「ヤフーを抜き第3位モールに」――eBay傘下に入った「Qoo10」の戦略&越境ECのイーベイ・ジャパン(株)はどうなる?
eBay Inc.(イーベイ)傘下に入ったECモール「Qoo10」(運営は旧ジオシス)。8月1日付で運営元のジオシスは「イーベイジャパン合同会社」に商号を変更、“イーベイ傘下”のECモールとして2022年12月期までに流通額5000億円(現在比で数倍)をめざすという。イーベイ韓国法人(イーベイ・コリア)から旧ジオシスに新代表として送り込まれたヘンリー・チュン社長に、「Qoo10」の戦略、今後の投資計画などを聞いた。
イーベイ傘下の旧ジオシス、越境EC支援のイーベイ・ジャパンの2社体制は?
イーベイはジオシス買収によって、「Qoo10」運営の旧ジオシス合同会社、越境EC支援のイーベイ・ジャパン株式会社という2社の日本法人体制になった。
8月1日付で旧ジオシスは「イーベイジャパン合同会社」に商号を変更。2018年末までにイーベイジャパン合同会社とイーベイ・ジャパン株式会社は合併する予定。
(旧ジオシス側で行った)7月の組織再編で、「Qoo10」出店者を増やすための営業を強化していく方針を決めた。まず、イーベイ・ジャパン株式会社で越境EC支援を手がける営業スタッフはイーベイジャパン合同会社の営業部隊に加わることになる。方針としては、まずは、ドメスティック事業(国内の「Qoo10」事業)に注力する。(ヘンリー・チュン社長)
注力するとしている「Qoo10」の主な数値は次の通り
- 国内登録会員:約1,000万人
- 月間PV数:約3.4億
- 出店社数:約1万1000社
- 出品点数:約1,200万点
※国内登録会員数及び出品点数は2018年5月現在
ヤフー抜き国内3位のECモールをめざす投資計画
イーベイは2001年、マーケットプレイス型で日本市場に参入したものの、1年足らずで撤退した。今後、「Qoo10」はイーベイからの投資、テクノロジーといった技術提供を受けながら、既存のビジネスモデルを継続運営していく。
今後5年以内に流通額でヤフーを抜きたい(ヤフーの2018年3月期のeコマース国内流通総額は2.1兆円、ショッピング事業の流通総額は6276億円)。業界3位になりたい。また規模は小さいため、もっと投資をしていく。
こう目標を掲げるヘンリー・チュン社長は、「Qoo10」の規模拡大、利用者拡大、出店者の拡大という3つの“拡大”に向けた投資を加速する方針。まずは、2022年12月期までに流通総額を現在比数倍となる5000億円まで広げる。
投じるマーケティング予算は四半期ベースで「数百万ドル(日本円で数億円)」(ヘンリー・チュン社長)。3つの目的を達成するための投資を2018年から始める。
① 流通額や認知の拡大に向けたマーケティング投資
2018年10~12月期(第4四半期)にはテレビCMの放映、雑誌広告を活用した露出増で、一般消費者への認知拡大、利用者増加をめざす。
日本のECマーケットはまだEC化率が低い(2017年で5.79%)。一方、隣国の韓国は18%もある。日本のECマーケットは成熟していないので、大きなビジネスチャンスがあると思っている。「Qoo10」は独特な競争力を持っていてい、その1つが顧客属性。利用者の9割は女性で、そのうち7割が10~20代の女性となっている。(ヘンリー・チュン社長)
②商品点数拡大→出品者の拡大
Amazon.co.jp、楽天市場が成長しているのは規模の大きいブランドを優先しているため。一方、規模の小さい中小企業が取り残されている。「Qoo10」は大きいブランドや大企業とも協業するが、メインは中小企業のサポートなので、そうした企業の「Qoo10」利用を増やし、ユーザーが好むような商品セレクションを用意していきたい。(ヘンリー・チュン社長)
ジオシスの営業部隊は現在120人ほど。今後、全国の中小企業の出品利用を増やすために、営業部隊を強化する。その一環として、イーベイ・ジャパン株式会社にいるCBT(クロスボーダートレード)とイーベイジャパン合同会社の営業部隊で、相乗効果を発揮できるようにしていく。
「7月の組織再編で営業組織の役割は“新しいサプライヤーの獲得”になった」(ヘンリー・チュン社長)。これまで実施していなかったセラー向けの勉強会も行う予定。
③買い物体験の改善
データを活用して、商品を探すときの体験を改善したい。Tシャツだけでも50万種類あり、そのすべてのシャツをお客さまは見ることができない。(大量の商品を掲載できるのは)ネット通販の長所でもあるが、情報量の多さが短所にもなる。商品を探すときにお客さんが不便だと感じている部分の改善を進めたい。(ヘンリー・チュン社長)
ヘンリー・チュン社長は、2019年までにデータ活用による買い物体験の改善に投資する方針。「すべてのリソースを、データを活用した改善に投資する」(ヘンリー・チュン社長)と言う。
なお、ヘンリー・チュン社長は「楽天のような大きなポイントプログラムの運用はしないし、物流に大きな投資をするつもりもない」と断言。買い物体験の改善にリソースと資金を投じるとした。
越境ECはどうなる?
第1優先は国内の「Qoo10」事業
イーベイ・ジャパン株式会社の営業部隊は、これまで以上に、CBTの拡大に向け力を入れていくという。サポートにも積極的に取り組んでいくとしているが、米国イーベイは、国内「Qoo10」事業に注力する方針。
「Qoo10」を通じた越境ECは?
イーベイが買収したのは旧ジオシスの日本事業である「Qoo10」の国内ECモール。ジオシスはインドネシア、マレーシア、中国などに現地法人を持ち、各国で「Qoo10」を運営していたが、イーベイは日本以外でのジオシスグループの持ち分を放棄している。
従来、国内と各国の「Qoo10」は共通のシステム基盤でECモールを運営していたため、日本の「Qoo10」に出店すれば、海外の「Qoo10」へ簡単に出品することができた。
だが、イーベイ傘下入りを機に、日本の「Qoo10」と各国のシステムは分断。他の国の「Qoo10」で販売するには、海外の「Qoo10」に改めて出店申請・登録する必要がある。
「eBay」との連携は?
「Qoo10」に出品すると、「eBay」でも販売できるような仕組みを構築する予定。「(イーベイ・ジャパン株式会社には)CBTの組織があり、2018年内には1つになる。内部でシナジーが出せる。言語と配送の課題を解決できるツールを開発し、『Qoo10』出品者に提供していく」(ヘンリー・チュン社長)。
ヘンリー・チュン社長はイーベイ韓国法人(イーベイ・コリア)時代、韓国トップシェアのECプラットフォーム「Gmarket」の運営やグローバル展開にも携わった。2009年のeBayによる買収以降、「Gmarketで販売すると、自動的に海外でも販売できるような仕組みを作った」(ヘンリー・チュン社長)。
こうした知見を日本の「Qoo10」に応用していく方針。
ヘンリー・チュン社長が掲げる「Qoo10」改革
「Gmarket」と「Qoo10」はビジネスモデルが似ている。そのため、韓国で「Gmarket」を率いてきた私がジオシスの社長に抜擢されたのだと思う。
こう話すヘンリー・チュン社長は来日間もない7月、「Qoo10」の販売手数料率の改定と精算サイクルの短縮を決定。
3段階のセラーレベル(一般セラー/優秀セラー/パワーセラー)や商品の販売価格に応じて7%~12%に設定している販売手数料を、9月1日以降は商品カテゴリーに応じて6%~10%を一律で適用する仕組みに変更する。
9月1日からは「パワーセラー」の精算サイクルを「配送完了後7日以降の水曜日」から「配送完了後5日以降の水曜日」に短縮。「一般セラー」と「優秀セラー」の精算サイクルは変更しない。
また、「Gmarket」と「Qoo10」の連携を模索している。
イーベイ・コリアのネットワークを活用して、販売網、販路を拡大できるようにする。そのようなツールを開発しようと思っている。(ヘンリー・チュン社長)