今さら聞けないソーシャルコマースの基礎。Instagram起点のEC施策を詳しく解説
ソーシャルコマースとは、ソーシャルメディア(SNS)とEコマースを掛け合わせて商品やサービスを販売する仕組みのことを言います。従来、EC事業者側にとってのSNSは、投稿を通して商品やサービスとファンが結び付く場であり、認知や興味関心を獲得するための場として主に「購入以外」のフェーズのマーケティングプラットフォームとして広く活用されていました。
しかしここ数年、Instagramに商品タグやショップ機能が追加され、EC事業者によるライブ配信などの活用も広まったことで、商品の購入フェーズにも重要な役割を担うようになりました。つまり、これまではEC事業者にとって情報発信や収集の手段、ファンとの交流の場だったSNSが、実際にオンラインショッピングができるプラットフォームに変化したのがソーシャルコマースです。ここではこれからのECに欠かせないソーシャルコマースについて詳しく解説します。
ソーシャルコマースとは
広義での「ソーシャルコマース」には、
- グループ購入型(指定されたユーザー数で共同購入をすることで、クーポンなどの割引を受けることのできる仕組み)
- ユーザーキュレーション型(買い手であるユーザーが作成したショッピングリストを共有し、その中から購入する商品を選択する方法)
- ユーザー参加型(クラウドファンディングでの商品への投資や企画など、ユーザーが買い手としてだけでなく、売り手側が担う部分にも参加する仕組み)
- SNS型(SNS上で紹介された商品を購入できる仕組み)
など、さまざまな形態があります。本記事では今後特に重要となってくるSNS型、中でも主流のInstagram上のソーシャルコマースの話を中心にお伝えします。
Instagramでのショッピングの仕組み
Instagramのショップ機能の中核を担うのが「商品タグ」です。自社のECサイトとInstagramアカウントを連携させ、商品データベース(商品カタログ)をアップロードすると、写真や動画などの投稿に商品タグを付けられるようになります。消費者は興味のあるタグをタップすればInstagram内で商品詳細を閲覧したり、企業のECサイトの商品ページに移動して購入したりできます。
商品タグがなかった時は、画像を見て「これが欲しい!」と思っても、企業のプロフィールからECサイトのトップページに移動することしかできず、さらに、「カテゴリから探す」→「該当商品を探す」というような複数のステップが発生しました。また、服のように似たようなデザインが多い商品や化粧品のように色の判別が難しい商品の場合、商品を2つ、3つまで絞り込んでも「あの写真の商品は結局どっちだろう?」と疑問に思い、離脱するケースが多かったのです。
こんなユーザー行動が、商品タグの登場によって大きく変わったのです。
2020年6月にはInstagramやFacebookなどのプラットフォーム上に無料でオンラインショップを開設できる「ショップ機能」が登場しました。企業は自社アカウントのプロフィールに「ショップを見る」というボタンを設置できるようになり、ショップに商品の一覧を表示させたり、複数商品をまとめてコレクションとして見せたりといった世界観を重視した表現が可能になりました。
現時点では、企業アカウントもしくは自分のブランドを持っているクリエイターのみ、タグ付けやショップ機能の利用が可能ですが、米国ではクリエイターが他社ブランドの商品をタグ付けできる機能のテストも進んでいます。
また、同じく米国では購入時の決済までInstagram上決済まで完結させるチェックアウト機能のテストも実施しており、将来的には投稿を見て「欲しい!」と思った熱量の高い状態のまま、スムーズにアプリ内で購入まで完了できるようになり、かご落ちが減り、売り上げもアップすると期待されています。
ライブコマースの魅力はオフライン店舗に近いCXを提供できること
ライブコマースとは、SNS内のライブ配信機能を通じて商品を紹介し、販売する手法のことです。中国では、このライブコマース市場規模が2021年には2兆元(32兆円)規模に急拡大するとされており、日本でもコロナ渦以降急成長している販売手法で、アパレルブランドなどがInstagramの「インスタライブ」を活用する動きが広がっています。
ライブ配信のメリットは、ECサイト上では伝えきれない内容を話し言葉や動画で伝えられること、注力したい商品について、時間をかけて魅力や特徴をしっかり伝えられること、商品を着用して動いている様子を見せたり、消費者からの質問に対し、即座に回答できたりすることなど、オフライン店舗に近い購入体験を提供できることです。
また、その場で購入につながらなくとも、商品やブランドの認知拡大、丁寧なコミュニケーションによるブランドロイヤリティの向上、後日の店舗ヘの来訪なども期待できます。
日本で中国ほどライブコマースが流行らない理由
現時点では、日本では「ライブコマース」といっても「コマース」の要素がまだまだ小さい状況です。ただ今後、①ライブ配信中の商品への導線が整備されること、②ライブ配信自体にコミュニケーションの楽しさや価値を創出することで、ユーザーの購入率向上が見込めます。
①については現状、ライブ配信中にECサイトへの導線を作るのは難しい状況です。配信終了後、ライブ配信のアーカイブ(録画)や紹介した商品をフィードに投稿する際に商品タグを付けるのが一般的ですが、米国でInstagramやFacebookのライブショッピング機能がテスト中なため、将来的にはライブ中にも商品タグを使用できるようになり、配信中に商品が画面上に表示され、リアルタイムに購入できるようになると見込まれます。
②については、値引き以外の価値を生み出すことが重要です。「今ここで買おう!」という気持ちになる一番の理由はやはり、他で買うより安いことですが、日本の企業は大幅な値引きはしない傾向があり、視聴者としては「だったら後で買おう」「店舗で実物を見てからにしよう」という心理になり、その場での購入にはつながりにくいのが現状です。
値引きが難しい場合はコンテンツの内容を工夫し、ライブコマース特有のインタラクティブなコミュニケーションを最大限活用して、ライブ自体の価値を高めていくことが重要です。
中国でこれほどまでにライブコマースが支持されている背景には、中国では50%オフ、70%オフというような大幅な値引きを実施していることと、市場の特性として偽物が出回りやすいため、ブランド公式の発信=偽物ではないという安心感が明確な「その場で買わなければならない理由」になるためです。
日本では視聴者とのインタラクティブなコミュニケーションができるツールとして、認知や興味関心フェーズでのブランド・商品の認知向上、理解促進のための施策として実施していくのが良いのではないかと考えます。
ソーシャルコマースと既存のプラットフォームとの違い
ソーシャルコマースと通常のECとの違い
ここからはソーシャルコマースと既存の販売手法の違いについて説明します。ソーシャルコマースと通常のECとの違いとしては、 発見から購入までの導線がスムーズであることと、購買行動において消費者にプラスの印象を与えられることの2つがあげられます。
通常のECでは広告などで需要を喚起させて購入までつなげるのに対し、ソーシャルコマースでは「消費者が日常的に使っているSNS上で企業や友人、インフルエンサーなどの投稿を見て興味喚起」→「ブランドのアカウントへ移動」→「商品ページへ移動」というように、「欲しい」と思う気持ちがSNS上で生み出され、その熱量が高いまま購買行動に移ってもらえます。
自発的な要因で需要が発生するため、消費者の心理としては「広告に影響されて買ってしまった」という受動的な買い物ではなく、「○○ちゃんの投稿/ライブを見て欲しくなって買った」というような能動的な買い物となります。つまり「広告などを見て買ってしまった」というような気持ちにならずに買い物をすることができ、結果的に買い物に対する満足度が高くなると考えられます。
1970年代〜1980年代の「モノ消費」から、1990年~2000年代初頭の「コト消費」、そして2010年以降は「イミ消費」というように消費者の購買行動は変化しています。これまでは「広告を配信する」→「気になる」→「調べる」→「買う」というような受動的な買い物が主流でしたが、ソーシャルコマースではSNSの自社アカウントやインフルエンサー、一般消費者の投稿を最大限活用してブランドの世界観を存分に伝え、消費者にブランドや商品を十分に理解、共感してもらい、受動的にではなく自発的に購入してもらうというような、時代に即した購入体験を提供できると言えます。
ライブコマースとテレビ通販との違い
ライブコマースと近しい既存の販売手法としてテレビ通販がありますが、テレビ通販のメインターゲットが50代以上の年配層であるのに対し、ライブコマースは10代、20代の若年層がメインターゲットです。テレビからスマホに配信端末が変わったことは、単に場所がモバイルデバイス/プラットフォームに移ったのではなく、生活様式や世代傾向の変化と合わさった「変革」と捉えています。この「変革」によって若年層への効率の良いリーチが可能になりました。
また、テレビ通販は事前に収録した番組を規定の時間に放送しますが、ライブコマースは双方向のコミュニケーションが可能です。寄せられたコメントをリアルタイムに拾いあげて答えることもできるため、視聴者にとって満足度が高いものとなります。さらに、注文したいとなったとき、テレビ通販はWebで検索したり電話をかけたりと別の端末からの申し込みが必要なのに対し、ライブコマースで見ている端末から注文できます。認知から購入までが1つの端末で完結するのは大きな魅力です。
ソーシャルコマースが向いているケースとは
ここまで、ソーシャルコマースの特徴や既存の販売手法との違いなどについて詳しくお話してきました。「実際、どういう時に向いているの?」と気になる方もいらっしゃるかと思います。これまでの説明をまとめると、ソーシャルコマースは「発見から購入まで一気通貫で対応でき、購入までの導線がスムーズで若年層との親和性が高く、ライブコマースでは双方向のコミュニケーションが可能」という特徴がありますので、
- 新しいチャネルを広げたい
- 若年層を取り込みたい
- これまでのEC施策に限界を感じる
こんな時に有効だと考えられます。上記にあてはまる事業者の方は、ソーシャルコマースの導入を検討してみてはいかがでしょうか?
参考リンク
- The 7 Species of Social Commerce | Mashable
https://mashable.com/archive/social-commerce-definition#9SoPHBelVEqT - 中国のライブコマース、2021年に2兆元規模へ | JETRO
https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/10/a96bbe55659f00d6.html - ソーシャルコマースとは?ブランドと生活者がSNS上で交わる・買える | 電通報
https://dentsu-ho.com/articles/7578