ヤフー宮坂社長が語るYahoo!ショッピング「今後の戦略」と「2016年度の振り返り」
ヤフーのeコマース革命が第2段階のフェーズに入る。これまでの売り手を増やす施策から、「買い手」を“爆増”させる戦略に転換。「eコマース戦略2.0」と銘打ち、ソフトバンクとのシナジー、有料会員向けサービスの強化などを行う。ECに携わる人はチェックしておきたいヤフーのこれからの戦略、2016年度の振り返りをまとめた。
2017年度は約300億円をコマース関連に投資
コマースは今、重要な局面に入っている。流通総額は営業利益を生み出すエネルギー。中長期的にECの取扱高を増やしていくことが重要。
4月26日に開催した2017年3月期連結決算の説明会。営業利益が近年伸び悩んでいるのではという記者の質問に対し、宮坂学社長はこう力強く回答した。
そのために、今後もコマース関連に投資を集中していく――こうした姿勢を鮮明にした決算説明会。ヤフーは今期(2018年3月期)に予定する510億円の販売促進費のうち、約6割にあたる約300億円を「ショッピング」「ヤフオク!」に投じる方針を示した。
今後、「eコマース戦略2.0」と銘打った「売り手」を増やす施策を強化していく方針のヤフー。
eコマース革命は出店料を無料にするなど、売り手に対する革命だった。これからeコマース革命は第二章に入る。第二章は買い手への革命だ。やりたいのは“お得”革命。これを実現したい。ソフトバンクとYahoo!ショッピングの連動などが2017年にやること。
2017年3月、ヤフー執行役員でショッピングカンパニー長の小澤隆生氏が出店者の前でこう語った具体的な施策が明らかになった。
「買い手」を爆増させる“お得”革命(eコマース戦略2.0)
軸となるのが、ソフトバンクとのシナジー、有料会員向けサービスの強化だ。
ソフトバンクとのシナジー
ソフトバンクのスマートフォンを利用しているユーザーを対象に「Yahoo!ショッピング」や「LOHACO」で買い物をすると、ポイント10倍を付与(通常は商品本体価格の1%分のポイント付与)する「ソフトバンクなら いつでもポイント10倍キャンペーン」を始めたのが2017年2月。
ポイントインセンティブを付与する施策の実行以降、ソフトバンクユーザーの「Yahoo!ショッピング」利用が増えている。
宮坂社長はこう言う。「ソフトバンクやY!モバイルのお客さまにYahoo!ショッピングを使ってもらうようにする。そこには膨大な伸びしろがある」
ソフトバンクユーザーが「Yahoo!ショッピング」や「LOHACO」で買い物をするとポイント10倍を付与する取り組みを継続する。
そのための施策第1弾として、5月末までとしていた、ソフトバンクのスマートフォンを利用しているユーザーを対象に「Yahoo!ショッピング」や「LOHACO」で買い物をするとポイント10倍を付与(通常は商品本体価格の1%分のポイント付与)する「ソフトバンクなら いつでもポイント10倍キャンペーン」を、仕組みを変えて6月以降も継続する。
6月以降は、通常のポイント1%、「ソフトバンクならポイント+5倍キャンペーン」として5%に。ソフトバンクユーザーにはヤフーの有料会員向けサービス「Yahoo!プレミアム」(月額462円)を提供(加入する料金プランに含めて提供するようにする)することで、ポイントをヤフー側で4%付与する。こうした仕組みで6月以降も10%のポイント付与を継続する。
有料会員向けサービスの強化
有料会員向けサービスの利用者を増やすための施策も強化する。まず手がけるのが動画(GYAO!ストア)や電子書籍(Yahoo!ブックストア)の利用者に対する特典付与の強化。「Yahoo!プレミアム」であれば購入時にポイント5%分を付与する取り組みを2017年6月から始める。
「Yahoo!プレミアム」の利用者が増加すれば、「Yahoo!ショッピング」の流通額も増える傾向にあり、今後も「Yahoo!プレミアム」会員の利用増を推進する。
ちなみに、こうした有料会員向け施策に力を入れているのがアマゾン。月額の会員サービスで“優良顧客”“ショッピングの見込み客”をECサイトに集客。購入頻度や顧客単価を引き上げるなど、事業単体ではなく事業全体でシナジーを向上させる施策を展開している。
アマゾンの有料会員サービス「Prime Now」を利用するユーザー数は、リサーチ業務を手がけるCIRP社の調査によると世界で6500万人超(2016年9月現在)とされる。そして、会員数の拡大に伴ってアマゾンの売上高も右肩上がりで増えている状況だ。
ネットショップ担当者フォーラムが提携している米国の最大手EC専門誌InternetRetailer社(インターネットリテイラー社)発行の「Top500 Guide.com」によると、リピート顧客の割合でアマゾンは88%を記録している。
「Yahoo!ショッピング」の掲載商品を「ヤフオク!」にも掲載するといった連動策の継続。「ヤフオク!」の落札代金を「Yahoo!マネー」で受け取ると、落札価格の8%分のポイントを付与する施策も継続し、eコマースの利用を促進する。
ちなみに、「Yahoo!マネー」の残高は急速に拡大しており、「今後のeコマース取扱高成長のポテンシャルになる」としている。
また、ヤフーが提供するサービス全体のビッグデータを活用。「マルチビッグデータを使ってECのコンバージョン率を向上させる」(宮坂社長)
“従来、「Yahoo!ショッピング」を使っていなかった人には、商品をレコメンドできなかったため、ランキングデータをレコメンドしていた。今後は検索履歴や類似購入者のデータなどから商品をレコメンドしていく。こうした取り組みを進めており、従来比でCTRが4.5%向上した(ヤフー調べ)。(宮坂社長)
2016年度の振り返り
ヤフーの2016年度(2017年3月期)におけるショッピング事業の取扱高(Yahoo!ショッピング、LOHACO(ロハコ))は前期比26.5%増の4787億円。eコマース革命以降、成長率は依然として高い数値を維持している。
「Yahoo!トラベル」、デジタルコンテンツなどを含めたショッピング関連の取扱高は7436億円で同42.3%増。オークション関連は同3.4%増の8966億円。
アスクルのBtoB事業、「ヤフオク!」などを含んだeコマース国内流通総額は1.8兆円で、同約2割増。eコマース国内流通総額は右肩上がりの規模拡大を続ける。なお、スマートフォン経由の取扱高比率は2017年1~3月期時点で51.4%。
2016年、集中的に実施したのがターゲットを絞ったポイント施策。「ソフトバンク契約者」「Yahoo!プレミアム会員」「Tポイント会員」「Yahoo!JAPANカード会員」といったヤフーグループ向けのポイント付与施策。
たとえば、ヤフーの月額有料会員ID数(「Yahoo!プレミアム」会員数とその他の合算)は2017年3月末で1773万ID。2017年3月度の「Yahoo!プレミアム」会員数は前年同月比6.0%増と右肩上がりで会員ID数は増えている。
特に「Yahoo!プレミアム会員」に向けた販促施策は功を奏している。2017年1~3月期(第4四半期)では、「Yahoo!ショッピング」取扱高のうち「Yahoo!プレミアム会員」による取扱高比率が64%を占めた。
1000万人以上を抱える「Yahoo!プレミアム」会員に向けたポイント施策では、「Yahoo!ショッピング」で商品購入すると“いつでもポイント5倍”を付与する施策などを実施した。
こうした施策の成果は顕著に現われている。「Yahoo!プレミアム」の年間客単価は、非プレミアム会員と比較すると3.5倍も高い(比較は2016年2月~2017年1月実績)。
「Yahoo!プレミアム会員」を中心に、「Yahoo!ショッピング」を一度使ったユーザーが再び利用するリピート購入も増加。四半期ベースの取扱高で、既存購入者の占める割合が増えている。
2016年はプロ野球の福岡ソフトバンクホークスが優勝を逃したものの、セール企画を実施。「優勝しなくても売れた」(小澤氏)。今期以降は優勝を逃してもセールを継続していく方針。