デジタル技術の進化に伴い、小売企業やEC事業者のデータ活用は重要性が増している。その一方で、データを整理、分析し、施策実行や経営判断を下すまでの手間や労力は増すばかり。こうした課題や悩みはどのように解決すればいいのか? その解決策の1つとして、事柄や現象、関係性などを示すデータを表やグラフなどで可視化する「ビジュアライゼーション」が注目を集めている。小売企業やEC企業のデータ活用を促進するためにタッグを組んだECサイト構築パッケージ提供のecbeing・林雅也社長と、BIツール「Tableau」を提供するTableau Japan(タブロー・ジャパン)の佐藤豊社長が、「データ活用の課題」「データ活用の今」「課題解決法」などを語り合った。写真◎吉田 浩章

重要性を増す「データ」の「ビジュアライゼーション」

この2社がタッグを組んだのは2月1日。ecbeingはデジタルマーケティング活動を視覚的にサポートするデータ・マネジメント・プラットフォーム(DMP)サービス「Sechstant(ゼクスタント)」の提供をスタートした。

Web広告やEC、実店舗の顧客・購買データ、アクセスログを外部ストレージに蓄積。「Sechstant」を通じて各数値を可視化することで、総合的なマーケティング分析を手軽に行えるようにするのが特徴だ。小売企業やEC企業の経営判断、施策立案の最適化、売上向上に寄与することができる

ecbeingはデジタルマーケティング活動を視覚的にサポートするデータ・マネジメント・プラットフォーム(DMP)サービス「Sechstant(ゼクスタント)」の提供をスタート
「Sechstant」を利用した全体最適化について

たとえば、ECプラットフォーム「ecbeing」の導入企業は、「Sechstant」を追加で導入することで、「ecbeing」内に蓄積したさまざまなデータを表やグラフなどで可視化することが可能になる。

データの重要性が増している昨今、そのデータを“デザイン”してわかりやすく視覚化することは、経営者や決裁権限者の迅速な判断を促す重要な役割を担う

タッグを組んだこの2社が小売業界での「データ」+「ビジュアライゼーション」にいち早く着手した理由は? データのビジュアル化の重要性とは? 今回の対談からはそのヒントを見つけることができる。

「Sechstant」はさまざまなデータを表やグラフで可視化するのが特徴。画像は商圏分析のイメージ
「Sechstant」はさまざまなデータを表やグラフで可視化するのが特徴。画像は商圏分析のイメージ

データの分析、活用はなぜ重要なのか?

ecbeing林雅也社長(以下、林):「Sechstant」を開発した大きな理由は、消費者の行動が変わってきているからです。小売業界では今まで通りのマーケティング活動が通用しなくなりつつあり、消費者が求めるレベルもすごく上がってきている。以前の消費者行動は、テレビCMを見てお店に足を運びモノを買うといったものが中心でしたが、最近の消費者はパーソナライゼーションなど企業に求めるレベルが高くなっています。専門商品を扱っている企業や中小の小売企業にとっては、厳しい時代に入ってしまっているように感じています。

Tableau Japan 佐藤豊社長(以下、佐藤):スマートフォンの普及も大きな影響を与えていますよね。

:スマホの台頭でネットと店舗をそれぞれ行き来する消費行動が増え、自分の行動に適したサービスを使うようになってきています。企業がこうした消費行動に対応するには、ネットとリアル店舗のデータを一気通貫で分析し、施策を行わなければならない。ですが、これを実現するのはとても大変。こうした現状に対する経営者の危機感はすごく強い。このまま放っておくと実店舗の売り上げは下がり、ECビジネスで補完しようとしても売り上げは前年割れが起きてしまうといった懸念や不安を抱く経営者や責任者は少なくありません。

「何とかしないといけない」――。こうした認識を持っているが、実店舗とネットをつなげて何かやろうとしてもきちんとした分析ができていない企業が多いのが実情です。ecbeingのクライアントには実店舗を展開している企業が多いので、オムニチャネルに対応するための仕組みの提供にも力を入れています。昨今感じていたのは、仕組みを作って提供するだけではなく、プラットフォームに蓄積したデータを活用しなければ成長を持続するのは難しい時代に突入したということ。プラットフォームで蓄積したデータを、クライアントが簡単に経営判断や施策の実施に活用できる方法はないのか模索していたところ、「Tableau」と出会ったわけです。

ecbeing 林雅也社長
ecbeing 林雅也社長

佐藤:私の認識ですが、小売企業における成長戦略はチャネルを増やすこと。デジタル化の波に対応するためECサイトを立ち上げたという企業が多いのではないでしょうか。企業側はそんな状況下ですが、消費行動はデジタル化で一気に激変。消費者はSNSなどで商品を見て購入することが当たり前になってきました。企業のデジタル対応を上回るスピードで消費行動はデジタル化が進んでいるものの、企業側は取得したデジタルデータを売上拡大の施策にきちんと活用できていない状況です。それはなぜか? 僕はデータを使うための教育を受けていないからだと思うんですよね。

データ時代で重要なのは、データを理解すること。これは言語と一緒で、英会話スクールに通って英語を習得するくらい大変なことなんですよね。さまざまな業務に携わる小売業界やEC業界の経営者や責任者などが、データを学ぶためにスクールへ通って勉強しているかというと、していないですよね。データがたまっても、そのデータが“何を示すのかわからない”といった人が多いのではないでしょうか。

:それは仕方ない側面があります。ただでさえデジタルに精通した人材が不足していて、ECサイトの運営だけで手一杯な状況のケースが多いんです。

佐藤各種データを活用できる人、できない人の存在の有無で、企業間に大きな格差が起きてしまっていると思うんです。今回、ecbeingさんが提供する「Sechstant」は、小売企業やEC企業間のデータ活用の格差を一気に埋めるものです。特別な知見がなくても、プラットフォーム上でデータキュレーションができちゃうわけですから。テンプレートを基に、各種データが表やグラフで簡単に閲覧できるようになる。この仕組みが広がれば、企業間の“データ格差”を一気に埋めていくことができます。データのパワーを小売業界やEC業界に開放できるソリューションだと思っています。

Tableau Japan 佐藤豊社長
Tableau Japan 佐藤豊社長

アメリカではデータ活用は当たり前

:「米国では当たり前のようにデータ分析が行われている」。佐藤社長からこの言葉を聞いたとき、ecbeingのクライアントが抱えている課題が解決できると感じたのを鮮明に覚えています。米国でのデータ分析、データ活用の現状を教えていただけますか。

佐藤:「Tableau」はグローバルで8万6000社が使っており約10%がECを含めた小売企業。小売業界ではリアル店舗も変えていかなければいけないという認識が強くなっており、「Tableau」はウォルマートといった大手小売企業も利用しています。それはなぜか? 大手小売企業も「お客さまを知ることの重要性」を理解してきているからです。クラウドの普及でデータを簡単に蓄積できるようになった。そのデータを分析して、ビジュアライズできるようにした「Tableau」などのサービスは、「顧客を簡単に知る」手法としてニーズが急速に高まっているんです。

:米国の企業はほんとにデータを重視していますよね。展示会などに足を運んだとき、経営陣を含めて自社のデータを細かく把握していると感じていました。

佐藤:デジタルデータの分析・活用レベルが上がり、それをデータドリブン的な観点で議論ができるようになっているんですよね。LTV、デジタルリーチ、カスタマーボイス、エンゲージメントなど各指標の話が社内で共通言語のようにさまざまなレベルの人が把握し、理解している。要するに、上から下まで同じキーワードで会話ができるんですよね。一部のデジタル部門だけが専門用語を使う時代ではなくなっているのが、今の米国です。

:私たちのクライアントなどの状況を見たときに、日本ではまだまだそこのレベルには至っていない。ただ、そのような状況に近づけるためには、どうすればいいのか? こう考えたときに、「Tableau」の仕組みに可能性を感じました。

驚いたのがビジュアル性で、ダッシュボードの表現力、ドリルダウンしたときのグラフの移り変わりなどがとてもわかりやすくデザイン化されています。もう1つ驚いたのが開発の容易性。今後、ECビジネスを強化するにあたり、いろいろな分析が必要になってきますが、そうしたときにスピーディーに機能追加などができる。それには驚きました。

佐藤:開発スピードが早いのは、クライアント企業に利用される理由の1つです。小売りやECはリアルタイムで商品売買が起きているので、スピードが命。要件を聞き、必要なものを開発できるようにすれば、小売企業はこれまでになかったビジネスを展開できるようになる可能性がありますよね。

:当社のクライアントを見た場合、オムニチャネルを展開している企業が分析しなければいけない指標の3分の2は各社で共通しています。企業ごとに最適化したBIツールを開発するよりも、ecbeingが共通基盤を提供すれば、スピーディーに多くの小売企業のデジタルシフトをサポートできると感じ、「Tableau」との協業を決めました。

「Sechstant」の特徴は?

:「Sechstant」の開発で苦労したのはダッシュボード作り。デザインセンスが求められるなぁと感じました。当社メンバーが最初に作ったダッシュボードと、「Tableau」のエンジニアが作成したものを見比べたらデザインセンスに大きな差がありました。微妙な違いなんだと思うのですが、当社が作ったダッシュボードを見てもまったく使う気が起きない。「Tableau」からサンプルを供給してもらったり、当社のテンプレート作りの習熟度が増すにつれて良いデザインのダッシュボードが作れるようになりましたが、ビジュアルはとても重要なことなんだと実感しましたね。

「Sechstant」で利用できるダッシュボードのイメージ
「Sechstant」で利用できるダッシュボードのイメージ

佐藤:デジタルプロダクトが誰でも使える状況になったときに、重要なことが2つあります。1つはデザイン性。セクシーであること、きれいであること。そうでないと使いたくないし、使い続ける気持ちが起きません。2つ目はアクショナブルインサイト。データは見て終わりではなく、ワークフローの中で回していかなければなりません。つまり、次のアクションを起こしたいと考えたときに、ちゃんとワークフローの中で回せるようなダッシュボードになっているのかというところが重要ですよね。

:そうですね。導入企業がスタート地点で、半分くらいのところは知見ゼロからでも簡単に利用できる状態に持っていきたいと考え、ダッシュボードの開発に力を注いできました。DMPはいろいろな企業が提供していますが、「Sechstant」は小売企業やEC企業のオムニチャネルに特化しているところが他社との大きな違い。たとえば、小売りと広告ビジネスの評価軸は大きく異なり、「サービス改善するために顧客軸、商品軸で掛け合わせてデータを分析する。それを店舗スタッフやMDに見せて改善につなげる」といったケースは小売業特有の評価軸になります。ダッシュボードは小売企業やECに携わる人向けに開発しています。

ecbeingが支援するオムニチャネル顧客体験全体イメージ
ecbeingが支援するオムニチャネル顧客体験全体イメージ

佐藤:最近、「データ時代」と言われていますが、データをきちんと使いこなしている企業は多くはない。ただ、ビジュアル的に分かりやすくデータを使えることができたら、もっとデータを使いたいと思うはずなんです。データをため込むだけでは何も起きない。分析してアクションへ移さなければ何も起きないんです。

「デジタルシフト」というワードが頻繁にあがりますが、成功している企業はほんの一握り。「Tableau」が取引している8万6000社がデジタル活用で成功している共通項の1つは、「人」ですスタッフがデータのことを共通言語で話せる環境にあることです。2つ目は「基盤」。誰もがすべてのデータにアクセスできる基盤を意味します。そして、3つ目が重要なのですが、「パートナーの選択」です。「デジタルシフト」を進めるための専門家、スペシャリストをちゃんと選択し、パートナーとして一緒にやっていくということです。

:「Sechstant」はスタート時、ecbeingユーザーである事業者向けにサービス提供をしますが、今後はクライアント企業以外への提供も進めたいと考えています。ecbeingユーザー以外の企業さんにもパートナーとして「Sechstant」を選んでいただき、データを活用する楽しさを体験してもらいたい。

佐藤日本のデータの民主化をさらに広めていきたいですよね。

:民主化って大事ですよね。DMPやマーケティングオートメーション(MA)、人工知能(AI)を取り入れても、実際に利活用されているケースは一握り。導入すること自体を目的にしてしまっている事業者って意外に多いんです。そこは私たちも力になれるところだと思っているんです。経営層を含めて会社全体がテクノロジーを理解しているのがベストですが、それはまだまだ難しい。「Sechstant」から見えたデータを基に戦略が固まれば、次にMAを入れましょう、AIを取り入れましょう、といった数字に基づいた提案ができるようになります。ちゃんと分析することによって、優先順位は何なのかといったことも見えてくるはずです。

佐藤:そう思います。まずはデータを見て意思決定し、行動を変えていくというのが最初のフェーズでしょう。導入そのものが目的のプロジェクトって、失敗するケースが多いですよね。意思決定と行動を変えることがゴールになったときは、新しい発想が生まれてくる。

データが見えてくると従業員あるいは経営者も含めて、いろんな戦略が生まれてくると思うんです。だからこそ、私たちのような企業はまずデータの民主化、可視化を進めていかなければならないんです。

佐藤データ分析やデータ利活用の世界では、データを用意する人、分析する人、意思決定する人がバラバラ。つまり、意思決定が断片化してしまっているので誰かの作業を待たなければ次のアクションに移せない。たとえばそれが1か月の期間を要したり……。ボトムアップで提案しても長期間、意志決定を待たなければならないとスタッフはいろんなことを諦めちゃいますよね。

:忙しい経営者や経営陣でも簡単に理解できるデータがあれば、そうしたことは解決できますよね。私が懇意にしている経営者の方はBIツールを活用して頻繁にデータを見ています。

佐藤:私もiPadで「Tableau」からさまざまなデータを毎日見ていますよ。移動中に(笑)。

ecbeing 代表取締役社長 林雅也 氏 Tableau Japan 社長 佐藤豊氏
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石居 岳

石居 岳(いしい・がく)

フリーライター、ジャーナリスト。

瀧川 正実

ネットショップ担当者フォーラム編集部 編集長

通販・ECに関する業界新聞の編集記者、EC支援会社で新規事業の立ち上げなどに携わり、現在に至る。EC業界に関わること約13年。日々勉強中。

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