顧客データの一元化が重要な理由&D2Cをする際の重要ポイント&今後押さえておくべき「2つのC」
コロナ禍で起きた変化で見逃せないものが2つあります。1つはリアルでもネットでも共通した顧客体験を提供するための顧客データの活用。2つ目はD2Cです。オンラインとオフラインで共通した顧客体験を実現するためのCDP(Customer Data Platoform)、D2Cで成功するためのポイント、そして今後のコマースを考える上で必要な“2つの「C」”について解説します。
顧客データを最大限に活用するための仕組みづくりが必要
顧客の行動データや購買データなどを把握し、顧客の文脈(コンテクスト)に合わせてサイトのページ構成を変えたり、レコメンド商品を最適化するような仕組みを指すコンテクスチュアルコマース。
その実現には、顧客理解のためにさまざまなデータを集めて統合的に利用できるようにする必要があります。
しかし、現実は異なります。データの目的や収集元によってデータが分散、サイロ化しているケースも。また、データを1か所に集約できても、データを統合して活用するまでには至らないという話も少なくありません。
また、異なるデータソースを1つに集約するシステムをデータレイクと呼びますが、湖のように溜め込んだだけで、いろいろな情報が雑多に混在している状態では活用できません。フォーマットに従ったデータの整形、重複データや誤記データの削除などのクレンジング、データベースの正規化などの処理を通して、統合的にデータを利用できる形にする必要があります。
顧客データを集めたCDP(Customer Data Platoform)の構築ニーズが高まっているのは、このような背景があるためです。
ここでいうプラットフォームには、2つの意味合いがあります。1つは駅としてのプラットフォームの意味で、電車が入ってきて出ていくような、インとアウトを結びつける場所。2つ目は、プラットフォーマーの意味で、それをもとにビジネスを創造していく基盤となるものです。
オンライン、オフラインの双方のデータを取り込み、統合した形でアウトプットして活用できるようにして、新しいビジネスを生み出すような役割がCDPには期待されています。
CDPが実現できれば、さまざまな取り組みができます。たとえば、オンライン、オフラインを統合したコールセンター。顧客が店舗で買っても、オンラインで買っても、あるいは両方を使っていても、シームレスに一箇所のコールセンターでオペレーターが顧客の行動履歴を参照できれば、顧客体験が向上します。
購入に応じたポイントサービスでも、オンラインでもオフラインでも同様にポイントが蓄積されどちらでも利用できる、どちらも利用している人はロイヤルカスタマーとしてポイント還元率を上げるなど、顧客体験とベネフィットを有機的に結合させることもできるのです。
コロナ禍でD2Cが加速した
コロナ禍で見逃せない変化が、流通や小売店を通さずに、メーカーが消費者に直接販売するD2Cの加速です。セールスフォース・ドットコムの調査では、生活必需品(通常は食料品店の棚にあるもの)をメーカーから直接オンラインで購入する割合が前年比200%という大幅な伸びを見せました。
感染拡大防止のために、店舗の利用時間は短縮傾向があります。消費者の行動変化の調査では、「買い物における店舗での滞在時間」として次のような変化があったという結果が出ています。
- 「20分未満」が31.9%から45.7%と約1.5倍
- 「20~30分未満」が36.3%から33.7%と2.6ポイント減、
- 「30分以上」(「30分~1時間未満」「1~2時間未満」「2時間以上」を合算)では、31.8%から20.6%と11.2ポイント減
滞在時間が短くなったことで、店舗内を練り歩くことが減り、棚の商品を手に取り検討する時間が減っています。この結果、定番商品が売れ、それ以外の個性的な商品が売れなくなり、結果さらに商品棚を定番商品が多く占めるようになっています。
定番商品ではないけれど、一定のファンがいる商品は、小売店だけに頼らずビジネスを継続するためにD2Cを強化しています。
その事例の1つが日本酒「獺祭」の製造・販売をする旭酒造です。主な卸先だった飲食店が営業を控えるなか、ファンとつながるためにデジタルマーケティングへの取り組みを開始し、ECサイトを刷新しました。
D2Cに力を入れるのと同時に、小売店の情報も一元管理できるようにし、緻密なフォローを実現できる酒販店の統合カルテの構築を行いました。従来の流通も強化しつつ、新たにD2Cにも取り組み始めるような動きは、さらに強まっていくと感じます。
D2Cするならデジタルマーケティングをセットに考える
D2Cといっても単にECサイトを立ち上げればいいというわけではありません。消費者の購買行動をモニターしながら、戦品戦略に基づいた販売の仕組みを考える必要があります。
ECサイトを始めたとしても、購入者をそのまま放っておくと、リピート購入はありません。
たとえば、地元の特産品を活かした調味料を開発しているメーカーがD2Cを開始したとします。これまでは、卸に販売して終わりでした。しかし、ECサイトで自ら販売するのであれば、1本の消費時間を見計らい適度なタイミングで、Eメールを用いて再購入を促すなどの施策が必要です。新規顧客に一度販売して終わり、ではビジネスが循環していかず、D2Cの継続は難しいでしょう。
そこで、D2Cを実施する場合は、デジタルマーケティングも対でやっていくことになります。ビジネスが循環するようになると、データが蓄積されていきます。それをCDPに入れて、また次の施策や店舗での販売にも生かすことができます。
今後、Cookieが規制され、自社で収集したファーストパーティデータの価値が上がるなかで、小さくECビジネスを始めた場合であっても循環できる仕組みを構築してデータのストックをしていく必要があります。
中小企業にとっては、こうした仕組みを取り入れるのは敷居が高く感じるかもしれません。しかし、以前はシステム投資に多額の費用がかかりましたが、今はSaaSのサービスが充実しており、利用するボリュームに合わせて課金されるので、投資可能な範囲で実現できるようになっています。
コロナ禍で、人々の生活が大きく変わったように、これから何が起こるかは誰にも予測できません。こうした中、既存のファンとしっかりつながり、販売できる手法を用意しておくことは生き残りのためにも必要です。施策の中で溜めたデータは店舗での販売にも役立てられます。
まとめ:カスタマーとカルチャー、2つのCを軸に考えよう
OMO、1to1マーケティング、CDP、D2C、エッジショッピングなど、今後、さまざまな変化がECビジネスで起きるでしょう。そんななかで読者の皆さんに押さえておいてほしい視点が2つあります。それは2つのCです。
1つはCustomer(お客さま)。ビジネスには必ずお客さまがいるので、顧客視点に立った取り組みが必要です。顧客は、企業に自分をわかっていてほしい、それを踏まえた上で接してほしいと期待しています。すでにそれを実現できているサービスがあるので、実現できていないサービスが見劣りしてしまうのです。
さまざまなテクノロジーがありますが、テクノロジーがあるから、ではなく、お客さまの利便性を高められるから、という顧客ありきの視点でテクノロジーを活用してほしいと思います。
もう1つは企業のCulture(文化)です。オンライン、オフラインで組織が異なる、分離していては顧客体験の向上はできません。企業の中で2つをマージしていくという意識が必要です。顧客にとって、どこの接点であっても、最高のおもてなしができるようにするには、プロセスや情報が連携されている必要があります。
企業の文化は一朝一夕には変えることは難しいことですが、地理的に離れた部署であっても、簡単にコミュニケーションできるコラボレーションツールもあります。お客さまとの接点を統合し、よりよい体験を作るという意識を浸透させ、文化として根付かせてほしいです。