「Amazon」vs「Shopify」の戦いの行方。EC事業者が注視すべきポイントは?
EC業界の2大プラットフォーム「Amazon」と「Shopify」は、ECエコシステムの中で異なる役割を担っています。しかし、将来的には直接の競合になるかもしれません。水面下で行われている現在の戦いは、小売事業者に大きな影響を与える可能性があります。
Amazonが中小企業向けECプラットフォーム買収で直接対決?
2020年末、AmazonがShopifyに対抗するサービスを開始するのではないか、もしくはShopifyを完全に買収するのではないか、という憶測がメディアを賑わせました。
結局、AmazonはShopifyのライバルとも言えるオーストラリア発の「Selz.com」(中小企業をターゲットとしたECプラットフォーム)を買収しました。Shopifyと直接対決することになれば、「Selz.com」が貢献することになるでしょう。
そこで、AmazonとShopifyの戦いがEC事業者にとって重要な理由を説明すると同時に、小売事業者が目的に合った適切なECチャネルを選択する際に役立つ情報を解説します。
AmazonとShopifyの競争
小売事業者にとってのAmazonの強みは、巨大マーケットプレイスのおかげで、消費者に幅広くリーチできることです。一方のShopifyは、小売事業者がITやプラットフォーム開発に大きな投資をしなくても、独立したECサイトを迅速に構築できます。Shopifyは消費者にはあまり知られていませんが、小売事業者の自社ブランド育成に焦点を当てたサポートをしています。
ニュースサイトの「Quartz」によると、「Selz.com」は2006年以降、小規模なスタートアップ企業から食品やアパレルの大手ブランドまで、世界中で100万以上の顧客基盤をひそかに築いてきました。
このような違いを見ると、AmazonとShopifyをゼロサムゲームのライバルと考えたくなります。ゼロサムゲームの考え方では、小売事業者はAmazonのマーケットプレイスで販売するか、Shopifyプラットフォーム上で独自のストアを運営するかのどちらかを選択することになりますが、実際のECエコシステムはそれよりも複雑です。
異なるニーズを満たすAmazonとShopify
AmazonとShopifyは今のところ、小売事業者の異なるニーズを満たしています。つまり、AmazonとShopifyはエコシステムの中で異なる役割を担っているのです。
Shopifyの役割や満たすニーズ
たとえば、リピーターを増やしたいと考えている事業者は、自社の価値や品質について魅力的なストーリーを語り、信頼を確立し、消費者とコミュニケーションをとる必要があります。この傾向は、ソーシャルメディアを多用する消費者向けのD2Cブランドに特に当てはまります。
同時に、顧客データを管理し顧客の好みや季節の変化、サイトダウンや天候不順などの不測の事態に合わせて、返品・返金ポリシーを柔軟に設定・調整する必要があります。
ShopifyのようなECプラットフォームを活用して独立したオンラインストアを持つことは、このような小売事業者のニーズを満たすのに役立ちます。
独立したオンラインストアを持つことで、消費者が好む形で詳細なコンテンツを作成して共有したり、データに基づいてサイトを調整したり、顧客と直接コミュニケーションを取ったり、顧客データをマーケティングやサイトの改善に活用することができます。
ブランドの規模や決済方法にもよりますが、潜在的なデメリットとしては、市場へのリーチが狭くなること、消費者が毎回支払い方法を設定・入力しなければならない場合はコンバージョンが下がる可能性があります。
しかし、Shopifyは最近、「Shopアプリ」(消費者向け買い物アプリ)と「Shop Pay」(配送先やクレジットカード情報を再度入力することなく決済できるShopify提供の決済サービス)を追加し、加盟店の検索、店舗・ソーシャルメディア上での簡単なチェックアウトを実現しました。この動きにより、ShopifyはAmazonの縄張りに入ったことになります。
Amazonの役割や満たすニーズ
ブランドが顧客基盤を拡大するためには、新規顧客を着実に獲得する必要があります。また、消費者が簡単に商品を見つけられる機能も必要です。Amazonは広大なリーチ(広告の到達率)を持ち、多くの商品検索の出発地点になっています。そのため、消費者に向けて他では商品を目にすることがないであろう商品を表示することができます。
また、保存された支払い方法や「今すぐ購入」のオプションにより、迅速に注文を完了することができます。それらのメリットと引き換えに、小売事業者は、Amazonの手数料、固定された商品ページのフォーマット、返金・返品ルールを受け入れます。また、多くのAmazonユーザーがブランドとの関係を築くよりも、できるだけ安い価格を探すことに集中している、という事実を受け止めなければいけません。
現状、多くの小売事業者は、AmazonとShopifyのどちらか一方ではなく、両方を利用しています。たとえば、アクセサリーデザイナー・ブランドの「Rebecca Minkoff」は、「Shopify Plus」(Shopifyの最上級プラン)を利用したWebストアで、3DやAR(拡張現実)を使った商品表示を行い、Amazonではできないような没入感のある体験を消費者に提供しています。
同時に、「Rebecca Minkoff」はAmazonにも店舗を構えており、人気のバッグの多くは無料のプライム配送が利用できます。多くの小売事業者は、ECの世界では両方のプラットフォームにそれぞれ利用価値があると感じているようです。
Amazonの新たな動き
Amazonは以前、独立したWebストアサービスを小売事業者に提供しようとしましたが、2015年に中止しました。現在、同じサービスに再挑戦する準備ができているのかもしれません。Amazonは2021年1月、オーストラリアのECプラットフォーム「Selz.com」を買収すると発表しました。
これまでのところ、Amazonは「Selz.com」をどのように活用するかを明らかにしていませんが、業界アナリスト達は「AmazonがWebストアサービスに再挑戦する可能性がある」と考えています。
そうなれば、小売業界で「ダビデとゴリアテの戦い」(※編注:旧約聖書「第一サムエル記」第17章で出てくるエピソードで、強者の弱点を突けば弱者でも勝てるという教えで使われる)が繰り広げられることになるかもしれません。
コロナ禍の影響で、Shopifyの売上高は2020年1-9月期で前年同期比82%増で伸長。ただ、ECプラットフォーム第2位でありながら、その規模はAmazonよりもずっと小さいのが現状です。Amazonの2020年売上高は3,860億ドルを突破し、Shopifyの売上高は29億ドルでした。
AmazonがECプラットフォームの分野に再参入することで、小売事業者の選択肢が増えるのか、Shopifyが排除されるのかは未知数です。
小売事業者にとって、潜在的なリスクは高いと言えるでしょう。一方で、AmazonがWebストア分野に進出することで、小売事業者の自由度が向上。コンテンツや商品情報が提供しやすくなると同時に、引き続きAmazonの市場リーチやテクノロジーの恩恵を受けることができます。
AmazonがWebストア分野で競合を駆逐した場合、出店事業者はコンテンツフォーマットのオプション、顧客データ、ストアポリシー、および不正防止オプションのコントロールを維持できなくなる可能性があります。
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EC事業者へのメッセージ
AmazonとShopifyの競争は、その他のWebストアサービス、ひいてはそれらのサービスを利用する顧客に大きな影響を与える可能性があるため、EC事業者は両社の動きから目を離すことはできません。
また、それぞれのプラットフォーム上でのチャンスを最大限に生かすために、自社ブランドが単独のWebサイトとマーケットプレイスの両方を持つべきかどうかを検討してみるのもよいでしょう。