Digital Commerce 360 2017/6/22 8:00

Amazon(アマゾン)が高級食品販売チェーンのWhole Foods Market Inc.,(ホールフーズ・マーケット)を137億ドルで買収すると発表しました。アナリスト達は、食品販売業界のターニングポイントになる出来事だと考えています。

EC業界の専門家は、アマゾンによるホールフーズの買収によって、競合他社は自社のデジタル戦略を見直すきっかけになると話します。

食品のオンライン購入がさらに進むとの見方

オンライン食品販売が今後、さらに浸透するかどうかゆっくり見極める余裕がなくなったということです。オンライン食品販売は、食品販売全体の規模と比べると小さいものの、今回の買収によって、多くの消費者がオンラインで食品購入を試すようになるでしょう。

調査会社Forrester Research社のeコマース専門アナリストであるブレンダン・ウィッチャー氏はこう指摘します。

アマゾンのホールフーズ買収の狙いとリアル店舗を攻める理由【米大手EC専門誌が解説】 ホールフーズのWebサイト
ホールフーズのWebサイト(編集部がキャプチャし追加)

金融ニュース・分析に特化したメディア企業Mergermarket社によると、今回の買収が完了すると、全米食品業界で2番目に大きく、2001年以降の全米小売業界で4番目に大きな買収案件になります。

eコマースのプラットフォームを提供するClarus Commerce社のCEOであるトム・カポラソ氏は、約140億ドルをホールフーズに投じるアマゾンは、食品小売業のシェアを取りに行くはずだと考えています。カポラソ氏は次のように語ります。

食品は消費額が巨大なカテゴリーです。ホールフーズを買収することで、アマゾンは大きな販売パートナーを得たことになります。アマゾンはこれまで少しずつ食品業界に足を踏み入れ、試行錯誤を繰り返してきました。今回の買収で、食品業界へ一気に切り込む体制を構築できるようになるのです。

小売業界の専門家は、アマゾンの今回の動向は企業規模に関係なく、食品販売事業者にとって大きなプレッシャーになると言います。マーケティング会社MBML社の責任者であるマリオ・ナタレリ氏は次のように話します。

競合他社はアマゾンに対抗できるようなフルフィルメントの準備を始めなければなりません。今まで、傍観者のようにEC業界を見ていた食品販売事業者にとって、天地がひっくり返るほどのインパクトがある買収なのです。ホールフーズのブランドと、アマゾンのフルフィルメントパワーが一緒になると、恐るべき脅威になります。

アマゾンのホールフーズ買収の狙いとリアル店舗を攻める理由【米大手EC専門誌が解説】 Amazonのフルフィルメントセンターではロボットが稼働している
Amazonのフルフィルメントセンターではロボットが稼働している

また、価格モニタリング会社Profitero社で戦略担当を務めるキース・アンダーソン氏は次のように指摘します。

消費者に親しまれているホールフーズブランドを獲得することで、食品業界内でのアマゾンの勢いが増すと同時に、アマゾンが狙っていた大都市圏で展開する実店舗の拡大も早く実現することが可能になります。食品販売業で10年以内にトップ5入りという目標を掲げていると言われるアマゾンにとって、良い滑り出しになるわけです。

2017年後半に完了予定の今回の買収によって、物流とフルフィルメントで強力な力を持つアマゾンと、質の高いオーガニック食品を提供することで消費者の支持を得ているホールフーズが手を組むことになります。

アンダーソン氏によると、ホールフーズの売り上げの67%は肉や生鮮食品が占め、缶詰やペーパータオルといった非生鮮食品の取扱割合は少ないそうです。アンダーソン氏はこう言います。

アマゾンは、ホールフーズから生鮮食品の取り扱い方法や販売オペレーションを学ぶことができます。とても魅力的に映ったホールフーズの買収を決めた理由の1つがノウハウの吸収なのです。

アマゾンのホールフーズ買収の狙いとリアル店舗を攻める理由【米大手EC専門誌が解説】 AmazonのCEOであるジェフ・ベゾス氏
大型買収に踏み切ったAmazonのCEOであるジェフ・ベゾス氏

アマゾンフレッシュ単独では難しかった食料品ビジネス

アマゾンは2017年、本社を置くシアトルで自社が手がける食品配送サービス「Amazon Fresh(アマゾンフレッシュ)」をスタート。その後、同サービスをボストン、シカゴ、ロンドンなどの大都市に広げていきました。

ただ、アンダーソン氏によると、「アマゾンフレッシュ」は食料品の質を維持することに苦戦していたようです。ホールフーズの買収で、こうした課題を解決し、高級食材を求める消費者に信頼感を与えることができるようになります。アンダーソン氏は次のように説明します。

生鮮食品の質を維持するために、アマゾンは相当のコストといった犠牲を払わなければなりませんでした。「アマゾンフレッシュ」は、生鮮食品を扱う競合他社と競うのは難しい状況だったのです。ホールフーズは生鮮食品の調達、販売において、すでに洗練されたノウハウを持っています。

アマゾンとホールフーズの連合に対抗するためには、競合他社はより魅力的な店舗でのショッピング体験を提供しなければ対抗できなくなる――施設管理プラットフォームを提供するServiceChannel社のCEOであるトム・ブイオッチ氏は指摘します。

料理教室やレシピ提供などもその1つ。ただ、実行できることはたくさんあります。どうして実店舗に行くのか? オンラインを利用する理由は何なのか? といったことを考えることです。

デジタル食料品店をめざすにはInstacartが不可欠?

今回の買収で不透明なことがあります。アマゾンのホールフーズ買収によって、食品配達アプリのInstacart(編注:買い物をする人とスーパーマーケット、配達者をネット上でマッチングし、商品を最短2時間で届ける仕組みを提供するサービスの提供企業)とホールフーズの関係がどのように変わっていくかということです。

アマゾンのホールフーズ買収の狙いとリアル店舗を攻める理由【米大手EC専門誌が解説】 Instacart内でサービスを展開するWhole Foods Market
編注:Instacart内でサービスを展開するWhole Foods Market(Instacartの詳細記事はこちらをご覧下さい

ホールフーズは2016年、Instacartに出資。ホールフーズは自社サイトで商品を販売せず、Instacartアプリを通じて消費者に商品を販売しています。

Instacartの担当者によると、今後に対して楽観的な見方をしているようです。

私たちは食品販売事業者たちがオンラインで競争できるようにサービスを推進してきました。アマゾンが全米すべてのスーパーや店に宣戦布告した今、競争はさらに重要なものとなりました。私たちはすでに160以上の小売事業者と提携を結んでいます。今後もパートナー企業を増やしていく予定です。

一方のホールフーズはコメントを発表していません。

Profitero社のアンダーソン氏は、Instacartはすでにマーケットを拡大しているため、ホールフーズと提携を解消しても問題はないと考えています。

Instacartにとってホールフーズとのビジネスは、経営上に与えるインパクトは大きいものの、ネットを通じて食料品を購入するマーケットを広げ、大手スーパーマーケットとの提携を推進しています。ですから、足場を守ることはできるでしょう。

アマゾンのホールフーズ買収の狙いとリアル店舗を攻める理由【米大手EC専門誌が解説】 Instacartは“買い物代行サービス”に近しいシェアリングエコノミーサービス
Instacartは“買い物代行サービス”に近しいシェアリングエコノミーサービス。Instacartを通じてピックアップされた商品は、「Shopper」と呼ばれるクラウドソーシング利用者が配達する(参考情報はこちらの記事をご覧下さい

ただ、ホールフーズが抱える高所得の消費者層を失えば、経営状況が厳しくなる可能性があります。Instacartにとっては困難な状況と言えるかもしれませんが、企業存続の危機にさらされるほどではないはずです。

当日配送サービスを提供するDelivのCEOであるダフィネ・カーメリ氏は、アマゾンのホールフーズ買収は、Instacartの経営が悪化する状況になる可能性があると指摘します。

ホールフーズが出資するInstacartごとアマゾンが受け入れなければ、Instacartは消滅してしまうでしょう。もし、アマゾンがInstacartも引き受ければ、アマゾンは独自のデジタル食品店を持つことになります。

Instacartはホールフーズの商品販売・配送サービスだけを提供しているアプリではありませんが、食品業界でInstacartに出資したのはホールフーズだけです。

Shift(編注:主要小売業者と連携し、アプリを通じて食料品を当日配送するサービス。友人宅など、配達先指定もできる)もホールフーズの商品を販売するアプリです。しかし、ShiftのCEOであるビル・スミス氏は、アマゾンのホールフーズ買収の影響は心配していないと言います。

アマゾンのホールフーズ買収は、食品業界がオンラインにシフトするということの証明になりました。私たちもオンライン食品販売市場で成長するために、自社のコアバリューを大切にし、業界内でベストな小売事業者と協力していきたいと考えています。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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