Digital Commerce 360 2020/3/19 9:00

専門家達によると、Walmart(ウォルマート)がこれから始める有料会員プログラム「Walmart+」は、アマゾンのAmazonプライムとは異なるサービスを提供する予定です。Amazonプライムと差別化することには意味があるでしょう。

競争が激しいスピード配送サービス

Bloombergによると、「Walmart+」は、2019年にスタートしたウォルマートの食品配送サービス「Delivery Unlimited」の拡大版になるそうです。

「Delivery Unlimited」は、Instacart Express(※編注:買い物をする人とスーパーマーケット、配達者をネット上でマッチングし、商品を最短2時間で届ける仕組みを提供するサービス)、Target(ターゲット)のShipt(※編注:主要小売業者と連携し、アプリを通じて食料品を当日配送するサービス。友人宅など、配達先指定も可能)、AmazonのPrime Nowなど、他のスピード配送サービスと競合しています。

当初はヒューストン、マイアミ、ソルトレークシティー、タンパにある200店舗のみで提供していましたが、その後1400店舗に拡大しました。「Delivery Unlimited」の会員費用は、年額98ドルまたは月額12.95ドル。15日間の無料トライアルを利用してから会員になることができます。また、会員にならなくても、オーダーごとに配送料金を支払うことも可能です。

Walmartのチーフ・カスタマー・オフィサーであるジャニー・ホワイトサイド氏が、「Walmart+」の開発と展開の陣頭指揮を執っていますが、それ以上のことはわかっていません。Walmartの広報担当者は、「Walmart+」の計画を認めましたが、詳細についてはコメントしませんでした。

Amazonから顧客を奪うという発想ではない「Walmart+」

Consumer Intelligence Research Partners社の推計によると、2005年にスタートしたAmazon Primeの全米の会員数は2019年12月時点で、1億1200万人でした。データ分析会社Kantar社のマーケットインサイト担当ディレクターティム・キャンベル氏は、「Walmart+」は全米に浸透しているAmazonと差別化し、消費者がAmazonプライムと「Walmart+」の両方の会員になりたいと思わせることが大切だと話します。

Walmartは不利な立場に置かれていますが、このプログラムを大規模に成功させたいのであれば、困難な戦いに直面することも理解しています。Walmartが短期間でPrimeの独壇場に対抗できるようなサービスをスタートするとは思えません。「Walmart+」は収益を上げ、ロイヤルティを高めるための、Walmartが行う多くの取り組みの中の1つだと考えています。(キャンベル氏)

Amazonが提供していない、あるいは提供できない特典を提供する必要があります。たとえば、Walmartの5,000以上に及ぶ広大な店舗ネットワークや関連店舗のどこかの店で買い物をする際に使える割引などです。これは、物理的な店舗数が数百店舗と限られているAmazonにはまだ真似できないことです。

小売マーケティング会社RSR Research社の共同創設者で経営パートナーでもあるポーラ・ローゼンブラム氏によると、「Walmart+」がAmazonプライムとは異なる特典を提供するのは、ほぼ確実だそうです。

たとえば、Walmartがストリーミングコンテンツの制作や提供を始めることはないでしょう。Walmartはすでに2010年に買収したストリーミングビデオサービス「Vudu」を所有していますが、このサービスは現在売りに出されている模様です。

AmazonにはないWalmatの強みは店舗数の多さ

Walmartの“驚異的なアドバンテージ”の1つは、アメリカのどこでもオンデマンドの食料雑貨宅配サービスを提供できることです。食料品配達サービスのみでAmazonの勢いを止めることはできませんが、Walmartはここで強みを発揮し、顧客のロイヤルティを高めることはできます」とローゼンブラム氏は言います。そして、次のように付け加えます。

Walmartの最大の強みは、店舗数の多さです。Prime NowやPrime Freshの注文は流通センターから出荷されます。流通センターを出てから自宅に配送されるまでの間に、商品の劣化を防ぐためには大量の包装が必要になり、それが一部の消費者に不評です。そしてもちろん、Amazon Freshが利用できない地域もあります。

キャンベル氏は、Walmartの目標は、Amazon Primeに倣うのではなくWalmartの顧客にとって意味のあるものを作り、時間をかけて構築することだと言います。

たとえ「Walmart+」がAmazonほど大きく成長しなくても、売り上げと顧客ロイヤルティの観点から見たら成功するかもしれません。収益を上げ、ロイヤルティを高めるための、Walmartが行う多くの取り組みの中の1つだと考えています。(小売マーケティング会社RSR Research社の共同創設者で経営パートナー ポーラ・ローゼンブラム氏)

Amazonプライムはアマゾンのビジネスの重要な部分です。CIRP(国際生産工学アカデミー)によると、同サービスの会員は直近の四半期でAmazonユーザーの約65%を占めており、2019年の決算報告では、Amazonプライム会費を含むサブスクリプションによる収入は192億1000万ドル。2018年の141億7000万ドルから35.6%増加しました。

Amazonの2019年のセグメント別売上高
Amazonの2019年のセグメント別売上高。DigitalCommece360「Amazon’s 2019 sales rise 20.5%」より編集部が作成

WalmartはDigital Commerce360「全米EC事業 トップ1000社」の3位、Amazonは1位です。

WalmartがPrimeのような会員プログラムを作りたい理由

Walmartは以前にもAmazonプライムを真似たことがあります。「ShippingPass」と呼ばれる有料会員プログラムを試験的に導入し、年会費49ドルで2日以内の配達サービスを提供しましたが、2017年にプログラムを終了。代わりに、年会費なしで2日以内での商品発送という道を選択しました。しかし、Walmartが再び会員プラグラムに挑戦したい理由は十分に揃っています。

マーケットプレイス技術ベンダーのFeedvisor社が米国の消費者2,000人を対象に2019年に実施した調査によると、Amazonプライム会員はあらゆるオンライン小売事業者が求める、ロイヤリティの高い頻繁に購入する顧客だそうです。調査には以下が示されました。

Walmart's new loyalty program won't be an Amazon Prime clone
DigitalCommerce360「Walmart's new loyalty program won't be an Amazon Prime clone」より編集部が作成

新しいプログラムはSam's Clubと重複する可能性も?

「Walmart+」が成功するためには、Walmartの会員制スーパー「Sam's Club」をある程度犠牲にしなければならないかもしれない、とキャンベル氏は言います。すでに報道されているように、「Walmart+」会員が、Walmartのガソリンスタンドでガソリン代を節約したり、Walmartの薬局で処方薬を買うことができたりするなら、なおさらです。

残念なことに、Walmartは「Sam's Club」との内部競争を避けられた実績があまりありません。「Walmart+」のスタートは、特典の組み合わせ次第では、新たな傾向を生む別の事例になる可能性があります。(データ分析会社Kantar社 マーケットインサイト担当ディレクターティム・キャンベル氏)

キャンベル氏は続けて、「『Sam's Club』の買い物客の5人に4人はWalmartでも購入しているため、Walmartが重複を避けるように気をつければ、間違いなく「Sam's Club」にも大きな利益になるでしょう。しかし、「Sam's Club」のビジネス規模はWalmartよりもはるかに小さいため、「Sam's Club」のニーズが会社の構想と対立する場合、しばしば棚上げされることがあります」と話します。

RSR Research社のローゼンブラム氏によると、「Walmart+」が「Sam's Club」に与える影響は、少なくとも今のところ「心配するほど」ではなさそうです。しかし、彼女は、新しい会員プログラムが長期的に「Sam’s Club」に影響を与える可能性があることを指摘しています。

これは長期的に見て興味深い試みです。このプログラムが成功したら、「Sam's Club」とWalmartがより協業した方が良いでしょうか? そうなれば、市場を混乱させるかもしれません。個人的には、いろいろな割引は初期段階では実装されないと考えています。

この記事は今西由加さんが翻訳。世界最大級のEC専門メディア『Digital Commerce 360』(旧『Internet RETAILER』)の記事をネットショップ担当者フォーラムが、天井秀和さん白川久美さん中島郁さんの協力を得て、日本向けに編集したものです。

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