グーグルと中国小売大手JD.comが資本・業務提携した理由
中国直販EC最大手のECサイト「JD.com(京東商城)」を運営する京東集団は6月18日、Google(グーグル)と戦略的提携を締結し、その一環として約600億円(5.5億ドル)の出資を引き受けたと発表した。
京東集団とGoogleは、東南アジア・米国・欧州などを対象に、小売ソリューションの開発などを共同で展開するとしている。
京東集団が保有するサプライチェーンとロジスティクス領域における知見やインフラ、グーグルの技術力を活用し、次世代の小売インフラを構築。便利でパーソナライズされた快適なショッピング体験を世界中に提供するとしている。
パートナーシップの一環として、JD.comが「Googleショッピング」に参加。検索エンジンでGoogleを利用する世界中のユーザーへアプローチできるようにするという。
東南アジア市場でJD.com+グーグル連合×アリババグループ×Amazonの戦いへ
京東集団がグーグルの出資を受け入れた背景には、約6.3億人を抱える東南アジアの消費マーケットの開拓があると考えられる。
グーグルと投資会社のTemasekが東南アジアのインターネット市場をまとめた『e-Conomy SEA Spotlight 2017』によると、2017年にインターネットを活用する月間アクティブユーザー数は3.3億人。世界で3番目のインターネットユーザー数を抱えているという。
東南アジアのユーザーは、ネット通販にアメリカ人の2倍もの時間を費やしており、EC市場規模は2025年までに881億ドルまで拡大すると予測している。
アリババは東南アジア最大手のLazadaを買収
東南アジア市場では、アリババグループが東南アジア市場最大といわれるEC企業Lazada(ラザダ)を買収し、東南アジアでのネット通販に本格進出。また、シンガポール国内で郵便事業を行うシンガポールポストへの出資、インドネシアのEC企業であるTokopedia(トコペディア)にも投資している。
アリババグループの東南アジア事業で中核を担うとみられるラザダは、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムなどで事業を展開。タイのKerry Logistics NetworkやDHL、インドネシアのJNE Expressなど100社以上と連携し、提携パートナーがラストワンマイルを担っている。
Amazon、シンガポールを拠点に東南アジアへ?
米Amazonも東南アジア市場を狙う一社。2017年7月、商品を2時間以内に配達する「Prime Now」をシンガポールでスタート。ラザダと同様、シンガポールを拠点に、東南アジア圏へ販売網を広げていくという見方があがっている。
京東集団は自前主義を中心に市場を開拓中
京東集団はインドネシアへ2015年に進出。現地法人PT Jingdong Indonesia Pertamaは1000人を超えるスタッフを抱え、自前で配送網を構築。中国で培った直販、プラットフォーム事業のノウハウを生かし、ネット通販を展開している。
また、2017年にはタイの小売大手セントラルグループと合弁会社JDセントラルを設立し、2018年内にECプラットフォームを立ち上げると発表。セントラルグループの知見、京東集団の物流力、AI技術、サプライチェーンを管理する技術などを融合するとしている。
ベトナムではテンセントの子会社であるVNGと共同で「Tiki(ティキ)」に出資。京東集団は「ティキ」の大株主になったという。
「ティキ」は毎年3ケタ桁の成長率を維持し、ベトナムのインターネット業界への貢献を表彰する政府部門における「ベトナムECへ最も影響力のある企業トップ10」入りも果たしたという。
京東集団は現地企業への出資、合弁設立、もしくは自前で東南アジア各国へ進出する方針を掲げている。こうした方針を維持しながら事業規模を広げていくためには、世界的に検索のトップシェアを握るグーグルとの連携が不可欠と判断したと考えられる。
アウンコンサルティングの調査によると、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、ベトナムといった東南アジアでは、グーグルが圧倒的な検索シェアを占める。
「Googleショッピング」はベトナム、マレーシア、ベトナム、タイ、インドネシア、シンガポールといった東南アジアでも提供されている。京東集団がパートナーシップの一環として「Googleショッピング」に参加したのも、東南アジアに住むネットユーザーの検索ニーズを獲得するためでもある。
ショッピング広告に力を入れるグーグル、東南アジア市場をJDと開拓
グーグルにとって、ショッピング広告は成長を続けている注力領域。京東集団との資本・業務提携により、市場拡大が見込まれる東南アジアの小売・ECマーケットを攻略することができるようになる。
たとえば、2018年3月に公表した「Googleショッピング」の新しい機能「Shopping Action(ショッピングアクション)」。これは、モバイルとデスクトップでの検索結果、Google Express(グーグルが提供する食品などの即日宅配サービス)、Google Assistant(グーグルが提供するAIの音声アシスタント)、Google Home(会話型AIのGoogle アシスタントを搭載したスマートホーム機器)に商品情報を掲載し、商品購入までをサポートする広告商品だ。
従来型のクリック課金ではなく売上課金型の広告で、より小売企業のビジネスモデルに沿った広告サービスとなっている。また、グーグルはユニバーサルショッピングカートを提供。1クリックによる商品の再購入、過去の閲覧・購入履歴を用いたパーソナライズされた商品レコメンド機能を広告主に提供するという。
「Shopping Action」を導入した米国の大手小売企業Target(ターゲット)では、「間もなく、『Target.com』とGoogleのアカウントを連携し、よりパーソナライズされた直感的なショッピング体験を作り出すことができる」と説明している。
現在、「Shopping Action」は米国のみの提供だが、東南アジア圏でも展開する可能性は大きい。Walmart(ウォルマート)、Costco(コストコ)、Walgreen(ウォルグリーン)など米国では小売企業との連携を強化するグーグル。東南アジアで「Googleショッピング」を強化するには、小売企業である京東集団は最適なパートナーだったと言える。
グーグルのアジア太平洋地域担当プレジデントであるカリム・テムサマニ氏は、「GOOGLE IN ASIA」のサイトで次のように述べている。
私たちは、小売企業が東南アジアを含む世界中のさまざまな国々で、有用でパーソナライズされた高品質のサービス提供を加速したいと考えている。JD.comのサプライチェーンと物流の専門知識、技術力を活用して、小売企業が消費者に簡単な買い物経験を提供し、どこでも好きな場所で買い物できる新しい方法を模索する。