「新幹線で地産品輸送」「鉄道ファンに刺さるグッズ販売」――鉄道関連会社の強みを生かしたJR東日本商事の取り組みとは
JR東日本商事では、JR東日本が手がける仮想モールの「JRE MALL」での出店をメインにEC事業を展開している。今年は出店店舗の絞り込みをはじめ、鉄道のコアファンに向けた訴求を高めるMD構成も強化するなど、戦略転換を図っている。リアルとの連携では、東京駅を舞台にした地産品の受け取り企画も増やしており、グループ資産も活用した効率運営が進んでいる。同社の笹川俊成取締役営業本部長に話を聞いた。
鉄道関連&地産品を生かした店舗運営
――直近の状況について。
鉄道関連グッズや地産品などが変わらず売り上げのけん引役となっている。ただ、昨年のような(コロナ禍のEC市場拡大に伴う)特需が落ち着いた部分はある。
メインの売り場である「JRE MALL」でも会員が増えていて需要環境は良く見えるが、コロナを機にECに参入する事業者も増えたため、競争環境が厳しくなった実感はある。メーカーをはじめ、老舗企業やこだわりの専門店などが参入しており、我々のように仕入れて販売する小売事業者は以前と比べて難しくはなっている。
――苦戦の商材は。
例えば昨年末のおせちは、市場が拡大しているとの報道もあったが、当社の場合は前年割れとなった。調べるとホテルのシェフが作ったおせちなどが、他社でも同じような(プロ監修の)商品をECで色々と出されていたため、競合のなかで伸び悩んでいった。
顧客の商品選択肢が増える中で、単純に売れ筋を並べれば勝てる訳ではない。やはり選んでもらうためには、理由やメリットがないといけない。そのため、当社にしか提供できない価値を付加することに今は戦略的に取り組んでいる。
――具体的には。
以前は専門店をたくさん出店してさまざまなカテゴリーでアプローチしていたが、当社が強みを発揮できる鉄道関連グッズと地産品をより活かしていくため、今年の9月には出店している専門店を7店から5店に統合。サラリーマンとOLを対象にした店舗を統合し、酒の専門店も地産品専門店と統合した。
統合に合わせて鉄道関連グッズについては、これまで日用雑貨を中心としたライト層向けだけでなく、解体車両部品といった鉄道古物の品ぞろえを強化していくことで鉄道コアファンにもターゲットを広げていった。
関連して今年からツイッターとインスタグラムも始めており、商品情報の発信をしている。鉄道ファンはSNSでつながっていることが多いので、そのなかに我々の商品情報を取り込んでもらえるようにしていき、実際に効果が出ている。
――発信内容は。
商品を出すにはタイミングや理由がある。例えば「Suica」のペンギングッズでは今年20周年を迎えたことと、それを記念した商品であること。また、来年であれば鉄道開業150周年、色々な新幹線の周年イヤーもあるので、こうした大きな節目で関連商品を開発して、その情報も合わせて案内していく。
JR東日本との協業でファンが求めているモノづくりを実施
――JR東日本との協業状況は。
積極的に行っている。一緒に取り組むことがファンにも安心感などを得てもらうきっかけになる。我々単独でも商品開発は行うが、JR東日本とも一緒にモノづくりを行っている。
直近では「JR東日本社員撮影カレンダー」を一緒に作った。JR東日本の28の職場の社員が自ら撮り貯めた写真を提供しているもので、全31種類ある。過去に仕入れて販売したカレンダーよりも、はるかに大きな売り上げとなった。回送列車や塗装中の(車両の)写真などもあり、(グループ内にいる)我々としては普通の光景でもあるが、ファンにはそれが珍しく映る。
今回、そういったものを求めているということがよくわかったし、鉄道の魅力を感じている人達に対してグッズという形でサービスを提供していくということは、我々の使命だと改めて認識した。
――得意とする地産品販売の状況について。
我々ならではの商品の掘り起こし方であったり、商品紹介の仕方で差別化を図っている。今はコロナ禍の影響で駅での産直市といったイベントの開催が難しくなったため、これまで参加されていた地域の(生産者や地域商社といった)事業者さんの売り場が限られてしまってきたということがある。
しかし、ECではその問題が解決できるので、JR東日本にも事業者さんを紹介してもらい、地産品の売り場を作って特集を組んでいる。一例として「駅長オススメ!」シリーズでは、駅長が地域の名産品を紹介する形でお勧めコメントも添えているが、やはりここへのアクセスは非常に多い。
新幹線を活用し、地産品をリアルで販売
――鉄道グループならではのリアルを通じた取り組みは。
新幹線を使った「列車荷物輸送」と連携した企画を増やしている。これまでも、朝に穫れた地域の生産品を運んできて、夕方からリアルの売り場で販売するという企画を行っていたが、(JR東日本が運営する仮想モールの「JRE MALL」内で展開する駅商業施設などでの商品受け取りサービスの)「ネットでエキナカ」に専門店を立ち上げて、事前にネットで予約することで、東京駅に輸送してきた商品を荷物預り所で受け取れるサービスを、今年の2月以降継続して行っている。
これまでに扱ったのが、朝穫れの生鮮品や朝絞りの日本酒など。非常に好評で、最近は賞味期限が短く、東京ではあまり流通しないような商材、また、冷凍せずに作り立てが美味しい食品なども扱っている。
――サービスの効果としては。
このサービスのメリットとして、例えば実店舗で扱う場合は廃棄も考えなくてはいけないので売る側も(仕入れに)慎重になるが、事前予約であれば数量も決まっているので廃棄が起きず無駄も生まれない。このサービス自体、規模はまだ小さいが、定期的に購入している顧客もおり、新規獲得にもつながっている。
ただ、受け取れる場所がまだ一部に限られているため、新幹線で運んできてから次の場所に運ぶ二次物流や受け取り場所の拡大などが今後の課題になる。
ECと実店舗をつなげる同線作りに注力
――リアルとの連携には関心が高い。
鉄道グッズも地産品もそれぞれリアルに直営店を持っている。その活動とECをどう融合させるかは、今の最大の検討課題。
当初はO2Oでの相互送客を意識して、店舗でECのチラシ、ECで店舗イベントの紹介などの活動をしていたが、思うように人が行き来しない実感があった。リアルとネットの壁が無くなって、消費者が自由に買い方を選べる時代になったことは事実だが、例えば店舗利用者はリアルの良さ、EC利用者はデジタルの使いやすさなどで選んでいる面もあるので、そこで違う媒体を紹介しても、すぐに利用するということにはつながらないという仮説もでてきた。
そのため、それぞれの販路において、売り場自体は目の前の顧客に向けて最適化するが、その上の段階で、例えばMD面においては、店舗で商品を知ってもらって、気に入ればECで継続購入してもらうなど、やり方を考えていくことはある。もちろん逆もあると思うが、今は色々な導線がある中で、顧客接点や売り場を全体で連携させながら構築するOMOのような取り組みを行うべきだと考えている。
――具体的には。
一例として、当社で地産品を扱うリアルの直営店として「のもの」があるが、ネットではそれが「お取り寄せきっぷ」という売り場で地産品販売を行っている。これをすべて一緒にしてMDをやろうと考えている。
店舗で初めて商品を知る人も多いので、例えば少容量で低単価の試しやすい商材をリアルで扱い、それを継続したり大容量で購入したいという顧客にはECで、ということもあるのでは。EC側はそれに対応した商品を扱って、その案内をしっかり行うなど、そうした流れを作りたい。
我々は(鉄道グループとして)リアルから参加しており、リアルの強みを持っているので今後もそこを活かしていく。
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