日銀が分析するECビジネス――物価への影響は? 実店舗との関係は? Amazonをどう見ている?
日本銀行(日銀)は6月18日、ネット通販が国内の物価に与える影響を調査した「インターネット通販の拡大が物価に与える影響 」を公表した。EC企業が配送センターを増やしていることが宅配コストの削減につながり、結果的に物価下押しに影響しているとの見方を示した。
ECと実店舗の価格比較
日銀は、ECの販売価格が相対的に低い理由として、実店舗を持たないことによるコスト削減効果があると推察。海外の調査結果を引用し、日本を含む10か国の多くでECの販売価格の方が実店舗よりも割安であることを紹介した。
物流網の整備が進むにつれ宅配の平均輸送コストが下がり、販売価格が下がりやすいとの仮説をあげた。
米国でAmazonは配送センターの拠点数を増やすことで宅配の平均輸送距離を短縮し、配送コストを引き下げてきたとする先行研究を踏まえ、日本におけるEC企業の配送センターの設置状況を調査した。
その結果、日本でもAmazonの配送センターからの平均輸送距離の短縮が進んでいることが確認されたという。
また、他のEC企業を含め倉庫の建築が近年大幅に増加し、輸送距離の短縮がEC企業のコスト競争力を高めることに寄与してきたとの見方を示した。
国内物価への影響は?
日本の消費者物価指数(CPI)は、 原則としてECの販売価格を対象外としている。日銀は、ECの価格変動自体がCPIに直接影響を与えるわけではないとしているが、「インターネット通販の拡大を受けて競争環境が変化すれば、既存の小売企業の一部が対抗措置としての値下げを行うことで、結果的にCPIで計測される物価が下押しされる可能性はある」と指摘した。
その上で、ネット通販の支出額が増えている日用品や衣類の物価をみると、食料品などに比べて弱めに推移していることが確認できるとしている。
今後、ECは物価にどのような影響を与えるか
日銀はEC市場の今後の展望を踏まえ、物価に与える影響を次のように予測している。
- 女性の労働参加が進むもと で、共働き世帯の増加傾向が続くとみられることなどから、インターネット通販のさらなる拡大を通じて既存の小売企業を取り巻く競争環境が一 段と厳しくなる可能性がある。
- 人手不足を背景とする物流コストの増加は、インターネット通販企業のコスト面での競争力を弱めることを通じて、既存の小売企業との競争環境を緩和させる方向に作用する可能性がある。
- これまでコスト削減に寄与してきた配送網についても、充実化の余地が少なくなってきていることも考えられる。
- 競争の結果として業界内での淘汰が進み、インターネット通販業界における一部企業の寡占度が大きく高まれば、インターネット通販企業の価格設定行動が変化する可能性もある。