EC市場は2020年に約190兆円、EC化率は25%まで拡大する【中国EC市場の予測】
中国ECのバブルが崩壊するのではないかと多くの人が懸念しています。しかし、ゴールドマン・サックス(以下ゴールドマン社)の最新レポートを見ると、それは杞憂に終わります。レポートによれば、この先の数年間で中国EC市場は2倍超に拡大する勢いで成長を維持すると見込んでいます。
2020年のEC市場規模は16年比で約2倍に拡大
既に世界1位になった中国EC小売市場は、2016年の市場規模は7500億米ドルで、2020年には1兆7000億米ドル(編集部追記:日本円で約188兆円、1ドル111円で換算)まで増加するとゴールドマン社は予測しています。
ECを利用する中国人消費者は2016年では4億6000万人でしたが、今後数年間でさらに2億人ほど増える見通しです。ゴールドマン社のアナリストらは2020年までのEC市場規模の予測値を15%引き上げています。
2016年にEC市場の成長率が20%台半ばまで減速した懸念はあるものの、ゴールドマン社は2016年から2020年にかけての年間平均成長率は23%を維持し、オフライン小売の3倍にあたる成長率で伸び続けていくと予測しています。
中国最大のEC企業アリババグループの直近四半期(2016年10~12月)のeコマース収益は、前年同期比45%増の67億米ドルでした。
ゴールドマン社のアナリストらは、中国小売市場全体でのEC化率も上方修正しました。2016年の16%から、2020年には25%まで進むと予測。前回の予測では2020年までに22%でした。
ゴールドマン社は、中国EC小売市場における傾向を次のように予測しています。
- ECで入手できる商品の多様化
- 中小都市の消費者によるEC消費額の増加
- 新しい「オムニチャネル」台頭(大手中国ECプラットフォームがオンラインとオフライン資源を統合し、実店舗と業務提携する) など
日用消費財市場のEC市場が大きく伸びると予想
ゴールドマン社のアナリストらは、「最大のチャンスは日用消費財(FMCG)カテゴリーにある。それは、食料品やパーソナルケア、ヘルスケア、加工食品、その他日用品などスーパーで一般的に目にするものだ」と述べています。
2020年のオンラインとオフラインの中国における日用品の小売市場規模は2兆米ドルまで達する見通しで、EC化率は2016年の5%から2020年には13%に増えると予測しています。
現在、日用消費財は利益率の低さと配達の遅れが目立ち、オンライン販売での伸びを防げている要因になっていると指摘します。
しかし、中国大手ECのアリババグループとジンドン(京東、JD.com)は過去2年間、サプライチェーンを改革し、全国的なフルフィルメントセンター(FC)ネットワークを構築。人口密度の高い都市に商品を保管することで、配達時間を大幅に短縮しました。
アリババグループは2016年から、主な運送業者/宅配業者が提携して設立したCainiao Network(菜鳥網絡)を通じて、当日もしくは翌日配送サービスを50都市から200都市へと拡大しました。Cainiaoはアリババの天猫スーパー(Tmall Supermarket)の業務をサポートするため、2016年に19都市にフルフィルメントセンターを構築したとゴールドマン社は説明します。
オフラインの日用消費財市場には伝統的で低効率なパパママ店が大量に存在しているため、これから数年間、日用消費財を販売する店舗のオンライン化が期待できる。
生鮮食品は、日用消費財のオンライン販売規模の20%を占めています。しかし、コールドチェーン(冷蔵・冷凍)を必要とする配送ネットワークの構築にはコストがかかるため、大きなチャレンジになります。EC企業は実店舗のスーパーと提携、もしくは投資をし、生鮮食品を倉庫から消費者、実店舗から消費者へといった販売を行うオムニチャネルソリューションを試みています。
2020年までに衣料品の年間平均成長率は20%を維持
ゴールドマン社は2016年から2020年の間、オンラインの日用消費財の年間成長率が最低でも34%になると予測。同時に、衣料品や家電製品といった成熟カテゴリーはもっと早いスピードで成長し続けると考えています。
現在、アリババのEC流通総額の約1/4を、アパレルや靴、アクセサリーなどが占めているとゴールドマン社は説明しています。
トップ製品のカテゴリーにはまだ成長の余地があります。2020年までに衣料品の年間平均成長率は20%を維持し、家電製品は年間13%のスピードで成長し続けていくとゴールドマン社のアナリストらは予測しました。
この成長を維持する役割を期待されているのが新しい技術です。天猫(Tmall)は動画配信でショッピングへの関心を引き寄せているとゴールドマン社は指摘。AR(拡張現実)とVR(バーチャルリアリティー)技術を使ってショッピングの体験を高め、顧客の維持に寄与することを期待しています。
ゴールドマン社のアナリストらはレポートで次のように説明しています。
われわれの技術研究チームは、VRやARを使うことで、今までECが浸透していないハイエンドな小売市場に革命を起こすことを期待している。こうした技術発展のおかげで、消費者は実際に商品を試着しなくても、自身が服を着る際の効果などを確認できる。また、VRデバイスを使うこと、もしくはVR環境を構築することで、実店舗やモールに足を運ばなくてすむようになります。
アリババは2016年の「独身の日」イベントで、ARゲームを活用して多くの顧客を実店舗に誘導しました。また、VRに関するプロモーションプラットフォーム「Buy +」をリリースし、メイシーズやコストコ、P&Gといったブランドの仮想店舗へと800万人のユーザーを誘導しました。
ゴールドマン社は次のように説明します。
メディア(SNSなど)やエンタテイメント(生放送など)とECの融合はどうでしょうか。たとえば、アリババが優酷土豆(Yukou Tudou、YouTubeに相当)を完全子会社化するための投資や微博(Weibo)への資本参加は、アリババがオンラインショッピング事業を拡張させるための戦略の1つです。私たちは、AR・VR技術と実店舗でのショッピング体験が、アパレル業界のEC化率を2016年の31%から2020年までに49%へと引き上げてくれることを信じています。
ゴールドマン社は、アリババの天猫(Tmall)がBtoC市場のシェアを70%以上維持できれば、2020年のアパレル市場の総流通総額は2兆人民元(約33兆円)まで拡大する見通しです。
2020年までにネットユーザーはさらに2億人増加
成長に最も重要なのはネットユーザーの増加です。ゴールドマン社は、中国では現在から2020年までに2億人もオンラインユーザーが増加(純増)すると推測しました。
現在、オンラインユーザーの3/4は大都市に住んでいるミレニアル世代(2000年代に成人あるいは社会人になる世代)の若者です。「オフライン小売業の低迷のため、中小都市が大都市を追いかける、もしくは上回る余地がまだまだあります」とゴールドマン社こう指摘します。
中国消費者の年間平均オンライン消費額は1300米ドル。収入の増加によって、より広範囲な商品、多くのブランド品がオンラインで購入されるようになります。2016年から2020年にかけてのオンラインショッピングの年間平均オンライン消費額の平均成長率は10%を維持するだろうとゴールドマン社は予測しています。
中小都市の新しい消費トレンド、日用消費財などオンラインショッピングがまだ浸透していないカテゴリー(オフラインの小売が主力としているカテゴリー)がEC化していけば、アリババは有利なポジションになるだろう。
なぜなら、「アリババのマーケットプレイスに関するビジネスモデル(アリババは自社のECサイトで売手に販売する場所を提供するが、自身ではモノを販売しない)」と、「オンライン+オフラインのマーケティングプラットフォーム」の立ち位置がアリババの最大の特徴だからだと、ゴールドマン社が説明しています。
このコーナーの記事は、アリババグループから記事提供を受けたネッ担編集部が日本用に翻訳しています。