変化するEコマース。電子から「つながり」「実験」「エシカル」「公平」「エコシステム」へと進化する“E”の意味
物理的にも感情的にも、消費者が集まる場所で存在感を出すことはとても重要です。自分が何を言ったか、何をしたかを覚えている人は少ないですが、皆、何に心を動かされたのかは覚えているものです。
競争に勝ちたい企業は「e=電子」以上の価値提供を
コロナ禍は、消費者の行動を劇的に変化させました。強制的なロックダウンとソーシャルディスタンスの措置に直面し、世界経済はデジタル世界へ加速。働き方、商品の購入方法、そしてつながり方を見直すことになりました。
米国内では2020年、大手小売企業が1万2000以上の店舗が閉鎖。全体では約80万の企業が営業を停止しました(例年の平均より20万増)。
こうした状況は、消費者の購買習慣にも大きな変化をもたらしました。米国のeコマース売上高は前年比32.4%増の7,920億ドルに拡大。国連貿易開発会議(UNCTAD)の調査によると、ブラジル、中国、ドイツ、イタリア、韓国、ロシア、南アフリカ、スイス、トルコでのオンライン購入額は、ほとんどの商品カテゴリーで6〜10ポイント増加しました。
米国経済が回復しつつある一方、コロナ禍の影響でオンラインショッピングは引き続き注目されています。世界中でもオンラインショッピングが加速しており、企業はあらゆる面でテクノロジー主導のカスタマーエクスペリエンスに適応することが急務となっています。
2021年のカンヌライオンズ(編注:世界最大のクリエイティビティの祭典)のeコマース部門で審査員長を務めたティファニー・ロルフ氏(編注:クリエイティブエージェンシーのR/GAのグローバルチーフクリエイティブオフィサー)は、応募作品を検討したところ、いくつかの明確なテーマを感じました。それは、今日のeコマース環境を反映したものであり、eコマースの「e」は今、「電子」以上のものを意味していることを実感したのです。
eコマースの「e」には、
- engaging(つながり)
- experimental(実験)
- ethical(エシカル)
- equitable(公平)
- ecosystem(エコシステム)
といった意味が含まれるようになっているというのです。コロナ禍後のグローバル経済で優位に立ちたい企業は、これらの要素に対応する必要があるでしょう。
Engagingコマース(編注:つながりを活用したeコマース)
eコマースは単なる取引ではありません。Amazonのように、クリックするだけで「自動補充」されるような簡単な買い物体験を提供する企業が登場する一方、企業は想像力に富んだ魅力的なショッピング体験の必要性を感じています。
たとえば、オハイオ州で愛されているアイスクリームブランド「Jeni's」は、カントリーシンガーでアメリカの象徴であるドリー・パートン氏とタイアップし、限定フローズンデザートを発売しました。この商品は非常に人気が高く、発売数分前に「Jeni'sのサイトがクラッシュするほどでした。
このようなクリエイティブなコラボレーションは、消費者にとって差別化要因となるでしょう。
Experimentalコマース(編注:実験的なコマース)
最高のアイデアは、危機的状況の中で生まれるものです。コロナ禍は、小売業の迅速な課題解決の妨げとなっていた多くの障壁を打ち破りました。
Pepsiの「Pantry Shop」(編注:ペプシコが始めたお菓子やジュースといった製品をバンドル販売するECサイト)、スナックや飲料を直接顧客に届ける「Heinz to Home」(編注:食品大手ハインツが始めた、自社製品をバンドル販売するECサービス)など、大手ブランドによる一回限りのブティックのようなデジタルショッピング体験が数多く登場しました。
さらに、配送コストが上昇し、迅速なサービスが求められる中、企業は創造性を発揮し、自動運転車やドローン、ロボットなどの技術を活用して体験を再設計しています。わずか数週間前、Domino's Pizza, Inc.(ドミノ・ピザ)はロボットカーによる配達サービスを一部の顧客に提供。このサービスを利用すると、完全に自律走行する車で商品が届きます。
いくつもの有名企業がこれらの戦略を実験している今、より多くの企業がこのような体験を試験的に行うことが期待されています。
Ethicalコマース(編注:エシカルコマース)
エシカルコマースとは、製造方法、仕入先、社会に及ぼす害の有無を考慮して商品を購入することです。
この現象は、消費者が自分の価値観に基づいて商品を購入したいと考え続ける中で、非常に重要な意味を持ちます。また、ブランドが商品を製造・販売することで、自らの価値観を示す手段にもなっているのです。
たとえば、イギリスの出版社「Big Issue」は、ホームレスの人々に合法的な収入を提供していますが、コロナ禍発生時には、驚くべき問題解決能力を発揮しました。この取り組みは、カンヌライオンズのクリエイティブeコマース部門で最優秀賞を受賞しました。
「Big Issue」は、選ばれた販売者達にLinkedInを活用して販売機会を発見する方法をトレーニングし、街中に人がほとんどいない状態でも、機会を見つけて販売を行えるようにしました。その結果は明らかでした。同誌は、街頭での50回のやりとりで1件の売り上げだったコンバージョン率を、LinkedInでの10回のやり取りで1件の売り上げにまで高めることができました。
それだけでなく、Big Issueの販売者に対する人々の見方に変化が起こり、彼らは“困窮者”から、LinkedInで活動する権利を持つ“ビジネスプロフェッショナル”へと変化したのです。
Equitableコマース(編注:公平なコマース)
「公平」の意味は、伝統的なビジネスの意味での「公平」ではありません。誰が消費者の商品を作り、販売し、その利益を受け取るかという意味での公平性です。
2020年のコロナ禍で、小規模ビジネスを支援する動きがありました。Amexの「StandforSmall」、Shopifyの「Shopy」、INGの「DealWise」、Verizonの「PayItForwardLIVE」など、小規模ビジネスを支援するさまざまな取り組みがあげられます。
カンヌライオンズのクリエイティブeコマース部門の受賞者であるAB InBev社(編注:バドワイザーなどで知られる酒類メーカー)は、デジタル分野でも活動しています。店舗のデジタル化を支援する「Tienda Cerca」は、コロンビア、エクアドル、ペルー、メキシコ、エルサルバドル、ドミニカ共和国、パナマ、ホンジュラスの小規模な販売者に提供。オンライン注文を処理して配送するためのプラットフォームで、何千もの小規模事業者のデジタル化に成功しました。
また、2020年の人種問題をきっかけに、多くの企業が社会的正義や多様性への取り組みを戦略に取り入れました。企業は、単にチェックボックスに印を入れるだけではなく、長期的にコミットし、真の意味での社会的責任を果たす必要があります。これらの問題については、長期的に真の意味での信頼性を確保する必要があります。
Barbie、Bombas、Foot Lockerなどのブランドは、多様性、公平性、インクルージョンを推奨する長期的なプログラムや商品に投資しています。また、Facebookは「#BuyBlack Friday」を立ち上げ、黒人経営者のビジネスに注目を集めています。
商取引は、黒人、先住民、有色人種(BIPOC)のコミュニティにとって、より公平な未来を築くための重要な要素であり、消費者が購入の意思決定をする際に、非常に意識されるものです。
Ecosystem(編注:エコシステムコマース)
消費者が購買に至るまでの道のりは、もはや直線的ではありません。消費者が買い物をする際に出会うタッチポイントは、物理的にもデジタル上にも無数にあります。重要なのは、これらのタッチポイントをつなぐエコシステムを構築し、ブランドを維持しながら魅力的でシームレスな体験を提供することです。
R/GAの調査によると、75%の消費者は、あらゆるデバイスやチャネルで提供されるシームレスな体験を楽しむだけでなく、そのような体験を期待しています。
eコマースは、もはや1つのサイトの中だけで完結するものではありません。消費者は、既存のコンテンツに組み込まれた商品を、チャネルやプラットフォームを超えて購入することができます(例:Instagramのショップ、QRコード、AR/VR体験、実店舗など)。いつでもどこでも購入機会があり、至る所でブランドを目にします。最も成功するブランドは、データとクリエイティビティの両方を活用する方法を発見するでしょう。
2020年のeコマースは主に「(e)motional」(感情)がメインだったと言えます。ブランドは、商取引を単なる取引ではなく、顧客との関係構築の機会と考えるようになりました。ブランドは、意味のある方法、役に立つ方法、さらには楽しい方法を取り入れ、折に触れ、私たちの心を軽くしてくれました。
結局のところ、物理的にも感情的にも、消費者が集まる場所で存在感を出すことが需要です。自分が何を言ったか、何をしたかを覚えている人は少ないですが、皆、何に心を動かされたのかは覚えているものです。
現代のブランドは、エモーションを通して消費者と出会う機会を多く持っています。商品やサービスを通じて、人間的な体験を提供し、喜びを加速させ、痛みを和らげ、永続的な関係を築くことが可能です。