中川 昌俊 2014/9/12 19:36

ヤマト運輸、佐川急便による配送料金の値上で、中小のEC事業者が物流業務を物流代行会社にアウトソーシングするケースが増えている。これを受けて、物流代行会社も物流センターの拡張、バックヤード業務を一括して提供するといった新たな動きが活発化。また、通販物流のニーズが高まりを受けて大手不動産事業者も物流センターを新たに構え、大手EC事業者や物流代行会社に提供する動きも出てきている。こうした大きな変化が起こっているEC向け物流業界でEC事業者はどのような物流戦略を採っていけばいいのか。活発な動きを見せる通販・EC物流企業を取り上げ、業界動向、EC事業者に選ばれる物流会社の特徴を探ってみた。

 

大型商品を取り扱うEC会社と地方EC会社のダメージが大きい

2013年から2014年初旬にかけて、EC企業関係者の間で配送料金の値上げが大きな問題となった。特に影響が大きかったのが家具など大型商品を取り扱うEC事業者と、地方から商品を発送しているEC事業者だ。

大型商品はこれまで発送荷物の個数が多ければ、ある程度安価な料金で配送することができていたが、配送料金の変更で荷物の大きさに応じた配送料金が課されるようになった。1荷物当たり、3~5倍の料金を提示された事業者も少なくなかったという。

配送料金の値上げによって大きなダメージを受けることになったのが、東北や北海道、九州など首都圏から遠い場所から商品を発送しているEC事業者だ。これまで全国一律で料金を設定していた体系から、配送料金の見直で、配送距離に応じた料金体型に配送業者が変更。注文が多い首都圏から離れた地域から発送しているEC事業者にとっては大きなコスト増となっている。

通販・EC向けで実績のある物流代行社が伸長

こうした配送料金の値上げを契機に、EC向け物流代行サービスを提供している物流代行事業者にも変化が出てきている。これまで、地価の安さを強みに地方から発送を行っていた中小のEC事業者が多かったが、配送料金の値上げで首都圏近郊から発送したいというニーズが急増。配送を物流代行事業者に委託するケースが増えているためだ。

多くの物流代行事業者では、こうしたニーズの高まりで導入企業数が拡大。なかでも、導入企業が増えているのが、従来から通販・EC事業者向けに物流サービスの実績がある会社だ。値上げで不安になっているEC事業者は、安心して荷物を任せられる代行業者を求めている傾向があり、実績のある代行会社を選ぶケースが多いようだ。

導入企業が増えている物流代行会社では、保管荷物の増加に合わせて、新たに物流センターを開設する動きが目立ってきている。

一方で物流代行事業者にとってマイナスの影響もある。これまで物流業務を物流代行事業者にアウトソーシングしていた通販・EC企業が、物流業務を内製に戻すことでコストの増加分を吸収しようという動きも出てきているのだ。

特に、メーカーや実店舗などを手掛けている事業者にこの傾向が強い。今後ECを強化していく上で、会社全体として物流を再構築しようという動きが増えると考えられる。そのため、大手を中心に数社の物流を代行しているような物流代行事業者ではクライアント離れが始まっており、厳しい状況に陥っているケースもある。

モール企業の物流サービスは静かに規模拡大

モール運営者による物流サービスも徐々に規模を拡大している。楽天では従来予定していた九州や東北の物流センター設置を白紙に戻しているが、導入社数自体は増えているという。今後、楽天市場とのサービス連携を進めていくとしている。アマゾンは2013年、小田原に大規模な物流センターを開設。外部企業の荷物を預かるスペースを増やし、導入者数を増やしているという。

楽天では、今後、物流委託会社を集めたキャンペーンを楽天市場内で行うなど、販促企画を強化していくことで物流サービスの魅力を高めていく。アマゾンは、現在海外向け販売にも強化しており、将来的には物流をアウトソーシングした場合、海外発送まで行える仕組みを構築することで、物流サービスの導入企業を増やしていく考えだ。

配送料金値上げ抑止のため業界一丸の取り組みが必要に

大手不動産会社では現在、通販向け物流センターを数多く建設中だという。こうした物流センターは今後大手通販事業者のほか、物流代行事業者が契約を進めていくと考えられる。

新たな物流センターは最新の設備を揃え、システムも現在のEC事業者のニーズを捉えて設計される。そのため、こうした新たな物流センター内で事業を展開する物流代行事業者は、EC事業者のニーズにも対応しやすくなる。さらに導入者数を増やすことができる一方、新たな物流センターを開設できない物流代行事業者はEC事業者からの委託が減る可能性もある。

現在、EC市場の拡大に注目し、BtoB向けの倉庫事業者がEC向けサービスを始めるといった動きが活発化。そんななか、EC事業者向けに物流サービスを行う会社は100社以上存在する。こうした競争が激化することにより、本業のBtoB向け物流に回帰する代行事業者も増えてきそう。

一方でガソリンや人件費の値上げは今後も続くとみられ、配送料金は今後も値上げが進んでいくことは間違いないだろう。ただ、ネット通販にとって配送料金の値上げは市場の拡大を妨げる要因になり得る。そのため、業界が一丸となって配送料金を抑える取り組みを行っていく必要がある。

現在、多くのネット通販会社では配達日時を指定しないことが最も早く届く手段として推奨している。その分、配送員は何度も配送のために購入者の元へ出向く必要があり、配送コストの増加につながっているという実態がある。

例えば、日付指定をすればポイントを還元するなど日付指定を業界として推奨。配送会社のコスト低下につなげるといった取り組みを行うことで、配送料金の値上げを抑えるキャンペーンを業界として行っていくことは難しいだろうか。

配送料値上げ対策、まずは自社の物流戦略の再考を

今回の特集ではEC事業者向けに物流代行サービスを展開する10社を紹介。加えて、大手不動産会社、EC事業者の受け皿になると考えられていたモール運営会社の物流サービスの現状を取材した。EC事業者は自社に合った物流委託先を探すとともに、他社の動向から、今後自社がどのような物流戦略を採るべきかを考える資料としても活用して欲しい。

 【サービス提供各社の詳細】

 【モールが提供する物流サービス】

 【有識者インタビュー】

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