EC業界に15年以上携わる有識者3人で「ネッ担 ニュースまとめ」の連載再開! 意気込みやEC業界をアレコレ語り合う
運営堂の森野誠之さんが10年間続けていた連載「ネットショップ担当者が知っておくべきニュースのまとめ(ネッ担まとめ)」。2024年4月に惜しくも最終回を迎え連載も終了――と思われましたが、3人の後任メンバーを迎えて復活します! 前任の森野さんからバトンタッチを受けたのは、ECマーケティング人財育成(ECMJ)の石田麻琴さん、ユウキノインの酒匂雄二さん、Designequationの中林慎太郎さんのEC業界に15年以上も携わるベテラン3人。それぞれの担当領域や長年携わっているEC業界について語り合いました。
15年以上EC業界に携わる、後任メンバーとは?
私が続けていた「ネッ担まとめ」の連載が2024年4月に終了しました。その後どうなるかと思っていたら、編集長から「復活します」と連絡を受けまして。それが3人で復活するということで、驚いています。
さて、連載復活にあたり、3人にはこれまでの経歴と担当する領域について伺います。石田さんからお願いします。
大学時代にスポーツ新聞の記者をめざして文学部で勉強していましたが全部不採用となり、卒業後は1年半ほどフリーターをしていました。
そんな25歳の僕でも入社できる求人を探していたところ、条件に合致していたのが倉庫系かEコマースの企業。そこで、ECのベンチャー企業の採用面接を受けたんです。
ITやウェブにまったく興味はなかったのですが合格。EC専業のドリームフィールズ(現在は土屋鞄製造所などを抱えるハリズリーの傘下)に就職し、2005年から2011年まで在籍していました。
現在はECマーケティング人財育成(ECMJ)というEC支援企業を経営しています。「Eコマースのマーケティングができる人材を社内にきちんと作ろう」というコンセプトを掲げ、伴走・実践を通して社内にノウハウを蓄積しマーケティングチームを作るというコンサルティングを手がけています。
ずっとEコマース業界にいて、2024年で19年目になります。
石田さんは以前、毎日ブログを書いていましたよね。何年くらい続けていましたか。
2013年から7年くらい毎日書いていました。「何か1つ突き抜けないと生き残れない」という話を元某雑誌編集長の大物経営者に指導されまして。昔から書くことが好きだったので、毎日ブログを書き続ける道を選びましたね。
続いては酒匂さん、お願いします。
ゲームクリエイターの学校に通っていましたが、当時はゲーム業界が急激に傾いていた時期だったため、ゲーム会社ではまったく採用されず。一時期、ゲーム会社の下請けで働いていましたが、壮絶な現場でした……。
そのような状況下、「ネットショップは事業の伸びしろがある」と感じ、20数年前に「楽天市場」に触れ始めました。
前職では、紳士礼服の製造・販売を手がけるNFLのEC店長をしていましたが、当時「楽天市場」で紳士の礼服が売れるはずもなく。他の事業者が右肩上がりで伸びるなか、なかなか成果が出ない時にX(旧Twitter)やブログなどをこまめに更新していたところ、少しずつ問い合わせなどが増えてきました。後になって振り返ると、それがSEO施策につながっていたんだなと感じています。
転機になったのは2017年の「全国ネットショップグランプリ」(運営は一般社団法人イーコマース事業協会)で準グランプリを受賞したことですね。
受賞を機にさまざまな団体や企業に声をかけてもらえるようになり、世界が広がりました。セミナーなどで自分が伝えたことで人に喜んでもらえることが嬉しくて、2020年にユウキノインを設立しました。メインはSEO・コンテンツマーケティングですが、Eコマースにとどまらず、クラウドファンディングやプレスリリースなどWebサイトに関連した幅広いコンテンツ作成を支援しています。
最後に中林さんお願いします。
専門学校でCiscoやOracleといったネットワークエンジニアの勉強をしていましたが、途中でWebのデザインに興味を持ったためWebデザインを学習。その後、Flasher(フラッシャー、Flashを用いてコンテンツを制作する仕事)になるために独学で学習し、2003年頃に東京で就職しました。
その後、フリーランスになり20代後半で神戸に戻りましたが、東京では成り立っていたフリーランスの仕事も、関西は内製型が多いためほとんど仕事がなかったんです。受注金額が安かったため、フリーランスで生計を立てるのは難しいなと判断。紆余曲折を経て神戸フランツに入社して12年在籍しました。
2022年に退職し、現在は中小企業のECの支援、事業の立ち上げ、化粧水、クラフトビールのタップルームの支援などを行っています。
EC全般、SEO・コンテンツマーケティング、CS&自社EC――経験を生かした領域を担当
皆さんが連載で担当する領域、どのような観点で情報を伝えていくのか教えて下さい。
2週間に1回、領域はEC全般ですね。
まとめということで、トレンドは追いつつ、記事やニュースが出てから何年・何十年後に振り返っても「そういうことがあったな」「これってすごく良いこと言っていたんじゃないか」と感じてもらえる、学びになるような本質的な観点で情報やメッセージを伝えていきたいです。
現在「ネッ担」でSEOやGoogleコアアップデートに関連した連載を持っていることもあり、月1回、SEOやGoogleアップデートなどのトレンドトピックを拾いながら、“now”な情報を発信したいです。
何年経ってもECの本質は変わらないと思うので、アーカイブとしても使えるようなSEOコンテンツ周りの情報を発信していきたいですね。
SEO関連では「Web担当者Forum」で鈴木謙一さんの連載がありますが、そことの差別化は考えていますか。
鈴木さんはWeb全般について扱っているので、差別化ポイントとしては、EC責任者としての経験、自分が関わっているEC関連ということを踏まえ、ECに軸足を置いた内容にしていくことですね。YMYL(「Your Money or Your Life」の略で、お金など重要な話題に関する分野)領域も携わっているのでそういった点も交えつつ、EC事業者、スモールビジネスを実施している企業に向けて、「誰でもできる」「再現性の高い」という視点で情報を発信していきたいと考えています。
月1回、モールや自社ECサイト、CS、物流、バックヤード関連を担当します。あまりバックヤードにフォーカスするコンテンツが世の中には少ないので、バックヤード担当者がやっていることにフィーチャーしていきます。マーケティングもウェットな部分、感情の部分に触れていき、EC事業者に役立つ情報を発信していきたいですね。現場の人が日々実施していることで、「そういう切り口もあるのか」など、記事を読んだときに気づきを得られるようなものを発信したいと考えています。
ECの現場の人は業界のトレンドとかではなく、「日々どうするか」を考えることが多いように感じます。
古い話にはなりますが、たとえば「ガラケーの製造終了」というニュースが出たときに、周りのECの人たちの反応が薄かったんですよね。僕はそれは違うだろう、と当時感じていて。「ガラケーがなくなるということは、お客さまの端末がスマホになるので、ページの対応を今からでもしっかり実施していかないとね」「スマホのサイト作りも考えないといけないね」など、世の情報をどう捉えて考えていくのか……「忙しいから」「日々のことで精一杯」などと終わってしまってはいけません。世の中の状況に合わせて各事業者が対応策を考えていかなければいけない、といったことも伝えていきたいです。
これからのECはどうなる? 展望を聞いてみた
皆さんEC業界に長く携わっているので、今のEC業界についてどのように感じているか伺いたいです。
最近「JRE MALL」「ANA Mall」などインフラ系企業がECモール運営に乗り出していますが、中林さんはどう捉えていますか?
どのような戦略を取るかによって規模が拡大するかしないかが変わるかなと感じています。NTTドコモの「dショッピング」は他のECモールと比べて規模は小さいですし、リクルートの「ポンパレモール」は2024年6月で運営を終了しますしね。
大企業の場合、ECモールを縦割りでの組織体制ではなく、横串で各部署・部門のシナジーをうまく出し、それぞれの強みをきちんと発揮できれば事業を拡大できる可能性が広がると思います。
ただ、楽天グループやLINEヤフーのようにトップダウンで勢いよく施策を推進できない企業は、個人的には消費者に浸透するのは難しいと思っています。旧来の日本的な大組織では難しいかもしれません。
集客のポイントは? コンテンツはどこに出すのが良い?
酒匂さんにお聞きします。集客面で、コンテンツだとGoogleにインデックスされないし記事は飽和状態と、SEO自体が難しい状況になっていると感じています。そうするとSNSか、となりますがSNSも種類が多くて飽和な印象です。そうしたなか、コンテンツはどこにどう発信すれば良いのでしょうか。
ベースは自社コンテンツ、ブログコンテンツが前提だと考えています。Googleのコアアップデートで、「何を言うか」より「誰が何を言うか」――「E-E-A-T」の部分がとても可視化されてきていると感じます。そのため「SNSはユーザーとの接点として必ず運用して下さい」とお伝えしています。
SNSならXがとっつきやすいと思いますが、注目しているのはnote。noteのリンクはnofollowになっているのですが、Googleは「nofollowでもUGCでもスポンサードでも、検索しているユーザーの手がかりになる」と明言しています。
私自身も実験してみて、自社やクライアントのサイトなど関わっている範囲、見ることのできる範囲では、noteにコンテンツがあるとしっかり評価されてサイト全体が上がるような体感はありました。書き物・読み物が崩されることはないですし、2023年のGoogleカンファレンスでも「人が知りたい・買いたいという探究心がある限り、我々の検索エンジンはなくならない。サーチという行動はなくならない。形は変わるかもしれないが、コンテンツ自体は変わらない」と繰り返し指摘されていました。
よく「Instagramで販売したい」と言われることがありますが、自分がInstagramで商品を購入した経験のない人も多い。「自分が購入した体験をお客さんにも届けたい」というなら話は別ですが、単純に「お金をかけて手っ取り早くやる」というなら違うと思います。自社ECのCMSのなかでブログをきちんと書くことを実施した方が良いです。
生成AIの普及で平均点が上がってきて、誰しもがコンテンツを作れる世の中になってきているなか、オリジナリティ、品質の良さ――まさに「E-E-A-T」という概念がとても大切になってくるのではないでしょうか。
EC運営は長いスパンで見て「どう取り組むのか」を考えることが必要に
ECの全体のトレンド、どこの分野が伸びているかなどを、石田さん、ざっくりとお話しいただけますか。
特定の業界やジャンルが伸びているイメージはあまりなく、お店単位で伸びている印象です。全ジャンルを押さえているわけではありませんが、僕が支援している企業では、ペット系が伸びている印象。ペット系はSNSとの相性も良いのですごく伸びていますね。
「楽天市場」のSKUや「最強配送」などはどうでしょうか。
「どこまで追うか」を店舗がある程度考えないといけない時期ですよね。販売手法、サービス、商品など自社に適した売り方を長期的に貫いていく方がECを長く続けられるのではないでしょうか。これまでもモールの施策に関するニュースは多々出てきていますが、それに振り回されるのは良くない。店舗がそれをどう考えるか、それに対してどう取り組んでいくのかということを会社組織として考える時代になってきましたね。
モールに合わせながら運営するのか、店舗が独自の軸を持って取り組むのかということですね。
事業継続を前提にした場合、自社としてのECへの期待値、お客さんに対してどういう役割を果たすのかをそれぞれの会社が明確にしなければいけないのではないでしょうか。
ECは大企業がやれば大きく伸びるかもしれませんが、中小では競合ばかりで厳しい点もあると思います。
元々実店舗を持っている企業やメーカーの方が、伸長はゆっくりですが長く続いています。EC専業事業者は大きく伸びるが落ちるときも大幅に減ることが多い。15年以上EC業界にいるので専業が大きく伸びたところを何回も見てきていますが、消えたり大きく落ち込んだりしているところも少なくありません。10年単位など長いスパンで市場を見て、戦略を立てることが重要なのではないかと強く感じます。
ECの人材問題。キャリアはどうやって積めば良いの?
EC業界にいた人が離職後に「もうECには戻りたくない」と言う人も多いと感じています。中林さんは、どうしたら新しい人がEC業界でキャリアを積めるようにしていけると思いますか?
これはEC業界に限った話ではありませんが、“EC黎明期”と言われている人たちの意識の変え方、仕事に対する考え方を変える必要があるんじゃないかなと感じます。今は昭和ではなく令和です。若い人たちは「出荷件数が多いから万歳」とは思いません。“EC楽天黎明期”は、連日深夜まで受注やカスタマーサポートをして、また朝から通常業務……という過酷な労働が当たり前だった時代。まぁ、メールを出せば売れる、商品を出せば売れる時代でしたので、目に見えて売り上げも利益も伸びていました。今は、ECというビジネスモデルが当たり前になり、働き方に関する世間の目も厳しくなりましたから。今でもそんな働き方をさせていたら、利益が出ても、人は定着しにくいと思っています。
テクノロジーを活用して効率的に業務をこなして、帰宅後はプライベートを充実、また翌日仕事をこなすという業務フローにいかにできるか。本来、テクノロジーとはそのためにあるものだと思っています。もちろん仕事で楽しみを見出せれば、それはそれで良いわけです。
今はその仕組みを考えている人、仕事ができる人に業務が集中してしまい、その人が疲弊する傾向があるんじゃないかと感じます。それを解決するためには、テクノロジーが必要なわけですよね。
昔は「急激に売り上げや出荷数が伸びて万歳」という話でしたが、今は配送会社の集荷時間などもあり、「無理して出荷するの?」となる。「持続可能でほどよく伸びる」という傾向がありますが、昔は出荷したらちょっと寝てまた受注処理をして、という流れでしたね。
終電を逃してしまったら作業場で寝て、また出荷して――。お正月やクリスマスはそんな状態でしたね。
今ではそれは難しいですね。
難しいですし、求められていないのかなと。頑張ったら頑張った分だけ報われることに夢を見ている人は少ないでしょうし、より健やかに働きたい人が多い気がします。
そもそも、この表現が正しいかはわかりませんが人種も違うと思っています。昔は「ECで一旗揚げてやろう」と考える人、表現は悪いですがどこかクレイジーだったり社会にうまく馴染めなかった人がこの業界の発展に寄与してきました。そういう人が注目されてそれが正義とされてきた。けれど今はECが当たり前になって、誰でもEC業界に入ってきているような状態ですよね。
これは、まだネット通販がスタートして30年も満たないECビジネス特有かもしれませんが、経営者と労働者、長く業界に携わっている人とない人との間で、すれ違い・差が生まれていると感じます。「皆がライオンや怪獣じゃないんだよね」と考えて、どうやって組織として運営していくかが大事ですよね。
最初の自己紹介でもそうでしたけど、この3人はどこか駄目な人たちが多いですしね(笑)
楽天グループは創業27年目のため、当時入社した人はまだ定年退職を迎えていない。当時は「一旗揚げたい」と思って親御さんの事業で製作していた商品、海外で見付けた良いモノを輸入・販売して財を成した人達が多かったと感じています。ただ、四半世紀経ってECを1つの業種として見ると「根性論では働きたくない」となってきていますよね。EC業界が成熟してきたからこそ、きちんと考えていく必要がある。「寝食を忘れて売り上げを伸ばす」というところからは変わってきているのは致し方がないことです。
「どうにかして売ろう」という人が減ってきた気はしますね。そうすると、仕組みやコンテンツで頑張っていくことになります。
それぞれの観点で届ける情報を楽しんで役立てて欲しい
最後に読者の皆さんに一言お願いします。
今まで森野さん1人で行っていたことを3人でやるので、それぞれの観点の違いを楽しんでもらえたらうれしいです。
得意分野が違うので、1か月通してお互いの記事をフィーチャーしながら、より深掘りしていきたいと思います。いつか「ネッ担」のイベントで森野さんをファシリテーターに迎えて登壇できるような名物コンテンツにしていきたいですね。
3人それぞれ違う観点でお伝えしていきますが、3人が正解というわけではありません。記事を通じて、読者の皆さまが「そういう切り口・考え方もあるなら、自社はこういう考え方をしたらどうだろう」と、何かを考えるきっかけになれば良いなと思います。
ありがとうございました! 新しい風を吹かせて「ネッ担」の読者の人たちに役立つ情報を提供していただければと思います。