難しい。自社ECでも、カスタムオーダーへの対応だけでなく、納期のニーズにも応えられる体制作りが課題の1つにあがっているという。
このほか、自社ECはまるで店舗のように、マンツーマンのコンサルティングやアドバイスが求められやすいことも、Amazonとの大きな違い。ショールームでのリアル接客が、EC上ではチャットボットやメールなどのデジタルに置き換わっているようなものなので、メーカーの自社ECは安心感や適切なアドバイスと接客スキルが必須となる。
自社ECでは来訪した顧客に接客して商品を勧め、ECサイト上には掲載していない商品も販売できる仕組みを構築しているため、リアルな接客業に極めて近い。アドバイスや接客を求める顧客に、EC上でも商品をイメージしてもらいやすくなるコンテンツをより一層増やしていきたいと考えている。
ブランドを再認識。収益につながるブランディングに注力
多くの消費者から支持されてきた理由として「商品力」「変化対応」「デジタル推進」を解説してきたが、「ブランド力」もカリモク家具の成長を語る上で欠かせない大きな要素だ。ブランディングを意識し始めたのは2000年頃。バブル崩壊後から続く値引き合戦の影響が大きかったという。
バブル崩壊前までは、家具店や百貨店が「カリモク家具はきちんとしたブランドですよ」と消費者に勧めてくれていたため、自分たちはれっきとした家具ブランドだという意識が強く持てていた。
しかし、バブル崩壊後は小売店が安価な家具を仕入れるようになり、しまいにはカリモク家具のシールをあえて剥がして商品を展示する小売店まで現れた。その理由は、「カリモク家具だということがわかると、他店の同じ商品と販売価格を比べられて値引き合戦になるから」。ブランドを隠して売らなければいけない現実に、ショックは大きかったという。
そんなときに偶然、「Kチェア」(カリモク家具が自社製品として1962年に開発した椅子)がロングライフデザイン活動家のナガオカケンメイ氏の目に留まり、ナガオカ氏とともに山田氏が統括する形で新ブランド「カリモク60」を立ち上げ、事業化することとなった。
それまではなんとなく、カリモク家具そのものがブランドになっているイメージだったが、「カリモク60」をきっかけに、再度ブランドについて考え直すようになった。独自性、差別化、違いを生めば、ブランドを指名買いしていただけるようになる。ブランドが回り回って収益に影響するということを、強烈に実感するようになり、国内林業に貢献するブランド「カリモクケーススタディ」や「カリモクニュースタンダード」なども立ち上げた。
お客さまに私たちの取り組みを認識していただくためのブランディング活動に今、力を入れているところだ。ブランドプロミスを果たすことで、支持していただいているお客さまの期待にしっかり応えていきたい。(山田氏)
40年以上にわたり家具業界に携わってきた山田氏は、「家具のマーケットは、果物にたとえると昔は大玉スイカだったが、今はブドウの房のようなもの」と話す。昔は、家具を大量生産して大量に販売しているカリモク家具という大玉スイカを、皆で切って食べていた。それが今ではブドウのように、細分化したマーケットのパイの商品をたくさん実にしなければ事業が成立しづらくなっているということだ。
「ロングライフデザインの『カリモク60』だね」「『カリモクニュースタンダード』は森林保全に貢献しているブランドだね」と消費者に認識されるように、明確なコンセプトを持ってターゲティングに挑まなければ、ブランディングが確立できない時代になっているという。
SNSやYouTubeでUGCマーケ推進
今日のブランディングに欠かせないプロモーションとしてあげられるSNS。カリモク家具は自社ECサイトを立ち上げた2020年からInstagramを強化した。もちろん、カリモク家具のブランディング活動の一環だ。
現在はInstagram、YouTubeを中心にSNS発信に取り組んでおり、「ほかのSNSも試したが、家具・インテリアという商品特性上、テキスト主体よりビジュアルで見せられるInstagramの方がブランディングに向いている」(山田氏)と実感している。
YouTubeの「カリモク家具 公式 YouTubeチャンネル」は、ハウツー動画も配信。カリモク家具での購入を促すというよりも、家具選びの方法や配置の仕方など、購入時の初期疑問を解決するコンテンツという位置づけ。また、YouTube動画は自社ECサイトにも掲載し、自社ECサイトではYouTube動画の内容に関連する商品を組み合わせて紹介している。
Instagramは、カリモク家具のコーポレートアカウント以外に、「カリモク家具ショールーム」と「カリモク60」の2つのアカウントも追加。来訪者の目的にあわせ商品の魅力や使用シーンが伝わる画像を投稿。また、顧客が自身のInstagramに投稿したカリモク家具の画像を、許諾を得た上でInstagram(カリモク家具ショールームのアカウント)に掲載し、それをさらに自社ECサイトに転載して、画像と関連する商品も合わせて紹介している。
自社ECサイトのコンセプト「便利な買い物体験」に沿うためには、顧客が知りたい情報を提供できるUGC(ユーザー生成コンテンツ)の取り組みが必然的に重要だった。カリモク家具では、このようなSNSを活用したUGCマーケティングを進めるため、visumoが提供するビジュアルマーケティングプラットフォーム「visumo social」を導入。「visumo」を活用することでUGCを充実させることができ、担当者による運用の作業負担も少ないまま自社ECサイトのコンテンツ拡充が図ることができているという。
ECの運営メンバーは営業出身者ばかりのため、ECサイト運営のノウハウや経験が充分でなく、サイトでやりたいことが発生するたびに、専門業者に依頼しなければならなかった。しかし、「visumo」の導入により、サイト構築の専門的な知識を要さずとも、YouTubeで撮影した動画やInstagramの画像をサイト上で簡単に実装できるようになった。
一般的には新たなツールを導入すると業務が煩雑になり、混乱しがちだが、導入に際する作業はほぼ発生しなかった上、日々の更新作業も楽に運用できている。また、「visumo」は何をどの時期に変更したかをスムーズに引き継げる機能もあるため、複数人での管理にも向いていると思う。
このほか、「visumo」は顧客の投稿した画像をサイトで掲載する際に、利用許諾を得る機能を搭載しているが、「この機能が新たなユーザーコミュニケーションの形も提供してくれている」(山田氏)と評価する。
素敵な投稿をしていただいたお客さまには、「visumo」を使ってカリモク家具から掲載の許諾を取る連絡をしているが、「掲載していいですか?」と聞くと、ほぼすべてのお客さまが自分の投稿が掲載されることを喜んでくださっている。「visumo」を導入していなければ、こうしたお客様とのコミュニケーションは生まれなかったかもしれない。
また、メーカーや販売店が情報を発信してユーザーがキャッチする時代から変化し、近年はユーザー同士での情報交換が当然になった。「visumo」を通じて、こうしたユーザー同士のコミュニケーションができる場も用意することができていると感じる。(山田氏)
利用許諾の連絡をした顧客からは、「両親が使っていた家具を張り替えたもの」や「子どもが小さい頃に購入した」など、百人百様のエピソードがコメントで寄せられている。顧客の画像をECサイトで掲載した後も、顧客がその画面のスクリーンショット撮って「カリモク家具のオンラインショップにいろいろなオシャレな写真が載っているので、ぜひ見てください」といったコメントを添えて再度SNSで発信してくれるケースも多く、UGCがECサイトの認知拡大にも貢献しているようだ。
また、許諾を得た顧客には、後日DMでインタビューを行っている。その家具を選んだ理由や生活に起きた変化などを聞き、YouTubeコンテンツ「徹底解説シリーズ」の話題として活用しているという。
UGCがページセッション、滞在時間、買い回りアップに貢献
UGCマーケティングに取り組み始めてから、サイトの滞在時間や回遊性などが格段に向上し、売り上げにも良い影響が表れているという。
「visumo」を活用したコンテンツを閲覧した場合と閲覧していない場合のページセッション数を比較すると、2022年度(2022年4月1日~2023年3月31日)は閲覧した場合の方が約2.4倍も多く、2023年4月~7月度は前年同期と比べるとさらに約2.5倍に伸長。平均サイト滞在時間も、2022年度は約3.4倍、2023年度の同期間では約3.6倍に伸びるなど、「visumo」の導入は効果てきめんと言える。
また、「visumo」コンテンツを閲覧した顧客は関連商品を合わせて購入するケースが多く、平均購入単価も高い傾向にある。「visumo」コンテンツ閲覧ユーザーの2022年度(2022年4月~2023年3月)における平均客単価は、すべてのサイト訪問者と比べて1.19倍、閲覧していない場合と比べると1.29倍。2023年4月~7月度と前年同期で比較すると、すべてのサイト訪問者比で1.25倍、非閲覧者比で1.34倍だ。
自社ECサイトのページセッション数やサイト滞在時間を伸ばす目的で特集ページを作成したりもするが、このような数字はなかなか出せるものではないので、継続的に実績を出している「visumo」にはとても助けられている。
お客さまは「実際にこの家具を家に置いたらどうなるか?」「ほかの色だとどうだろう?」といった疑問を持っていて、ほかのお客さまのリアルなコーディネートへの関心が高いことが、こうした数字からよく伺える。セッション数や滞在時間は、ページに対する検索エンジンからの評価にもつながると考えられるため、SEO対策の面でも期待が大きい。(鈴木氏)
「visumo」は導入サイトの効果を最大化するため、担当者が親身に進捗確認や相談に対応しており、こうしたサポートも鈴木氏は高く評価している。
カリモク家具は導入直後に、UGCをまとめたコンテンツをサイトに掲載していたが、visumoから商品ページにユーザーの画像を載せる“逆引き機能”を活用するよう提案を受けたという。一度サイトへタグを設置すれば、visumoの管理画面の操作でUGC画像へ商品を紐づけるだけで、その商品ページに表示させることができる機能だ。これにより、表示回数は増加。こうした的確なアドバイスで「visumo」の効果が日々高められているという。
UGC収集につながる重要ポイントはカリモク家具へのプライオリティ
UGCを集めると、顧客が家具をどうコーディネートしているのか、他社製品とどうジョイントしているのかといった、顧客のリアルな暮らしが見えるようになり、メーカーにとっての開発の大きな武器にもなったという。カリモク家具では、UGCで収集した顧客の声を、商品の開発チームや生産工場のメンバーにも共有している。こうしたメンバーは実際に顧客の声を聞く機会が少ないため、顧客からの喜びの声が、メンバーの喜びや、士気向上につながっている。UGCという財産を、今後は商品開発にも生かしていきたい考えだ。
また、UGCはカリモク家具のブランディングの成果であり、より良いブランディングの一助にもなると山田氏は話す。
家具作りを始めて60年、お客さまを裏切らない品質を提供してきたことで、お客さまは当社に対するプライオリティを持ってくださっている。その結果、購入いただいたお客さまに投稿していただく比率が高まり、それを見ていただける機会も増えているのだと思う。
日経BPコンサルティングが年に一度発表する「ブランド・ジャパン」において、カリモク家具は約20年にわたり家具・寝具の分野でノミネートされ続けている。消費者のコメントで最も多い「品質」「デザイン」のワードに次いで、「使っている」「使用している」という声が多く寄せられている。(山田氏)
「便利な買い物体験」を高めるため、顧客がストレスなく欲しい情報を得られるようにしようと始めたUGCマーケティング。実際に、収益につながる数値が出ているほか、ファン化や商品開発のヒントなど、数値で表せない面でも効果が見えている。
ただ、UGCがほかのユーザーの認知・興味関心を喚起し、そこからECサイトやショールームに訪れれば比較検討・購入にもつながっていくように、与える影響や効果は広範囲にわたるため、カリモク家具は会社全体としてUGCで何か1つのKPIを設定しようとはしてはいない。「それぞれの立場で見ている数値や目標は変わるので、そこにUGCを生かしていくことが大事だ」(山田氏)と考えている。
近年は“木”の仕事全般に対応する家具作り60余年のカリモク家具とは
カリモク家具は、木材商を営む家に生まれた加藤正平氏が、1940年に木材加工業として愛知県で創業。加藤氏は当初は、県内や東海地区の企業からの下請けを手がけていたが、下請け業は事業の浮き沈みが激しかったことから「いずれは自社ブランドを立ち上げたい」という夢を持つようになっていたという。
下請け時代、東京の家具メーカーから、対米輸出用の家具の木工の下請けを依頼され、これをきっかけに家具作りを開始。当時、日本国内の暮らしは加速度的に近代化が進んでおり、「住まいも洋風住宅に変わっていくだろう」と考えた加藤正平氏は、人々のより良い住まいと暮らしを支える家具作りをめざして、1962年に自社商品の家具「Kチェア」の生産を始めた。「Kチェア」は今も生産を続けており、現在展開しているブランド「カリモク60」の原型にもなっている。
ただ、家具業界の歴史は古く、当時のカリモク家具は後発メーカーの立場だった。問屋を介すと、販売店で商品を取り扱ってもらえないこともしばしばあったため、工場勤務の人員も営業に回り、家具店や百貨店に足しげく通いながら、メーカー卸として現在の業態を確立してきたという。
近年は、もう一度原点に立ち返るという意味を込め、家具だけでなく木でできる仕事全般を手がける方針としており、異業種とのOEMによる取り組みを強化。たとえば、「樹木との共生」をテーマにした資生堂のスキンケアブランド「BAUM(バウム)」の木のパッケージにカリモク家具の木の端材を活用したり、仏壇・仏具のはせがわとともに、部屋のテイストや家具ともコーディネートしやすい「リビングルーム仏壇」を開発したりと、家具以外のOEMも積極的に行うビジネスモデルをとっている。