中川 昌俊 2014/9/11 16:34

モール運営事業者による物流サービスを利用するEC事業者が着実に広がっている。アマゾン、楽天、ヤフーはそれぞれ自社の物流サービスを利用するEC事業者が増えているとしており、今後さらにサービスを強化し、さらなる利用者拡大を狙っている。

他モール対応、細かい要望に応えるなどサービス拡充で利用者増加

各モールが提供する物流サービスは、利用するモールで売れた商品を管理・配送するための物流機能としては便利なサービスだが、他のモール店などで売れた商品に対応しにくいこともあり、多店舗運営するショップにとっては、在庫のすべてを預けることが難しい状況だった。

また、多数のEC企業向けにサービス提供することが目的のため、サービスが一般化。物流代行専業社が提供するサービスレベル、つまりEC事業者の細かな要望に応えるサービスが提供できていなかったケースも多かった。そのため、「利用したいが、実際に物流業務をアウトソーシングできるサービスレベルではない」と語るEC事業者も少なくなかった。

ただ、ここにきてこうした状況に変化が出てきている。アマゾンでは「FBAマルチチャネルサービス」として、他のモールで売れた商品にも柔軟に対応する物流サービスを開始。楽天では同社の物流サービスを利用している出店者と何度もやり取りし、出店者が求めるサービスの実現を進めてきたという。こうした改善が進んできたことが、利用者拡大につながっているようだ。

今後は、売り場といかに連携したサービスとなるかが、さらに利用者を増やせるかどうかのキーになりそうだ。

アマゾンは従来から物流サービスを利用している商品の場合、「Amazon.co.jp」で送料無料にできるほか、プライム会員の「お急ぎ便」にも無料で対応するといったメリットを提供してきた。さらに、物流サービス利用店舗は、ある商品で複数の出品者がいる場合、その商品ページで最も良い場所を提供する「カートボックス」を獲得しやすくしている。アマゾンではこのカートボックスを獲得したときにだけ出稿できる検索連動型広告の提供を9月下旬から開始する予定(関連記事)。さらに物流サービスの利用価値が高まりそうだ。

楽天でも、これから楽天市場との連携を進めていき、物流利用者のメリットを高める考え。ヤフーも今後、同様の動きを加速させていく予定だ。

「物流の機能は整った。今後は楽天市場との連携進める」、楽天

楽天が出店者向けに提供している物流代行サービスは、一部報道などで縮小・撤退などと伝えられたが、実際は従来と変わらずサービス提供を続けており、今後さらに拡大へ向けて舵を切っている。

従来発表していた、東北や九州に物流拠点を設置する計画を白紙。千葉県・柏の倉庫も契約を解約したことから、楽天では物流サービスを縮小するのではないかといった報道があった。これに関して楽天は完全に否定する。

「計画の白紙や倉庫の解約に関しては、現在の物流サービスのサイズに合わせただけのこと。無理して営業を強化すれば、利用する出店者も多くいただろう。しかし、無理をすると必ず問題が発生し、出店者に迷惑をかけてしまう。それを避けたかった。現在、利用できるスペースの余裕が多いので、今のうちに契約しなければならないといった状況ではない。必要になればいつでもスペースを用意できるので、あえて急ぐ必要もないと考えた」(島貫慶太上級執行役員物流事業長)

これまで、物流サービスは楽天物流という子会社で行ってきたが、本体に吸収した。これもマイナス要因に捉えられたようだ。ただ、こうした動きは物流サービスと市場事業を連携させ、よりよいサービスにするためだという。

「物流事業はそれぞれ店舗ごとに細かな要望が多く、それに対応していくことが最大の仕事となっていた。そのため、楽天物流ならではの楽天市場と連携したメリットを発揮できなかった。ただ、物流機能として多くの出店者から満足してもらえるサービスになったため、今後は市場との連携を強化する方針として管轄を変更した。具体的には、楽天物流を利用している店舗を集めたセール会場を用意したり、同梱企画なども計画している」(島貫氏)

今後、楽天物流のサービスをより深く知ってもらうことで、さらに利用店舗を増やしていきたいとしている。「今までは別会社だったため、店舗に説明するには少し距離があった。当社の物流サービスは急に売り上げが増えたときにもしっかりと対応できること(波動対応)やスピード配送に強みを持っていることを知らない店舗が多い。まずは地道にこうしたことを伝えていくことで、利用者を増やしていきたい」(同)としている。

島貫慶太上級執行役員物流事業長

売り上げUPにつながる施策としてFBAの利用増える、アマゾン

アマゾンが提供する物流代行サービス「フルフィルメントByアマゾン」(FBA)を利用する販売事業者は増加の一途をたどっているという。

その理由の1つがFBAを利用することで売り上げが高まること。FBAを利用している商品は、アマゾンが販売する商品と同様の送料になる。具体的には、基本的に送料が無料となり、消費者がプライム会員ならば無料で当日お急ぎ便、お急ぎ便、お届け日時指定便に対応している。こうした、アマゾンが販売する商品と同様の送料を利用できるので、アマゾンユーザー、特にプライム会員の購入が増加。これまでFBAを使った商品の86.4%が利用する前に比べ売り上げを伸ばしているという。

「当初は一部商品でFBAを利用していた販売事業者も、売り上げが伸びることを実感し、より多くの商品でFBAを利用したり、すべての商品をアウトソーシングするケースも増えてきている」(セラーサービス事業本部・星健一事業本部長)

「FBAマルチチャネルサービス」という楽天店などアマゾン以外の売り場で販売した商品も物流を代行するサービスを手掛け、柔軟な対応ができるようになった。このことも利用者が増えている要因の1つだという。「FBAマルチチャネルサービス」は導入当初、Amazonのロゴ入りの箱で配送するなど、柔軟性にかける部分があった。しかし、現在では無地の箱で商品を配送、FBA利用者が運営するショップに適切な対応ができるようになったことで利用者が増えているようだ。

コスト面でも、割安に感じる販売事業者は少なくない。「従来、サイズの小さい商品や回転率の高い商品は、FBAを使うとメリットが大きいと言われていた。最近では別の物流代行会社などに在庫をアウトソーシングする方がコストは高くなってきている」(同)と話す。

アマゾンジャパンでは現在、海外のアマゾンでの販売支援(グローバルセリング)に力を入れており、まずは最も大きい市場である米国Amazon.comに関する販売支援チームを立ち上げた。今後、FBA利用者が簡単に海外で販売が始められる仕組みも提供していきたいとしている。

セラーサービス事業本部・星健一事業本部長

「eコマース革命」の影響で、利用者店舗拡大中 ヤフー

ヤフーがアスクルの物流子会社と連携して2013年7月から開始した、ヤフーショッピング出店ストア向けフルフィルメントサービス「Yahoo!ロジスティクス」。アスクルの物流子会社であるBizexと連携し、Bizexの運営する物流センターを拠点に、商品の入庫・検品から、梱包、配送にいたるまでの、物流に関わる全ての作業取次をパッケージ化して提供している。

配送は「Yahoo!ショッピング」の注文当日配送サービス「きょうつく」、注文翌日配送サービス「あすつく」に対応。Bizex、アスクルの持つ物流ノウハウや物流網を活用している。

2013年10月に発表した「eコマース革命」の影響で、出店ストア数が急増。問い合わせや利用要望が増え、「利用ストア数、出荷数は増加してきている」(広報)と言う。

これまで、出店者の利便性を向上させるため、数社のEC管理ツールとのサービス連携を実施。商品データ、受注データなどを「Yahoo!ロジスティクス」の専用データに変換できるように対応している。

現在は東京都品川区で倉庫を用意し、年内をめどに大阪で新たな倉庫を追加開設する予定だ。

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