「配送品質向上制度」「AI活用の検索」「クーポンシステム無料提供終了」など楽天が2023年下期に取り組むこと【戦略まとめ】
楽天グループは、「楽天市場」出店店舗向けに「2023年下期戦略共有会」を8月2日に実施した。2023年上半期の振り返り、下半期以降の成長戦略、店舗向けシステムの改修予定など、戦略共有会の主な内容をまとめた。
2023年1~3月の国内EC流通総額は1.4兆円
楽天グループの松村亮氏(常務執行役員 コマース&マーケティングカンパニー シニアヴァイスプレジデント)は、2023年1~3月の国内EC流通総額が1.4兆円、前年同期比12.2%増加したと振り返る。また、2023年1~3月の購入単価は2020年同期比で16.6%、購入者数は同29.1%増加した。
システム面では定期購入のカゴUIリニューアル、「最短お届け日自動計算機能」追加などを実施
2023年4月に「定期購入」のカゴUIをリニューアルし、スマートフォンのデザインを最適化。最短3クリックで申し込みができるようになり、リニューアル前と比べて全体の転換率は6.07ポイント、レギュラー会員の転換率は15.94ポイント増加した。
同年6月には「新店舗トップページ」にPC更新機能を追加。新店舗トップページ編集画面では、HTTMLなしでパーツをドラッグ&ドロップによりページを編集できるようにした。これまではスマートフォン・アプリ版のみに反映していたが、PC版にも表示可能になった。
機能実装に伴い、2023年12月に「楽天GOLD」のスマートフォン版店舗トップページのサービス提供を終了する。
配送面では、メジャー配送キャリア(日本郵便、佐川急便、ヤマト運輸)利用店舗向けに「最短お届け日自動計算機能」を追加。「RMS」の必須項目である出荷元の住所、配送キャリア、注文締め切り時間を設定すると、自動的に最短お届け日を計算して商品ページなどに表示する。
成長戦略① 楽天経済圏の活用
松村氏は、成長戦略の1つ目として「楽天経済圏の活用」をあげ、そのなかで「楽天ポイント」が重要になると指摘した。2023年3月末時点で累計発行ポイントは3.4兆ポイントを突破。「楽天市場」とポイントの架け橋になっているのが「SPU(スーパーポイントアッププログラム)」で、年間平均成長率は20%増えているという。
楽天経済圏のなかでも、「楽天市場」とシナジーが高いのは「楽天カード」と「楽天モバイル」。「楽天カード」利用者は非利用者に比べて年間購入額が+116%、「楽天モバイル」利用者は非利用者より年間流通総額が+41%という。
成長戦略② 「楽天市場」の進化
2つ目にあげたのが「『楽天市場』の進化」。そのなかでも「売り場と物流の進化」「AIとビッグデータの活用」「店舗サポートの強化」を掲げた。
売り場と物流の進化①:広告、定期購入、店舗ページなど機能面の強化
マーケティング機能の強化
「楽天スーパーSALE」「お買い物マラソン」など買い回りの強い大型イベントの年間流通総額が伸長、2019年から2023年の4年平均成長率は+23.8%となった。
こうした大型イベント以外でも店舗の売り上げが伸長する機会を作るため、「母の日」などのシーズナブルイベント、ゲーミングイベントとのコラボ企画、育児の日などユーザーをセグメントした施策を強化し、より幅広い顧客獲得をめざす。
また、「ROOM」を活用してインフルエンサーと出店店舗とのコラボレーション商品を展開することで、若年層の新規顧客獲得を支援していく。
広告機能の拡充
現在「検索連動型広告(RPP)」は、どの会員ランクに対しても同じ入札単価が適応される仕組みだが、購入確率の高いランクユーザーの入札単価を自動的に上げ、購入確率の低い低ランクユーザーは下げるという機能を2023年第4四半期に導入する予定。
「ターゲティングディスプレイ広告(TDA)」は、2023年5月に「楽天市場」以外の楽天グループメディアに配信先を拡大。2023年11月からは「RMSプロモーションメニュー」からSNSや検索などの外部メディア広告を配信できる仕組みに変更する。
ライブコマース機能の拡充
「楽天市場」のライブコマース機能「楽天市場ショッピングチャンネル」では、2023年6月にライブコマースを視聴しながら買い物できる機能「Picture in Picture機能」を導入し、対応デバイスを順次拡大。2023年7月からは「ファッション」「美容・コスメ」など商品ジャンルに特化した企画を拡大する。
クーポン機能は無料提供を終了
クーポン機能は2024年以降、よりクーポンを見付けやすくする機能を順次実装予定。機能拡張に伴い、2024年3月末で「ラ・クーポン」のシステム利用料無料キャンペーンを2024年3月末で終了すると発表した(参考:「楽天市場」のクーポンシステム利用料、無料キャンペーンを2024年3月末で終了)。
定期購入リニューアル
定期購入はUIリニューアルを実施。現在は固定利用料月額5000円(税抜)と売り上げに応じたシステム利用料が発生しているが、2024年以降は固定費を廃止する方針だ。
店舗ページ編集機能拡大
新店舗トップページの編集機能を2022年4月から提供。2023年6月に上述のPC用新トップページ編集機能の実装に続き、2024年上期にセール・イベント情報、商品紹介、FAQなどのコンテンツページもパーツを組み合わせて作成できるようにする予定だ。また、2024年3月以降は商品パーツの改善を進め、2025年以降はカテゴリページの編集も可能になるスケジュールを提示した。
SKU管理の改善、移行推進
2023年4月からスタートしたSKUプロジェクトでは、約50%の出店店舗が移行を完了、2023年9月までに90%以上の店舗が移行を完了し、2024年3月までに完了予定という。「約1万点以上の商品ページが対応しており、お客さまから使いやすいという声が寄せられている」(松村氏)
SKUに関する情報は、店舗の皆さんにわかりやすいよう、解説動画やチェックリストなどを提供している。店舗からの声を反映し、「楽天スーパーSALE」のサーチ申請から申請に通らない商品を一度SKU倉庫に退避させる仕組みなどを導入している。今後も店舗の声を受けながら改善を進めていく。(コマース&マーケティングカンパニー コマーステクノロジー統括部 CDO&ヴァイスディレクター 小林悠輔氏)
売り場と物流の進化②: 「配送品質向上制度」の実施、RSLによるサポート
配送面では、2023年6月に実装した最短お届け可能日の表示に続き、8月3日にはユーザーが配達日を選びやすいUIに変更。2024年以降は、買い物カゴの段階で先の配達日を指定できる「急がない便(仮称)」を実装する。
2024年第1四半期には、メジャーキャリア以外での配送の場合も「最短お届け可能日表示機能」に対応できるようにする。また、商品ページ、買い物かご、検索結果にも「○○時までに注文で最短△月△日にお届け」という表示を2024年3月に実装予定だ。
「配送品質向上制度」を2024年6月にスタート予定
2024年6月には「配送品質向上制度」認定基準をスタートする。店舗基準、商品基準を満たす商品に「配送認定ラベル」を付与し、「配送認定ラベル」は「楽天市場」の検索優先順位決定の要素の1つに含めるという。
「配送品質向上制度」スタートに伴い、「配送品質向上レポート」を提供する。レポートでは前月/当月の店舗基準達成状況の確認、遅延受注データのダウンロード機能などを利用できるようになり、実装時期は2023年第4四半期の見込み。
「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」によるサポート
2023年4月から熨斗などの「ギフトシール貼付オプション」を提供。今後はメール便翌日配送対応、180サイズ以上の特大サイズ取扱いなど、店舗のニーズに応じてサービスを拡充・改善していくという。
日本郵便、JP楽天ロジと連携し、配達郵便局への直送化を拡大。「楽天フルフィルメントセンター(RFC)」からユーザーへの配達までの輸送、作業の生産性向上につなげている。現在RFC6拠点で実施しているが、対応郵便局の拡大を予定している。
また、店舗在庫を全国の最適な「RFC」に分散し、配送リードライムの短縮をめざす。
AIとビッグデータを活用
「楽天市場」では、商品のレコメンデーション、広告の精緻化、価格最適化などにAIを活用している。
AI活用法として、小林氏は検索キーワードからユーザーの意図・構文を読み取り、近しい商品を検索結果に表示する「セマンティック検索」をあげた。この検索を導入することで、これまでの検索ではヒットしていなかった商品もユーザーに提示できるようにしていくという。
「楽天ファッション」でABテストを実施したところ、良い結果が出ている。0件ヒットの減少、売り上げに貢献できたパターンも見受けられた。今後は全店舗が使えるように展開していきたい。(小林氏)
店舗サポートを強化
出店店舗をサポートする「ECC(楽天ECコンサルタント)」向けに、Attribute(商品属性)分析機能を実装。Attributeデータを活用した市場と店舗の商品属性傾向を分析し、提案を行って行くという。実装時期は2023年第3四半期を予定。
RMSと受注システムの自動連携機能である「BOSS」を改善予定。2023年第4四半期に「RSL」入荷予定連携の強化、2024年第1四半期に外部システムへの自動連携を強化する。
問い合わせ機能「R-Messe」の新機能として、問い合わせレポート機能を2023年9月に実装予定。売り上げ状況の内訳を提供する。
コミュニティの拡大として、店舗同士の横のつながり拡大のため、「NATIONS」「楽天大学」の内容をさらに充実させていく。
また、リアルなコミュニケーション拡大に向け、楽天経営陣が毎月各都道府県に訪問し、店舗とのコミュニケーションを図るタウンミーティング、サービス向上委員会を行い、オンライン・オフライン両面から店舗の意見収集を継続して行って行く。(松村氏)