顧客対応業務の「効率化」「ミス軽減」「CX向上」を実現したサイクルスポットのカスタマーサポート改善事例
メール、SNS、電話などコミュニケーションツールの多様化によって、企業のカスタマーサポートが煩雑化している。自社ECサイトだけではなく、モール店も加わるとさらに複雑化し、バックオフィスを担う担当者の負荷が大きくなる。バックオフィス業務を効率化し負荷を軽減、かつ付加価値のある顧客体験を提供するカスタマー対応はどうすれば実現できるのか。自転車販売大手サイクルスポットの事例から、オムニチャネル時代の最適な顧客対応を見ていく。
問い合わせ対応が複雑化、一元管理できない課題
関東で100店舗以上を展開する自転車販売大手のサイクルスポットは、自社ECサイトのほか、「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」「au Payマーケット」といった複数店舗を運営する多店舗展開を行っている。
この多店舗運営で大きな課題となったのが、メールなどへの問い合わせ対応。お礼メール、メールでの質問、フォームからの問い合わせなどが、自社ECサイト、各モール店に寄せられる。受注スタッフと問い合わせ対応は計4人。そのスタッフが、問い合わせに応じて、各サイトの管理画面と無料のメールソフト「Thunderbird」で対応していた。
この運用が厳しい状況だった。「Thunderbird」に届く問い合わせメールは全スタッフが共有し、各スタッフが個々の判断で返信に対応。重複して返信することもあれば、返信できていないケースもあった。また、問い合わせは2日以内に回答するルールがあったが、4日後に返信するケースも……。こうした状況だったため、お客さまにご迷惑をおかけしていた。
こう振り返るのは、サイクルスポットのEC責任者である小林礼武氏(販促部 マーケティンググループ グループリーダー)。小林氏がサイクルスポットに入社したのは2020年。前職(セレクション・インターナショナル)でもEC責任者を務めていた小林氏は、サイクルスポットの顧客対応の運用状況に危機感を抱いていた。
前職時代、同様に多店舗展開での顧客対応に課題を抱えていた小林氏。メール、Twitter、FacebookなどSNSを含めた問い合わせ対応を社内スタッフが一元管理し、付加価値の高い顧客対応を行うためにクラウド型カスタマーサービスプラットフォーム「Zendesk」を導入して解決に導いた。
転職先となったサイクルスポットでも「Zendesk」導入によるアプローチで顕在化している課題を解決できると判断。「Zendesk」の公認インプリメンテーションパートナーであるエクレクトの支援を受けて「Zendesk」を導入、バックオフィス業務の改善に取り組んだ。
サイクルスポットが導入した「Zendesk」とは
Zendeskは2007年にデンマークで生まれたコミュニケーションを統合するクラウドサービス。全世界で16万社以上、日本国内で3,000社以上が導入している。
「Zendesk」の最大の特徴は、電話、メール、SNSなどからの問い合わせを一元管理し、オムニチャネルなカスタマーサービスを実現できること。
エクレクトは「Zendesk」の最上位パートナーに位置付けられている公認マスターパートナーで、「Zendesk」関連サービスの専業企業。「Zendesk」の導入・実装・サポート、最適化支援、データ移行、関連アプリケーション開発、既存システムとの連携など運用に関わるすべてのサービスをワンストップで提供している。
「Zendesk」関連サービス専業企業として、さまざまな企業の「Zendesk」導入支援を手がけてきたエクレクトの辻本真大社長は、「Zendesk」について次のように話す。
お客さまとのコミュニケーションが、メール、電話、SNSなどさまざまなコミュニケーションツールで発生する。それぞれのツールでコミュニケーションをしていくというのは非常に煩雑になっているのが現状だ。「Zendesk」はこうしたコミュニケーションを一元的に1つの管理画面で運用できるのが強み。あらゆるチャネルからのコミュニケーションに応対することができる。
では、「Zendesk」の主な3つのポイントを説明していこう。
統合コミュニケーション基盤
顧客からの問い合わせは、メール、SNS、電話などさまざまなコミュニケーションツール経由で「Zendesk」に集約して管理できる。1つの管理画面で一元化し、そこから直接返信することが可能だ。1人の顧客が異なるツールで問い合せをしてきても、顧客単位で問い合せ履歴をツリー上で確認できるため、チーム全体で背景情報を把握。問い合わせがあった場合に的確な情報を提供できるようになる。
ナレッジ・マネジメント
自分でわからないことを調べて自己解決したいというニーズに応えるのが、FAQサイトを構築できる機能。自社のイメージに合わせて自由にデザインをカスタマイズでき、記事単位で表示先を指定できるため、社内のナレッジ管理としても活用可能。
拡張プラットフォーム基盤
「マーケットプレイス」というアプリセンターを用意、自社の業務に合うアプリを選んで使うことができる。独自のアプリを作製して追加することも可能。
EC事業者向けのサービスとして、受注管理のシステムとのAPI連携も可能。受注管理システムの顧客情報と連携することで、問い合わせ内容と購買履歴を1つの画面で確認しながら対応することもできる。
LINE、Amazon Connectとの連携例
SNS系との連携は、「Facebook Messenger」「Twitterのダイレクトメッセージ」「LINE」「WeChat」などと連携でき、1つの管理画面で返信対応などが行える。
たとえば「LINE連携」。LINE経由の問い合せをチケット化し、「Zendesk」の管理画面からLINEに返信することが可能。リアルタイムで消費者、事業者側のコメントを可視化し、チャットのようなやり取りができる。
Amazonが提供するAmazon Web Service(AWS)のサービスの1つで、クラウド上でコールセンターシステムを提供するCTI(Computer Telephony Integration、電話システム)の「Amazon Connect」とも連携可能。
「Zendesk」は「Amazon Connect」のプラグインを用意しており、簡単な設定のみ、低コストで導入可能。既存の電話番号から「Amazon Connect」で発番した電話番号宛に転送設定し、既存番号を継続利用することもできる。使用した通話時間に対してのみ料金が発生し、初期費用と最低月額費用はない。
在宅勤務で電話サポートを展開していきたいという時にこの機能を利用するケースが増えている。(辻本社長)
「Zendesk」導入でサイクルスポットの顧客対応業務は激変
エクレクト経由で「Zendesk」を導入・実装したサイクルスポットのカスタマーサポートの運用はどのように変わったのか。小林氏は導入効果を次のように話す。
さまざまな管理がとても効率的になり、ミスも減った。担当スタッフは以前、残業時間がとても多かったが、「Zendesk」導入で今ほぼ残業なしで業務を終えることができるようになった。対応のスピード化やミスの軽減などで、たとえば「今はこんな商品が売れています」といった案内もできるようになり、マーケティング面の成果にもつながっている。
自社ECサイト、モール店などそれぞれの販売チャネルから問い合わせが寄せられるのが多店舗展開の課題。EC事業者はそれに対してスムーズに対応していくことが求められる。
また、問い合わせにはさまざまな内容が寄せられる。そのため、カスタマーサポートでは答えることができない質問が飛んでくるときもある。たとえば、「Aという商品はいつ入荷しますか?」。MD(マーチャンダイジング)を担当しているスタッフでなければ対応できないといったケースなどだ。
「誰がいつ返信処理をする、という問い合わせ内容の担当振り分けは、顧客対応の質を左右する大きな部分であると感じている」と話す小林氏。問い合わせメールなどの一元管理の課題について、「Zendesk」で次のような設計とアプローチを採用した。これはあくまでサイクルスポットの設計方法である。
問い合わせフォームや各ECサイト経由のメールは、まずは「担当未割り当て」のビュー(フォルダのような機能)に集約。そこからあらかじめ設定したルールに従ってモール経由のメール、対応が必要なメールなどとして「対応が必要なチケット(顧客からの問い合わせの単位)」を適正担当者ごとに振り分ける。たとえば、注文については受注担当者、商品は商品部、販売関連についてはマーケティング担当などに自動で振り分けるといった仕組みだ。
そして、専任スタッフ1人が、「担当未割り当て」に残った自動で振り分けられなかったメールを適した担当者に対応を促していく。
次の画面はメールソフトで言う「フォルダ」のイメージ画像である。このケースでは、未割り当てメールの詳細を見ると、どこの販売チャネルから寄せられたメールなのか、その内容はどのようなものなのかを確認することができる。振り分けを行う専任スタッフは、問い合わせであれば自身が対応。各モールでの質問であれば、モール担当スタッフに管理画面上から対応を促すためのアクションを行うことができる。
次の画像は、適正担当者の画面(画像下)の管理画面になる。たとえば、各モールでの質問が寄せられた場合。モール担当者は「お問い合わせ」を見ると、担当者ベースで対応しなければならない「お問い合わせ」を確認することができる。
EC事業者向けの「Zendesk ECパッケージプラン」
エクレクトではサイクルスポットのほか、やずや、「ボタニスト」で知られるI-neなど、EC事業者の「Zendesk」導入・実装・運用サポートが増えている。
こうした状況を踏まえ、自社ECサイトとモール店の多店舗展開を行う中小規模事業者向けのECパッケージプランを独自開発、提供をスタートした。
初期費用は10万円で、月額費用は2名で5,600円~。利用可能人数は5名までで、利用できるECサイトの店舗数は4店舗まで(楽天市場店は1店舗まで)。
この新しいパッケージプランは、これからECをどんどん伸ばしていきたい事業者向けのプラン。ヒアリング項目に回答いただくと、ヒアリング内容を基に構築した「Zendesk」環境を提供する。事業が成長し、パッケージプラン以上の機能が必要となる場合は個別に対応していく。(辻本社長)
なお、ECパッケージプランには「送信アラートアプリ」、送信メールの「開封確認アプリ」、「楽天あんしんメルアド対応」機能などを搭載している。