小売業者がデジタルデータを活用して売り上げを伸ばすために必要な5つのステップ
ネット通販を含めた小売事業者にとって、デジタルデータは戦略を立てる上でとても重要な要素となります。しかし、膨大なデジタルデータを前にあ然となり、データを活用した戦略を立てられない小売事業者が数多く存在します。
データサイエンスはビジネスの根幹
デジタルの技術革新は一般消費者向けの小売業界に大きな変化をもたらし、消費者は買い物に関する膨大な情報と無数の選択肢を手にいれることができました。
多様なデバイスを使いこなせるようになった一方、デジタルマーケティングのターゲットとなった消費者は、新しいけれども複雑なプロセスを経て買い物をしています。
デジタル世界の裏側では驚くべき新技術が誕生しています。それらの多くは、独自の運用ルールが設けられています。
プログラマティックマーケティング(データに基づいたリアルタイムな広告枠の自動買い付け)、Google・Facebookへの広告入札、消費者ごとにカスタマイズしたランディングページ、Webサイトマーチャンダイジング(サイト上で商品を紹介する特集ページ作りといった商品販促)など、従前の小売業の業務プロセスとは異なる意思決定が必要とされます。
一方、インプレッション、クリック、検索、PV、トランザクションなどのビッグデータを分析することによる「デジタル疲れ」を引き起こす小売事業者も少なくありません。
ただ、ビジネス規模や専門分野に関わらず、どんな小売事業者も賢く新しい方法でデータを取り扱うことが重要です。GoogleやAmazon、Zalando(ドイツのファッションECサイト)など、データの取り扱いを事業の中心に据える会社にとって、データサイエンスはビジネスの根幹を支えています。つまり、企業のDNAなのです。
こうした企業と同じやり方で、伝統的な小売事業者がデータサイエンスを活用していくことは難しいでしょう。多くの小売事業者達は違ったアプローチなど取り入れる必要性を感じていますが、「どこから手をつけて良いのか」「何を変えたら良いのか」「何ができれば成功と言えるのか」がわからない状況です。
企業は、データを今までとは違う考え方を促すための触媒だと捉えなくてはいけません。
データに基づいたイノベーションを追求することで、従来とは違う考え方を持つことができるようになります。そうすることが、プロセス改善、コスト削減、売上アップの改善につながるのです。
組織内で変化を起こすのは大変困難なことです。しかし、伝統的な小売事業者とAmazonの戦いを見ていると、イノベーションを追求しない小売事業者は取り残されてしまうことでしょう。
データの力を最大限に利用して変革を起こすには、正しい理解と考え方を組織全体に浸透させる必要があります。データに基づいて、柔軟性を持ち革新的な小売事業者になるための5つの原則を解説します。
① データは戦略の柱
データの活用はCEOの行動計画に入れなければいけません。そうしなければ、データに基づく施策は成功しないでしょう。
データはイノベーションの源となります。企業はデータを今までとは違う考え方を促すための触媒と捉えなくてはいけません。同じ頻度で、同じ部門で、同じデータを使い、同じロジックで、同一の目的を持つ同じ人々と一緒に意思決定をしているようでは、何も変わりません。
② データは重要な財産
データは新しい企業の資産と言えます。データを有効活用するには、まずデータを見つけ、発掘し、抽出、洗練していかなければいけません。そして、組織内で共有するのです。データの活用を、1つの部門だけにとどめてはいけません
“そこそこ”なデータにも大変価値があります。データは完璧で、かつ完全である必要はありません。重要なことは、そこからインサイトを見つけ、アクションを決めるための道筋を作る材料として有効であるか否かです。
大量のデータから重要な要素を見つけてください。膨大なデータに圧倒されることもあるでしょう。しかし、データの中から消費者の意図や行動を理解しなければなりません。何が有効なのかを理解するには、一筋縄ではいかないのです。
③ 管理職はデータを基に決断を下す
すべての決定が正しいとは限りません。新しいインサイトや機会を得たならば、「決定の柔軟性」が必要になります。問題は、いまだに多くの小売事業者が通り一遍の意思決定しかしていないことです。
“そこそこ”の決定を下しましょう。完璧を追求することは必要ありません。「現在あるデータを基にできる最良の決定はなんだろう?」と考えることが重要なのです。
失敗を学びの機会してください。小売事業者が失敗や間違いをそのままにしては、何も改善できません。大切なのは、損失を最小限に抑え、同じ間違いを再び起こさないことです。
④ 組織もスタッフもデータに基づいて足並みをそろえる
データは1人で分析するものではありません。データ分析には、さまざまなスキルが必要です。データアーキテクト、アナリスト、アルゴリズムの設計者、数学者、統計学者が、それぞれ異なるスキルを持ってデータ分析に取り組みます。最高データ責任者(CDO)、もしくはそれに相当する担当者は、データ主体の世界においては“指揮者”のような役割を果たすことが重要です。
部門ごとの組織を見直しましょう。デジタルコマースにおける重要な決定事項は、部門ごとで決められるものではありません。
意志決定をするマネージャーという役割を作りましょう。つまり、生産部門、物流部門、データサイエンティスト達をつなぐ役目を果たす人です。「意思決定者」「ビジネスパフォーマンスマネージャー」という名称で呼ばれることもある役割です。ビジネスにおける課題・問題を数学的アプローチとして捉え、結論をわかりやすく現場に落とし込むのです。
変化を管理できるようにプラニングしましょう。すべての管理職がすぐに新しいデータの利用方法を試すわけではありません。新しい方法には馴染みがなく、ためらってしまうこともあるでしょう。自分たちの仕事が危険にさらされていると感じる可能性もあります。
意思決定者が誰なのかを明確にしましょう。誰もがデータに関して何かしらの意見を持っています。データの活用について議論をする際、20人以上のスタッフが会議室に集まり、さまざまな意見を出し合いますが、目的が微妙にずれてしまい、誰も決定しない……といったことがよく起こってしまうからです。
⑤ 分析能力を養う
デジタルコマースの世界では、すべての数値が計算式で説明できます。データを利用する時も、ロジックが必要なのです。
平均値は“敵”だと思ってください。平均値はしばし間違った方向へ導くことがあり、重要な数字であることはまれです。アウトラインプロセッサ(全体構造)、十分位数(データの相対的位置をみるのに用いる数値)、次元(空間の広がりをあらわす1つの指標)、層化(母集団を相対的に同質なグループに分けるプロセス)の概念を使い、平均値をひもといていきましょう。平均値が示された時は、「分布はどうなっているの?」という質問を投げかることが重要です。
分析に対する興味を持ち、建設的なチャレンジを好む文化を醸成しましょう。多くの人が、「自分はデータが得意」だと考えています。本来、優秀なデータサイエンティスト達は大変謙虚なもの。データサイエンスは難しく、厄介で、間違えやすく、誤った分析をしてしまう可能性があるからです。確実性と自己保身には注意を払いましょう。
悪いことは細部に宿っています。上層部はしばしば細部に目を向けません。デジタルの世界では、総計や単純な情報ばかりを見ていると、本質を見失うことがあります。
データ分析によって効果的な変化を起こすために、小売事業者は何から手をつければ良いのでしょうか? 重要なのは、どのような技術がどの問題に適しているかを理解することです。
部門ごとのデータ分析をやめ、ひとくくりにされたデータや、総計分析データも分解しなければいけません。取引データだけを基に行う伝統的なデータ分析方法は、他の分析要素が加わった時に全く違う結果を示す可能性があります。
管理職が部下に対して答えられない質問をするのは簡単ですし、データサイエンティストが意思決定に役立たない分析データをレポートすることは簡単です。
データと小売の変革において重要なのは、明確な方向性を持つことと、組織内の全員が関わることができるプロセスを作り上げることなのです。