通販新聞 2018/12/3 7:00

LINEが法人向けアカウントを統合する。新料金プランは通数課金となるため友だち(LINEのフォロワー)を多く抱え、頻繁にメッセージをプッシュ配信している企業は、これまでどおりの運用では大幅な値上げになる可能性がある。通販実施企業の中には顧客の接点としてLINEアカウントを活用しているところも少なくない。値上げを避けてメッセージの配信頻度を減らすと、今度はLINE経由の売り上げに悪影響を及ぼしかねない。“統合後”に向けて何らかの対策が求められそうだ

統合によって現在の公式アカウントやビジネスコネクトアカウント、LINE@などのアカウントが「LINE公式アカウント」として1つにまとまる。今年12月3日に新たなLINE公式アカウントが開設され、サービス統合は来春から開始されるもようだ。

統合後のLINE公式アカウントのプランは「フリープラン」「ライトプラン」「スタンダードプラン」の3つに分かれる。

統合後のLINE公式アカウントのプラン
統合後のLINE公式アカウントのプラン

月額固定費はフリーが無料、ライトは5000円、スタンダードが1万5000円。各プランの変更は自由。月額費の範囲でメッセージをプッシュ配信できる通数も決まっており、フリー1000通ライト1万5000通スタンダード4万5000通となる(タイムラインへの投稿は全プランで無制限に可能)。

問題はこの通数を超えて追加でメッセージを送る場合だ。無料のフリープランはメッセージの追加配信ができないライトプランだと追加メッセージは1通あたり5円かかる。スタンダードプランは追加するメッセージの数によって価格が変動するが、この料金の計算がやや複雑だ。

統合後のLINE公式アカウントのプラン
スタンダードプランは追加するメッセージの数によって価格が変動する

LINEが紹介している例を見ると、ライトプランで追加メッセージを1000通(合計通数1万6000通)送る場合、追加分の料金は1通5円のため、固定費(5000円)と合わせると合計1万円となる。

次に、スタンダードプランで追加メッセージ1000通(合計通数4万6000通)の場合は、追加分は5万通以内であるから1通あたり3円で3000円となり、固定費(1万5000円)との合計は1万8000円。

スタンダードプランで追加分のメッセージが10万通(合計14万5000通)とした場合、追加メッセージのうち5万通までは1通3円で、5万1通目から10万通までは1通あたり2.8円が課金される。つまり「5万×3円=15万円」と「5万×2.8円=14万円」を合わせた29万円が追加分の料金で、固定費との合計は30万5000円となる。

LINE@の新料金プラン ライトプラン、スタンダードプランでメッセージを配信した場合の料金シミュレーション
ライトプラン、スタンダードプランでメッセージを配信した場合の料金シミュレーション(※画像はLINE@公式ブログから引用)

なお、公開されている追加メッセージの料金は月100万通までで、それを上回る際は「各営業担当までお問い合わせください」(LINEの公開資料)となっている。

そもそもLINEがアカウントを統合する狙いは何なのか。

同社は今年6月末に千葉・舞浜で戦略発表会を開催し、法人向けアカウントの統合を発表。その際にLINE執行役員の葉村真樹氏は「ユーザーに届けるメッセージの価値を高める」と説明した。APIを公開し「企業はユーザーに適したコンテンツを提供することが可能になる」(葉村氏)というのが目的のようだ。

通販企業「やめるという選択肢はない」

新料金プランによってLINEアカウントを活用している企業にはさまざまな影響が出てきそうだ。

LINEアカウントに詳しい関係者によると、「公式カウントで全体に配信している場合、目安として有効友だち数が20万人以下であればトータルのコストは安くなる」と分析する。

一方、大きな値上げが予想されるのがLINE@だ。現状、LINE@の「プロプラン」は有効友だち数10万人までであれば月額2万円で配信し放題となる。

LINE@向けの自動接客ツールを提供しているファナティックの野田大介社長は「今後は2万円のところが10万円や20万円、あるいは百万円を超えるアカウントも出てくる。値上げ幅が倍とかのレベルではなく、激変するだろう」と予測する。

例えばLINE@のプロプランで有効友だち数5万人を抱える企業が週1回全員に配信していたとする。統合後のスタンダードプランで同じように運用すれば、コストは月に44万8000円となり、従来の2万円に対して42万8000円分のコストアップとなる。

友だち10万人超のプッシュ配信費は「桁が1つ増える」

法人アカウント統合の影響は通販実施企業にとっても例外ではない。

今年9月に公式アカウントを開設したドゥクラッセでは週1回の頻度で、セグメント配信している。同社CMO兼web事業長の藤原尚也氏は「アカウントが統合されることで、サービスが明確になり、使用用途や効果も明確にできるのでとてもいい判断だと思う」と評価する。料金についても「当然コスト増になることは好ましくはないが、費用対効果が伴えば問題ない」との見方だ。

一方、LINE@を積極的に活用しているタイムセールサイト運営のルクサは料金変更のインパクトは大きい。

同社は有効友だち数が10万人を超えるためプロプランのさらに上の「プロプラスプラン」を運用。同プランは月額18万円で、メッセージのプッシュ配信は無制限。現状は全員に向けて毎日配信している。

新料金のスタンダードプランの場合、仮に有効友だち数10万人に対して毎日(月30回)メッセージを配信すると、月額費用はおよそ500万円になる(※追加メッセージが100万通を超えた分は1通あたり1.5円で換算)。ルクサの有効友だち数は10万人を超えるため、値上がり幅はさらに増す計算だ。

ルクサのLINE運用担当者も「値上がり幅が大きく、桁が1つ増えてしまう」と困惑を隠さない。それでもLINEアカウントをやめるという判断にはならないという。「具体的な金額は言えないが、売り上げが良い日だと数百万人向けのメールと10万人超のLINE@が同じ効果を持ち始めている。やめるという選択肢はない。単純にその分の売り上げがなくなるだけ」(ルクサの担当者)というのが本音だ。

同社では統合後の対策として「今までのような毎日配信は不可能なので、セグメントを切って効率的に配信していく」(同)としており、全員への配信ではなく配信頻度を減らして属性別に出し分けていく計画だ。

RFM分析によるメール配信のロジックを適用するだろう。趣味嗜好に応じて届けたり、リーセンシー(最新購入日)が遠くて反応が期待できなければもったいないからやめておくとか。いずれによせ手間は確実に増える配信数が減るから楽になるのではなく、考えることは増える(同)。

今後セグメント別に配信するにあたり、「ID連携は必須」(同)とも付け加える。LINE側が提供している属性分析は、性別や年齢、都道府県などに限られる。ルクサはウェブ接客ツール「カルテ」を使用しており、同ツールで初回購入者やカート落ちなど細かなセグメント配信が可能。ただ、その前提としてユーザーにLINEのIDとルクサIDを連携してもらう作業が必要となってくる。

プッシュ配信数を減らしても売り上げ落ちない

LINE側のやりたいことはわかる。これだけアカウントが増えて、ユーザー側に通知がどんどん届くとカスタマーエクスペリエンスとしては良くない。そこで配信数を減らし、セグメント配信していくという思想を否定するつもりはない。

ビジョナリーホールディングス執行役員でメガネスーパーのEC事業を統括する川添隆氏はこう述べる。その上で「これまで積極的に活動をしていた企業は値上げになってしまう。一番影響を受けるのはLINE@」と指摘する。

メガネスーパーは通販サイト向けのアカウントとしてLINE@のプロプランを使っているが、APIアカウントのため月額は3万円。これまでは月に30回配信していた時もあり、それを新しいプランで試算すると月額57万円にのぼるという。

新プラン対策として同社はすでにプッシュ配信の数を減らしている。「配信の数は減るが、売り上げは維持させたい」(川添氏)。そこで行っているのが「リッチメニューのメディア化」(同)だ。

リッチメニューは画面の下部分に表示されるコンテンツ。そこのバナー枠にクーポンやセール情報などを掲載し、毎週更新している。ユーザーがバナーをタップして通販サイトに遷移しても課金対象にはならない

リッチメニューにお得な情報があるということを伝えていくことで実際に効果が出ているプッシュ配信数を減らしても、売り上げは下がらないリッチメニューを小まめに更新するというのは手段として有効(同)。

川添氏によると、この対策は統合後に行うのではなく早めに手を打つべきだという。「リッチメニューに良い情報があるということを徐々に気づいてもらう必要があるため、地道な戦略になる」(同)というわけだ。

加えて、同社はコンタクトレンズの在庫検索や来店予約専用のアカウントをLINE@で運営しているが、このアカウントは通数課金の影響は受けない。というのもユーザーから寄せられた問い合わせに返信する形をとっており、返信には課金されないためだ。

川添氏は「プッシュ配信ではなく、ユーザー側がアクションをしてそれに返すようなアカウントにすれば、課金の影響は少ない」と説明する。そうした方法であれば無料プランであっても運用が可能になりそうだ。

なお、本紙はLINE社に対して、統合の狙いや、値上げの可能性に対する見解、その際の救済措置、アカウント移行の猶予期間などを問い合わせていたが、期日までに回答はなかった。

※記事内容は紙面掲載時の情報です。
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