「タイパ」世代の顧客に刺さる、CVRが40%向上した施策「Amazon Pay」の「Buy Now(今すぐ買う)」機能とは。中古スマホのイオシスに見る成功事例
スマホやPCなどの買い取り・販売を手がけるイオシスは、ECサイトの離脱防止策の一環として、2018年にAmazonのアカウントを利用して簡単・便利に買い物ができる決済サービス「Amazon Pay」を導入。直後から効果が表れ、現在に至るまで「Amazon Pay」の利用率やサイトのコンバージョン率などを伸ばし続けてきた。2023年末には、「Amazon Pay」から新たにローンチされた「Amazon Pay - Buy Now(バイナウ)」機能を国内企業としては初期に実装。低価格帯商品ではコンバージョン率の大幅な改善につながっている。「Amazon Pay」さらには「Buy Now」がイオシスのEC売上アップに寄与している理由を取締役社長の呉孝順氏に取材した。
ITリユース界をけん引するイオシス
1996年に個人商店として創業し、「けっこう安い。」の看板を掲げ、中古パソコンの買い取り・販売から事業を開始したイオシス。テクノロジーの進歩やニーズの変遷に合わせて取扱商品や店舗数を拡大し、現在は東京エリアの秋葉原・新宿、大阪エリアの日本橋・なんば、兵庫エリアの神戸、愛知エリアの名古屋、福岡エリアの天神に全11店舗を展開している。また、販売・買い取り・レンタルのそれぞれでECサイトも運営。2024年3月期通期の売上高は143億円で、ITリユース業界をけん引する1社である。
店舗もECもコアユーザーが高頻度で来店
イオシスの実店舗は、スマホの買い取りと販売の両方を行う店舗、買い取り専門の店舗、販売専門の店舗がある。顧客層は男性が多く、特に20~40代がボリュームゾーン。販売店舗では毎日商品のラインアップが変わるため、各店舗とも2日に1度ほどの高い頻度で来店する常連客も多い。同様に、ECサイトも毎日商品を追加するため、目当ての商品を登録しておき、1日に何度も来訪するコアなファンは少なくない。
商品・在庫の回転率が極めて高い水準を維持していることが、イオシスの強み。「中古品だからこそ、同じ商品はないかもしれない」という気持ちから、頻繫に来店するお客さまが多いのだろうと思います。長く店舗に留まる商材はとても少なく、SNSに目玉商品を投稿すると30分後には売れてしまうほど。
ECや店舗で販売できる状態になった商材はすぐに出荷されるため、在庫センターにも在庫はほとんどない状況です。買い取りがよりスムーズになり、もっと潤沢に商材が手に入れば、まだまだ販売数は伸びると考えています。(呉氏)
「Amazon Pay」がCVRアップに貢献
イオシスのECサイトでは、2018年初頭にAmazonが提供する決済サービス「Amazon Pay」の導入を決め、わずか1か月の開発期間を経て実装した。多くのEC事業者が抱えるのが「カゴ落ち」「カート落ち」などによる離脱問題。イオシスは少しでも購入を後押しできる施策を探していたなかで、Amazonのアカウントを利用して簡単・便利に買い物ができる決済サービス「Amazon Pay」がその課題の解決に最適な手段と判断し、導入を決めた。
イオシスの利用者は、自身の知見に基づいて中古スマホを購入できるほどITリテラシーが高いことから、タイムパフォーマンスを重視する傾向があるため、ECサイト内でのクレジットカード情報入力を負担に感じる利用者は少なくないとも考えられるが、「何がカゴ落ち対策としてベストなのか?」と検討を続け行き着いたのが「Amazon Pay」だった。
「Amazon Pay」を実装すると、Amazonのロゴがある信頼感の提供、Amazonアカウントに登録された配送先住所と支払い方法を使って簡単に決済が完了できる利便性から、購入の後押しに寄与すると効果を実感するEC事業者が多い。
イオシスもその1社。ECサイト内に「Amazon Pay」のバナーやボタンを掲載し、訪問者に「Amazonブランド」を打ち出すことで、「知名度が決して高くないECサイトでも信用して購入できることを示すことができています」(呉氏)
「Amazon Pay」導入後すぐに「Amazon Pay」の利用率は40%に達し、現在は5割近くで推移。導入直後にコンバージョン率は20%向上し、その効果は2024年現在も続いている。
「今すぐ買う」ボタンと類似の「Buy Now」を自社ECに導入
イオシスは2023年12月、「Amazon Pay」からローンチしたばかりの「Amazon Pay-Buy Now(以下「Buy Now」)」機能を国内企業としては初期に導入した。
「Buy Now」は、既存の「Amazon Pay」に追加実装することで、通常の「Amazon Pay」以上に素早く購入することが可能となる、いわば「Amazon.co.jp」の「今すぐ買う」と同等の機能だ。
1点モノが中心のイオシスのECサイトでは、商品アップ後に「すぐほしい」「すぐ買いたい」といったニーズが多い。こうしたニーズにも応えられると判断し、イオシスは導入を即決した。「イオシスのお客さまに多い、ITリテラシーが高い方にとっては『Buy Now』が一層、効果的だと思いました。導入に伴うメリットが多く、逆にデメリットはないと感じました」(呉氏)
「Amazon Pay」の導入当初から、カート画面では「Amazon Pay」ボタンを設置していたイオシス。上述の「すぐほしい」といったニーズに応えるため、「Buy Now」の購入フローを導入し、商品詳細ページにも「Amazon Pay」ボタンを新たに設置した。商品詳細画面に「Buy Now」のフローを実装しているのは国内でイオシスが初めて。「Amazon.co.jp」と同様、カート内に商品を入れずに購入完了できる仕組みを構築した。「Buy Now」を実装することで、「Amazon.co.jp」と同様にページ遷移を極力減らして購入できる環境を整えた。
「Buy Now」の概要「Buy Now」は、2023年に「Amazon Pay」に追加された新機能。通常の「Amazon Pay」の決済プロセスより、さらに少ない遷移数で決済することができる。 |
「Amazon.co.jp」の「今すぐ買う」の機能の利便性は知っていましたが、Amazonのサイトだからこそ成立する機能だろうと思っていました。しかし、「Buy Now」の機能を提案いただき、すぐに導入を決めました。自社のECサイトにもお客さまがすぐに購入できるボタンを置けるようであれば、ユーザーエクスペリエンス(UX)、利便性をさらに高めることができます。
ボタン1つを押すだけで決済プロセスを進めることができるので、販売促進につながるありがたい機能です。イオシスのお客さまとの相性も良さそうだと直感しました。導入コストは社内システム担当者1人月ほどで、大きなコストとはまったく感じていません。(呉氏)
「Buy Now」の導入後は実際に、離脱率の改善や成約率の向上が見られているという。呉氏は「導入の難易度は低く、技術力な視点からも容易だった」と振り返っている。
“タイパ”世代に「Buy Now」が有効
「Buy Now」を導入した初月から、利用率は決済全体のうちの10%以上を占め、その後もシェアを伸ばし続けている。この傍ら、従来通りに通常のカート画面から「Amazon Pay」で決済する層の顧客も見られており、ニーズに応じてユーザーによる使い分けが進んでいると考えられそうだ。
「Buy Now」導入の手応えについて、呉氏は「イオシスとしても、導入してこんなにすぐに多くのお客さまに使われるサービスは今までなかったので驚きました。『Buy Now』という購入体験が、消費者の潜在ニーズとして大きかったことを実感しています」と話す。
比較的安価な1万~2万円程度の商品は特に利用率が高く、この価格帯では導入前後でコンバージョン率が40%ほど向上した。
イオシスのECサイト利用者は、基本的に単品購入が多い。まとめ買いの傾向は少ないため、気に入った商品があったらそのまま「Buy Now」の決済に流れやすいと分析。今後も単品購入のユーザーを中心に、「Buy Now」の利用はますます進むと期待を寄せている。
若い世代の間で「タイパ(タイムパフォーマンス)」が重視されていることも、「Buy Now」の利用率の高さと密接に関連していると思っています。日頃からAmazonで買い物をしているお客さまは、購入完了までのページ遷移数は「少なくて当たり前」という感覚が根付いているのかもしれません。
自社開発で独自に「今すぐ買う」の決済機能を実施することは難しいですが、「Buy Now」を取り入れることで、Amazonのような決済時の利便性を提供することができます。このことは、タイパを意識しているお客さまにも有効です。(呉氏)
「Buy Now」に並ぶ売り逃し予防策も展開
イオシスでは、「Buy Now」のほかに「支払い救済型Amazon Pay」も導入している。購入者からの問い合わせが減り、顧客対応コストの削減にもつながっているという。
「支払い救済型Amazon Pay」は、「Amazon Pay」の提供する機能・サービスのうち、「Buy Now」と同様に離脱や売り逃しの防止に寄与する機能となっている。
支払い救済型「Amazon Pay」支払い方法の選択ページや、「Amazon Pay」以外の決済方法で決済が失敗した際、「Amazon Pay」を案内するポップアップを表示する機能。ユーザーの離脱防止に役立てることができる。 |
イオシスでは20万~30万円台の高価格帯スマホも人気がある。しかし、クレジットカードの限度額を超えてしまっていたり、クレジットカードのこれまでの利用履歴・支払履歴の影響でカードが利用できなかったりすると、売り逃しにつながってしまう。
そういった消費者に対して、「支払い救済型Amazon Pay」で「Amazon Pay」での支払いを提案することで、Amazonアカウントに登録されたクレジットカードによる支払いだけでなく、「Amazonギフトカード」や「あと払い(ペイディ)」など、「Amazon Pay」が対応しているクレジットカード以外の支払い方法が選択できるため、売り逃しの予防策として有効に働いているのだ。このように、「Amazon Pay」のなかでも選べる決済手段が複数あることは、導入するECサイトにとってメリットとなっている。
「Amazon Pay」を活用し、メタバースなどでの販売も模索
イオシスは、「Amazon Pay」の充実した機能とサポートを活用し、今後もECと店舗の双方でサービスを拡充していきたいという。
中古品なので、「実物を見て買いたい」というお客さまは必ず存在します。ただ、ECで商品を見たお客さまがすぐに店舗に足を運べる状況にあるとは限りません。目当ての商品をWeb上で支払いまで済ませてキープしておき、店舗で実物を見て納得したら持ち帰るようなサービスを提供したいです。そうした場合、店頭受け取りでもWeb上の「Amazon Pay」の利用は進むと考えられます。(呉氏)
イオシスではWebとリアルの融合も喫緊の課題として捉えている。
カート画面での決済ボタン「Amazon Pay」や、商品詳細ページからすぐに決済できる「Buy Now」の力を借りながら、メタバース環境でも商品を販売できるようにするなど、さまざまな可能性を探っていきます。(呉氏)