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今後のEC市場はどうなっていくのか? ECにとって重要になることは何なのか? 「EC業界の展望やデジタルマーケティングの潮流」をテーマに、ヤフージャパン執行役員の小澤隆生氏、バリューコマース執行役員の加來幹久氏が語った“これからのeコマース”とは。

アフィリエイト・サービス・プロバイダーのバリューコマースが開いた「バリューコマースサミット」(3月10日開催)。小澤氏、加來氏がパネルディスカッションでこれからのECにとって重要なことなどを語った。

モデレーター:翔泳社「MarkeZine」編集長 押久保剛氏、パネラー:ヤフー 執行役員 小澤隆生氏、バリューコマース 執行役員 加來幹久氏
パネルディスカッションの登壇者

モデレーター
翔泳社「MarkeZine」編集長 押久保剛氏

パネラー
ヤフー 執行役員 小澤隆生氏
バリューコマース 執行役員 加來幹久氏

現在のEC業界は「試合序盤の殴り合い」のフェーズ

「MarkeZine」編集長 押久保剛氏(以下押久保) 最近のEC業界は事業者の競争がすごく激しくなっている印象です。現在のEC業界について小澤さんはどのように感じていますか。

小澤隆生氏(以下小澤 EC市場は少なくとも今後10年は間違いなく拡大していくでしょうね。市場規模が兆円単位で成長する市場は日本経済において他にはありませんから、皆さんがEC業界で働くことを選んだのは正しい判断だと思いますし、ヤフーも遅ればせながらECをしっかりやってこうとしている状況です。

押久保さんから指摘があった通りEC業界は競争が激しい。今はボクシングの試合で例えるなら、序盤の殴り合いをやっているところだと思います。採算度外視でポイントを付けるとか、配送時間を短縮するとか、事業者側も採算度外視であることを認識した上でやっている。序盤の殴り合いですからね(笑)。

ヤフー 執行役員 小澤隆生氏
ヤフー 執行役員 小澤隆生氏

押久保 EC業界について感じているのは、消費者はネットとリアルの境目を意識しなくなっているのではないかということ。たとえば、Amazonの「Amazon Go(アマゾンゴー)」など、ネットで小売りを行っていた企業がリアルの場にも出てきている。この辺りはどのように捉えていますか。

EC市場は2022年度に26兆円へと拡大する
野村総合研究所(NRI)によるとEC市場は2022年度に26兆円へと拡大する
(画像は編集部がNRIからキャプチャ)

小澤 インターネット事業からリアルに進出して、ものすごく成功したEC企業は世界的にもまだ無いわけですから、それが正解かどうかはわからないですね。EC専業の企業がリアルの店を作ってしまったらコストが合いません。恐らく物流拠点としてのデポとECを組み合わせて行うのが正しいやり方なのかな、と個人的には思います。

(ネットとリアルを融合した事業で)世界的に最も普及しているのは、アリババが中国の農村部で数万店舗を運営している「農村EC」(農村に設けている商品の受け取り拠点)だと思いますが、これはあくまでもインターネットが普及していない農村部での購買代行サービス。インターネットのインフラが整っている日本や欧米で成立するかというと、それはわからない。

押久保 加來さんはECの現状について、どうお考えですか。

バリューコマース執行役員 加來幹久氏 (以下加來 時代とともにECの定義がどんどん拡大していると感じています。1995年頃は通販サイトを開設することをECと呼んでいましたが、今は「商品を届けて電子決済する行為」全般をECと呼ぶようになった。ECの定義が拡大したことで、企業にとってチャンスが生まれているし、私たちが気付いていない可能性も無限に広がっていると思います。一方で、可能性が広がった分、企業が取り組まなくてはいけない課題も増えていますよね。

バリューコマース 執行役員 加來幹久氏
バリューコマース 執行役員 加來幹久氏

競争激化の時代はCRMの重要性が増す

押久保 企業が取り組まなくてはいけない課題では、小澤さんも加來さんもCRMやマーケティングオートメーションといった分野に注目しているそうですね。

小澤 ECの売り上げは「サイトを訪れた人数」「コンバージョン率」「購入単価」の掛け算で決まります。集客をものすごく頑張って、サイトを訪れる人数を増やしても、コンバージョンレートが悪ければ売り上げは大きく伸びません。コンバージョン率が低くて顧客がこぼれ落ちている状態のことを「バケツに穴が空いている」と私は表現しています。

少なくとも、Yahoo!ショッピングで言えばかつてはコンバージョンが非常に低く、バケツに穴が空いた状態でした。私が責任者になった約3年半前から、Yahoo!ショッピングはコンバージョンレートやリピート率の改善を徹底的に行ってきました。

押久保 そういった課題感もYahoo!ショッピングの出店者に「R∞(アール・エイト)」(編集部注:バリューコマースが2016年にリリースしたマーケティング・オートメーション・ツール)を提供するきっかけになっているのでしょうか。

小澤 バケツの穴を塞ぐ方法はいくつもあります。その方法の1つがマーケティングオートメーションツールです。Yahoo!ショッピングの規模になるとマーケティングシステムを導入するのは大変。優れたツールを自分たちで開発するのは時間も手間もかかりますから「アール・エイト」を使いました。

押久保 「アール・エイト」を導入して結果は出ているんでしょうか。

小澤 数字としてはかなりいいですね。たとえば、ベストなタイミングでお得なクーポンを発行すれば購入につながりますし。「アール・エイト」は顧客1人ひとりの属性や購買頻度、顧客ランクなどに応じて「いい感じのクーポンの出し方」ができるので、効果は大きいですよ。

*バリューコマースのマーケティング・オートメーション・ツール「R∞(アール・エイト)」を「Yahoo!ショッピング」の出店者にオプションサービスとして提供したのは2016年のこと(Yahoo!ショッピングでは、「STORE's R∞(ストアーズ・アールエイト)」として提供)。

現在、Yahoo!ショッピングの約5000店舗が「アール・エイト」を利用。利用店舗の経由流通額はYahoo!ショッピング全体の約18%を占め、その中でのCVR(コンバージョンレート)は25%以上という。

有料会員の「ロイヤルティの高さは尋常じゃない」

押久保 マーケティングオートメーションとかデジタルマーケティングに力を入れる企業がすごく増えていると感じています。その点に関してはどうお考えですか。

加來 かつては「デジタル」と「リアル」という2つのチャネルを分けてマーケティングを行うことも多かったと思いますが、最近はデジタルを中心にマーケティングを考えていかなくてはいけない、という考えが広がってきています。

そして、デジタルを活用すると顧客の名寄せができるため、顧客の接触媒体や過去の購買行動などを分析し、「人」を軸にマーケティングを行えるようになってきた。ここが大きな変化だと思います。

小澤 現在のEC業界におけるデジタルマーケティングの大きな流れの1つは、データを活用してロイヤルカスタマーをいかに育成するかどのように会員化を促進していくかということ。「Yahoo!プレミアム」(ヤフーの月額会員サービス)の実績で申し上げると、有料会員は明らかにマーケティング効率が良い

リピート率や購買単価、LTVを見ても、有料会員の数字は非会員と比べて圧倒的に高いんです。他社の有料会員制度を見ても同様で、やはり会員のロイヤルティの高さは尋常じゃない。この傾向はここ2~3年で顕著になってきたように感じています。

加來 ECサイトの売り上げ分析などを長らく行ってきた経験から見ると、「二八の法則」と言われる通り、顧客の2~3割が売り上げの7~8割を構成しているECサイトはとても多い。デジタルを活用することで顧客の属性や行動を追えるようになって、優良顧客にアプローチしやすくなったというのは最近の大きなトレンドだと思います。

「良い道具を見つけて、効果が出る使い方を伝えていく」のがマネジメントの仕事

押久保 CRMやデジタルマーケティングの課題の1つとして、ツールや手段がそろっていても、それを実行する人材や組織が育っていないということをよく聞きます。その点はいかがですか。

加來 いわゆる「組織の壁」の問題ですね。マーケティングオートメーションのツールを使いこなせない原因を突き詰めていくと、社内でKPIを共有できていないことがあげられます。社内で目標が一致していないと、なかなかうまくいきません。あとは、デジタルマーケティングの実務経験者が社内にいないことも課題でしょうね。

押久保 小澤さんはヤフーで組織変革を行なってきた立場ですが。

小澤 ECのCRMはリアル店舗と比べればずっと楽ですよ。ロイヤルカスタマーに対する接客というのは、リアルの店舗であれば「お得意さんだけ特別に値引きする」とか、「久しぶりに来てくれたから、おまけをつける」とかそういうこと。

ECなら、お得意さんが来たかどうかはデータで自動的に判断できます。顧客ランクに合わせて割引するとか、久しぶりに来店した人にクーポンを発行するとか、インターネットなら全て自動化できる。ですから、便利なツールさえあれば管理は2~3人でできます。だからツールを導入しない手はないですよ。

Yahoo!ショッピングで言えば、それぞれの店舗がツールを探すのは大変でしょうから、あらかじめプリセットした成功のシナリオを作って、ツールを利用できるようにしました。そうしたら、ツールを導入した店舗は成果が出た。

マーケティングオートメーションのマネジメントの手法は、良い道具を現場に提供することだと思うんですね。良い道具を見つけて、それをどうやって使ったら効果が出るかを伝えていく。それがマネジメントする人の仕事です。

加來 マーケティングオートメーションのツールは、ネットショップ側が勝手に使ってくださいねというスタンスではなかなか成果が出ません。ですから、成功事例を示して、使い方までパッケージ化して提供するのが重要でしょうね。

CRMやマーケティングを学ぶなら旅行サイトを研究すべし

押久保 最後に、今後のECやデジタルマーケティング領域の見通しや、ご自身としてやっていきたいことなどを一言ずつお願いします。

加來 今後はLTVを重視したマーケティングが一層重視されると思っています。顧客1人ひとりについて、ロイヤルカスタマーになりそうな人なのかどうかを見極めるなど、優良顧客と向き合うマーケティングを展開することがテーマになっていくのではないでしょうか。

小澤 ECは、サイトに来たお客さんに商品を買っていただかなくてはいけない。当たり前ですが、これがすごく重要。どんなに一生懸命お客さんを集めてもコンバージョンしなければ話にならないわけです。コンバージョンやリピートの重要性は、皆さんも理解されていると思いますが、そのために必要な施策をしっかり実行できている企業は少ない。

仮に、100人を集客して、コンバージョンの件数が2人から3人に増えたら、売り上げは1.5倍です。一方でコストはほとんど変わりませんこの価値をもう一度見直した方がいいと思います。

アフィリエイトはトラフィックを稼ぐすばらしい仕組み。そして「アール・エイト」のようなコンバージョンレートやリピート率に効くツールもバランスよく使いこなす。いい道具を選べば、売り上げは伸びる。Yahoo!ショッピングが成長しているのも、アフィリエイトに支えてもらい、マーケティングオートメーションツールなどを使いこなしたりしているからだと認識しています。

CRMやマーケティングを学ぶなら、旅行系サイトを分析して下さい。なぜ旅行系サイトのCRMが進んでいるかというと、サイト同士で顧客の奪い合いがものすごく熾烈になっているからです。旅行は物流が絡まないため、消費者からすればどのサイトで買っても一緒なので、必然的に競争は激しくなる。旅行系のサイトをよく分析してみると、CRMでどんなことをしているのか勉強になると思います。

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